公認心理師 2023-65

事例の状況に合致する診断名を選択する問題です。

似たような内容の病名がありますから、どういう違いがあるのか弁別できることが重要になります。

問65 65歳の男性A。食道がんを疑い、自ら大学病院を受診した。Aは60歳で退職後、体調の細かい変化が気になるようになった。 1年ほど前、胸やけをきっかけに、食道がんではないかと不安になり、クリニックを受診した。内視鏡検査の結果、胃食道逆流症と診断され、投薬を受けた。その後、症状は軽快したが、やはり食道がんではないか、転移していたらどうなるのか、など心配が続いている。テレビで紹介されていた遠方の病院に高額な遺伝子検査を受けに行くなどしたが、異常は見つかっていない。Aが家計を顧みずに病院通いを繰り返すため、妻との関係も悪化している。
 DSM-5に基づくAの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 作為症
② 認知症
③ 変換症
④ 身体症状症
⑤ 病気不安症

解答のポイント

診断基準の理解と弁別ができている。

選択肢の解説

① 作為症

まずはDSM-5における診断基準を確認していきましょう。


A.身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している。

B.自分自身が病気、障害、または外傷を負っていると周囲に示す。 または医学的関心を余儀なくさせている。

C.明らかな外的報酬がない場合でも、ごまかしの行動が確かである。

D.その行動は、妄想性障害または他の精神病性障害のような他の精神疾患ではうまく説明できない。

特定せよ
 単一エピソード
 反復エピソード(2回以上の病気のねつ造、および/または外傷の意図的な誘発)

他者に負わせる作為症(従来の、代理人による虚偽性障害)

A.他者においての、身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している。

B.他者(被害者)が、病気、障害、または外傷を負っていると周囲に示す。

C.明らかな外的報酬がない場合でも、ごまかしの行動が確かである。

D.その行動は、妄想性障害または他の精神病性障害のような他の精神疾患ではうまく説明できない。
注:本診断はその被害者ではなく、加害者に与えられるものである。

特定せよ
単一エピソード
反復エピソード(2回以上の病気のねつ造、および/または外傷の意図的な誘発)


本事例においては、心配はしているとありますが「周囲に示す」と言えるほどかは不明ではありますが、「または医学的関心を余儀なくさせている」とは言えそうです(つまり、診断基準Bは満たしていると言えそうではある)。

しかし、「身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している」ということまでは確認できていませんし、この点が作為症のもっとも「らしさ」を表しているでしょうから、ここに該当しないとなると作為症である可能性は後回しにすることになるでしょう。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 認知症

意外と難しいのが、この選択肢の正誤判断だと私は思います。

年齢を踏まえても、心気妄想ではないかと捉えても不思議ではありませんからね。

ただ、認知症をはじめとした大脳疾患で見られる妄想としては、いくつかパターンがあるので紹介しておきましょう。

まずは「物盗られ妄想」であり、自覚的にも次第に管理のできなくなりつつあると感じられる自分の生活領域において、誰かが侵入して大切なものを持っていくという侵入妄想になります。

認知症では、収納した場所を覚えていないという近時記憶の障害がもとになって妄想的な解釈が行われ、物盗られ妄想の形をとることもしばしばです。

また、家の中に見知らぬ他人が済みこんでいるという「同居人妄想」もあり、こちらは内因性精神障害でも器質性障害でも見られることがある妄想です。

人の姿が見えるという幻視がもとになって生ずるものと、人の声が聞こえる幻聴が妄想のできるきっかけになっているものがあり、前者は主として大脳疾患が、後者は遅発性パラフレニアがその原因となっていると思われます。

他にも配偶者が性的に自分を裏切っているという「不実妄想」や、自分は見捨てられているという妄想も認知症における妄想として認められます。

疾患別に見ると、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症においては被害妄想(特に物盗られ妄想)や見捨てられ妄想、不実妄想などが多く、レビー小体型認知症では妄想的誤認症候群(カプグラ妄想:周囲の他者(通常、親しい関係にある人)が、本来の人物によく似た替え玉に置き換えられているという妄想的確信を持つ病態、テレビ誤認症候群:テレビの世界と現実との区別がつかなくなる)などが多くなります。

こうした妄想が認知症によって生じているという判断は難しいところですが、その基準を挙げるとすれば、①器質性脳障害の存在が神経学的に明らかである、②神経疾患と精神症状の出現の時間的経過から、両者に関連があると判断できる、③認知障害あるいは意識障害が共存している、などの点になります。

