公認心理師 2023-66

地域包括支援センターが優先して行う支援を選択する問題です。

「センターができる支援はどれか?」という問題ではなく、事例の状況に応じて「可能な支援の中から選択する」というタイプの問題でしたね。

問66 78歳の女性A、年金生活者。Aの知人Bより、Aが認知症かもしれないと地域包括支援センターに相談があった。Aは、定年退職後、アパートで一人暮らしをしている。 3年ほど前に物忘れを自覚したAは、金銭管理をBに依頼した。それ以来、Bは振り込まれた年金から生活費をAに渡している。Bによると、Aは、1年前から次第に家事が困難となり、外出も減っている。担当者がアパートを訪問したところ、日常会話は可能だが、室内は乱雑で、入浴もほとんどしていないようであった。担当者に対しBは、Aの生活の世話までは出来ないという。
 地域包括支援センターがAに対して優先して行う支援として、最も適切なものを1つ選べ。
① 医療機関の受診
② 生活保護の申請
③ 後見開始の審判の申立て
④ 短期入所施設への入所措置
⑤ 居宅介護支援事業所への紹介

解答のポイント

事例に必要な支援とそのために必要な手続きを理解している。

選択肢の解説

① 医療機関の受診
④ 短期入所施設への入所措置
⑤ 居宅介護支援事業所への紹介

まず相談を受けている「地域包括支援センター」について把握しておきましょう。

地域包括支援センターとは、介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関です。

介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」になります。

専門知識を持った職員が、高齢者が住み慣れた地域で生活できるように介護サービスや介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談に応じており、介護保険の申請窓口も担っています。

介護保険法第115条の45第2項各号に定められているのが、地域包括支援センターの業務になります。

  1. 被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業
  2. 被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のため必要な援助を行う事業
  3. 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による被保険者の居宅サービス計画及び施設サービス計画の検証、その心身の状況、介護給付等対象サービスの利用状況その他の状況に関する定期的な協議その他の取組を通じ、当該被保険者が地域において自立した日常生活を営むことができるよう、包括的かつ継続的な支援を行う事業
  4. 医療に関する専門的知識を有する者が、介護サービス事業者、居宅における医療を提供する医療機関その他の関係者の連携を推進するものとして厚生労働省令で定める事業(前号に掲げる事業を除く)
  5. 被保険者の地域における自立した日常生活の支援及び要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止に係る体制の整備その他のこれらを促進する事業
  6. 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による認知症の早期における症状の悪化の防止のための支援その他の認知症である又はその疑いのある被保険者に対する総合的な支援を行う事業

具体的には、介護予防ケアマネジメント(要介護認定審査で「要支援2」「要支援1」「非該当」と認定された人や、生活機能の低下していて将来的に介護が必要となる可能性が高い人の相談やケアプランを作成)、権利擁護や高齢者虐待の早期発見・防止(お金の管理や契約などに関するときに、頼れる家族がいない場合には、成年後見人制度の申立ての支援などを行う。また、高齢者虐待に関する発見・把握など、他の関係機関と連携した支援)、総合相談支援業務(高齢者本人や家族、地域住民の人からの、介護・福祉・健康・医療に関する困ったことに対する相談への対応・支援を行う)、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務(高齢者の人々を直接的に支援するほか、地域の事業所のケアマネージャーの支援・指導などを行い、連携をとりながら地域の人が暮らしやすい環境づくりを行う)などになりますね。

こうした地域包括支援センターの役割を理解した上で、各選択肢の解説に移っていきましょう。

まずは選択肢④の「短期入所施設」についてです。

介護保険法第8条によると「短期入所施設」では、居宅要介護者について、老人福祉法第五条の二第四項の厚生労働省令で定める施設又は同法第二十条の三に規定する老人短期入所施設に短期間入所させ、当該施設において入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行います。

