公認心理師 2023-39

説明に合致する機関を選択する問題です。

これは明らかに外せるだろうという選択肢も混ざっていますね。

問39 不登校児童生徒の集団生活への適応、基礎学力の補充、学校生活への復帰等を通じて、社会的な自立を支援することを主な目的とした教育委員会が設置する機関として、最も適切なものを1つ選べ。
① 通級指導教室
② フリースクール
③ 発達障害者支援センター
④ ひきこもり地域支援センター
⑤ 教育支援センター(適応指導教室)

解答のポイント

不登校児童生徒が所属する可能性のある機関を把握している。

選択肢の解説

⑤ 教育支援センター(適応指導教室)

こちらの資料によれば、教育支援センターとは「不登校児童生徒等に対する指導を行うために教育委員会及び首長部局が、教育センター等学校以外の場所や学校の余裕教室等において、学校生活への復帰を支援するため、児童生徒の在籍校と連携をとりつつ、個別カウンセリング、集団での指導、教科指導等を組織的、計画的に行う組織として設置したものをいう。なお、教育相談室のように単に相談を行うだけの施設は含まない」とされています。

前提には「教育支援センター整備指針(試案)」があり、こちらによると設置の目的は「センターは、不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生活習慣の改善等のための相談・指導(学習指導を含む。以下同じ)を行うことにより、その社会的自立に資することを基本とする」とされています。

文部科学省的には「教育支援センター」という名称を推し進めていますが、まだ「適応指導教室」という表現の方が馴染み深い気がしています(地域差があるのかもしれません)。

何となく「適応」を「指導」するというのが嫌な感じがする人がいるのかもしれませんが、私は普段からこういうことを気にしませんし(障害と障碍を気にしないとか、そんな感じです)、適応や指導の大切さを考え続けてきたこと、そして適応を「指導する」ということも人間の成長にはあり得ること、教育機関において適応そしてその奥にある社会的自立を目指すことは教育基本法に則っていること、などから「適応指導教室」という表現にそれほど違和感を覚えません。

さて、上記の2つの資料において、上の資料には教育支援センターが「学校生活への復帰」を目指すことが示されていますが、下の資料には示されていません。

この辺は解釈が難しいところですが、ただ明確に「在籍校と連携を取る」ということが示されている以上、児童生徒の状態を踏まえて在籍校への復帰を目指すことは、教育支援センターの役割に含まれていると考えるのが自然でしょう。

文部科学省が示した「不登校児童生徒への支援は「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること」という方針を前面に出し、不登校児の支援方針に「在籍校への復帰」を入れることを頑なに拒む人がおりますが、あくまでもその子どもの状態像に応じて、また保護者や本人の意思を踏まえて「在籍校への復帰」は目標の一つにすべきですし、それを意識的・無意識的に除外することは支援者としてあってはなりません。

わざわざこんな当たり前のことを述べるのは、教育支援センターをはじめとした学校と連携を取る機関が「在籍校への復帰を目指していない」のであれば、多くの場合、その連携の根っこの部分で相違があるということになりかねないからです。

もちろん、学校も「どう頑張っても、現時点では復帰は困難」である場合や、「学校には行けないけど、教育支援センターには行ける」という子どもがいることは承知しており、その場合には次のステージ(進級・進学など)に向けて、より適応的・自立的な姿になれる場として教育支援センターを活用していくことになります。

ただ、教育支援センターで過ごすうちに適応状態が改善し、在籍校への復帰を目指せる例も数多くあることから(私も教育支援センターとかなり関わることが多い方ですが、教育支援センターに継続的に来られる子ども・家庭は改善が見込めるパターンが多い)、在籍校への復帰やそのための連携は子どもたちやその将来に向けて非常に重要になってくることを忘れてはなりません。

なお、教育支援センターの在り方は設置している教育委員会、規模、支援員の力量によってかなり異なります。

個人的には、教育委員会が配備されている支援員を信頼し、その支援員に力があり(力とは、連携する能力、子どもの状態によってアプローチが多彩であること:ただ優しいだけ、ただ厳しいだけではなく、子どもの状態に応じて必要な関わりを選択できる等)、それほど規模が大きくない教育支援センターが、子どもたちにとって良い変化をもたらす印象を持っています。

