公認心理師 2023-64

DSM-5に基づく病態の理解に関する問題です。

「不安が何かしらの形を帯びているか否か」は対応する上で大切な視点だと思っています。

問64 26歳の女性A、総合職。めまいのため内科クリニックを受診した。21歳のときに、Aは大学のゼミで新興感染症の危険性について学んで以来、他人との接触に対して漠然とした不安を感じるようになった。その後は、友人と一緒に遊びに行くこともほとんどなかった。22歳で就職し、優秀な営業成績を挙げていたが、25歳のときに取引先との大きなトラブルに巻き込まれ、強い不安に襲われた。それ以来、家族が病気になったらどうしよう、会社が倒産するかもしれない、など心配が尽きない。半年前から、夜眠れないことが多く、疲れが取れない。仕事に集中できず、営業でのミスも増えている。
 DSM-5に基づくAの病態の理解として、適切なものを1つ選べ。
① 広場恐怖症
② パニック症/パニック障害
③ 分離不安症/分離不安障害
④ 全般不安症/全般性不安障害
⑤ 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)

解答のポイント

各疾患の診断基準を把握している。

選択肢の解説

④ 全般不安症/全般性不安障害

まずは本事例の特徴を挙げていきましょう。

  • 21歳:Aは大学のゼミで新興感染症の危険性について学んで以来、他人との接触に対して漠然とした不安を感じるようになった。
  • 21歳以降:友人と一緒に遊びに行くこともほとんどなかった。
  • 22歳:就職し、優秀な営業成績を挙げていた。
  • 25歳:取引先との大きなトラブルに巻き込まれ、強い不安に襲われた。それ以来、家族が病気になったらどうしよう、会社が倒産するかもしれない、など心配が尽きない。
  • 26歳:めまいのため、内科クリニックを受診。半年前から、夜眠れないことが多く、疲れが取れない。仕事に集中できず、営業でのミスも増えている。

大学時には漠然とした不安を覚えることがあったり、友人との交流がある方ではなかったようですが、就職してからは営業成績を挙げているなど、過度に対人関係を避けている様子は見られないですね。

また、大きな不安を引き起こす出来事以来、さまざまな心配が尽きないようになり、現在では「夜眠れないことが多く、疲れが取れない。仕事に集中できず、営業でのミスも増えている」などの反応が見られます。

これらを踏まえ、本選択肢の診断基準を見ていきましょう。


A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6ヵ月間にわたる。

B.その人は、その不安を抑制することが難しいと感じている。

C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。
注:子どもの場合は1項目だけが必要

  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすいこと汗
  3. 集中困難、または心が空白となること
  4. 易怒性
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)

D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。

F.その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない[例:パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配、社交不安症(社交恐怖)における否定的評価、強迫症における汚染または、他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの、神経性やせ症における体重が増加すること、身体症状における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点や知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配]


本事例で示されている、特にここ半年くらいの反応(夜眠れないことが多く、疲れが取れない。仕事に集中できず、営業でのミスも増えている)は、上記の診断基準に該当するものと見なして矛盾しませんね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

① 広場恐怖症
② パニック症/パニック障害
③ 分離不安症/分離不安障害
⑤ 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)

これらをまとめて解説していくことにしましょう。

まずはそれぞれの診断基準の重要なところを挙げておきます。


【広場恐怖症】

A.以下の5つの状況のうち2つ(またはそれ以上)について著明な恐怖または不安がある。

  1. 公共交通機関の利用(例:自動車、バス、列車、船、航空機)
  2. 広い場所にいること(例:駐車場、市場、橋)
  3. 囲まれた場所にいること(例:店、劇場、映画館)
  4. 列に並ぶまたは群衆の中にいること
  5. 家の外に一人でいること

B.パニック様の症状や、その他耐えられない、または当惑するような症状(例:高齢者の転倒の恐れ、失禁の恐れ)が起きた時に、脱出は困難で、援助が得られないかもしれないと考え、これらの状況を恐怖し、回避する。

C.広場恐怖症の状況は、ほとんどいつも恐怖や不安を誘発する。

D.広場恐怖症の状況は、積極的に避けられ、仲間の存在を必要とし、強い恐怖または不安を伴って耐えられている。

E.その恐怖または不安は、広場恐怖症の状況によってもたらされる現実的な危険やその社会文化的背景に釣り合わない。

F.その恐怖、不安、または回避は持続的で、典型的には6ヵ月以上続く。

【パニック障害】

A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる。

  1. 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは振え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖
    注:文化特有の症状(例:耳鳴り、首の痛み、頭痛、抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は、必要な4つ異常の1つと数えるべきではない。

B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。

  1. さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうかなってしまう”)。
  2. 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)。

