公認心理師 2023-26

「Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーションの説明」に関する問題です。

正答以外の選択肢にわからないものがありましたね。

問26 N. E. Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーションの説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 生活上のリスクを共有して負担し合うこと
② 社会的に立場が弱い人々への支援や制度を設けること
③ 多様性を全て包摂し、個々に必要な支援を保障すること
④ 知的障害者に全ての市民と同等の権利や機会を与えること
⑤ 個人の権利や自己実現が尊重され、人が身体的・精神的・社会的に良好な状態でいること

解答のポイント

ノーマライゼーションの歴史を把握している。

選択肢の解説

② 社会的に立場が弱い人々への支援や制度を設けること
④ 知的障害者に全ての市民と同等の権利や機会を与えること

ノーマライゼーションは、1950年代に北欧諸国から始まった社会福祉をめぐる社会理念の一つで、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべきという考え方で、また、そこから発展して、障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方としても使われることがあり、それに向けた運動や施策なども含まれます。

全ての人が当然もっている通常の生活を送る権利をできる限り保障するという目標を一言で表したものであり、たとえ障害があっても、その人を平等な人として受け入れ、同時に、その人たちの生活条件を普通の生活条件と同じものにするよう努めるという理念を指します。

現在、福祉国家といわれているデンマークにあっても、かつては障害のある人に対しての福祉は、大規機施設での隔離主義によるものであり、劣悪な処遇でした。

そのような処遇のあり方、人権侵害に対する厳しい批判として現れたのがノーマライゼーションの考え方です。

デンマークでは1950年代に「知的障害をもつ親の会」が結成され、そこで明確化された親の願いは施設の小規機化や「自分たちの子どももほかの子どもたちと同じように…」というもので、この親の願いを出発点として1959年法(精神遅滞者福社法)が成立しました。

この法案作成に携わりノーマライゼーションという言葉を取り入れたのが、社会省の担当官Bank-Mikkelsen.N.E(バンク・ミケルセン)でした。

同法では「知的障害者のために可能なかぎりノーマルな生活状態に近い生活を創造する」とあり、この精神がノーマライゼーション理念の基盤となっています。

つまり、ノーマライゼーションとは関害のある人たちに、障害のない人たちと同じ普通の生活条件をつくり出そうとするものです。

また、バンク・ミケルセンは「「ノーマライズ」というのは、障害のある人を「ノーマルにする」ことではありません。彼らの生活条件をノーマルにすることです。このことは、特に正しく理解されねばなりません」と述べています。

つまり「ノーマライズ」とは障害のある人の生活条件を「ノーマルにする」ことを意味すると強調しているのです。

その後、ノーマライゼーションの考え方はスウェーデンにも取り入れられ、同様の法律が1967年に制定されており、法律の成立に重要な役割を果たしたニィリエ (NIJIE,B.)は知的障害のある人がノーマルな生活をしていくための原則を示しています。

さらに、1970年代にヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger,W) によってアメリカ、カナダに紹介され、新たな展開をしていくこととなっています。

ノーマライゼーションの理念は「障害者の権利宣言」(1975年)や「国際障害者年」(1981年)、「国連・障害者の十年」(1983~1992年)に取り入れられるとともに世界へ広がっていきました。

2006(平成18)年12月13日には「障害者の権利に関する条約」が国連総会で探択されました。

本条約は、第1条(目的)で、障害者が非障害者と同様に「あらゆる人権及び基本的自由」を「完全かつ平等」に享有し、確保することを掲げています。

各条文で差別禁止だけでなく、移動、教育、雇用、健康、文化・スポーツ、政治活動などのあらゆる分野での非障害者との平等な権利と社会参加を示しています。

締約国にはその権利を確実に実行できるようにすることを責務としており、日本は2014(平成26)年1月に条約に批進して締約国となっています。

今後のノーマライゼーション理念実現の中身として「形式的・外見的なノーマライゼーションではなく、人生の内容面でのノーマライゼーション、より一段的な表現ではQOL(Quality of Life)を直接課題とする」ことが期待されます。