規模があまり大きくなると、例えば、送迎が必須になる、できることが狭まる(人数が多いほど、多くの人がそれなりに安定して過ごすためのルールが多くなる)など、どうしても「こういう家庭・子どもなら受け入れられる」という範囲が自然と限定されてしまいます。

学校組織に適応が困難な事情がある場合、規模が拡大することで教育支援センター自体が「組織的」になってしまって、子どもたちが適応できないという論理矛盾が生じてしまうんですね。

しかし、教育委員会が設置するという前提がある以上、どうしても教育支援センターの規模は教育委員会のある市や町の規模とイコールになりやすく、あまりいじれないところだなと思っています。

いずれにせよ、教育支援センター(適応指導教室)とは「不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生活習慣の改善等のための相談・指導を行うことにより、その社会的自立に資することを基本とする」教育委員会が設置する機関であり、これは本問の記述と一致することがわかります。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① 通級指導教室

まずは通級指導教室の根拠法である学校教育法施行規則の該当箇所を見ていきましょう。


第百四十条 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第五十条第一項(第七十九条の六第一項において準用する場合を含む。)、第五十一条、第五十二条(第七十九条の六第一項において準用する場合を含む。)、第五十二条の三、第七十二条(第七十九条の六第二項及び第百八条第一項において準用する場合を含む。)、第七十三条、第七十四条(第七十九条の六第二項及び第百八条第一項において準用する場合を含む。)、第七十四条の三、第七十六条、第七十九条の五(第七十九条の十二において準用する場合を含む。)、第八十三条及び第八十四条(第百八条第二項において準用する場合を含む。)並びに第百七条(第百十七条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
一 言語障害者
二 自閉症者
三 情緒障害者
四 弱視者
五 難聴者
六 学習障害者
七 注意欠陥多動性障害者
八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの


上記に基づく、「大部分の授業を通常の学級で受けながら、一部の授業について障害に応じた特別の指導を特別な場で受ける教育形態」のことを「通級指導教室」と呼ぶのです。

軽度の障害やグレーゾーンの子どもが通常学級に在籍しながら、特性に応じた指導を受けられる教室のことを指し、基本的には他の生徒と一緒に通常学級で過ごしますが、週に数時間程度、通級指導教室に移動して指導を受けることになります。

また、通級には「自校通級:在籍している学校の通級指導教室に通う」「他校通級:通級指導教室がある設置校に定期的に通う」「巡回通級:通級指導を担当する教員が自校に訪問して指導を受ける」などの形態があり、この辺の整備の仕方についてはかなり地域差があるのではないかと思っています。

当然、自校に通級指導教室がある方が気軽に利用できますから(他校だと、ある時間だけ抜けて設置校に行かねばならない。基本的には親が送迎するということになるはず)、そちらの方が良いのですが。

上記のような条項を基本とし、文部科学省は「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」の中で通級による指導について細やかに規定しています。

  • 学校教育法施行規則第140条及び第141条の規定に基づき通級による指導を行う場合には、以下の各号に掲げる障害の種類及び程度の児童生徒のうち、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、通級による指導を受けることが適当であると認める者を対象として、適切な教育を行うこと。
  • 障害の判断に当たっては、障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員等による観察・検査、専門医による診断等に基づき教育学、医学、心理学等の観点から総合的かつ慎重に行うこと。その際、通級による指導の特質に鑑み、個々の児童生徒について、通常の学級での適応性,通級による指導に要する適正な時間等を十分考慮すること。

上記からもわかるとおり、通級による指導が適当か否かの判断は医学的な診断だけに基づくのではなく「障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員等による観察・検査」を一番最初にもってきています。

