公認心理師 2023-88

ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体を選択する問題です。

過去問解説で出ていなくはないのですが、覚えておくのは難しいですね…。

問88 ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体として、最も適切なものを1つ選べ。
① アドレナリン受容体
② グルタミン酸受容体
③ アセチルコリン受容体
④ μ-オピオイド(MOP)受容体
⑤ γ-アミノ酪酸(GABA)受容体

解答のポイント

各受容体と精神科薬との関連を把握している。

選択肢の解説

⑤ γ-アミノ酪酸(GABA)受容体

抗不安薬は、不安・焦燥・恐怖・興奮を取り除くために用いる薬物群であり、ベンゾジアゼピン系が代表的です。

ベンゾジアゼピン系薬物は、神経症・心身症・不眠症・アルコール中毒からの離脱や予防に用いられ、個々の薬物の特徴によって、抗不安薬、催眠・鎮静薬、筋弛緩薬、抗てんかん薬などとして使い分けられています。

一般的特徴は以下の通りです。

  1. 作用機序:Cl-チャネル内蔵型GABA受容体機能促進による神経活動の抑制
  2. 適用:神経症(不安・焦燥、抑うつ、不眠など)、心身症(消化性潰瘍や過敏大腸症など身体症状を伴う神経症)、その他(アルコール中毒からの離脱や予防)
  3. 抗不安作用:
    ①大脳辺縁系や視床下部を抑制→葛藤軽減作用(動物に報酬と罰を同時に与えたときの葛藤を軽減)、馴化作用(闘争的な動物を馴れさせる)
    ②抗精神病薬のように行動そのものを抑制することは無い
  4. 催眠作用:大脳辺縁系を抑制して催眠・鎮静作用を示す。また、抗不安作用によって二次的に催眠作用を示す。
  5. 中枢性筋弛緩作用:脊髄多シナプス反射抑制。単シナプス反射は抑制しにくい。
  6. 抗てんかん作用:てんかん焦点部位からの興奮の広がりを抑制。
  7. 副作用:眠気、運動失調、健忘など
  8. 依存性・耐性:身体依存、精神依存、耐性共に強い。投与中止によってけいれん発作を伴う禁断症状が現れる場合あり。
  9. 薬物相互作用:CYP3A4で代謝される薬物が多く、CYP3A4阻害薬で作用増強。
  10. 禁忌:急性狭隅角緑内障(抗コリン作用による)、重症筋無力症(筋弛緩作用による)
  11. 解毒薬:ベンゾジアゼピン拮抗薬が過度の鎮静・呼吸抑制に拮抗。

上記の1に「作用機序」がありますが、本問はその点に関する問題となっていますね。

これからもわかる通り「GABA受容体」の機能を促進させるということですが、こちらを詳しく考えていきましょう。

そもそも不安が喚起する生理的機序ですが、扁桃体は基底外側部(basolateral)と中心部(central)から成っており、基底外側部の神経細胞は、前頭葉や海馬など脳の様々な領域から情報を受け取り、中心部の神経細胞へ刺激を伝えます。

そして、中心部の神経細胞が、上述した領域に刺激を送り、不安感とパニック症状を引き起こすとされています。

扁桃体の中には、不安を生み出す神経ネットワークを抑える抑制性の神経細胞(ニューロン)も存在し、 抑制性のニューロンは、GABAを放出することで不安のネットワークを構成する神経細胞の働きを抑えます。

扁桃体の神経細胞の活性をダイレクトに抑制することで、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が不安やパニック症状を抑えることができるわけですね。

ただし、GABA受容体は扁桃体だけではなく脳の他の部分にも存在するため、それらの受容体に作用して脳全体の神経細胞の働きを抑える結果、眠気や筋弛緩効果などの副作用が生じることになってしまうのです。

上記の通り、本問の「ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体」はγ-アミノ酪酸(GABA)受容体であることがわかりますね。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① アドレナリン受容体

