公認心理師 2024-42

Saundersが提唱したトータル・ペインの4つの側面に関する問題です。

初出の概念になりますね。

主にがん患者の苦しみの理解に近づくために重要な概念と言えそうです。

問42 C. Saundersが提唱したトータル・ペインの4つの側面に含まれないものを1つ選べ。
① 霊的〈spiritual〉
② 精神的〈mental〉
③ 社会的〈societal〉
④ 身体的〈physical〉
⑤ 共感的〈empathic〉

選択肢の解説

① 霊的〈spiritual〉
② 精神的〈mental〉
③ 社会的〈societal〉
④ 身体的〈physical〉
⑤ 共感的〈empathic〉

がん患者の苦痛は、身体的要因、精神的要因、社会的要因、スピリチュアルな要因といった多面的なものです。

身体と精神は互いに関係しており、治療抵抗性の身体的苦痛に精神的な要因が加わると更に身体的苦痛が強くなります。

逆に、精神的な苦痛やスピリチュアルな苦痛を軽減することができるならば、身体的苦痛の程度そのものは変わらなくても(わずかしか軽減しなくても)、苦痛に耐えられるような人生の意味を見出すことができるようになる場合もあります。

医療者には苦痛を全人的苦痛(トータルペイン)として理解し、ケアすることが求められます。

近代ホスピスの生みの親であるソンダースは、末期がん患者が経験する苦痛のことを指して「トータルペイン」と呼びました。

がん患者は単にがんによる痛みや食欲の低下、呼吸のつらさといった肉体の苦痛ばかりではなく、その人の人間そのもの、全人格的に苦痛を経験するのだとし、ソンダースは全人的苦痛を理解しやすくするために4つの苦痛に分類しました。

がんによって起こるさまざまな苦痛をケアしていく上では、このトータルペインという考え方を理解することが大切です。

以下ではそれぞれのペインについて解説していきます(こちらのサイトが役立ちました)。

もっとも多くの患者が経験する身体的苦痛には、がん自体が原因となる痛みであるがん疼痛がありますが、それ以外にも、がんとは直接関連のない、吐き気、食欲不振、息苦しさ、倦怠感(だるさ)といった身体症状や日常生活動作の低下、ほかの持病の痛みなどもあります。

これらの苦痛があることで食事を楽しめなかったり、睡眠が十分に取れなかったり、人との関わりが億劫になってしまったり、といったことがあるかもしれませんし、いらだちや不安を感じるほか、仕事や家族との関係に影響を与えてしまうなど、身体的ではない側面に大きく影響します。

痛みが強くなることを病状の悪化と結び付けて不安な気持ちになってしまったり、がんとは別の場所に痛みが出た際には転移を疑って絶望的な気持ちになってしまうなど、痛みは人の思考を悪いほうへと導いてしまい、ますます否定的な精神状態になっていくことも起こり得ます。

精神的苦痛とは、ネガティブなことを想像してしまい不安になる、イライラしてしまう、そわそわして何も手につかない、気分が落ち込んで憂鬱になる、見放された気持ちになり孤独を感じる等の精神的負担を指し、こうした情緒の変化には、病状の進行、失望感、家族や身近な人からの支えの無さ等が影響します。

検査や診断の結果を待つ間の不安や動揺、病名告知の際や転移・再発が分かった際の心理的衝撃など、がんの疑いがある時点から治療へと進んでいくなかでは、精神的苦痛は生じ得るものです。

時には思い詰めてしまうあまり、情緒が不安定になったり、うつや不眠、倦怠感や無気力といったさまざまな症状が現れたりすることも起こり得ます。

社会的苦痛には、病気の治療や症状が仕事に影響を与えてしまったり、病気について職場にどのように伝えるべきか悩んでしまったりする「仕事上の問題」から生じる苦痛があります。

そのほかにも、いつものように働くことができずに経済的な不安を抱えてしまう「経済的な問題」や、家事や育児に制限が生じたり、役割を果たせなかったりすることへの苦悩といった「家庭内の問題」によって生じることもあります。

また、がん治療の長期化に伴って生じる医療費などの経済的な負担も患者に社会的苦痛としてのしかかってくることも少なくありません。

病気に直面した時に「なぜ自分にこんなことが起こったのか」「なぜこのような苦しみを経験しなければならないのか」「人生にはどんな意味や目的があるのか」といったように、自分自身と向き合い、現状に対して深い疑問を感じたり、生きることの意味を考えてしまったりすることがあり得ます。

病気に対する大きな不安や恐怖、家族や職場の人に対する申し訳なさや依存することへの負担感などから、自分という存在の意味や価値を見失ってしまったり、虚しさを覚えてしまったりもするでしょう。

スピリチュアルペインをそのまま翻訳すると霊的苦痛とされてしまいますが、実存的苦痛(自分の存在意義への問い)という言葉が近いのかもしれません。

このようにSaundersが提唱したトータル・ペインとは、患者の苦痛を身体的要因、精神的要因、社会的要因、スピリチュアルな要因といった多方面で捉える概念であり、これを踏まえて医療者は患者に包括的な全人的ケアを提供することが必要とされます。

治療抵抗性の苦痛を検討する場合には、難治性の痛みのある患者において、「身体の痛み」だけを取り出して緩和しようとするのではなく、痛みが取れないことによって生じている、また、痛みを難治性にさせている精神的要因、社会的要因、スピリチュアルな要因を同時にケアすることの重要性を意味します。

上記を踏まえれば、本問の「Saundersが提唱したトータル・ペインの4つの側面」とは、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4つであることがわかりますね。

よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④はSaundersが提唱したトータル・ペインの4つの側面に含まれていると判断でき、除外することになります。

また、選択肢⑤がSaundersが提唱したトータル・ペインの4つの側面に含まれていないので、こちらを選択することが求められます。

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