公認心理師 2020-119

学級経営のまつわるさまざまな事柄に関する問題になっています。

個人的には「学校」に「経営」という経済をイメージさせる言葉が使われるのは好きではありません。

「学校」と「金儲け」は全く別のベクトルのものですからね(だから、学生をお客さんだと思っている学校はいかがなものかと思います)。

問119 学級経営について、不適切なものを1つ選べ。
① 学級集団のアセスメントツールには、Q-Uなどがある。
② 学級経営には、教師のリーダーシップスタイルの影響が大きい。
③ 学級づくりの1つの方法として、構成的グループエンカウンターがある。
④ 学校の管理下における暴力行為の発生率は、小学校より中学校の方が高い。
⑤ 問題行動を示す特定の児童生徒が教室内にいる場合、その児童生徒の対応に集中的に取り組む。

解答のポイント

学級経営に関する知識や資料に加え、実践的な見地からも理解している。

選択肢の解説

① 学級集団のアセスメントツールには、Q-Uなどがある。

Q-Uテスト(最近はハイパーQ-Uというものが多い)は、学校臨床をしている人でなければなかなか見ることのないテストかもしれません。

Q-Uは「Questionnaire Utilities」の頭文字であり、「よりよい学校生活と友達づくりのためのアンケート」のことを指します。

小学校1年~3年用、小学校4年~6年用、中学校1年~3年用、高校1年~3年用に分かれています。

Q-Uは「やる気のあるクラスをつくるためのアンケート(学校生活意欲尺度)」「居心地のよいクラスにするためのアンケート(学級満足度尺度)」の2つで構成されているのに対して、先述のハイパーQ-Uではこれら2つに「ふだん(日常)の行動をふり返るアンケート」が追加されています(高校用では「悩みに関するアンケート」も追加されている)。

本選択肢の解説では、Q-Uの2つの尺度(学校生活意欲尺度と学級満足度尺度)について述べていくことにしましょう。

学校生活意欲尺度では、友達、学習、学級の3領域(中学生以上は友人、学習、学級、進路、教師の5領域)に ついて、子どもが積極的に取り組んでいるかどうかがわかります。

上記のような形でプロットされ、表示されることになります。

これらの合計点によって「低意欲群」「中意欲群」「高意欲群」に分類されます。

  • 小学校1年~3年:28点以下が低意欲群、29点~32点が中意欲群、33点以上が高意欲群
  • 小学校4年~6年:25点以下が低意欲群、26点~30点が中意欲群、31点以上が高意欲群
  • 中学校1年~3年:66点以下が低意欲群、67点~79点が中意欲群、80点以上が高意欲群
  • 高校1年~3年:63点以下が低意欲群、64点~75点が中意欲群、76点以上が高意欲群

上記のように学校生活に対する意欲を見ていくことになります。

学級集団の居心地が良ければ、適応感が高まるだけでなく、諸々の活動に主体的に取り組みやすくなります。

この点を尺度化したのが学級満足度尺度であり、①非侵害得点(トラブルやいじめなどの不安がないか否か)、②承認得点(自分が級友から受け入れられ、考え方や感情が大切にされているか否か)ならなっており、これを座標軸として4つのタイプに分類します。

