公認心理師 2024-12

視床の機能を選択する問題です。

脳機能の問題は頻出ですから、大雑把でも良いので覚えておくといいでしょう。

問12 視床の機能として、最も適切なものを1つ選べ。
① 運動の学習
② 呼吸の抑制
③ 体温の調節
④ 感覚情報の中継
⑤ 意識レベルの制御

選択肢の解説

④ 感覚情報の中継

まずは脳の構造のもっとも基本的な分類では、大脳、脳幹、小脳の3つから構成されます。

個体発生初期には、中枢神経は、前脳、中脳、菱脳から構成され、その後に前脳は終脳と間脳に分かれます。

終脳は大脳半球(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)、大脳基底核、大脳辺縁系などに分かれます。

以下の分類を覚えておくと良いでしょう。

こちらで各部位の区分や分類を確認しておきましょう。

一番左側の大脳、小脳、脳幹、延髄をまとめて「中枢神経系」と呼びます。

脳幹部は、間脳、中脳、橋および延髄から構成されております。

呼吸、循環など生命活動の基本的な営みを支配すると供に、知覚情報を大脳皮質に中継したり、末梢に向かう運動指令を中継する機能を担当しています。

視床は、大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核に囲まれた間脳のうち、背側部を占める領域で、腹側に視床下部が位置しています。

視神経の上に位置するところに名称の由来があります。

視床は、大きな卵大の灰白質(かいはくしつ)です。

灰白質とは、中枢神経系の神経組織のうち、神経細胞の細胞体が存在している部位のことで、肉眼で灰色に見えます。

灰白質は脊椎動物の中枢神経系にあり、人間で最もよく発達しています。

これに対して白質(はくしつ)とは、神経細胞体がなく、有髄神経線維ばかりの部位を指します。

つまり、神経細胞(ニューロン)の細胞体に乏しく主に神経線維が集積し走行している領域ということになります。

視床は、感覚中継基地として重要な役割を果たしています(感覚受容器;視覚や聴覚などから入力される情報を大脳に振り分ける)。

嗅覚を除き、視覚、聴覚、体性感覚の入力中継部位であり、体性感覚信号をそれぞれの大脳皮質感覚野へ伝え、各感覚信号の受容と識別を行っています。

上記の「体性感覚」とは触覚、温度感覚、痛覚の皮膚感覚と、筋や腱、関節などに起こる深部感覚から成っています。

なお、内臓感覚は含みません。

皮膚感覚が皮膚表面における感覚であるのに対し、深部感覚とは身体内部の感覚を意味します。

深部感覚は固有感覚または自己受容感覚とも呼ばれ、筋受容器からの伸縮の情報により、身体部位の位置の情報が得られます。

大脳皮質を除去すると視床の大部分が変性委縮することから、視床と大脳皮質が密接に関連することは古くから知られていました。

視床には、嗅覚を除いて、全身の皮膚感覚や深部感覚の線維、また小脳からおこる線維など、大脳皮質に向かう上行性伝導路はすべて視床に集まり、ここでニューロンを変えて大脳皮質のそれぞれの部位に達することになります。

ですから、視床の機能として本選択肢の「感覚情報の中継」は妥当であると言えます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

① 運動の学習

一次運動野は、中心溝の前壁とそれに接する中心前回は細胞構築上からブロードマン4野にとして区分され、一次運動野あるいは単純に運動野と呼ばれます。

19世紀後半にHughlings Jacksonは、てんかん患者の発作時に見られる痙攣がしばしば手に始まり、より近位の腕から体幹に、あるいは顔に移行していく様子を観察し、中心溝付近に体部位局在があると推測したのが始まりです。

その後、ヒトやサルの一次運動野の表面に電極を当て、弱い電流で局所的に刺激すると、反対側の四肢や顔面の運動が誘発させることがわかったという経緯があります。

運動野への直接の大脳皮質性入力は、運動前野ないし補足運動野(ともにブロードマン6野)、体性感覚野(ブロードマン3、1、2野)および頭頂連合野(ブロードマン5野)からの連合線維と対側の運動野からの交連線維です。

この辺については、実際のブロードマンの脳地図を見ておくと良いでしょう。


体性感覚野、視覚野、聴覚野などからの入力は、頭頂および前頭連合性皮質を経由し、運動前野および補足運動野から運動野に入るものが主流になっています。

このような連絡は、感覚性入力が次第に運動性入力に結びついていく学習過程の形成を示唆していると言えますね。

以上をまとめると、一次運動野は「随意運動のプログラミングに関わる大脳皮質の高次運動野や頭頂連合野からの入力を統合して最終的な運動指令を形成し、これを下位中枢(脳幹や脊髄)へ出力する」のが役割と言えます。

