公認心理師 2018追加-73

22歳の女性A、大学生の事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • アルバイトや就職活動で疲弊し、試験勉強がまったく手につかないとAは学生相談室を訪れ、公認心理師に訴えた。
  • Aは涙を流しており、事実関係は整理されておらず、混乱した様子であった。
  • 公認心理師とはほとんど視線を合わせず、うつむいたままであった。
  • ベック抑うつ性尺度では、中等度のうつという結果が出された。
  • MMPIの結果は、ほとんどの臨床尺度のT得点が60を超えていた。
  • 妥当性尺度は、?尺度=0、L尺度=30、F尺度=90、K尺度=40であった。
これらの情報からの判断として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

公認心理師2018-109にもMMPIの問題は出ておりますから、2回連続の出題ですね。
やはり医療機関で使われることが多い検査は、出る割合が高いのかもしれません。
臨床心理士資格試験でもよく出るので、こちらの記事もご参照ください。
医療機関で使われることが多い≒保険点数が高いということも否めませんから、MMPIに加えてロールシャッハテストなどもやはり押さえておくことが必要かもしれませんね。
ロールシャッハの場合、少し問題として出しづらい面はあるかもしれませんが。

解答のポイント


MMPIの妥当性尺度の解釈を理解していること。
F尺度の高さが何によって生じているのか、他の検査結果等から推察することができること。

選択肢の解説

『①Aは防衛が強く、問題の程度が低く現れている』

MMPIにおいて「防衛の強さ」を見る場合は、K尺度をチェックする必要があります
事例では、K尺度=40という低い数字になっています。
ちなみに、MMPIに限らず、多くの検査で素点を標準化した得点に置き換えるということが行われています。
問題文内にある「T得点」とは素点を置き換えた後の得点を指し、平均は50前後に設定されています
高得点とはT得点で70以上を、低得点とはT得点で45以下を指すのが一般的とされています
K尺度は、検査慣れした被験者でも容易に見破れないような項目で構成されています。
こうした項目の意図を見破って防衛的態度を発見されないように試みることは不可能に近いとされており、高いK尺度は心理的弱みに対する防衛的態度、良い印象を与えようと見せかけようとする防衛的態度を示します
逆に低いK尺度は好ましくない得点を得ようと故意に意図したり、悪い印象を与えようとするときにも生じることが明らかにされています。
事例は低いK尺度を示しており、選択肢内の「防衛が強く」とは矛盾がありますし、臨床尺度の高さやベック抑うつ性尺度の判定などからも「問題の程度が低く現れている」とは言えないでしょう
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②一貫性のある回答が多く、素直に回答している』

一貫性のある回答であるか否かの指標として、F尺度が挙げられます。
F尺度は被験者の不注意、質問項目の理解不足、検査への協力不足、採点上の大きな誤りなどを検出するためのものです。

後述しますが、F尺度が高いと、項目にでたらめに答えている可能性、故意に自分の状態を悪く見せようとしている可能性、援助を求めるために誇張して答えている可能性などのように、逸脱した応答の構えを示唆します

事例のF尺度は90と非常に高い数値を示しており、一貫性のある回答パターンを示していないことは確かです
むしろ、上記のような何かしらの心理要因によって応答の構えが歪められていると捉えることが自然であり、心理支援上はその歪みが何によって生じているのかを考えていくことが重要です。
その点については、選択肢④で詳しく述べていきます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③社会的望ましさの回答が多く、検査の結果が歪曲されている』

社会的望ましさの回答とは、L尺度をチェックすることが求められます。
Lはうそ(Lie)を表し、項目は理想的で好ましいことで構成されており、実際にはその通り実行することはほとんどあり得ないような内容になっています
故意に自分を良く見せようとする場合に高くなるとされています。
これがあまりにも多いと、具体的にはT得点が70以上になってくると、ほとんど信頼性の薄い応答をしていると考えてよいです。

事例のL尺度は30であり、高い数値であるとは言えません。
よって、選択肢にあるような「社会的望ましさの回答が多く」「検査の結果が歪曲」ということは当てはまらないと言えます
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『④精神的苦痛を誇張しているため、全体の得点が高くなっている』

こちらについては、まずは妥当性尺度のF尺度を見る必要があります
F尺度は、正常な成人においては出現率の低い回答をした数を示しています。
これが多いと「でたらめに回答した」「よく読まないで回答した」ために矛盾が多くなり、信頼性が低くなるという解釈が一般的です
一方で、逸脱した応答の構え、例えば、故意に悪く見せようとする可能性、援助を求めるために症状を誇張している可能性などを示唆します
その他、アイデンティティの混乱を反映する可能性があり、青年期に高くなりやすいとも言われています。
事例では明らかにF尺度が高くなっており、上記のような様々な可能性が考えられますが、他の検査指標や事例の内容から、いずれの解釈が妥当であるか絞っていくことが求められます
まずは事例の状態として、「Aは涙を流しており、事実関係は整理されておらず、混乱した様子であった」「公認心理師とはほとんど視線を合わせず、うつむいたままであった」という様子からは、さまざまな可能性が考えられます。
もちろん、本当に苦しくてそのような状態になっているということも言えますし、一方で、やや大袈裟な表現であると捉えることもできます。
特に小中学生ではなく、大学生という設定ですから、やや幼く主張性の強い苦慮感の訴え方であるという見方ができます
臨床尺度も万遍なく高くなっているという点で、ベック抑うつ性尺度の「中等度のうつ」という情報とズレがあります
MMPIにおける抑うつ状態のプロフィール特徴として「D尺度、Pt尺度、F尺度が高く、Ma尺度が低く、テスト完了困難であることも」ということが言われていますが、それとは合致していません。
臨床尺度が全体的に高いというのは、F尺度の高さを踏まえて考えたときに「苦痛を強く訴えようとしている」というイメージが浮かびます
また、ベック抑うつ性尺度は、認知行動療法を提唱したBeck,A.T.によって考案されたもので、 抑うつの程度を客観的に測る自己評価表です。
この質問紙を見たことがある人ならわかると思いますが、状態が悪いことを訴えやすい内容になっています
こういった内容の質問に対して自己評価で行うということが、本事例が「中等度のうつ」と判断された要因である可能性が高いです。
更に、選択肢①でも述べたように、事例のK尺度は低く出ており、このことは自分の状態を悪く見せようとする傾向の存在を疑わせます
上記を総合すると、事例は自分の精神的不調を過度に大きく見せようとしている可能性が考えられ、そのことが臨床尺度の得点の高さに影響していると見るのが妥当です
以上より、選択肢④が適切と判断できます。

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