また、上記の通知の中には「通級による指導を受けることが適当な児童生徒の指導に当たっての留意事項」が以下の通り定められています。

  1. 学校教育法施行規則第140条の規定に基づき、通級による指導における特別の教育課程の編成、授業時数については平成5年文部省告示第7号により別に定められていること。同条の規定により特別の教育課程を編成して指導を行う場合には、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考として実施すること。
  2. 通級による指導を受ける児童生徒の成長の状況を総合的にとらえるため、指導要録において、通級による指導を受ける学校名、通級による指導の授業時数、指導期間、指導内容や結果等を記入すること。他の学校の児童生徒に対し通級による指導を行う学校においては、適切な指導を行う上で必要な範囲で通級による指導の記録を作成すること。
  3. 通級による指導の実施に当たっては、通級による指導の担当教員が、児童生徒の在籍学級(他の学校で通級による指導を受ける場合にあっては、在学している学校の在籍学級)の担任教員との間で定期的な情報交換を行ったり、助言を行ったりする等、両者の連携協力が図られるよう十分に配慮すること。
  4. 通級による指導を担当する教員は、基本的には、この通知に示されたうちの一の障害の種類に該当する児童生徒を指導することとなるが、当該教員が有する専門性や指導方法の類似性等に応じて、当該障害の種類とは異なる障害の種類に該当する児童生徒を指導することができること。
  5. 通級による指導を行うに際しては、必要に応じ、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、担任教員、その他必要と思われる者で構成する校内委員会において、その必要性を検討するとともに、各都道府県教育委員会等に設けられた専門家チームや巡回相談等を活用すること。
  6. 通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断すること。
  7. 学習障害又は注意欠陥多動性障害の児童生徒については、通級による指導の対象とするまでもなく、通常の学級における教員の適切な配慮やティーム・ティーチングの活用、学習内容の習熟の程度に応じた指導の工夫等により、対応することが適切である者も多くみられることに十分留意すること。 

通級指導教室は、イメージとしては「通常学級」と「特別支援学級」の間という感じで良かろうと思っています。

子ども同士の人間関係が良好で、親としても「通常学級で過ごさせたい」という思いがあり(この思いが子どもの障害を認めないという後ろ向きなものだと、将来的に子どもを苦しめることも多いのできちんと見立てておく)、だけども通常学級での学習に懸念がある「一部分がある」という場合に活用されると良いでしょう(一部分ではなく全体に懸念があるなら、さすがに特別支援学級を考えるべきでしょうね)。

このように通級指導教室の対象は主に「軽度の障害やグレーゾーンの子ども」であり、不登校児童生徒を対象にしているわけではありません。

ですから、本問の「不登校児童生徒の集団生活への適応、基礎学力の補充、学校生活への復帰等を通じて、社会的な自立を支援することを主な目的」には沿わないということになりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② フリースクール

フリースクールは公的な機関ではなく、個人や民間企業、NPO法人によって運営されています。

設立の目的によって、規模や形態、活動内容は多様であり、入学資格は存在しないことが多く(年齢制限はあるはず)、異なる年齢の子どもが集まっていて(小中学生が一緒という場合が多い)、学校のように決まったカリキュラムがないことなどが挙げられます。

小中学生の場合、義務教育期間中なので小中学校に籍を置いたままフリースクールを利用することになりが、在籍校の校長が認めた場合、フリースクールへの登校が在籍する学校の「出席扱い」になります。

この辺の法整備はまだ明確ではないはずですが、2018年に「教育機会確保法」が施行されて、フリースクール等の重要性を認め、小中学校との連携を求めるなど、子どもたちへの支援を本格的に始動させたこともあり、フリースクールに行っていれば出席ということになる場合が多いように思っています。

「教育機会確保法」では、「多様で適切な学習活動の重要性」や「個々の不登校児童生徒の休養の必要性」について規定されており、国や、地方公共団体は、子どもの状況に応じた学習活動等が行われるよう支援を行うことが求められており、その中の一つとしてフリースクールが位置づけられているということですね。

このように、フリースクールとは、一般に、不登校の子どもに対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設を言います。

上記はこちらの文部科学省のサイトの記述を転用したものですが、近年では、その在り方に惹かれた保護者が進んでフリースクールに子どもを在籍させるというパターンが見受けられます(ですから、上記の文部科学省の「不登校の子どもに対し」というのはやや時代遅れ感がある)。

また、不登校になった子どもの保護者からも「うちの子には、うちの子に合う学校があると思います」と学校を選択することができるという認識が広がっているのも肌で感じています(もちろん、上記のような言動をどう評価するかはそれぞれあるところでしょうが)。

フリースクールの規模や活動内容は多種多様であり、民間の自主性・主体性の下に設置・運営されています。

以上より、フリースクールは教育委員会ではなく民間が設置しており、当然、その目的も設置する主体が決めることになるので、本問の「不登校児童生徒の集団生活への適応、基礎学力の補充、学校生活への復帰等を通じて、社会的な自立を支援することを主な目的」とは言えません。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

