公認心理師 2023-56

児童相談所における虐待相談対応に関する問題です。

いわゆる「白書系」の問題になっていますが、「ある程度の年数変わっていない傾向」や「制度的な変更と関連する箇所(例:警察との連携が密になった)」などが問われることが多いような気がしています。

問56 2019年(令和元年)以降、児童相談所における虐待相談対応に関連する内容として、正しいものを2つ選べ。
① 相談経路のうち、最も多いのは学校である。
② 被虐待者の年齢は、12歳以下が過半数である。
③ 主たる虐待者のうち、最も多いのは実母である。
④ 虐待相談対応の過半数は、児童福祉施設入所措置となる。
⑤ 相談内容における虐待種別のうち、最も多いのはネグレクトである。

解答のポイント

虐待相談対応に関する知識を有している。

選択肢の解説

① 相談経路のうち、最も多いのは学校である。
⑤ 相談内容における虐待種別のうち、最も多いのはネグレクトである。

これらの選択肢についてはこちらの資料を見ていきましょう。

まず「相談経路」についてです。

相談経路で「学校等」として幼稚園・学校・教育委員会が挙げられており、それぞれの全経路中の割合は以下の通りです。

  • 幼稚園:524件(0.3%)
  • 学校:13972件(6.7%)
  • 教育委員会:448件(0.2%)

上記をすべて足して、全体の7.2%を占めていることが示されています。

対して「警察等」ですが、これは103,104件で全体の49.7%を占めています。

この結果は令和3年度の速報値ではありますが、警察と学校等の割合はここ数年変わっておりません。

ちなみに、警察等→近隣・知人→家族・親戚→学校等の順になっており、これもここ数年変わっていません。

ですから、2019年以降で相談経路で最も多いのは「学校」ではなく「警察」になります。

警察からの通告が多い背景には、近年は子どもがいる前での夫婦間のDV(面前DV)が虐待に含まれるようになったためで、DVの相談があり、その家庭に子どもがいた場合には警察から児童相談所に通告がなされる可能性が高くなります。

また虐待相談ダイヤル189(いちはやく)の周知などで、近隣知人や家族親戚からの通告は児童相談所に寄せられる傾向にあります。

さて、続いて虐待種別に関する問題ですね。

こちらについても令和3年度の速報値を挙げておきますが、この割合の傾向はここ数年変わっていません。

  • 身体的虐待:49,238件(23.7%)
  • ネグレクト:31,452件(15.1%)
  • 性的虐待:2,247件(1.1%)
  • 心理的虐待:124,722件(60.1%)

上記の通り、圧倒的に心理的虐待の割合が高く、次いで身体的虐待という流れになっています。

心理的虐待は、大声や脅しなどで恐怖に陥れる、無視や拒否的な態度をとる、著しくきょうだい間差別をする、自尊心を傷つける言葉を繰り返し使って傷つける、子どもがDVを目撃する、などを指します。

DV相談→警察から通告→心理的虐待として認知、という流れができやすいので、心理的虐待が多くなるという構図が見て取れますね。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は誤りと判断できます。

② 被虐待者の年齢は、12歳以下が過半数である。

被虐待者の年齢については、こちらの資料を参照にしていきましょう。

令和元年度の資料しかありませんが、こういう問題では複数年で傾向が変化する指標を正誤判断に用いることはないので大丈夫でしょう。

  • 0歳~2歳:37,862件(19.5%)
  • 3歳~6歳:49,660件(25.6%)
  • 7歳~12歳:65,959件(34.0%)
  • 13歳~15歳:26,709件(13.8%)
  • 16歳~18歳:13,626件(7.0%)

上記を見れば、0歳から12歳の間で全体の79.1%を占めていることがわかりますから、「被虐待者の年齢は、12歳以下が過半数である」というのが正しいわけです。

なお、被虐待者が死亡するような事案は低年齢に多いとされています。

7歳~12歳にもっとも割合が集中しているのは、10歳前後を境に自我が芽生え、子どもが親に対して「思い通りにならない」という姿として顕在してくるからだと私は考えています。