上記からもわかる通り、Bank-Mikkelsenは劣悪な環境の施設に収容されている知的障害児者の処遇に心を痛め、1951年に発足した知的障害者の親の会の活動に共鳴し、そのスローガンが法律として実現するように尽力しました。

ですから、本問で問われている「Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーションの説明」となると、選択肢④の「知的障害者に全ての市民と同等の権利や機会を与えること」が適切ということになります。

選択肢②については、上記の「Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーション」から発展した社会福祉の理念の一つであるノーマライゼーションに関する全般的な説明という印象でしょうか。

そうなると、本問の肝は「Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーションの説明」という限定がなされていることと言えそうです。

よって、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

① 生活上のリスクを共有して負担し合うこと

本選択肢については、明確な概念を導くことができませんでした。

近いのがバリアフリーの考え方かなと思ったので、こちらについて簡単に述べておきます。

バリアフリーはノーマライゼーションやインクルージョンの理念を具体化させていく考え方の一つであり、ハンディキャップのある人が社会生活を送っていく上でのバリア(障壁)を除去するという意味で、以下の4つのバリアが挙げられています。

  1. 物理的バリア:住宅、建造物、道路、駅舎、鉄道、バス、移動・交通環境など
  2. 制度的バリア:社会や行政の仕組み、法制度、慣習、教育制度、施設の管理方法など
  3. 心理的バリア:市民や家族などの態度・偏見、事業者や設計者などの専門家の意識のあり様
  4. 情報のバリア:情報の伝達、情報公開、教育の仕組み、コミュニケーションなど

上記の制度的バリアが本選択肢の内容と重なるようにも思えます。

本選択肢の内容からは、生活上のリスクをみんなで共有して、負担し合うというイメージと重なるのが、地域包括ケアシステムが効果的に機能するための「4つの助(自助・互助・共助・公助)」における共助や公助でした。

が、他選択肢の内容が横文字で共通していたので「ここはバリアフリーかしら?」ということで述べておきました。

いずれにせよ、選択肢①の内容が「Bank-Mikkelsenによるノーマライゼーションの説明」ではないのは間違いありません。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

③ 多様性を全て包摂し、個々に必要な支援を保障すること

こちらはインクルージョンの考え方になります。

インクルージョン(inclusion)とは、直訳すると包括・包含という意味であり、包括は全体をまとめること、包含は包み込む・中に含むことを指しています。

インクルージョンはノーマライゼーションの発展とも考えられており、1980年代に学校教育の場で注目されました。

インクルーシブな教育の考え方は、障害児だけでなく、虐待を受けた子どもや外国籍の子どもまで、特別なニーズを持つあらゆる子どもに必要な支援が提供されることを前提とし、それらの子どもたちが地域の学校に包み込まれ、共に学ぶというものです。

ノーマライゼーションが障害者に特化したところからスタートしたのに対し、インクルージョンは障害者や高齢者、地域から排除されたホームレス、学校や地域に居場所を失った若者、日本に溶け込めない外国籍の人など多様な人を視野に入れ、それぞれに必要な支援をし「誰もが地域で包み込まれて暮らす」ことを目指すものとしています。

インクルーシブ社会というのは、社会を構成するすべての人が多様な属性やニーズを持っていることを前提として、性別や人種、民族や国籍、出身地や 社会的地位、障害の有無など、その持っている属性によって排除されることなく、誰もが構成員の一員として分け隔てられることなく、地域であたりまえに存在し、生活することができる社会を指すわけですね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ 個人の権利や自己実現が尊重され、人が身体的・精神的・社会的に良好な状態でいること

こちらはウェルビーイングの説明になっていると考えられます。

「ウェルビーイング」(well-being)とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念であり、1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案において、「健康」を定義する記述の中で「良好な状態(well‐being)」として用いられました。

WHOによればウェルビーイングは、単に疾病や障害がないことではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指しています。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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