公認心理師 2023-139

DSM-5に基づくAの病態の理解に関する問題です。

検査の簡単な結果も示されていますね。

問139 18歳の男性A、医療系大学の1年生。Aは、血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した。血液感染を恐れるというよりは、血や怪我を目にすることが苦手だという。今まではそのような場面を回避してきたが、今回の実習は必修科目であるため避けられそうになく困っている。アセスメントとして実施した心理検査の結果は、Y-BOCSが基準以下の重症度で、MASが基準以上の重症度であった。
 DSM-5に基づくAの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 統合失調症
② 限局性恐怖症
③ 強迫症/強迫性障害
④ パニック症/パニック障害
⑤ 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)

解答のポイント

事例の状況から合致する診断名を選択できる。

選択肢の解説

① 統合失調症

DSM-5の診断基準を参照してみましょう。


A.以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
  4. ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
  5. 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)

B.障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

C.障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在する。この6か月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されている。

  1. 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
  2. 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その活動期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

E.その障害は、物質(例:薬物乱用、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。


これらを踏まえて、本事例を見ていきましょう。

本事例の問題歴は以下の通りです。

  1. Aは、血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した。
  2. 血液感染を恐れるというよりは、血や怪我を目にすることが苦手だという。
  3. 今まではそのような場面を回避してきたが、今回の実習は必修科目であるため避けられそうになく困っている。

上記の2は感染を恐れるという「正常な不安」ではないことを示そうとしています(出題者が)。

正常範囲を超えた「血を見るのが怖い」という反応をどう捉えるかが重要ですが、こうした訴えは統合失調症のそれとはずいぶん異なることがわかると思います。

事例では「学生相談室に来室する」という、自分に問題があるという認識をもって適切な対処法を取れていますし、統合失調症というよりは神経症系の問題である可能性が高そうです(統合失調症は、例えばソンディで「客観的症状反応」と称されているように、主観的に問題があると認識するよりも、客観的に見て問題があると思えるような反応が多い。つまり、主観的に「自分に問題がある」という認識は神経症に比べて少ない)。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 限局性恐怖症

まずはDSM-5の診断基準を示します。


A.特定の対象または状況(例:飛行すること、高所、動物、注射されること、血をみること)への顕著な恐怖と不安 注:子どもでは、恐怖や不安は、泣く、かんしゃくを起こす、凍りつく、または、まといつく、などで表されることがある。

B.その恐怖の対象または状況がほとんどいつも、即時、恐怖や不安を誘発する。

C.その恐怖の対象または状況は、積極的に避けられる、または、強い恐怖や不安を感じながら堪え忍ばれている。

D.その恐怖または不安は、特定の対象や状況によって引き起こされる実際の危険性や社会文化的状況に釣り合わない。

E.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続いている。

F.その恐怖、不安、または回避が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を起こしている。

G.その障害は、(広場恐怖症にみられるような)パニック様症状または他の耐え難い状況:(強迫症にみられるような)心的外傷的出来事を想起させる物:(分離不安症にみられるような)家または愛着を持っている人物からの分離:(社交不安症にみられるような)社会的場面、などに関係している状況への恐怖、不安、および回避などを含む、他の精神疾患の症状ではうまく説明されない。


これらを踏まえて、本事例を見ていきましょう。

本事例の問題を見てみると…

  1. Aは、血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した。
  2. 今まではそのような場面を回避してきたが、今回の実習は必修科目であるため避けられそうになく困っている。

…ということになります。

これは限局性恐怖症の基準Aに該当すると考えることができます。

それ以外の診断基準を否定するような情報もなく、現時点では限局性恐怖症を第一選択肢として見ていくことが大切になります。

また、「MASが基準以上の重症度」とあります。

MAS:Manifest Anxiety Scale(顕在性不安尺度)は1953年にテイラーが、キャメロンの慢性不安反応に関する理論を基にMMPIから選出された不安尺度50項目に、妥当性尺度15項目を加えた65項目で構成・作成しました。

顕在性不安とは、自分自身で、精神的身体的な不安の徴候が意識化できたものであり、MASはある期間かなりの頻度で現れる不安の全体的水準を測定します。

現時点では、Aが主張している状況が強い不安として顕在化していると見なすのが妥当ですね。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