【社交不安障害】

A.他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。
注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。

【分離不安障害】

A.愛着をもっている人物からの分離に対する、発達的に不適切で、過剰な恐怖または不安で、以下のうち少なくとも3つの証拠がある。

  1. 家または愛着をもっている重要な人物からの分離が、予測される、または経験される時の反復的で過剰な苦痛
  2. 愛着をもっている重要な人物を失うかもしれない、または、その人に病気、負傷、災害、または死など、危険が及ぶかもしれない、という持続的で過剰な心配
  3. 愛着をもっている人物から分離される、運の悪い出来事(例:迷子になる、融解される、事故に遭う、病気になる)を経験するという持続的で過剰な心配。
  4. 分離への恐怖のために、家から離れ、学校、仕事、または、その他の場所へ出掛けることについての、持続的な抵抗または拒否
  5. 1人でいること、または愛着をもっている重要な人物がいないで、家または他の状況で過ごすことへの、持続的な抵抗または拒否
  6. 家を離れて寝る、または、愛着をもっている重要な人物の近くにいないで就寝することへの持続的な抵抗または拒否
  7. 分離を主題とした悪夢の反復
  8. 愛着をもっている重要な人物から分離される、または、予期される時の、反復する身体症状の訴え(例:頭痛、腹痛、嘔気、嘔吐)

B.その恐怖、不安、または回避は、子どもや青年では少なくとも4週間、成人では典型的に6カ月以上持続する。


まずは簡単にここで挙げた選択肢が不適切となる理由を述べておきましょう。

広場恐怖症については、挙げられている5つの状況(公共交通機関の利用、広い場所、囲まれた場所、群衆の中、外で一人)に本事例は該当していませんね。

パニック障害は、「繰り返される予期しないパニック発作」や「どうにかなってしまう」「回避行動」などが見られず、本事例では診断基準を満たさないことがわかります。

分離不安障害は、そもそも「愛着をもっている人物からの分離に対する、発達的に不適切で、過剰な恐怖または不安」に該当する記述がありません。

社交不安障害が該当すると感じる人もいるかもしれませんが(友人と一緒に遊びに行くこともほとんどなかったという記述から)、やはり「他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安」と明確に断定できるほどの情報はなく、むしろ営業成績が良かったなど反証となる情報があるため、やはりこちらも該当しないと見るのが妥当です。

最後に、不安の特徴について考えておきましょう。

不安には「形を求める」という傾向があります。

漠然とした不安を不安のまま抱えておくよりも、何かしら「理由のある状態」にしておきたいという傾向があるのです。

その理由が「事実であるか否か」は二の次であり、とにかく「形のない状態よりも、形のある状態の方が抱えていることが容易い」のです。

だからこそ、被虐待児が「自分が悪い」という帰属を行ったり(なぜ自分が虐待を受けるのか分からない状態よりも、自分が悪い子だからという理由を付けた方がその状況に耐えることがしやすい)、さまざまな不安が別の不安に置き換わるという現象が生じるのです。

そして、この「置き換わる」という現象が、不安関連障害の裾野を広げることになります。

死の恐怖とくっついてしまう場合もあれば(こちらはパニック発作を伴うものに多い印象)、特定の何か(恐怖症など)と置き換わることもあり、これらが一つの疾病として見なされ、更にそうした置き換えられた不安対象への対処行動が症状となってしまう場合(強迫性障害)もあるわけです。

また、不安を「形のある状態にするか否か」は、「生体の不安を抱える力」の大きさも絡んできます。

不安を抱える力が強ければ、不安を「形のない状態のまま」で抱えておくことがしやすくなります。

先の「置き換え」は、生体の対処反応の一つではありますが、本質的な不安から離れてしまうという意味では、本人が「感じるべき不安から遠ざかる」ため、やはり遠回りになってしまうのは否めないのです。

生体の不安を抱える力が高ければ、こうした「遠回り」をせず、すなわち、不安を形のない状態のまま抱えておくことができます。

種々の不安関連の支援法(エクスポージャーなど)から「不安を抱えた状態の生体を支えることで、不安を抱える力が強くなる」というのは明白ですから、不安を何かに置き換えずに、不安のまま抱えておくことは(そして、その不安を抱えた生体を支えることで)改善への近道であると言えます。

そういう意味では、本事例のクライエントは不安を明確な何かに置き換えるという傾向がそれほど強くなく、予後は期待できるのではないかと思ったりします。

ただ、全般性不安障害は他の疾患との合併もあり得て(うつ病との合併が多いとされている)、その場合は改善に時間がかかることもあるので、本事例の限られた情報だけでは一概には言えませんね。

いずれにせよ、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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