公認心理師 2023-142

産後ケアの対応に関する問題です。

現状では「明確に方針が定まるほどの情報がない」という状況であると考えられ、そういうときに採用する可能性のある対応を考えていきましょう。

問142 30歳の女性A。出産した産婦人科クリニックで産婦検診を受診した。Aは、「第一子Bを出産して1か月が過ぎたが、夜中に授乳やおむつ交換で何度も起こされ、あまり眠れない日が多い。産後2週目頃から母乳が徐々に出にくくなり、粉ミルクを併用している。このことで、自分にBを育てる資格があるのだろうか、と不意に不安になることがある。Bが泣き止まないときは大変で、腹が立ち、Bの世話は楽しくないと思うこともある。夫は育児休業を取得しているが、Bの面倒を見ようとしない。Aの実家は自宅から遠く、援助は期待しにくい」と言う。
 産後ケアにおけるAへの対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 母乳育児の有用性を説明する。
② 積極的に子育てに取り組むよう励ます。
③ 子育て世代包括支援センターなどと連携する。
④ 母子の愛着形成の重要性についての理解を促す。
⑤ Aの夫と連絡を取り、Bの世話をするよう要請する。

解答のポイント

事例の状態を踏まえた対応を選択できる。

選択肢の解説

① 母乳育児の有用性を説明する。
② 積極的に子育てに取り組むよう励ます。
④ 母子の愛着形成の重要性についての理解を促す。

Aの言葉として「第一子Bを出産して1か月が過ぎたが、夜中に授乳やおむつ交換で何度も起こされ、あまり眠れない日が多い。産後2週目頃から母乳が徐々に出にくくなり、粉ミルクを併用している。このことで、自分にBを育てる資格があるのだろうか、と不意に不安になることがある。Bが泣き止まないときは大変で、腹が立ち、Bの世話は楽しくないと思うこともある」というのがあり、これらに対する助言としてここで挙げた選択肢が出てくるのでしょう。

粉ミルクを使用していることについては「母乳育児の有用性を説明する」、育児に対して後ろ向きな姿に対して「積極的に子育てに取り組むよう励ます」および「母子の愛着形成の重要性についての理解を促す」があるのでしょう。

当然のことながら、こうした助言は役に立たないことが多いと言えます。

なぜなら、明らかにAは一人で育児をしていて疲弊しており「自分にBを育てる資格があるのだろうか」などの産後うつの可能性も考えねばならない状況にあると言えます。

例えば、エジンバラ産後うつ病質問票の項目としては、「はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配したりした」「はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた」「不幸せな気分だったので泣いていた」が挙げられており、Aの状態像と関連する箇所もあることがわかりますね。

このような状態において、「母乳育児の有用性を説明する」「積極的に子育てに取り組むよう励ます」「母子の愛着形成の重要性についての理解を促す」などの関わりは、本人に鞭打つようなものになることは想像しやすいと思います。

むしろ、粉ミルクの使用を推奨し、Aの状態像によっては薬物療法も検討していくことを踏まえれば、母乳への影響を気にせずにAの治療ができる利点の方が大きいと考え、状態の推移を観察していくことが重要です。

一つ知っておくべきなのが、「本人の苦しさと共に在ろうとすること」と「助言をすること」は両立しにくいということです。

助言をすると「その人の苦しさと共に在る」という雰囲気が壊れやすく、気持ちを受けとめる、精神的にそばにいるという雰囲気が激減します。

ですから、その人へのアプローチとして「苦しさと共に在る」ことが重要であると見立てられるならば、助言を控えて対応することが重要になってきます。

とは言え、助言すること自体がダメというわけではありません。

クライエントが助言を求めていること(求めているから助言をしていいかどうかは別ですけど)、その助言を受けて行動したとしても「これは自分が選択したこと」という主体性を備えていること、助言自体がクライエントの問題を適切に理解した上でなされていること、その助言をすることで却ってクライエントが自らの問題に向き合い、成長することになると見込めること、などが助言する上では重要と言えるでしょう。

その時々の状況やクライエントの病理水準、状態像などによって、助言にどの程度効果があるのか、無力な存在として、しかし、ただ「その人の苦しみと共に在ろう」とすることが重要なのかは変わってきます。

また、この2つの間にはかなり幅広いグラデーションが存在するので、そう単純なものではないですが、状況を見極めて対応していくことが求められますね。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ Aの夫と連絡を取り、Bの世話をするよう要請する。

これは「夫は育児休業を取得しているが、Bの面倒を見ようとしない。Aの実家は自宅から遠く、援助は期待しにくい」という状況を受けての対応であると考えられますが、正直言ってなかなかの余計なお世話ですね。

もちろん、Aから「夫にも連絡して、話を一緒に聞いてほしい」ということであれば妨げることはできませんが、そうした手順無く「Bの世話をするよう要請する」というのはかなりの力技であり、お勧めすることはできません。

「こういう要請をして、うまくいくかもしれないじゃないか」という意見はあるかもしれませんが、うまくいかない可能性もおそらくそれ以上にありますし、そんな「うまくいくかどうか、蓋を開けてみないとわからない」ようなギャンブルをカウンセリングでするわけにはいきません。

たとえAから夫に連絡することを依頼されたとしても、「もちろん、あなたの意見を代弁して伝えることができなくはない(本当は伝えるなら、自分で伝える方が良いけど)。だけど、それによって夫婦関係が悪くなる心配もあるし、そもそも男性の中には、他者からこういうことを助言されて嫌がる人、意地になって変わりにくくなる人もいる。あなたとあなたの子どもにとって大切なことだから、ちゃんとその辺を話し合ってからやるかどうかを考えましょう」と伝えるくらいの慎重さが大切です。

要請があったとしても、これくらい慎重に事を進めることが重要になるくらいの話ですから、Aからの要請がない本事例の状況では、Aに黙ってこうした対応を取るなどあり得ないと思っておきましょう。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

③ 子育て世代包括支援センターなどと連携する

子育て世代包括支援センターとは、母子保健法に基づき市町村が設置するもので(法律上は「母子健康包括支援センター」)、保健師等の専門スタッフが妊娠・出産・育児に関する様々な相談に対応し、必要に応じて支援プランの策定や地域の保健医療福祉の関係機関との連絡調整を行うなど、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を一体的に提供しています。

センターは、原則全ての妊産婦(産婦:産後1年以内)、乳幼児(就学前)とその保護者を対象とすることを基本としており、地域の実情に応じて18歳までの子どもとその保護者についても対象とする等、柔軟に運用します。

その中で妊娠期から子育て期、特に3歳までの子育て期について重点を置いています。

Aはこうした支援対象に入っていると言えますし、現状のような「産後うつも疑われる状態」「粉ミルクの使用に抵抗がある」「家族のサポートが少ない」「世話は楽しくないと思うこともある」などさまざまな情報はあるものの、明確なサポートが定まるほどの情報が見当たらない事例では包括的な支援ができる「子育て世代包括支援センターなどと連携する」ことが重要であると言えます。

「世話は楽しくないと思うこともある」という表現は、「世話を楽しいと思うこともある」と言えなくもないわけで、そういう意味では明確に問題が深い事例と言い切れないところもあるわけです。

このように問題の深さなどが明確ではない事例では「どういう状況にも対応できるようにしておく」ことが大切になりますから、幅広く切れ目のない対応が重要になってきますね。

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

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