以下のような形で示されます。

実際の結果では、〇や□(男女の違い)が上記のいずれかの領域に示され、これらの記号に出席番号が振って、どの記号が誰を指しているかがわかるようになっています。

また、Q-Uは複数回行うこともあるので、前回の位置からどこに移動したかもわかるように表記されるなど、子どもたちの変化も見ることが可能です。

そして、各児童がどの領域に位置しているか、どの領域に入る児童が多いかなどによって、その学級の状況や課題が見えてくるわけです。

また、要支援群に入る児童生徒に対して、どのようなアプローチを行っていくかのヒントにもなります(ただし、満足群に入っていても油断はできない)。

このように、Q-Uは学級集団のアセスメントツールであることがわかります。

スクールカウンセラーは、こうしたQ-Uの結果の解釈の仕方、どのように学級経営に役立てていくかなどの助言を研修などで求められることがあります。

学校によっては、Q-Uを行って結果の配布をするだけということもありますが、学校に入る専門家としては見方もきちんと理解しておくことが求められますね。

以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

② 学級経営には、教師のリーダーシップスタイルの影響が大きい。

教師に必要とされる資質については、多くの論がありますが、共通して出てくる項目としては、「リーダーシップ」が挙げられます。

クラスづくりにおける教師のリーダーシップについては、①学級集団の目標、クラスポリシーを児童生徒に明示することと、②学級内の秩序を保つためにルールとリレーションをつくり出すこと、などが具体的な事柄として挙げられます。

①に関しては、教師が、児童生徒が自分自身の所属する集団が目指すべき方向性と集団の規範を示すことであり、それによって児童生徒が自由にして保護された空間と場を相互に自覚することが可能になります。

また、その示された規準の範囲内で(範囲内だからこそ)、集団活動を展開することが可能となるのです。

学校に限らずですが、自由とルールというものは相反する概念ではなく、「一定のルールや枠組みが与えられるからこそ、その中で安心して自由に振る舞うことができる」という考え方が大切です。

近年、「自由=ルールに縛られないこと」と認識している人が多いだけでなく、「ルールの存在=不快」「自由=好きなことをする」という認識を持っている人も増えていますが、これらはすべて誤りです。

枠組みの無さ、ルールを取っ払った場というものは、本質として「何が起こるかわからない空間」になります(極端に言えば、隣の人がいきなりぶん殴ってくる可能性だってあるわけです。学級崩壊している状況はそういう空間だと言えます)。

学校という社会的な場では、教師が教室での方向性や規範を示すことで、学級運営を行うことが重要になってきますし、それによって子どもたちは本当の意味で安心して学級で過ごすことができるようになります。

他選択肢の解説でも述べましたが、最近、こうした枠組みのある場に特徴的な嫌悪感を示す子どもたちが増えてきました。

この点に関してはこれから10年くらいの中で顕在化してくるでしょう。

②の児童生徒間のリレーション(教師と児童生徒、また児童生徒同士の間の情緒的交流を伴った関係性)の形成は、他選択肢にもあります構成的エンカウンターグループなどを活用することによって、児童生徒間の関係性を時間的プロセスに従って形成することを指します。

また、時間的プロセスに従うとは、学級開きの時点では、始めて出会うという児童生徒の関係性、学級集団が形成された頃の他者理解・自己理解を深めることを通しての児童生徒の関係性の深化など、学級集団を動的な存在としてとらえ、児童生徒間のダイナミックスを視野に入れるということを指します。

また、児童生徒のリレーションの形成は、学級集団の凝集性及び協調性を高めることに寄与することもあるため、教師のリーダーシップスキルのひとつとして挙げられています。

上記のように、学級経営において教師のリーダーシップが重要なことがわかりますが、リーダーシップには様々なスタイルが示されていますね。

ここではリーダーシップ理論で示されている、様々なスタイルについてまずは概観しましょう。


1.リーダーシップ資質論:

優れたリーダーは何か共通の個人的資質や特性を持っているという考え方に立脚した最も古くから行われている研究です。

リーダーとなる人間は一般の人とは異なる特殊で生まれながらにして持つ身体的や人格的な特性を有しており、その特性ゆえに他人に影響力を行使できると考えます。

組織集団を率いることに成功するリーダーとそうでない人との間には、個人的資質や特性の違いがあることを明らかにすることが研究目的の立場です(偉人説などがこれにあたる)。

2.行動記述的アプローチ:

リーダーシップとは後天的に学習された行動スタイルと考えます。

誰でも身につけられるものであり、優秀なリーダーという存在を規定する考え方です。

3.状況適合的アプローチ:

1950年代までのリーダーシップ研究(PM理論など)は、「普遍的に有効なリーダーの特性」も「普遍的に有効なリーダーの行動」も定義しきれませんでした。

そこで、優れたリーダーは、リーダー側の条件だけでなく、メンバー側の特性や、集団をとりまく条件等を考慮しながら、リーダーとメンバーの相互作用によって生じるという「状況適合的(即応的)アプローチ」の考え方が生まれました。