ちなみに、私は教育に「民間」が入ってくることには抵抗感がある人間です。

それは教育を社会的共通資本であると考えており、水のように「いつでも誰でも一定水準のものを享受できる」ことが大切であると思っているからです。

お金の有無とか社会的な立場によって享受できるものが変わってしまうということが無いようにするべきものの一つが教育であり、そうでないと未来を担う子どもを適切に成長させることが困難になります(ですから、かつての文部科学省が発した「身の丈」という発言は、教育をどう捉えているかという点で非常に情けない話です)。

もちろん、子どもの成長と未来を願っている「民間」もあるでしょうが、「民間」である以上はどうしてもお金が付いて回る問題になってきます。

ですから、税金できちんと全ての子どもに「公共的に与えられる必要がある」というのが、私の教育に対する基本的な考え方になります(だから、大学までの全ての段階において、教育費を無料にするということが重要だと思っています。その方が少子化対策になると思うんだけど、わけのわからない小手先のやり方ばかり政治家の先生方はしておりますね)。

もちろん、フリースクールが良いとかダメとか、そういう次元のお話ではなく、教育って何ぞや、という前提から導かれるお話ですね。

③ 発達障害者支援センター

発達障害者支援センターについては、発達障害者支援法第14条に都道府県が設置できることとその役割が記載されています。

「都道府県知事は、次に掲げる業務を、社会福祉法人その他の政令で定める法人であって当該業務を適正かつ確実に行うことができると認めて指定した者(以下「発達障害者支援センター」という)に行わせ、又は自ら行うことができる」

なお、その役割は同条第1項以下に記載があります。

  1. 発達障害の早期発見、早期の発達支援等に資するよう、発達障害者及びその家族その他の関係者に対し、専門的に、その相談に応じ、又は情報の提供若しくは助言を行うこと。
  2. 発達障害者に対し、専門的な発達支援及び就労の支援を行うこと。
  3. 医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと。
  4. 発達障害に関して、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連絡調整を行うこと。
  5. 前各号に掲げる業務に附帯する業務

センターの具体的な役割については、こちらの資料が詳しいです。

上記の点から、本問で問われている「不登校児童生徒の集団生活への適応、基礎学力の補充、学校生活への復帰等を通じて、社会的な自立を支援することを主な目的」に沿わないことがわかりますし、設置主体が都道府県であり教育委員会ではないことが示されていますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ ひきこもり地域支援センター

ひきこもり支援については、ひきこもりに特化した専門的な相談窓口として、都道府県及び指定都市に「ひきこもり地域支援センター」の整備を進め、平成30年4月までに全ての都道府県及び指定都市(67自治体)に設置しています。

令和4年度からは、より住民に身近なところで相談ができ、支援が受けられる環境づくりを目指して、「ひきこもり地域支援センター」の設置主体を市町村に拡充しました(令和4年度18自治体)。

ひきこもり地域支援センターは、ひきこもりの状態にある本人や家族が、地域の中でまずどこに相談したらよいかを明確にすることによって、より適切な支援に結びつきやすくすることを目的としたものです。

ひきこもり支援コーディネーターを中心に、地域における関係機関とのネットワークの構築や、ひきこもり対策にとって必要な情報を広く提供するといった、地域におけるひきこもり支援の拠点としての役割を担っています。

すなわち、ひきこもりに特化した専門的な第一次相談窓口ということになります。

近年の新たなメニューとして、ひきこもり支援の核となる、相談支援・居場所づくり・ネットワークづくりを一体的に実施する「ひきこもり支援ステーション事業」(令和4年度87自治体)が開始されています。

また、ひきこもり支援の導入として、8つのメニュー(相談支援、居場所づくり、連絡協議会・ネットワークづくり、当事者会・家族会開催事業、住民向け講演会・研修会開催事業、サポーター派遣・養成事業、民間団体との連携事業、実態把握調査事業)から任意に選択し実施する「ひきこもりサポート事業」(令和4年度85自治体)による取組も開始されています。

上記の通り、ひきこもり地域支援センターは「不登校児童生徒の集団生活への適応、基礎学力の補充、学校生活への復帰等を通じて、社会的な自立を支援することを主な目的」としていないことがわかりますし、設置が教育委員会ではなく「都道府県及び指定都市」となっていますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です