公認心理師 2023-57

少年鑑別所で行われる業務に関する問題です。

正答以外の選択肢の解説が難しかったですね。

問57 少年鑑別所で行われる業務として、正しいものを2つ選べ。
① 家庭裁判所から鑑別を求められた者の鑑別
② 保護処分として収容された少年に対する矯正教育
③ 児童相談所からの委託を受けた非行児童の一時保護
④ 地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助
⑤ 家庭裁判所から試験観察(身柄付き補導委託)の決定を受けた少年の観察

解答のポイント

少年鑑別所法で定められている少年鑑別所の業務について把握している。

選択肢の解説

① 家庭裁判所から鑑別を求められた者の鑑別
④ 地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助

少年鑑別所は昭和24年の少年法及び少年院法の施行により発足し、現在は平成27年に施行された少年鑑別所法(平成26年法律第59号)に基づいて業務を行っています(法務省のサイトに明記されていますね)。

ここで挙げられた選択肢と関連する少年鑑別所法の条項を見てみましょう。


(目的)
第一条 この法律は、少年鑑別所の適正な管理運営を図るとともに、鑑別対象者の鑑別を適切に行うほか、在所者の人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な観護処遇を行い、並びに非行及び犯罪の防止に関する援助を適切に行うことを目的とする。

(家庭裁判所等の求めによる鑑別等)
第十七条 少年鑑別所の長は、家庭裁判所、地方更生保護委員会、保護観察所の長、児童自立支援施設の長、児童養護施設の長、少年院の長又は刑事施設の長から、次に掲げる者について鑑別を求められたときは、これを行うものとする。
一 保護処分(少年法第六十六条第一項、更生保護法(平成十九年法律第八十八号)第七十二条第一項並びに少年院法第百三十八条第二項及び第百三十九条第二項の規定による措置を含む。次号において同じ。)又は少年法第十八条第二項の規定による措置に係る事件の調査又は審判を受ける者
二 保護処分の執行を受ける者
三 懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者であって、二十歳未満のもの
2 少年鑑別所の長は、前項の規定による鑑別を終えたときは、速やかに、書面で、鑑別を求めた者に対し、鑑別の結果を通知するものとする。
3 前項の通知を受けた者は、鑑別により知り得た秘密を漏らしてはならない。

第百三十一条 少年鑑別所の長は、地域社会における非行及び犯罪の防止に寄与するため、非行及び犯罪に関する各般の問題について、少年、保護者その他の者からの相談のうち、専門的知識及び技術を必要とするものに応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うとともに、非行及び犯罪の防止に関する機関又は団体の求めに応じ、技術的助言その他の必要な援助を行うものとする。


これらの条項からも明らかなように、「家庭裁判所から鑑別を求められた者の鑑別」「地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助」に関しては、少年鑑別所の業務と規定されています。

よって、選択肢①および選択肢④が少年鑑別所で行われる業務として正しいと判断できます。

② 保護処分として収容された少年に対する矯正教育

保護観察とは、犯罪をした人または非行のある少年が、社会の中で更生するように、保護観察官及び保護司による指導と支援を行うものです。

刑務所等の矯正施設で行われる施設内での処遇に対し、施設外、つまり、社会の中で処遇を行うものであることから、「社会内処遇」と言われています。

保護観察の対象者は以下の4種類になります。

本選択肢の「保護処分として収容された少年に対する矯正教育」については、少年院で行うことと考えられます。

少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、その健全な育成を図ることを目的として、矯正教育や社会復帰支援等を行う法務省所管の施設です。

成人も含む保護観察については更生保護法に主に規定されていますが、本選択肢のような少年に対する矯正教育を詳しく規定しているのは少年院法です。

ここでは少年院法で規定されている矯正教育について見ていきましょう。


第二十三条 矯正教育は、在院者の犯罪的傾向を矯正し、並びに在院者に対し、健全な心身を培わせ、社会生活に適応するのに必要な知識及び能力を習得させることを目的とする。
2 矯正教育を行うに当たっては、在院者の特性に応じ、次節に規定する指導を適切に組み合わせ、体系的かつ組織的にこれを行うものとする。

