公認心理師 2023-124

DSM-5におけるADHDの説明に関する問題です。

ちょっと捻ってある問題ですが、そこまで難しくはなっていませんね。

問124 DSM-5における注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 多動性の症状は、青年期に最も強くなる。
② AD/HDの症状は、幼児期までに明らかになる。
③ 症状は、学校場面では、教師に対する反抗的態度、挑戦、敵意として表れる。
④ 幼児期早期の正常範囲の運動活動性は、AD/HDの症状との鑑別が困難である。

解答のポイント

ADHDの診断基準を把握している。

選択肢の解説

① 多動性の症状は、青年期に最も強くなる。
② AD/HDの症状は、幼児期までに明らかになる。
③ 症状は、学校場面では、教師に対する反抗的態度、挑戦、敵意として表れる。
④ 幼児期早期の正常範囲の運動活動性は、AD/HDの症状との鑑別が困難である。

まずDSM-5におけるADHDの診断基準をチェックしておきましょう。


A. (1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動性‐衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの

(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。
注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
(a)学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)。
(b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。
(c)直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。
(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)。
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)。
(f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
(g)課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。
(h)しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう。
(i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。

(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。
注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意などの表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
(a)しばしば手足をそわそわと動かしたりトントン叩いたりする。またはいすの上でもじもじする。
(b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。
(c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。
(d)静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。
(e)しばしば“じっとしていない”、またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる;他の人達には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。
(f)しばしばしゃべりすぎる。
(g)しばしば質問が終わる前にだし抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。
(h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。
(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)。

B.不注意または多動性‐衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。

C.不注意または多動性‐衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場;友人や親戚といるとき;その他の活動中)において存在する。

D.これらの症状が、社会的、学業的または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。

E.その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。


これらの診断基準を踏まえて、ここで挙げた選択肢を見ていきましょう。

まず選択肢①の「多動性の症状は、青年期に最も強くなる」についてです。

こちらは診断基準にある「以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり」および「青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である」という記述の対比から、多動性の症状は青年期より前の方が強いと見なされていることがわかります。

青年期より前だと症状の数が多く設定されており、症状が強いからこそより多くの基準に該当するという捉え方でしょう。

実際、多動性の症状に関しては、幼児期くらいが最も強く、その後加齢とともに(発達と共にというよりも、加齢とともにというイメージに近い)和らいでいくことが多いように感じますし、中学校卒業するころにはかなり改善される例も目にします。

そういう意味では、多動性は未熟児の身体発達と似ているという気がしています(未熟児の他児との身体発達の遅れも、中学校卒業するころには目立たなくなる)。

続いて、選択肢②の「AD/HDの症状は、幼児期までに明らかになる」についてです。

こちらは診断基準Bに「不注意または多動性‐衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた」とありますね。

この基準はDSMが改訂されるたびに年齢が高くなっており、それは年齢が高くなってからADHDと診断される例が多いことを受けてのものです。

すなわち、幼児期までにADHDの症状が明らかにならず、それ以降の学童期などに入って明らかになる例が多いということですね。

間違ってはいけないのは「明らかになる」という時期が後ろにずれこんでいるというだけであり、症状が「そこから出現した」というわけではないのです。

多くのADHD事例では、幼児期から症状を有していたけど、家庭の中だけだと気にならなかったり、本当は気になっていたけど障害である可能性を親が受け容れておらず後ろにずれこんでいるなどの場合が多いのです。

ですから、「明らかになる」というのは「周知された」という時期がDSMの改訂と共に後ろにずれこんでいるだけというお話だと捉えておきましょう。

続いて、選択肢③の「症状は、学校場面では、教師に対する反抗的態度、挑戦、敵意として表れる」ですが、これは不注意であろうと多動性であろうと「それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意などの表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない」という注意書きがあることから否定できますね。

すなわち、「反抗的行動、挑戦、敵意などが存在する≠ADHDである」ということを明示しているわけです。

よく学校の中では、反抗的行動、挑戦、敵意などがあることで、安易にADHDではないかという流れになりやすいことも、こうした注意書きが追加されている理由でしょう。

ただ、最近は特に反抗的行動、挑戦、敵意などと関連して症状が示されることも多く、支援者には「ADHD由来の多動性や衝動性」と「養育の要因に由来する反抗的行動、挑戦、敵意」との弁別ができなくてはいけません。

実践的な見地から、一つこの弁別のポイントを挙げておきましょう。

それは「外の世界に関する認識:世界を自分の一部と思っている度合い」が重要で、例えば、発達障害の子どもが「俺は発達障害なんだから、合理的配慮をしろ」と命令してきた場合、どう捉えるでしょうか。

私は、こういう言葉を発する子どもの考え方に「自分は変わるつもりはない。世界が自分に合わせて変わるべきだ」というものがあると捉え、この考え方自体は発達障害由来のものではないと考えます。

こうした考え方はかなりの割合で養育に関連するものであり、当然ながら、この考え方を有していると学校などの社会状況で周囲に対して反抗することが多くなります。

厄介なのが、こういう考え方と発達障害が併存する可能性があることです(発達障害による周囲への合わせにくさと、考え方として合わせるつもりがないというのが併存しているということ)。

こうした未熟な考え方を成長させること、ADHDの特徴にもアプローチすることを同時に行うのは大変ですが、親や学校と協力しつつやっていかねばならないことですね。

さて、最後の選択肢④「幼児期早期の正常範囲の運動活動性は、AD/HDの症状との鑑別が困難である」になります。

特に多動性‐衝動性の項目を見る限り、幼児期早期の子どもにはよくある行動群であると言えます。

ICD-10の記述ですが「特徴的な問題行動は早期に発現(6歳以前)し、長く持続するものである。しかしながら、入学前には正常範囲の幅が大きいので、多動と認定するのは困難である。学齢以前の幼児では程度が極度の場合のみ診断がなされる」とあります。

本選択肢に関しては、この記述の内容がすべてです。

正常範囲の幅が広いため、ADHDでない子どもであってもADHDの基準に合致するような行動を取ることが多く、状態の程度が極度な場合を除いては「その傾向がある」「もう少し様子を見ましょう」という形に留まるのが一般的と言うことですね。

ですから、「幼児期早期の正常範囲の運動活動性は、AD/HDの症状との鑑別が困難である」は適切な内容であると言えます。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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