4.最近の理論:

上記のリーダーシップ観とは異なった、近年の社会情勢の変化に伴うリーダーシップスタイルについて記述したものになります。

変革型リーダーシップなどがこれにあたります。


こちらの記事では、より詳しく各理論について述べていますのでご参照ください。

これらに加えて、「公認心理師 2018-111」で示されたような、オーセンティックリーダーシップ、サーバントリーダーシップなどもありますね。

上記の通り、リーダーシップには様々なスタイルがあり、それぞれのスタイルに学級経営上のプラス面とマイナス面があります。

よく比較されがちなのが、PM理論で管理型(Pタイプ)か親和型(Mタイプ)かという比較が多いです。

Pタイプでは、規律を重視し、それらの伝達は上手ですが、ついていけない子どもの満足度が低いなど子どもによって差が出たり、子どもたちが協調的に学びあえる環境にはなりにくいというマイナスがあります。

対してMタイプでは、対人関係が良いのが利点ではありますが、それ故に管理的にルールを理解させるなどの対応が苦手であることが多く、ちょっとしたきっかけでクラスが荒れることも出てきます。

リーダーシップも平常時と緊急時で必要なスタイルが違うように、学校でもその時々で必要なリーダーシップスタイルが変わってくるという見方が自然ですね。

他にも、こちらの論文では、サーバントリーダーと従来型のリーダーの比較検討が行われていますね。

いずれにせよ、教師のリーダーシップスタイルが学級経営に与える影響は大きいと言えるでしょう。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 学級づくりの1つの方法として、構成的グループエンカウンターがある。

構成的グループエンカウンターについては「公認心理師 2020-26」でも出題がありましたね。

構成的グループエンカウンターは、一定の集団の中で、ある一定の時間的な枠組み、エクササイズを設け、参加者同士が率直に話し合い、感情を交流させて(エンカウンター)、相互理解や信頼関係を醸成しながら他者理解・自己理解を進め、行動変容や成長を図る集団的な取り組みを指します。

学校の学級活動など、特別活動や道徳の授業などでの実践が多く、スクールカウンセラーへの要請が多いものの一つですね。

大まかなプログラムとして、①自己理解、②他者理解、③自己受容、④自己主張、⑤信頼体験、⑥ソーシャルスキル、などがあります。

例えば、近年になって道徳の教科化が行われましたが(このことへの賛否は置いといて…)、グループエンカウンターで道徳的な状況を再現・体験することによって、道徳的な価値を観念ではなく身体ごとリアルに実感することが可能です。

他にもアンガーマネジメントも、こうしたグループエンカウンターのエクササイズにありますし、要請の多いテーマの一つと言えますね。

最近は「SOSの出し方」について、小学校~高校で何かしらのレクチャーやエクササイズを求められることも多いので、この点でもグループエンカウンターが活用される傾向にありますね。

このように、構成的グループエンカウンターは、その学年や学級の課題に沿ってテーマが決められ、その点の成長を促すことを目的に行われています。

当然、本選択肢にあるように「学級づくり」の一環としても用いられているということになりますね。

ちなみに、構成的グループエンカウンターの実施とスクールカウンセラーをどのように絡めていくかは、学校によってさまざまな方向性があるように思います。

  1. スクールカウンセラーにテーマを伝えて実施してもらうような形式
  2. 担任とスクールカウンセラーが協同で実施するような形式
  3. 担任が構成的グループエンカウンターを実施し、スクールカウンセラーがオブザーバーとして最後にコメントをするような形式
  4. 担任が構成的グループエンカウンターを実施し、感想等についてスクールカウンセラーと協議するような形式
    (番号は形式的に振っただけで、どれが優先とかそういう意味はありません)

