公認心理師 2023-27

ポピュレーションアプローチの具体例として適切なものを選択する問題です。

①ポピュレーションアプローチとは何か、②各事業等の概要の把握、が求められている問題になりますね。

問27 子育て支援や児童虐待防止を目的に据えたポピュレーションアプローチの具体例として、最も適切なものを1つ選べ。
① 一時保護
② 保育所等訪問支援
③ 養育支援訪問支援
④ 子育て短期支援事業
⑤ 乳児家庭全戸訪問事業

解答のポイント

ポピュレーションアプローチの意味と、制度や事業に関する理解を有する。

選択肢の解説

① 一時保護
② 保育所等訪問支援
③ 養育支援訪問支援
④ 子育て短期支援事業
⑤ 乳児家庭全戸訪問事業

まず問題文にある「ポピュレーションアプローチ」について理解していきましょう。

様々な疾患や問題行動に関して、高いリスクを持った人のリスクを減らすように支援していくことを「ハイリスクアプローチ」と呼びます。

これに対して、高いリスクを持った人に限定せず、ある団体などのリスクを全体的に下げるために行なっていく支援を「ポピュレーションアプローチ」と呼びます。

ポピュレーションアプローチは、集団に対して健康障害へのリスク因子の低下を図る方法であり、集団全体への早い段階からのアプローチにより影響量も大きくなり、多くの人々の健康増進や疾病予防に寄与することができます。

例えば、健康診断で血圧や血糖値の高かった人を対象に健康指導を行うことがハイリスクアプローチになり、健康増進を目的に会社全体でスポーツ大会を行うことはポピュレーションアプローチに該当します。

こちらの資料の表を転記しておきましょう。

ポピュレーションアプローチハイリスクアプローチ
対象低リスク群、境界域を含む集団全体高リスク群
役割主として一次予防主として二次予防
利点集団全体に効果が及ぶ。
集団全体としての発症者の減少効果が大きい。
集団からハイリスク者を選ぶ手間が省ける。
方法論が明確で、対象を把握しやすい。
個人への効果が高い。
対象を絞ることができる。
欠点個人への効果が低い。
不十分な介入の場合、健康格差縮小の効果が低い。
漫然と実施した場合、費用対効果が低い。
成果は一時的、限局的なことが多い。
(事業終了後、維持するのが難しい)
集団全体への波及効果が小さい。
スクリーニングの費用がかかる。

これらを踏まえ、各選択肢の事業について簡単に触れていきましょう。

まず「一時保護」は、子どもの生命の安全を第一に、子どもの権利の尊重や自己実現にとって明らかに見逃すことのできない状況にあると判断されるとき、児童福祉法第33条に基づいて、児童相談所長や都道府県知事などの承認を得て児童相談所が子供を一時的に保護することを指します。

虐待が起こっている、またはその恐れがある状態ですから、一時保護はハイリスクアプローチに属すると言えますね。

「保育所等訪問支援」とは、保育所や幼稚園、認定こども園、学校、放課後児童クラブなど集団生活を営む施設を訪問し、障害のない子どもとの集団生活 への適応のために専門的な支援を行うものです。

児童福祉法に基づくサービスで、児童発達支援や放課後等デイサービスと同じ「障害児通所支援」の一つです。

子育て支援施策や教育の現場に入り込んで行うアウトリーチ型の発達支援事業で、保護者からの依頼に基づく事業であり、保護者の権利保障として提供されます。

保育所等訪問支援も、保護者の何かしらの困り事があってスタートするものですし、全体に向けて行われていませんから、ポピュレーションアプローチには該当しないと言えます。

「養育支援訪問事業」の目的は、育児ストレス、産後うつ病、育児ノイローゼ等の問題によって、子育てに対して不安や孤立感等を抱える家庭や、様々な原因で養育支援が必要となっている家庭に対して、子育て経験者等による育児・家事の援助又は保健師等による具体的な養育に関する指導助言等を訪問により実施することにより、個々の家庭の抱える養育上の諸問題の解決、軽減を図ることです(文部科学省のページにありますね)。

家庭内での育児に関する以下のような具体的な援助を行います。

  • 産褥期の母子に対する育児支援や簡単な家事等の援助
  • 未熟児や多胎児等に対する育児支援・栄養指導
  • 養育者に対する身体的・精神的不調状態に対する相談・指導
  • 若年の養育者に対する育児相談・指導
  • 児童が児童養護施設等を退所後にアフターケアを必要とする家庭等に対する養育相談・支援

これらを市町村が主体となって行っていくわけですね。

養育支援訪問事業も、家庭内に何かしらの問題を抱えた家庭が対象となりますから、ポピュレーションアプローチには該当しないと言えますね。

「子育て短期支援事業」は、保護者の疾病や仕事等の事由により子どもの養育が一時的に困難となった場合、又は育児不安や育児疲れ、慢性疾患児の看病疲れ等の身体的・精神的負担の軽減が必要な場合に、児童養護施設等で一定期間(原則7日以内:必要に応じて延長可)子どもを預かる事業です。

また、「夜間養護等(トワイライトステイ)事業」も含み、これは保護者が仕事その他の理由により、平日の夜間又は休日に不在となり児童の養育が困難となった場合等の緊急の場合に、児童養護施設など保護を適切に行うことができる施設において児童を預かるものになります(宿泊可)。

保護者の疾病や仕事などの特定の対象向けの事業になりますから、ポピュレーションアプローチには該当しないと言えますね。

「乳児家庭全戸訪問事業」では、生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問し、様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供等を行うとともに、親子の心身の状況や養育環境等の把握や助言を行い、支援が必要な家庭に対しては適切なサービス提供につなげます。

このようにして、乳児のいる家庭と地域社会をつなぐ最初の機会とすることにより、乳児家庭の孤立化を防ぎ、乳児の健全な育成環境の確保を図るための事業です。

全体のリスクを下げようという取り組みと見なすことができますから、ポピュレーションアプローチに該当すると言えます。

様々な疾患や問題行動に関して、高いリスクを持った人のリスクを減らすように支援していくことがハイリスクアプローチですから、一時保護、保育所等訪問支援、養育支援訪問事業、子育て短期支援事業などはハイリスクアプローチに属すると見なすのが自然ですね。

一時保護はもとより、それ以外の事業も高いリスクがある状態・状況と見なすのが自然ですからね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤がポピュレーションアプローチとして適切と判断できます。

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