このような内容から、本選択肢の「運動の学習」については運動野(一次運動野)が中心的な働きを担うと考えられますが、どこからどこまでが「運動の学習」と捉えるかで、その範囲はどんどん広がっていくような気がします。

例えば、小脳は系統発生学的、あるいは機能的区分に基づいて「前庭小脳」「脊髄小脳」「大脳小脳」の3つに分類することができます。

  • 前庭小脳(前庭系):身体平衡と眼球運動を調節する。半規管と前庭神経核からの入力信号を受け取り、前庭神経外側核・内側核に出力する。また、上丘と視覚野からの視覚信号の入力を受け取る。前庭小脳の傷害は、平衡と歩様の異常を引き起こす。
  • 脊髄小脳(脊髄系):体幹と四肢の運動を制御する。三叉神経、視覚系、聴覚系および脊髄後索からの固有受容信号を受信する。深部小脳核へと出力された信号は大脳皮質と脳幹に達し、下位の運動系を調節する。脊髄小脳には感覚地図が存在し、身体部位の空間的位置データを受け取っている。運動の最中に、身体のある部位がどこへ動くかを予測するため、固有受容入力信号の詳細な調節を行うことができる。
  • 大脳小脳(大脳皮質系):運動の計画と感覚情報の評価を行う。大脳皮質(特に頭頂葉)からの全入力を、橋核を経由して受け取り、主に視床腹外側に出力する。信号は前運動野、一次運動野および赤核に達し、下オリーブ核を通って再び小脳半球へとリンクする。

上記の通り、平衡感覚は前提小脳と、体幹は脊髄小脳と関わることが示されており、こうした運動皮質からの情報と運動に関する末梢からの感覚情報を統合して、運動を適正化する役割を果たす小脳回路も「運動の学習」に関わっていると言えるわけです。

また、運動を遂行する上での順序や運動の組み合わせを制御する基底核回路もあるわけで、その辺も含めると、さて「どこまでが運動の学習だ?」ということが難しくはなります。

ただ、大切なのはこうした運動機能に関わる神経学的な理解をしておくことだろうと思います。

いずれにせよ、「運動の学習」において視床が重要な役割を担うとは言えませんね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 呼吸の抑制
⑤ 意識レベルの制御

脳幹は、中脳、橋、延髄の3つの部分から構成されており(つまり、中脳から延髄までの、系統発生的に古い部分(小脳を除く)を合わせて脳幹と呼ぶ)、脊髄と同じように脳と身体を結ぶ機能を持っています。

大脳半球と脊髄を結ぶ上行性、下行性伝導路が走っており、多くの脳神経が出入りしていて延髄、橋、中脳には脳神経の核(神経核)が多数存在しています。

延髄には生命維持に不可欠な自律神経の中枢が多数あり、呼吸中枢、心臓血管中枢、咀嚼・嚥下中枢、嘔吐中枢、唾液分泌中枢、発汗中枢などが存在しています。

脳幹の機能は、①大脳皮質と脊髄の間を上行・下行する神経線維の通路であり、②脳神経を出す神経核の存在する場所であり、③意識・呼吸・循環など、生命維持に必要な機能の中枢部位です。

まずは「内蔵機能の中枢」としての脳幹について述べていきましょう。

脳幹には、内臓の諸機能を調節する中枢があり、この部分には交感神経や迷走神経をはじめとする副交感神経系の核が網目状に存在し、ここに内臓諸器官からの求心線維と、大脳や視床下部からの下行線維が入力します。

これらの入力された情報に基づいて、これらの核からの出力が自律神経を経て全身の内臓・血管・汗腺などに送られ、その機能を調整します。

脳幹に存在する中枢は、消化に関する中枢や呼吸中枢などの器官系単独の中枢であり、複数の器官系のはたらきを連動させる必要のある体温調節中枢や水分調節中枢、日内周期の調節中枢などは、さらに上位の視床下部に存在します。