第二節 矯正教育の内容

(生活指導)
第二十四条 少年院の長は、在院者に対し、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行うものとする。
2 将来の進路を定めていない在院者に対し前項の生活指導を行うに当たっては、その特性に応じた将来の進路を選択する能力の習得に資するよう特に配慮しなければならない。
3 次に掲げる事情を有する在院者に対し第一項の生活指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
一 犯罪又は刑罰法令に触れる行為により害を被った者及びその家族又は遺族の心情を理解しようとする意識が低いこと。
二 麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存があること。
三 その他法務省令で定める事情

(職業指導)
第二十五条 少年院の長は、在院者に対し、勤労意欲を高め、職業上有用な知識及び技能を習得させるため必要な職業指導を行うものとする。
2 前項の職業指導の実施による収入があるときは、その収入は、国庫に帰属する。
3 少年院の長は、第一項の職業指導を受けた在院者に対しては、出院の際に、法務大臣が定める基準に従い算出した金額の範囲内で、職業上有用な知識及び技能の習得の状況その他の事情を考慮して相当と認められる金額の報奨金(次項において「職業能力習得報奨金」という。)を支給することができる。
4 少年院の長は、在院者がその出院前に職業能力習得報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、第六十七条第一項第一号に規定する自弁物品等の購入その他相当なものであると認めるときは、前項の規定にかかわらず、法務省令で定めるところにより、その時に出院したとするならばその在院者に支給することができる職業能力習得報奨金に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部又は一部の金額を支給することができる。この場合には、その支給額に相当する金額を同項の規定により支給することができる職業能力習得報奨金の金額から減額する。

(教科指導)
第二十六条 少年院の長は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に定める義務教育を終了しない在院者その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対しては、教科指導(同法による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。以下同じ。)を行うものとする。
2 少年院の長は、前項に規定するもののほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる在院者に対し、その学力の状況に応じた教科指導を行うことができる。

(学校の教育課程に準ずる教育の教科指導)
第二十七条 教科指導により学校教育法第一条に規定する学校(以下単に「学校」という。)のうち、いずれかの学校の教育課程に準ずる教育の全部又は一部を修了した在院者は、その修了に係る教育の範囲に応じて当該教育課程の全部又は一部を修了したものとみなす。
2 少年院の長は、学校の教育課程に準ずる教育について教科指導を行う場合には、当該教科指導については、文部科学大臣の勧告に従わなければならない。

(体育指導)
第二十八条 少年院の長は、在院者に対し、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる健全な心身を培わせるため必要な体育指導を行うものとする。

(特別活動指導)
第二十九条 少年院の長は、在院者に対し、その情操を豊かにし、自主、自律及び協同の精神を養うことに資する社会貢献活動、野外活動、運動競技、音楽、演劇その他の活動の実施に関し必要な指導を行うものとする。


上記が矯正教育に関する条項ですが、その課程については第30条に「法務大臣は、在院者の年齢、心身の障害の状況及び犯罪的傾向の程度、在院者が社会生活に適応するために必要な能力その他の事情に照らして一定の共通する特性を有する在院者の類型ごとに、その類型に該当する在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容及び標準的な期間(以下「矯正教育課程」という。)を定めるものとする」と定められていますね。

以上より、選択肢②は少年鑑別所で行われる業務として誤りと判断できます。

③ 児童相談所からの委託を受けた非行児童の一時保護

まず、一時保護所は児童福祉法第12条の4に「児童相談所には、必要に応じ、児童を一時保護する施設を設けなければならない」として定められています。

ただ、本選択肢の内容は「児童相談所からの委託を受けた非行児童の一時保護」ですから、上記の児童福祉法で規定されている一時保護とイコールで考えるのは違いますね。

本選択肢において、誰が「委託を受ける」のかについて理解しておく必要があります。

厚生労働省のこちらのサイトにおいて、「警察が先に警察官職務執行法によって保護し、児童相談所に電話で通告をしてきたものの、直ちに一時保護できないときには、暫時警察に一時保護を委託する場合があるが、どの時点で一時保護を決めて委託したのか、を明確にするべきである」とあります。