「短期入所施設」と聞くとよくわからないかもしれませんが、いわゆる「ショートステイ」のことを指します。

短期入所生活介護は、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、自宅にこもりきりの利用者の孤立感の解消や心身機能の維持回復だけでなく、家族の介護の負担軽減などを目的として実施します。

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などが、常に介護が必要な方の短期間の入所を受け入れ、入浴や食事などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供します。

対象者としては…

  • 利用者の心身の状況や病状が悪い場合
  • 家族(介護者)の疾病、冠婚葬祭、出張
  • 家族(介護者)の身体的・精神的負担の軽減 など

…などが中心になります。

あくまでも短期的な支援に過ぎないので(連続使用は30日が上限)、本事例Aの状況には合わないと考えられます。

利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活が送れることが目的でもありますが、現時点でAがどの程度自宅で自立した生活を送れるのかが疑問です。

まずはAに対する、医学的な診断や状態像の見通し、日常生活においてできることとできないことなどが明確にわかっていないと、サポートする側も何をすればいいかわからないというのが正直なところでしょう。

選択肢⑤の「居宅介護支援事業所」は、介護保険法にもとづき、要介護認定を受けた人が自宅で介護サービスなどを利用しながら生活できるよう支援する事業所です。

具体的には、介護支援専門員(ケアマネジャー)が本人・家族の心身の状況や生活環境、希望等に沿って、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、ケアプランにもとづいて介護保険サービスなどを提供する事業所との連絡・調整などを行います。

制度上、「自宅(居宅)」とされる住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の利用者(入居者)にもケアプランの作成などを行います。

ただ、Aは要介護認定などを受けている様子もなく、また、要介護認定を受けるためには被保険者の主治医から、疾病、負傷の状況などについて医学的な意見を求めることとされており、主治医意見書に所要の事項を医師に記載してもらうことになります。

こうした事情を鑑みても、やはりまずは選択肢①で示されている「医療機関の受診」が最優先であることがわかりますね。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

② 生活保護の申請
③ 後見開始の審判の申立て

さて、ここでは挙げた選択肢の解説を通して、Aにはどういうサポートが必要なのかを考えてみましょう。

選択肢②の生活保護の申請ですが、Aの問題は最低生活費が保証されれば何とかなる問題でしょうか。

生活保護制度は、生活に困窮する人に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。

そもそもAに認知症の可能性があり、「日常会話は可能だが、室内は乱雑で、入浴もほとんどしていない」という状況であれば、最低生活費を保証されたとしても安定的な生活を送れるとは思えませんね。

ですから、生活保護の申請が現時点のAに対してサポートになるとは思えません。

また、選択肢③の「後見開始の審判の申立て」についても同様のことが言えます。

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な場合、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。

また自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。

このような判断能力の不十分な人たちを保護し、支援するのが成年後見制度です。

そして、お金の管理や契約などに関するときに、頼れる家族がいない場合には、成年後見人制度の申立ての支援などを行うことは地域包括支援センターの支援内容の一つと言えますね。

Aが認知症の疑いがあるということで設けられた選択肢だと思うのですが、①現時点でAが認知症であるといった確証がない(だから医療機関の受診が正解になる)、②現状で既にBへお金を渡して管理してもらっている(後見制度を使ったところで、現状に変化がない)、③そもそも財産管理、契約等の管理をすることがAの支援になるとは思えない、などが考えられます。

すでに財産管理をしてもらっていたり、Aが判断能力がないのに各種契約を結ぶなどの問題があるわけではないので、後見制度を活用したとしても現状が変わらないと理解できると思います。

やはり現時点では、Aにどのような支援が必要であるかを考えるためにも、医療機関の受診を優先し、現状を医療的な視点から判断してもらい、その判断に基づいて必要なサービス等を検討することになるでしょう。

認知症の程度、現状の理解(お金の管理はしてもらえている、ただ生活の世話まではしてもらえない)などを把握することで、改めて必要な対応を地域包括支援センターと協力して考えていくことが重要になるわけです。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。

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