ある程度の精神的成熟を備えている親にとっては、こうした10歳前後の自我の芽生えや、それに伴う家族のごちゃごちゃはむしろ子どもの成長として喜ぶ側面があるものですが、近年は、そういった子どもが自分の枠組みから外れたことを許容できない親が増えているのだろうと思います。

かつては、こうした「親の思いと異なること」が教育面(学力がこのくらいでなくては等)で目立っていた印象がありますが、近年はもっと基本的なところで生じているような印象です。

小さい頃からデジタルメディアに触れ、「大人しく」しており(子どもが動画を観ていれば静か)、当たり前に経験するはずだった子どもとの「ごちゃごちゃ」を未経験のまま過ぎ、それが再出現する思春期に入って、うまくいかなくなるのではないか…などと想定しています。

ちなみに、こうした親との「ごちゃごちゃ」については、子どもにとって不可欠なものであり、そうした「ごちゃごちゃ」があるからこそ、親の限界を知り、そこに適切な諦め(明らめ)が生じ、そうした限界を他者にも適用し、他者に対して誇大的な期待を向けずに適切な距離感を維持できるのだと思います。

子どもに限らず、人を育てるという行為には、多少なりともこうした「ごちゃごちゃ」が欠かせないのだと知っておきましょう。

以上より、選択肢②は正しいと判断できます。

③ 主たる虐待者のうち、最も多いのは実母である。

こちらについては以下の資料を見ていきましょう。

問題では「2019年以降」とありますが、現在「子供・若者白書」で示されているのは、下記が最新の情報でしたので、こちらを参照にしていきます。

上記の「主たる虐待者別構成割合」では、実母が割合として最も高いことがわかりますね。

とは言え、年々実父の割合が増えていますから、これは今後変化しうる割合かもしれません。

父親の育児参加が影響しているのか…などと想像できなくはないですね。

ちなみに警察が検挙した死亡に至った事件でも加害者の多くが実母となっています。

どうしても育児において母親に負担が偏っているというのが、やはり実情なのではないかと思えます。

以上より、選択肢③は正しいと判断できます。

④ 虐待相談対応の過半数は、児童福祉施設入所措置となる。

こちらについては該当する資料を見つけられませんでした。

なので、過去のデータを参照にしつつ述べていくことにしましょう。

まずこちらの資料(平成30年度の資料)では、児童虐待相談対応件数 133,778件・一時保護21,268件・施設入所等4,579件となっています。

児童虐待相談対応件数自体は年々増加しており、令和3年度の速報値は207,659件となっています。

平成30年度の対応を見ると、そもそも一時保護をする事例が全体の割合では少なく、そのうち施設入所等となると更に少なくなります。

ちなみに「相談対応件数」とは、児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数を指し、即座に一時保護や施設入所をするというものではありません。

他の対応として考えられるのが、相談は受けたけど、子どもを在宅に置いたまま家庭への指導を行ったり、一時保護をしたけど家庭の改善が見られたので家に戻すなどがあります。

虐待相談対応件数に対して、実際に一時保護を行うこと、そして施設入所等の対応を取ることの方が少ないことがわかりますね。

ちなみに、以下のような場合には、親子分離の必要性が高いとされています。

  • 在宅では子どもの生命に危険が及ぶ
  • 在宅では子どもの心身の発達を阻害する
  • 子どもが帰ることを拒否する
  • 家族・子どもの所在がわからなくなる可能性が強い
  • 性的虐待である
  • 繰り返し虐待の事実がある
  • 子どもの状況をモニタリングするネットワークを構築できない
  • 保護者が定期的な訪問・来所指導を拒む
  • 家庭内の著しい不和・対立がある
  • 絶え間なく子どもを叱る・罵る
  • 保護者が虐待行為や生活環境を改善するつもりがない
  • 保護者がアルコール・薬物依存症である

上記の数値でも施設入所等の対応が大半を占めるわけではないことがわかりますね。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

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