本事例は心気妄想のように見えなくもありませんが、心気妄想は認知症で生じるよりもうつ病などで生じる割合が高いものになります。

また、認知症によって心気妄想が生じているにしても、上記のような判断基準を踏まえると、本事例では認知障害や意識障害が生じているようには見えませんし、神経学的な所見も皆無となっています。

ですから、この事例の状況や症状を以て認知症と見なすのは難しいと言えるでしょう。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 変換症

DSM-5の基準を見ていきましょう。


A.1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状

B.その症状と、認められる神経疾患または医学的疾患とが適合しないことを裏づける臨床的所見がある。

C.その症状または欠損は、他の医学的疾患や精神疾患ではうまく説明されない。

D.その症状または欠損は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている、または医学的な評価が必要である。

症状の型を特定せよ
●脱力または麻痺を伴う
●異常運動を伴う(例:振戦、ジストニア運動、ミオクローヌス、歩行障害)
●嚥下症状を伴う
●発話症状を伴う(例:失声症、ろれつ不良など)
●発作またはけいれんを伴う
●知覚麻痺または感覚脱失を伴う
●特別な感覚症状を伴う(例:視覚、嗅覚、聴覚の障害)
●混合症状を伴う

該当すれば特定せよ
急性エピソード6カ月未満存在する症状
持続性:6カ月以上現れている症状

該当すれば特定せよ
心理的ストレス因を伴う(ストレス因を特定せよ)
心理的ストレス因を伴わない


変換症は、転換性障害とも呼ばれ、要するに心理的ストレスが身体的な反応に「変換」「転換」されて症状が出現していると見なされています。

ただ「該当すれば特定せよ」に心理的ストレス因の有無があるように、こうした症状の背景にあるストレスは、精神分析で言う無意識領域に追いやられたストレスであるため「自覚がある」と言えないのが一般的です(精神分析的に言えば、自覚のあるストレスはそれほど他の形に転換されたり、症状と言われるほどの反応になりにくいはず)。

ですから、本事例でストレス因が示されていないからと言って「変換症ではない」とは断定できません。

ただし、変換症では「1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状」とあるように、神経系の病気(神経疾患)に類似した身体症状が現れますが、本事例ではそうした所見は見られませんね。

また、「症状は軽快したが、やはり食道がんではないか、転移していたらどうなるのか、など心配が続いている」といった強い心配・不安を説明する診断名とは言えません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 身体症状症
⑤ 病気不安症

まずはDSM-5における身体症状症の基準を見ていきましょう。


A.1つまたはそれ以上の、苦痛を伴う、または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状。

B.身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情、または行動で、以下のうち少なくとも1つによって顕在化する。

  1. 自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考
  2. 健康または症状についての持続する強い不安
  3. これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力

C.身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが、症状のある状態は持続している(典型的には6ヵ月以上)。

該当すれば特定せよ
疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ
持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ
軽度:基準Bのうち1つのみを満たす。
中等度:基準Bのうち2つ以上を満たす。
重度:基準Bのうち2つ以上を満たし、かつ複数の身体愁訴(または1つの非常に重度な身体症状)が存在する。


もしかしたら、本事例の状態を身体症状症と思った人もいるかもしれませんが、それは誤りです。

軽い引っかけという感じの問題になっていますね。

続いては、病気不安症の基準を見ていきましょう。


A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ

B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合(例:濃厚な家族歴がある)は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

D.病気についてのとらわれは少なくとも6ヵ月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

E.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または「妄想性障害、身体型」などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

いずれかを特定せよ
疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ
持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ
医療を求める病型:受診または実施中の検査および手技を含む、医療を頻回に利用する。
医療を避ける病型:医療をめったに受けない。


こうやって身体症状症と病気不安症を並べてみると、違いは分かりやすいと思います。

実際に何かしらの身体症状があるけれども、その身体症状に対して過度に不安を示すのが身体症状症になります。

対して、実際には症状がない(もしくは極軽微)にも関わらず、「重い病気ではないか」と過度に不安を示すのが病気不安症になるわけです。

これらを踏まえて事例の状態を見ていくと、事例では「内視鏡検査の結果、胃食道逆流症と診断され、投薬を受けた」とありますから、ここから身体症状症ではないかと考えてしまう人がいるかもしれません。

ですが、実際にAが心配しているのは「食道がん」であり、上記の治療が済んで症状が改善した後もその心配は尽きていません。

身体症状症であれば、実際にある病気に対して過度な不安を示すということになりますから、Aの不安の対象が「胃食道逆流症」でなければおかしいわけです。

ですから、身体症状症は否定され、「重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ」を示していること、「健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる」ことなどから、病気不安症である可能性が最も高いと言えるでしょう。

ちなみに本事例は「医療を求める病型」ですね。

以上より、選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です