それぞれについて少し詳しく見ていきましょう。

  • 呼吸中枢:延髄の毛様体部分には、呼息時に活動する呼息性ニューロンと、吸息時に活動する吸息性ニューロンとがあります。吸息性ニューロンは脊髄の吸息筋運動ニューロンに興奮性の信号を送ります。この吸息性ニューロンと呼息性ニューロンの集まりを「呼吸中枢」と呼びます。
  • 循環中枢(心臓血管中枢):延髄の網様体は心臓血管系の機能を常時調節しています。循環中枢は、延髄網様体の外側部の昇圧中枢(交感神経興奮性中枢)、内側部の降圧中枢(交感神経抑制性中枢)、迷走神経背側核と疑核に存在する心臓抑制中枢(心臓迷走神経中枢)に分けられ、これら3部位は相互に干渉し合います。昇圧中枢と降圧中枢は、脊髄の心臓血管支配の交感神経節前ニューロンに対し、それぞれ興奮性および抑制性の影響を及ぼし、心臓抑制中枢は迷走神経を介して心臓を抑制します。
    Alexander(1946)以来、これらの3つの部位が循環中枢に含まれていると考えられてきました。
  • 消化に関する中枢:嘔吐中枢、嚥下中枢、唾液分泌中枢、その他の消化管の連動や消化液の分泌を調整する中枢があります。嘔吐や嚥下はこの中枢に支配された完全な反射で起こりますが、消化管の連動や消化液の分泌には消化管の神経叢や消化管ホルモンも深くかかわっています。
  • 排尿中枢:脳幹の橋吻側部には排尿調節に重要な「排尿中枢」が存在し、仙髄の排尿中枢を下行性に調節して、残尿のない完全な排尿を行わせます。

また、脳幹には運動に関わる調節機能があり、①平衡感覚や視覚などの情報を取り入れて、立つ・歩く・振り向くといった姿勢を反射的に調節する、②歩行運動などの運動パターンの開始や停止を指令する、③眼球運動を反射的に調節するといった働きを行います。

更に、脳幹の網様体から大脳皮質への出力は、意識状態を保つ働きをしています。

このように脳幹は、循環の中枢はじめ、呼吸、嘔吐、嚥下、消化などの中枢を含み、生命維持に不可欠な機能を担っており、かつ運動や意識の保持なども担っていることがわかりますね。

本選択肢の「呼吸の抑制」や「意識レベルの制御」の機能はこちらに属するものであり、視床のものではないですね。

よって、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断できます。

③ 体温の調節

視床下部は間脳の下部、第三脳室の周辺の領域であり、多くの神経核から構成されています。

自律神経系や内分泌系を制御し、ホメオスタシスにおいて中心的な役割を担う脳領域です。

多くの神経核群が含まれており、これらが血液や脳脊髄液の組成などをはじめとする様々な内部環境に関する情報を受け取り、血圧、電解質組成、体温、睡眠‐覚醒サイクルの調整、摂食・飲水行動、生殖行動、防御行動などの制御を行っています。

例えば、視交叉上核は概日リズムの中枢であり、この核が破壊されると概日リズムが乱れます(「公認心理師 2020-86」参照)。

また、飲水行動には正中視索前核が、摂食行動には視床下部外側部や弓状核が関わることが知られています。

後部に位置する乳頭体は、脳弓を介して海馬、海馬台から神経連絡を受け取り、乳頭視床束によって視床前核に出力線維を送るパペッツの情動回路の一部となっています(「公認心理師 2021-89」参照)。

この回路は記憶や情動、さらに近年ではナビゲーション行動に関わるとも考えられています。

また、視床下部の重要な機能として、下垂体に信号を送り、様々な形で全身に作用するホルモン分泌を制御する機能が挙げられます。

下垂体前葉に作用してホルモンの分泌を調節するホルモンと後葉で分泌されるホルモンがあります。

下垂体前葉に対しては、そのすぐ上流の血管である下垂体門脈に下垂体からのホルモン放出ホルモンを分泌します。

主なものは以下の通りです。

  1. 成長ホルモン放出ホルモン
  2. 成長ホルモン抑制ホルモン(ソマトスタチン)
  3. プロラクチン抑制ホルモン(ドパミン)
  4. 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン
  5. 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン
  6. 性腺刺激ホルモン放出ホルモン 

これらのホルモンはその名の通り、成長ホルモン放出ホルモンは下垂体前葉からの成長ホルモンの分泌を促します。

ソマトスタチンは視床下部に存在し、下垂体門脈中に放出され、下垂体前葉の成長ホルモン分泌細胞に作用し、分泌を抑制します。

同様に、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンは副腎皮質刺激ホルモンを、性腺刺激ホルモン放出ホルモンは性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンは甲状腺刺激ホルモンおよびプロラクチンの分泌を促します。

これに対し、2つ目の様式として、視床下部からニューロンが直接その軸索を下垂体後葉に伸ばし、そこから下垂体後葉ホルモンを分泌するもので、バソプレシンとオキシトシンがあります。

上記の通り、「体温の調節」は視床下部の機能であり、視床の機能ではないと考えられます。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

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