公認心理師 2020-93

物質関連障害、わかりやすく言えば依存症に関する問題です。

過去問ではかなり専門的な内容が出題されるなど難解な問題もありましたが、本問に関しては依存症領域の基本的な専門用語に関する理解が問われています。

依存症を学ぶ上で当たり前のように使われる用語の意味が問われていますから、しっかりと覚えておくようにしましょう。

問93 物質関連障害について、正しいものを1つ選べ。
① 物質への渇望や強い欲求を身体依存という。
② 物質の使用を完全に中止した状態を離脱という。
③ 身体的に危険な状況にあっても物質の使用を反復することを中毒という。
④ 同じ効果を得るために、より多くの物質の摂取が必要になることを耐性という。
⑤ 物質の反復使用により出現した精神症状が、再使用によって初回よりも少量で出現するようになることを乱用という。

解答のポイント

物質依存に関する基本的な専門用語を把握している。

選択肢の解説

① 物質への渇望や強い欲求を身体依存という。
② 物質の使用を完全に中止した状態を離脱という。

依存には「精神依存」と「身体依存」があります。

「精神依存」とは、薬物を摂取したいという強い欲求と同時に、往々にして、その薬物を手に入れるための「薬物探索行動」を誘発する状態です。

一方、「身体依存」とは、その薬物の摂取量が減少したり摂取できなくなった時に、「退薬症状」を呈する状態です。

退薬症状とは、離脱症状や禁断症状とも呼ばれ、身体的依存を形成しやすい薬物を長期服用していて、急に服用を中止したり減量した時に起こる症状で、不安、不眠、焦燥、振戦、発汗、稀にせん妄やけいれんなどの症状が一過性に現れることを指します。

これらのことから、選択肢①の内容は「身体依存」ではなく「精神依存」であることがわかりますね。

退薬症状の説明でちょっと出てきた「離脱」について、もう少し詳しく述べていきましょう。

離脱とは、依存性のある薬物などの反復使用を中止することから起こる病的な症状のことです。

これは物質の反復使用によって身体依存が形成されているために生じるものであり、その物質使用を中断すると出現する一定の病的症状なので、身体依存の指標ともなり得ます。

モルヒネ、バルビツール系薬物、アルコール等で特に認められます。

なお、長期使用した薬剤や依存性の高い薬剤でも、医師の指導のもと徐々に量を減らすなど適切な使用中止を行えば、禁断症状は緩和されます。

このことから、選択肢②の内容は「離脱」の説明としては間違っていることがわかりますね。

では、選択肢②の「物質の使用を完全に中止した状態」のことは何と呼ぶのでしょうか。

詳しい用語は調べても出てきませんが、中止する物質によって「禁酒」「禁煙」「断薬」などと呼ばれるのかなと思います。

選択肢②は、この領域について不勉強な人が「中止した状態」=「〇〇からの離脱」という誤ったイメージでミスしてしまうのを狙っているのだろうと思いますので、特別に「物質の使用を完全に中止した状態」という専門用語が無い可能性も考えられます。

また、それらしい用語が見つかれば修正しますね。

以上より、選択肢①および選択肢②は誤りと判断できます。

③ 身体的に危険な状況にあっても物質の使用を反復することを中毒という。
⑤ 物質の反復使用により出現した精神症状が、再使用によって初回よりも少量で出現するようになることを乱用という。

物質依存の領域において、依存と嗜癖はほぼ同義として扱われていますが、依存と乱用はICDとDSMでその定義が異なります。

ICDの定義では、依存は医学的概念であり、乱用は社会的・経済的・法的な領域にわたる社会的概念だとされています。

これに対してDSMの定義では、乱用は依存の診断基準を満たさないがこれに近い状態を指し、物質使用によって行動上の問題が生じることによって定義されます。

例えば、薬物乱用ならば「医学的常識を故意に逸脱した用途又は用法のもとに薬物を大量に摂取る行為」となるわけです。

この定義には、「社会的機能的職業障害」「危険な使用」「有害な使用に対する抑制の喪失」の3つの観点が含まれており、これらが満たされていれば「乱用」という状態であると判断されるわけです。

これらのことを踏まえると、選択肢③の内容は「中毒」ではなく「乱用」であり、選択肢⑤の内容は「乱用」ではないことがわかりますね。

では、選択肢⑤の「物質の反復使用により出現した精神症状が、再使用によって初回よりも少量で出現するようになること」は何という現象なのかも知っておきましょう。

これは「フラッシュバック」という現象になります(逆耐性現象とも呼びます)。

薬物乱用では、幻覚や被害妄想といった精神症状が出現します。

これは薬物乱用で見られる現象の一つで、薬物の使用を中断していても飲酒や不眠、ストレスが引き金になったり、少量の再使用で幻覚や妄想などの精神症状が出現することを指します。

このような不眠や過労、飲酒、ストレスといった日常生活で起こりうる出来事や感情体験によって、精神症状が起きることで再び薬物を求める精神状態になってしまい、その結果、せっかく止めることができていたのに再使用してしまうという事態にもなってしまいます。

こうした点からも、止め続けるためには本人の意思だけでなく、周りのサポートが不可欠であることがわかりますね。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断できます。

④ 同じ効果を得るために、より多くの物質の摂取が必要になることを耐性という。

薬物を反復して使用していると効果が次第に減弱し、あるいは初期と同じ効果を得るには用量を増やさなければならない現象を「耐性」と言います。

もうちょっと詳しく言うと、耐性とは「ある薬物の反復的摂取の結果として起こる、その薬物への感受性の減弱」のことを指し、以前にはより少ない量で生じていた効果と同程度の効果を生み出すために、より多くの量を必要とする状態です。

この量の増加は、その薬物の代謝上の変化や、その薬物の効果に対する生理的あるいは行動上の慣れの結果とされています。

人間の身体には、状態を一定に保とうとする機能があります(ホメオスタシスという。これが精神的な領域にも存在すると捉えたのがゲシュタルト療法を創始したパールズ)。

健常な状態であれば、少量の薬物でも大きな効果が得られますが、物質の恒常的な使用状態が続くことによって、物質を摂取している状態が「身体のベース」となってしまうので、当初と同じ量を摂取したとしても効果が得られなくなってしまうのです。

こうした耐性は依存の形成の初期の段階で起こることが多く、病院に受診する頃には体の調子が悪くなっているため、むしろ量が減ってきているように見えることもありますが、依存症の発達の過程のどこかで耐性が形成されている段階があるはずです。

そのほかにも、ある薬物によって形成された耐性が新たに用いる他の薬物に対しても見られる(引き継がれる)現象を「交叉耐性」と言います(アルコールと睡眠薬の間には交叉耐性が見られるとされています)。

上記より、本選択肢の内容は「耐性」の説明として相違ありません。

よって、選択肢④が正しいと判断できます。

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