③ 強迫症/強迫性障害

強迫症/強迫性障害の診断基準を見ていきましょう。


A.強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在
強迫観念は以下の1. と2. によって定義される:

  1. 繰り返される特徴的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
  2. その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。

強迫行為は以下の1. と2. によって定義される:

  1. 繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる、確認する)または心の中の行為(例:祈る、数える、声に出さずに言葉を繰り返す)であり、その人は強迫観念に対して、または厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うよう駆り立てられているように感じている。
  2. その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和すること、または何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかしその行動または心の中の行為は、それによって中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりをもたず、または明らかに過剰である。
    注:幼い子どもはこれらの行動や心の中の行為の目的をはっきり述べることができないかもしれない。

B.強迫観念または強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)。または臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。

D.その障害は他の精神疾患ではうまく説明できない(例:全般不安症における過剰な心配、醜形恐怖症における容貌へのこだわり、ため込み症における所有物を捨てたり手放したりすることの困難さ、抜毛症における抜毛、皮膚むしり症における皮膚むしり、常同運動症における常同症、摂食障害における習慣的な食行動、物質関連障害および嗜好性障害群における物質やギャンブルへの没頭、病気不安症における病気をもつことへのこだわり、パラフィリア障害群における性的衝動や性的空想、秩序破壊的・運動制御・素行症群における衝動、うつ病における罪悪感の反芻、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群における思考吹入や妄想的なこだわり、自閉スペクトラム症における反復的な行動様式)

▶該当すれば特定せよ

病識が十分または概ね十分:その人は強迫症の信念がまったく、またはおそらく正しくない、あるいは正しいかもしれないし、正しくないかもしれないと認識している。

病識が不十分:その人は強迫症の信念がおそらく正しいと思っている。
病識が欠如した妄想的な信念を伴う:その人は強迫症の信念は正しいと完全に確信している。

▶該当すれば特定せよ

チック関連:その人はチック症の現在症ないし既往歴がある。


これらを踏まえ、事例を見ていきましょう。

事例では、「血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した」とあります。

現時点では強迫行為は見られませんが、この背景に強迫観念が存在している可能性も捨てきれません。

そこでチェックするのが「Y-BOCSが基準以下の重症度」という記述であり、Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)=エール・ブラウン強迫尺度は、強迫性障害の強迫観念や強迫行為の臨床的重症度の評価において最も一般的に用いられる方法であり、10の項目から成り、費やす時間、関連する苦痛、機能障害、抵抗性、強迫観念と強迫行為の制御を評価します。

こうした記述から事例が強迫性障害である可能性は(少なくとも検査所見上は)否定されるわけです。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ パニック症/パニック障害

DSM-5の診断基準を挙げていきましょう。


A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる。

  1. 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは振え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖
    注:文化特有の症状(例:耳鳴り、首の痛み、頭痛、抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は、必要な4つ異常の1つと数えるべきではない。

B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。

  1. さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうかなってしまう”)。
  2. 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)。

これらを踏まえて本事例を見てみると、少なくとも現時点では「血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した」という症状のみであり、パニック障害を満たすほどの症状数は見受けられません。

「MASが基準以上の重症度」ということが示されており、事例が不安に基づいた症状であることは示唆されていますが、パニック障害と言えるにはやはりその症状の数は重要になってきますね。

パニック障害の反応の場合、「このまま死んでしまうのではないか」と感じるような不安が生じるので、事例のような「2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き」という現実的な不安とはニュアンスが違うものであることが多いですね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)

まずはDSM-5の診断基準を示しましょう。


A.他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。
注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。


事例では「血を見ると目の前が真っ暗になり倒れそうな感覚になるため、 2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き、学生相談室に来室した」「2年次から始まる手術見学などの実習が耐えられないのではないかと不安を抱き」などのように、社交状況での不安反応ではないことがわかりますね。

「MASが基準以上の重症度」と不安に基づいた反応であることはわかりますが、やはり社交状況ではない反応で社交不安障害と見なすことは無理があります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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