抗精神病薬の多くはα1受容体遮断作用を持ち、また、薬剤ごとにα1受容体遮断作用の強さが異なるとされています。

交感神経受容体にはαとβの2種類があり、α1受容体刺激は細動脈平滑筋収縮作用を持ち、血行動態上は体血管抵抗増加に作用します。

β1受容体刺激は心収縮力増加(陽性変力)作用と心拍数増加(陽性変時)作用を持ち、β2受容体刺激は細動脈平滑筋弛緩、静脈平滑筋弛緩作用を持ち、血行動態上は体血管抵抗減弱に作用し、さらに気管支平滑筋弛緩作用を持ちます。

このα1・β1・β2受容体が「アドレナリン受容体」です(他にもタイプがあるけど、ここではこの程度の理解で良いでしょう)。

例えば、同じ定型抗精神病薬でも、フェノチアジン系(クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)は比較的強いα1受容体遮断作用を持つが、ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はα1受容体遮断作用がないか弱いとされています。

また、非定型抗精神病薬であるSDA(リスペリドン、ブロナンセリン、ペロスピロンなど)やMARTA(クエチアピン、オランザピンなど)はα1受容体遮断作用が比較的弱いとされています。

ちなみに、抗精神病薬における薬剤ごとの特徴はあるにせよ、一般的には、抗精神病薬の投与によりα1受容体が遮断された状態でアドレナリンが投与されると、β1・β2受容体刺激作用が優位となって、期待された昇圧作用ではなく、むしろ降圧作用が出現する可能性があることが指摘されている(このような現象を「アドレナリン反転」という)。

端的に言えば、抗精神病薬服用中にアドレナリンを使用すると血圧が下がるかもしれないということです。

これらを踏まえれば、アドレナリン受容体に作用するのは抗精神病薬であり(抗精神病薬は他の受容体にも作用しますが)、本問の「ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体」ではないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② グルタミン酸受容体

グルタミン酸受容体の一つであるNMDA(NメチルDアスパラギン酸塩)受容体は、学習や記憶に役割を果たしていると考えられており、海馬のニューロンは、特にNMDA受容体が多く、グルタミン酸は新しい記憶の形成に欠くことができないと考えられています。

アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる薬は、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があり、それぞれ違った働きをします。

アルツハイマー型認知症では、神経伝達物質(グルタミン酸)の受け手であるNMDA受容体の過度な活性化によって、カルシウムイオンが過剰に脳神経細胞に流入して、記憶の情報伝達が混乱するとともに、神経細胞が傷害を受けます。

NMDA受容体拮抗薬はNMDA受容体に結合して、過剰なカルシウムイオンの流入をブロックし、記憶の情報伝達を整えると共に神経細胞を守る役割を果たしています。

これらからわかる通り、グルタミン酸受容体と結合するのはNMDA受容体拮抗薬(アルツハイマー型認知症治療薬の一つ)であり、本問の「ベンゾジアゼピン系不安薬」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ アセチルコリン受容体

「アセチルコリン受容体」については、公認心理師試験では主に三環系抗うつ薬との関連で解説をしてきたので、その文脈で述べていきます。

抗うつ薬は、中枢神経系のモノアミンのシナプス間隙濃度を高めることによって、うつ症状を徐々に改善する効果があります。

一般に、抗うつ薬効果の発現には投薬後1週間以上要するものが多いことから、シナプス間隙のモノアミン濃度の上昇が直接抗うつ効果に結びつくのではなく、シナプス部におけるモノアミンの増加が受容体の脱感作や受容体数の低下を引き起こすことによって抗うつ効果がもたらされると考えられています。

抗うつ薬は第一世代~第五世代までありますが、概観としては以下の通りです。

  • 第一世代(三環系抗うつ薬):効果は確実だが、抗コリン作用、心毒性あり。
  • 第二世代(四環系抗うつ薬など):第一世代より効果はやや劣るが、効果発現の速い薬物もある。
  • 第三世代(SSRI):第二世代より効果はやや弱く発現も遅いが、うつ以外の適応を持つ。抗コリン作用は弱く、心毒性も極めて弱いが、悪心が多い。
  • 第四世代(SNRI):第一世代に匹敵する効果があり、作用発言も速く、広い作用スペクトラムを持つ。抗コリン作用、悪心も少なく、心毒性も極めて弱い。循環器系副作用(頻脈、動悸、血圧上昇)に注意。
  • 第五世代(NaSSA):強力な抗うつ効果で作用発現が速い。性機能障害・胃腸症状は出現しにくい。眠気・体重増加の副作用。

