公認心理師 2024-22

感情を認知することの障害に関する問題です。

似て非なる概念がたくさんありますから、弁別できるようにしておきましょう。

問22 自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① アパシー
② アメンチア
③ カタレプシー
④ ディスレクシア
⑤ アレキシサイミア

選択肢の解説

① アパシー

エネルギー、興味関心、情動が失われ、目標志向行動に対する動機づけが低下した状態を「アパシー」と呼びます。

アパシーはうつ病と異なり、さまざまな活動に無関心で思い悩むことはなく、自分の状態を深刻に捉えない点が特徴とされています。

学生の場合には、スチューデント・アパシーと呼ばれ、自分らしさを模索しアルバイトなどに熱心に取り組むが学業からは退却する群と、葛藤や不安を感じさせるすべての活動から退却する群があります。

病前性格として完璧主義があり、真面目に一生懸命やっても報われない経験が重なることでアパシーになることがあります。

パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などの神経病理学的疾患の患者にも見られ、また、高次脳機能障害の患者にも確認されます。

提唱されている診断基準では、患者の以前の機能レベルと比較して、行動・認知・情動面で明らかに自発性が喪失又は低下し、社会的活動に障害が生じている状態とされます。

上記を読んでいると、何となく「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」と合致するように感じるかもしれません。

しかし、選択肢⑤で詳しく述べますが、問われているのは「感情を認知することの障害」であって、アパシーのようなエネルギー、興味関心、情動が失われ、目標志向行動に対する動機づけが低下した状態を問われているわけではありません(感情を認知できない状態≠動機づけが低下した状態、ということですね)。

ですから、アパシーも「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」には該当しないと言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② アメンチア

意識混濁は軽いが、外界と事故の認識がうまくいかず、考えもまとまらないことをある程度自覚して困惑し、談話もまとまりがなく散乱である状態を「Amentia:アメンチア」と呼びます(ちなみに英語のamentiaは精神発達遅滞の意味をもつので注意。原田憲一先生はアメンチアについて「困惑状態の強い意識混濁」と言えばよいし、精神遅滞を指すこともあるので、混乱のもとになるから使わない方がいい、と主張していますね)。

ポイントは、当人が意識障害を自覚して困惑しているというところであり、そこがその他の意識障害との線引きになります。

せん妄の前段階や回復期に見られることもあります。

歴史的には、ウィーンの精神科医Meynertが1890年に最初に用いた言葉だが、統合失調症の概念が確立されるに従い、感染や中毒による症状精神病によって精神的統一を失った意識状態を指すようになったという経緯があります。

このように、アメンチアとは、軽度の意識混濁で、思考のまとまりのなさが前景になり、患者は「困った困った」「何がなんだかわからない」と困惑状態を示すものを言います。

これらを踏まえれば、アメンチアとは「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」ではないことが明らかですね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ カタレプシー

カタレプシー(ギリシャ語で「握りしめること」を意味します)は統合失調症の緊張型で特にみられる病態になります。

統合失調症はDSM-Ⅳ-TRまでは「緊張型」「妄想型」「解体型」という分類がなされていましたが、DSM-5からは「緊張病」として別に診断されるようになっています。

こうした変更がなされた背景には、うつ病や双極性障害などのさまざまな精神疾患で緊張病が合併し得ることが認められたということが挙げられます。

本選択肢の解説のためには、緊張病の診断基準を把握しておくとわかりやすいです。

  • 昏迷:精神運動性の活動がない、周囲と活動的なつながりがない
  • カタレプシー:受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する
  • 蠟屈症:検査者が姿勢を取らせようとすると、ごく軽度で一様な抵抗がある
  • 無言症:言語反応がない、またはごくわずかしかない
  • 拒絶症:指示や外的刺激に対して反対する、または反応がない
  • 姿勢保持:重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する
  • わざとらしさ:普通の所作を奇妙、迂遠に演じる
  • 常同性:反復的で異常な頻度の、目的指向のない運動
  • 外的刺激の影響によらない興奮
  • しかめ面
  • 反響言語:他人の言葉を真似する
  • 反響動作:他人の動作を真似する
    ※緊張病の診断にはこれら12の特徴のうち、3つ以上の症状の存在が要件となっています。

上記はDSM-5の記述になりますが、「自分の意思で姿勢を変えることがなく、他者から動かされるがままとなり、長い時間そのままの同じ姿勢を保ち続ける状態」というのがカタレプシーであると言えます。

カタレプシーは、高度になると筋緊張が高まり、四肢を思いのままの形に、あたかも蝋細工のように曲げて不自然な姿勢を保持することに由来する蝋屈症と言われる病態を呈します。

こうした症状は緊張病症候群(統合失調症緊張型。今では緊張病)に特徴的とされますが、同様の症状は器質性精神障害や症状精神病などで、またヒステリーなどの心因性精神障害や催眠状態でも呈することが知られています。

とは言え、カタレプシーという表現が用いられる場合には、主に緊張病性のものを指していると捉えて問題ないでしょう。

上記を踏まえれば、カタレプシーは「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」ではないことが明らかですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ ディスレクシア

学習障害という概念が登場する以前から、英語圏では知能が低くないにも関わらず、主として読みの能力に困難を示す「ディスレクシア」の存在が知られていました。

1950年代には、軽度の脳障害と学習上のつまづきや多動などの行動特徴との関連が想定され、微細脳損傷という用語が用いられるようになりましたが、1960年代になると、教育学的な立場から学習障害という概念が登場しました。

