公認心理師 2020-132

アルコール依存症の離脱症状を選択する問題です。

依存症の症状と離脱症状は対にして覚えておきたいところです。

問132 アルコール依存症の離脱症状について、正しいものを2つ選べ。
① 過眠
② 幻視
③ 徐脈
④ 多幸
⑤ けいれん

解答のポイント

アルコール依存症の離脱症状をはじめ、いくつかの依存症の離脱症状を把握している。

また、各依存症で出やすい症状を理解していると役立つ。

選択肢の解説

② 幻視
⑤ けいれん

まず離脱症状とは、身体依存が形成されているときに、自発的断酒や身体障害によって飲酒ができなくなると出現する症状のことを指します。

アルコール関連障害の場合、振戦せん妄、幻覚、意識障害、けいれん発作が起こり得るとされています。

DSM-5にはアルコール離脱で見られる症状が列挙されています。


  1. 自律神経系過活動(例:発汗または100/分以上の脈拍数)
  2. 手指振戦の増加
  3. 不眠
  4. 嘔気または嘔吐
  5. 一過性の視覚性、触覚性、または聴覚性の幻覚または錯覚
  6. 精神運動興奮
  7. 不安
  8. 全般性強直間代発作

こうした内容も把握しておくと役立ちますね。

振戦せん妄は、長期間の飲酒歴のある重度のアルコール依存症者が、飲酒を中断または減量した際に生じます。

多くは大量のアルコール摂取を中止または減量してから2~4日目頃に出現し、通常3~4日で回復しますが、個人差が大きく、長引くこともあります。

身体的な合併症がある場合に起こりやすいといわれています。

主な症状としては「頻脈や発熱」「発汗などの著明な自律神経機能亢進」「全身性の粗大な振戦」「意識変容」「精神運動興奮」「失見当識」「幻覚」などが挙げられます。

幻覚のなかでは、幻視が多く、実際には存在しないはずの小動物や虫・小人が多数見えてきたり、それらが身体の上に這い上がってくるように感じたりします。

そのほか、具体的な情景の幻視もあるなど、具体的な対象を見ることが多いとされていますね(この点はレビー小体型認知症の幻視と共通していますね)。

また壁のしみが人の顔に見えるなどの錯視や、作業せん妄(例えば大工がくぎを金づちで打つ動作といった職業上・生活上行っている行為を意識障害下に再現すること)が出現することもあります。

これらの症状も、最終的には深い眠りに入ったあと回復します。

しかしながら、脱水・低栄養・電解質異常・糖尿病などの重篤な合併症がある場合などでは、適切な処置を行わないと死亡する場合もあるため、注意が必要です。

なお、患者の目を覆ったり、閉眼した上から指で圧迫したりすると、検査者が暗示するものが幻視として見えたりします(これを「リープマン現象」と呼びます)。

アルコールの離脱症状によるけいれんを「アルコールてんかん」と呼びます。

飲酒中断後48時間以内に出現するけいれん発作のことを指します。

いわゆる通常の「てんかん」とは異なるものと考えられていますが、けいれんの症状が「てんかん」に似ているために、このように呼ばれています。

ほとんどがアルコールを断ってから48時間以内に発症し、アルコールの離脱症状のひとつと考えられています。

アルコールてんかんで起こるけいれん発作の特徴は、全般性強直間代発作(大発作)といわれるもので、意識消失とともに全身筋肉の強直性、次いで間代性けいれんをきたし1~2分で終了します。

その後、数分で全身の筋弛緩と昏睡から徐々に回復します。

発作の際、呼吸停止・チアノーゼ・散瞳・対光反射消失・唾液分泌亢進・尿失禁など自律神経症状が強く、舌を噛んだり転倒したりすることもあります。

以上のように、ここで挙げた選択肢はアルコール依存症の離脱症状であると言えますね。

よって、選択肢②および選択肢⑤は正しいと判断できます。

① 過眠

まず、アルコール離脱に関しては、むしろ不眠が出てくることが多いとされています。

上記で示した、DSM-5のアルコール離脱の症状にも含まれていますね。

過眠が生じやすいのは、例えば、カフェイン離脱が挙げられます。

DSM-5のカフェイン離脱の症状は以下の通りです。


  1. 頭痛
  2. 著しい疲労感または眠気
  3. 不快気分、抑うつ気分、または易怒性
  4. 集中困難
  5. 感冒様症状(嘔気、嘔吐、または筋肉の痛みか硬直)