「三環系抗うつ薬」とは、上記の第一世代~第二世代にまたがるもので、作用機序としては、神経終末へのノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害となります。

一方で、三環系抗うつ薬はアセチルコリン受容体などのような本来は効いてほしいところ以外にも作用してしまうため副作用(代表的なのが抗コリン作用)が出ていました(SSRIでは薬剤が作用する箇所を「選択的」にすることができるので、副作用が軽減されている)。

三環系抗うつ薬によって生じる副作用である抗コリン作用とは、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害して生じます。

胃腸薬などの抗コリン薬の主な作用であり、 便秘、口の渇き、胃部不快感等といった神経症状の副作用は代表的な症状の例である。

これらを踏まえると、本問の「ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体」としてアセチルコリン受容体は合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ μ-オピオイド(MOP)受容体

オピオイドとは、アヘン由来のアルカロイドであるモルヒネやその半合成誘導体を指す「オピエート」から派生した用語です(医療用オピオイドとしては、トラマドール、フェンタニル、モルヒネ、オキシコドンなどが使用されている)。

1970年代にオピオイド受容体が発見され、オピオイド受容体に結合する全ての物質がオピオイドと総称されるようになりました。

オピオイド受容体には、μ(ミュー)受容体・κ(カッパ)受容体・δ(デルタ)受容体の3種類が存在し、特に 神経系に多く分布しています。

オピオイド間でそれぞれの受容体に対する選択性や親和性が異なり、薬理作用にも差がみられます。

いずれの受容体の活性化によっても鎮痛作用は、惹起されますが、多くのオピオイドの鎮痛作用は、主にμ受容体を介して発現します。

μオピオイド受容体を介した鎮痛作用には、脊椎の感覚神経や視床・大脳皮質知覚領域などを介した上行性痛覚情報伝達の抑制と、中脳水道周囲灰白質、延髄網様体細胞、大縫線核を介した下行性抑制系の賦活などが関与しています。

オピオイドは様々な疾患の痛みを軽減することが多くの無作為化比較試験で明らかにされています。

よってオピオイド鎮痛薬は、周術期管理、緩和ケア、非がん性慢性疼痛などの幅広い領域において、痛みの緩和によって患者に多大な恩恵をもたらします。

各領域におけるオピオイド治療の特徴は以下の通りです。

  • 周術期管理:
      使用目的…有害反応(神経内分泌反応)の抑制→術後合併症の予防
      投与期間…限られた期間(数日間)
      問題点…呼吸抑制、除脈、低血圧など
  • 緩和ケア:
      使用目的…痛みの緩和→QOLの改善、がん治療の支持
      投与期間…限られた期間(数週間~数か月間)
      問題点…悪心・嘔吐、便秘、眠気など
  • 非がん性慢性疼痛:
      使用目的…QOLの改善→痛みにより損なわれていたQOLを向上させる
      試用期間…不確かな期間(数週間~数年)。3か月以内に留めることが望ましい。
      問題点…認知機能障害、腸機能障害、鎮痛耐性、乱用・依存

特に緩和ケアにおいては、痛みの強さに応じてオピオイド鎮痛薬の選択、投与の開始、容量が決定されることがあります。

副作用が問題とならない限り、患者が満足を得られる痛みの緩和を目指して、適切なオピオイド鎮痛薬が選択され、必要に応じて増量されます。

緩和ケアにおいては、その使用期間が限られるので乱用・依存という問題が生じることが少ないともされています。

オピオイドについては「公認心理師 2019-31」で出題がありますから、一度目を通しておくと良いでしょう。

これらを踏まえれば、オピオイド受容体は「ベンゾジアゼピン系抗不安薬が結合する受容体」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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