現在は学習障害(限局性学習症、LD)の概念は整理されており、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、特異的な発達障害のひとつであり、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つが存在するとされています(この辺はDSM-5でも「該当すれば特定せよ」とされていますね)。

教育の立場では文部科学省の定義にあるとおり「全般的な知的発達に遅れはないものの聞いたり話したり、推論したりする力など学習面での広い能力の障害」を指し、医学的LDは「読み書きの特異的な障害」「計算能力など算数技能の獲得における特異的な発達障害」を指すことが多いです。

ディスレクシア自体は脳損傷によって後天的に生じる場合もあり、その場合は「失読症」と表現されますが、一般に「ディスレクシア」と呼ぶ場合は発達性の読字障害を指す際に用いられる表現です。

ディスレクシア=読字障害とされてはいるものの(DSM-Ⅳでは読字の障害とされていた)、文字の習得過程に起こる障害であるため書字にも障害があることが多く、「読み書き障害」とも呼ばれることがありますね(こっちの方がメジャーな言い方かもしれません)。

読字が基本的な障害になるのでしょうが、読字と書字は深くつながっているので、通常、読み能力だけでなく書字能力も劣ることになります。

なぜ、こうした症状が生じることになるのか、大まかに述べていきましょう。

識字プロセスには、文字や単語を構成する音に結びつけて分析する「音韻的処理」(主に表音文字)から、単語・文章そのものからダイレクトに意味を理解する「正字法的処理」(表意文字も含む)までいくつかの段階があります。

ディスレクシアの主症状である文字と音を結びつけ操作する力は、後天的に脳のいろいろな部位をつなげながら学んでいきます。

音韻的処理とは大雑把に言えば、読むために文字を認識し、音と結び付け、いくつかの文字のつながりで単語として認識し、理解することを指しますが、これがスムーズにできないと、たどたどしい、読み間違える、音読すると意味が分からないなどの症状が出ます。

つまり音韻的処理は、①字と音を結びつけること(「あ」の文字 →「ア:A」という音であるとすぐにわかる)、②文字を単語として認識し、意味や読み方を頭の中の記憶から探してくること(「れ」「い」「ぞ」「う」「こ」のひらがなが連続してある →「しんごうき」→の意味や視覚イメージができる)、という段階があるということです。

ディスレクシアの場合、こうした音韻的処理に問題があることが指摘されており、例えば「ぬ」という言葉を見て「ヌ」という音なのか「メ」という音なのかで迷ったり、なかなか音が出てこなかったりということがあれば、音韻処理に少し課題があるということにあります。

また、例えば「ぞれいうこ」と書いてあっても、なんとなく「れいぞうこ」と多少正確でなくても読めるのが一般的ですが、ディスレクシアの場合はそういった処理が苦手で、単語にまとめたり、意味をイメージしたりすることに困難があります。

なお、発達性ディスレクシアの読字や書字の特徴には、以下のものがあります。

  1. 文字を一つ一つ拾って読むという逐次読みをする
  2. 単語あるいは文節の途中で区切って読む
  3. 読んでいるところを確認するように指で押さえながら読む(これらは音読の遅延、文の意味理解不良につながる)
  4. 文字間や単語間が広い場合は読めるが、狭いと読み誤りが増えて行を取り違える
  5. 音読不能な文字を読み飛ばす
  6. 文末などを適当に変えて読んでしまう適当読み
  7. 音読みしかできない、あるいは訓読みしかできない
  8. 拗音「ょ」促音「っ」など、特殊音節の書き間違えや抜かし
  9. 助詞「は」を「わ」と書くなどの同じ音の書字誤り
  10. 形態的に類似した文字「め・ぬ」等の書字誤りを示す

これらも把握しておくとディスレクシアの可能性を認識しやすくなるでしょう(ただし、こういうのは実地で学ぶのが一番ですね)。

上記を踏まえれば、ディスレクシアは「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」ではないことが明らかですね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ アレキシサイミア

従来、神経症理論で心身症の病状を説明しようとする傾向が強かったのですが、このような方法論では実際の臨床にそぐわない点が多く、心身症患者の心理構造や病態理解には独自の理論的な展開が必要と考えられるようになりました。

そんな中で、心身症の人格特徴としてアレキシサイミア(alexithymia)という概念が取り上げられました。

これはSifneosによって提唱された概念で、a=lack・lexis=word・thymos=mood or emotionというギリシャ語に由来し、「感情を読み取り言語化しにくい」という意味で、日本語では「失感情症」や「失感情言語化症」などと訳されています。

自分の感情(情動)への気づきや、その感情の言語化の障害、また内省の乏しさといった点に特徴があると言われています。

アレキシサイミアでは、自分の情動の認知が制限されていて、言葉で表現するのも抑えられているので、身体化に感情のはけ口を求める結果、心身症になると想定されています。

環境への適応は、神経症では不適応になるのに対し失感情症ではむしろ過剰に適応し、外見上は問題なさそうに見えるという特徴もあります。

アレキシサイミアの大脳生理学的な発生機転としては、脳の知性の座としての新皮質と、情動や本能の座としての辺縁系との間に機能的な乖離があるためとの説があります。

上記は、何かの書籍(たぶん前田重治先生の著書だった気が…)で見つけたアレキシサイミアと神経症・精神病との異同に関する表です。

想像性の乏しさについては、上記表の③空想・夢が乏しいとされていることからもわかりますね。

上記を踏まえれば、本問の「自らの感情を認知したり表現したりすることが乏しく、想像力に欠ける状態を意味する用語」はアレキシサイミアであると考えられます。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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