これは「警察が行う児童の一時保護について」という通知に基づく対応です。

実際に警察に一時保護をしてもらうときについては、以下のような内容が通知では示されています。

  1. 警察が児童に一時保護を加える場合:
    児童福祉法第三三条による一時保護を加える必要のある児童を警察官又は警察吏員が発見し又は一般人から警察に引き継ぎを受けた場合で、児童相談所が遠隔の地にあり又は夜間に亘る等のため、児童相談所が直ちに当該児童を引き取ることが出来ない時は警察において一時保護を加えることができる。
    なお、この場合における児童相談所長からの一時保護の委託は、あらかじめ包括的に受けておくものと解する。
    (この点については厚生省と打合済)
  2. 保護の場所:
    警察において児童の一時保護を行う時は、保護室を使用するものとし、鍵をかける場合には児童の行動範囲がなるべく広くなるよう配慮すること。児童の一時保護に使用する保護室は通常の部屋に準じて造られたものに限り、留置場の房を代用することはできない。
  3. 保護の期間:
    警察が児童に一時保護を加える期間は、原則として児童に一時保護を加えたときから二四時間を超えないこと。但し、交通その他真にやむを得ない事情がある場合はこの期間を延長することができる。なお、期間が二四時間を超える場合においても児童の一時保護は法に基き児童相談所長の委託を受けて加えられるものであるから、警察官等職務執行法第三条第三項の適用外である。
  4. 費用:
    児童の一時保護に要した費用は法第五○条第一項第九号の規定により都道府県から支弁することになる。従って、支弁の方法その他これに関する細部の事項については、あらかじめ都道府県主務課と連絡の上打ち合せを行うこと。

一時保護自体は児童福祉法第33条によって行われるものですが、本選択肢の「児童相談所からの委託を受けた非行児童の一時保護」を行うのは警察であると見るのが、上記の通知を踏まえれば妥当ですね。

また、上記のように直ちに一時保護が困難な場合だけでなく、強制的措置を取る場合にも警察が一時保護を委託されることもあります。

こちらは「児童福祉法において児童に対し強制的措置をとる場合について」という通知に基づいた対応になります。

この通知では「児童福祉法によって、児童を取り扱う場合には、児童福祉の原理に従い児童の人権を尊重すべきことは言を俟たないところであり、従って、たとえ保護施設等から逃走する性癖を有する児童であっても、施設の側の受け入れの方法に十分留意し、これを自由な環境で保護して、施設生活に魅力を感じさせるようにすることが児童保護の原則であるが、現下の実状としては、時に強度の浮浪癖等のために極めて頻繁に逃亡を繰り返し、これがためその児童にやむを得ず或る程度の拘束力を加えて施設内に止らせることが却ってその児童の真の福祉を保障する所以となる場合もあると考えられる」とあります。

要するに、児童は児童相談所の一時保護所などで受け入れ側の方法の留意等を以てしっかりと対応すべきではあるが、子ども側が自分から出ていくなどの傾向が強くてある程度の拘束力が必要と考えられるときには、警察に一時保護をしてもらうことがありますよ、ということです。

これらの状況において、警察が児童相談所から一時保護を委託されることがあり得るということになります。

そして、本選択肢の内容はこうした状況を指してのものであると考えられますね。

以上より、選択肢③は少年鑑別所で行われる業務として誤りと判断できます。

⑤ 家庭裁判所から試験観察(身柄付き補導委託)の決定を受けた少年の観察

試験観察とは、家庭裁判所が最終的な保護処分を決定するのに当たり、家庭裁判所の調査官が相当期間少年の生活態度を観察して様子を見る制度をいいます。

少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合になされることがありますね。

こちらは以下の通り少年法で規定されています。


(家庭裁判所調査官の観察)
第二十五条 家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
2 家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる。
一 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二 条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。


試験観察においては、家庭裁判所調査官が少年に対して更生のための助言や指導を与えながら、少年が自分の問題点を改善していこうとしているかといった視点で観察を続け、この観察の結果なども踏まえて裁判官が最終的な処分を決めます。

上記のようなイメージですね。

以上より、選択肢⑤は少年鑑別所で行われる業務として誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です