公認心理師 2023-149

虐待の可能性のある事例への初期対応に関する問題です。

事例内容からどのような「見立て」を行うかが大切になっていますね。

問149 1歳4か月の女児A、保育園児。母子家庭で育つ。隣人から児童相談所に、毎日Aの泣き声がすると通告があった。児童相談所の担当者がA宅を訪問すると、母親Bが玄関で対応した。訪問理由を説明し、Aとの面会を依頼すると、BはAを抱いて出てきた。AはBに甘えており、外傷は確認されなかったが、体格が小さかった。Bは、「Aは離乳食を嫌うのです。他の子に比べて、体が小さくて。いらいらして怒鳴るとAが泣くことはあるけれど、今後は気をつけます」と扉を閉めた。後日、要保護児童対策地域協議会で個別ケース検討が行われた。
 関係機関が行うAとBへの初期支援として、不適切なものを1つ選べ。
① 児童委員が、Bの相談に乗りながら、子育ての苦労を聴き取る。
② 保育所で、Aの行動観察を行い、Aの心身の発達をモニターする。
③ 児童相談所が警察に協力を依頼し、立入調査を行って、Aの状態を確認する。
④ 小児科医が、Aの身体測定を定期的に実施し、発育不良のアセスメントを行う。
⑤ 保健センターで、保健師が乳幼児健診の機会を活用して、必要な市町村サービスを紹介する。

解答のポイント

見立てを行い、それに適した対応を選択できる。

選択肢の解説

① 児童委員が、Bの相談に乗りながら、子育ての苦労を聴き取る。
② 保育所で、Aの行動観察を行い、Aの心身の発達をモニターする。
③ 児童相談所が警察に協力を依頼し、立入調査を行って、Aの状態を確認する。
④ 小児科医が、Aの身体測定を定期的に実施し、発育不良のアセスメントを行う。
⑤ 保健センターで、保健師が乳幼児健診の機会を活用して、必要な市町村サービスを紹介する。

本問ではAおよびBの状態をどう見立てるかが重要で、それに基づいて対応の適否を選択していくことになります。

本事例を見立てる上でポイントになりそうなところと、そこから想定できることを考えていきましょう。

  1. 母子家庭である:児童虐待のリスク要因の一つである。
  2. 隣人から児童相談所に、毎日Aの泣き声がすると通告があった:A自身の特徴、隣人が過敏である可能性など虐待を否定する考えは浮かぶが、これが一つの事実であることは間違いない。
  3. 児童相談所の担当者がA宅を訪問すると、母親Bが玄関で対応した。訪問理由を説明し、Aとの面会を依頼すると、BはAを抱いて出てきた:きちんと母親と会えていること、抵抗なくBと面会できていること。虐待事例の場合、子どもに会えないパターンも多い。
  4. AはBに甘えており、外傷は確認されなかったが、体格が小さかった:愛着のテーマの不穏は現時点でなし、訪問で確認できるレベルで身体的虐待は認められない、体格の小ささがネグレクトからきている可能性は排除できない。
  5. 「Aは離乳食を嫌うのです。他の子に比べて、体が小さくて。いらいらして怒鳴るとAが泣くことはあるけれど、今後は気をつけます」と扉を閉めた:体格の小ささの理由が提示された(だからと言って、それを鵜呑みにしてネグレクトの可能性は否定しない)、母親自身がいらいらして怒鳴ることがあると認めた→養育の不適切な面を認めたという点では虐待事例らしくない、怒鳴っているという点で既に虐待になるリスクがある、という2面性がある情報といえる。

このように、この家庭はリスク因子があり、客観的に見ても虐待の可能性を否定できない状況(通告があったり、怒鳴るなど)にありますが、同時にそれらの状況を説明する事実(離乳食を嫌うなど)や虐待家庭には生じにくい反応もいくつか見られます。

つまり、本事例の見立てとして「現時点では虐待の有無を確定させることはできない」ということになるわけです。

ですから、今後の虐待関係機関が行う対応としては、1.こうした虐待の可能性を査定するようなアプローチを行うこと、2.虐待に至っていないとしてもそのリスクのある家庭として予防的サポートを入れること、などが挙げられると言えます。

これらを踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。

本問の選択肢の中で、上記の「1.こうした虐待の可能性を査定するようなアプローチ」に該当するのは、選択肢②の「保育所で、Aの行動観察を行い、Aの心身の発達をモニターする」および選択肢④の「小児科医が、Aの身体測定を定期的に実施し、発育不良のアセスメントを行う」になります。

選択肢④の小児科医は、かかりつけ医に頼むなどをしておくと良いでしょうね。

選択肢②は日常的な視点からのチェックであり、あざの有無、食事量(食べさせていないのであれば、園ではかき込むように食べることもある)、園で確認できるレベルの心身の発達(身長体重の発達曲線が正常範囲内であるか否か、保育士などへの愛着の示し方など)を見ていくことになりますね。

これに対して、上記の「2.虐待に至っていないとしてもそのリスクのある家庭として予防的サポートを入れる」に該当するのは、選択肢①の「児童委員が、Bの相談に乗りながら、子育ての苦労を聴き取る」および選択肢⑤の「保健センターで、保健師が乳幼児健診の機会を活用して、必要な市町村サービスを紹介する」になるでしょう。

離乳食を嫌う子どもの特徴、アレルギーの有無、どういう工夫をして食べさせるようにするかなどを助言し、母親の心身の負担を減らすことが大切です。

また、保健センター等で親身になってもらうことで、相談しやすい環境、利用できるサービスの把握ができると、虐待に至りにくい状況を作ることができますね。

さて、残りの選択肢③の「児童相談所が警察に協力を依頼し、立入調査を行って、Aの状態を確認する」ですが、虐待の可能性が不透明な中でこれほど「強い対応」を行うことは避けるべきです。

「虐待の通告」は疑いがあればして良いのですが、実際に立入調査を行うなど強制力のある対応をするにはそれなりの根拠が求められます。

「そんなことをして虐待を見逃したらどうするんだ」と無責任な人は言いますが、本事例の状況で強制的な対応をしてしまうことで、Bが地域での生きづらさを感じてしまうこと、今後は児童相談所と関わることができない可能性、そうしたことがBの孤立感を高め、それ自体が虐待を招く可能性、なども考えねばならないのです。

一時保護であっても「客観的・合理的に判断」するということが求められています(こちらの資料を参考に)。

本事例の家庭に対して強制的な対応をするのは、「客観的・合理的」というよりも「推察・想像」の域を出ない話であると言えます(現時点で客観的な証拠になりそうなのはAが痩せていることだが、それに対しては離乳食を嫌うという理由が一応は提示されている)。

以上より、選択肢③が関係機関が行う初期対応としては不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

また、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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