このほかでは、精神刺激薬離脱でも過眠は生じる可能性が指摘されています(DSM-5の精神刺激薬離脱に症状が示されています)。

また、眠気が生じるという視点で言えば、オピオイド使用中に出る反応としても知られており(眠気または昏睡、ろれつの回らない会話、注意または記憶の障害)、依存症の症状としても生じうるものであるということですね。

以上のように、過眠はアルコール依存症の離脱症状ではありません。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

③ 徐脈

徐脈とは、脈が遅くなる不整脈で、通常1分間の脈拍が60回未満になることを言います。

アルコール依存症の離脱症状の場合、自律神経系過活動(例:発汗または100/分以上の脈拍数)などがあるように、むしろ脈は速くなることが示されています。

このことから、徐脈はアルコール依存症の離脱症状とは言えないことがわかりますね。

依存症の離脱症状で徐脈が出るとされているのは、たばこ依存(ニコチン依存)です(ただし、DSM-5のタバコ離脱に徐脈は記されてはいません)。

常習喫煙者では、長年のニコチン摂取のために、身体にニコチンが十分量存在しないと、正常な身体機能が保たれなくなっています。

喫煙後、時間経過によりニコチンが体内から減少してくると、徐脈、集中困難、怒り、落ち着きのなさ、不安などの不快な離脱症状が現れます。

禁煙の治療としてよく知られているのがニコチンパッチですが、ニコチンによってタバコを吸っている人の場合は効果があるのですが、口さみしさや何となく物足りないという感覚で吸っている人にはニコチンパッチの効果が薄いようですね(口唇期などと関連があるのかもしれませんね。あまりこういった結び付けは好きではありませんが)。

また、アンフェタミン型物質やコカイン(精神刺激薬)によって頻脈や徐脈が生じることも示されております(DSM-5の精神刺激薬中毒に記載あり)。

離脱症状ではなく、依存症の症状としても徐脈はあり得るということですね。

上記の通り、徐脈はアルコール依存症の離脱症状には該当しないことがわかりますね。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 多幸

多幸感とは、読んで字のごとく、非常に強い幸福感のことで、愛情による至福感や、競技で勝利したときの陶酔感、オーガズムは、多幸感の例とされています(ほかにも、マラソンなどで生じるランナーズハイも多幸感の一つとして挙げられていますね)。

アルコール依存症の離脱症状として多幸感は示されていませんし、そもそも多幸感はどのような依存症の離脱症状でも生じえないものであると考えられます(離脱症状は依存性のある薬物などの反復使用を中止することから起こる病的な症状ですからね)。

多幸感を生じさせる精神疾患として双極性障害の軽躁状態が挙げられることはありますが、そればかりではないことも知っておく必要があります。

脳が忙しくなり、イライラしたり攻撃的になることも多く、どこか「自分で自分をコントロールできてない不快感」は持っています。

依存症関連で多幸感と言えば、むしろ特定の薬物を摂取した時に生じる感覚であろうと思います。

その代表がオピオイド中毒で、これはオピオイドの使用中または使用直後に現れる問題行動や心理学的変化です。

オピオイドは、古くから鎮痛などの医療目的で使用されてきた物質で、精神活性作用による中毒症状を起こします。

オピオイド中毒の初期症状はウトウトした感覚で、続いて多幸感が現れます。

オピオイドの使用は、口から飲んだり、鼻から吸ったり、静脈に注射をしたりといくつか手段がありますが、静脈注射で接種した場合は特に多幸感が生じるようです。

しかし、多幸感のあとにはアパシー(感情を失う)、不快気分、四肢の重さ、口の渇き、顔面の痒み(特に鼻)、精神運動の興奮または低下、判断力の低下などが現れます。

さらに眠気、ろれつの回らない会話、注意と記憶の障害や、周囲に注意を払うことができず危険な状態になっても身を守ることができない場合もあります。

ほかに身体的な作用として、呼吸抑制、瞳孔収縮、平滑筋れん縮(尿管と胆管を含む)、便秘、血圧と脈拍数、体温の変化なども生じます。

以上のように、多幸感はアルコール依存症の離脱症状には該当しません。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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