私個人の話をすれば、1は少なく、2とか3が多くなる傾向があります。

2や3の場合は、実施前に実施法に関して助言を求められることが多いですね。

たまに構成的グループエンカウンターを行ったことを事後的に聞き、4の形で感想に関してコメントを行うこともあります。

上記の割合は、私がアクションを伴う活動よりも、講演や書き物(お便りとか)を得意にしているということも手伝っていると思いますから、スクールカウンセラーの特徴に合わせて学校側が使い分けてくれているのかもしれません。

別にどのような形でも良いとは思いますが「心理の専門家として、構成的グループエンカウンターの実施に際して何らかの形で関わっている(つまり、上記の1~4のいずれかの形で関わっている)」ことが大切だろうと思います。

構成的グループエンカウンターは、スクールカウンセラーをはじめとした心理職の専門分野でもありますから(同時に教育職の専門分野でもあります)、実施の打診をされたときに「わかりません」「できません」という返答はナシでお願いしたいところですね。

以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ 学校の管理下における暴力行為の発生率は、小学校より中学校の方が高い。

こちらについては文部科学省の「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」に記載があります。

こちらの資料によると、暴力行為の発生件数は、小学校43,614件(前年度36,536件)、中学校28,518件(前年度29,320件)、高等学校6,655件(前年度7,084件)であり全体では78,787件(前年度72,940件)です。

このうち、学校管理下における発生件数に関しては、小学校41,794件、中学校27,388件となっており、発生件数で言えば小学校の方が多いと言えます。

しかし、本選択肢で問われているのは「発生率」ですから、こちらを見ていくと、小学校6.5%、中学校8.4%となっております。

発生件数では小学校の方が多く、発生率では中学校の方が高いというややこしい結果になっており、本選択肢に明確に答えるにはこの辺に関して正確に把握しておく必要があるという、若干意地の悪い選択肢だったと言えます。

なお、「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(通知)」には以下のように記されています。


本調査結果によると、小学校、中学校、高等学校における暴力行為の発生件数は、約7万9千件である。特に、小学校においては、在籍児童数が減少しているにもかかわらず増加が続いており、憂慮すべき状況にある。また、小学校における暴力行為の発生状況では、生徒間暴力の増加が著しい。増加の背景については、いじめの積極的な認知が暴力行為の把握の促進につながったことなど、様々な要因が考えられるところ、犯罪にならない初期段階のものでも暴力行為と捉え、指導している結果という点では肯定的に評価している。


こうした認知件数の急激な増加には、いじめの積極的な認知が暴力行為の把握の促進にもつながっていることが背景にあると考えられています。

小学校で暴力行為が増加している要因については、確かに周囲の認知力の高まりというのは考えられますが、私はそれだけではないだろうと確信しております。

ここ10年ほどで、明らかに児童生徒の「自分の思い通りにならない状況への対処」「自分を抑えて周囲に合わせた態度を取る」という力が低下してきています。

まだ、統計レベルでは出てきていないかもしれませんが、小学校低学年の学校不適応および不登校の数が増加してきており、それも傍証になるかもしれませんね(少なくとも、私が活動している2県では教育委員会がその事実を掴んでいますし、遠方のSCに尋ねてもその傾向が出ているようです)。

この背景には、社会の変化、子育ての変化が大きな要因と感じています(学校は惰性が強い組織なので、変化はそもそも少ない。言い換えれば、社会や子育ての変化に沿っていないと言えるが、それに沿うべきか否かはまた別の議論としてあるだろう)。

私は保育園にも仕事で行っていますが、保育士の皆さんからも「思い通りにならないと…」という状況での不適応を聞くことが多いです(単にぐずる等の昔からあるような反応ではなく、ベテランの保育士さんも戸惑っている)。

この一因として私が思うことを述べていきましょう。

2歳前後までは子どもの「万能感」が充実していくことが大切になりますが、その後は少しずつ現実に出会いながら「万能感」が適切に削られていく経験が重要になっていきます(言い換えれば、より現実に沿った認識に修正されていくということ)。

しかし、この「万能感が適切に削られる」という体験が少ない子どもたちが非常に多くなったと感じています。

その要因として「子どもに不快な思いをさせてはいけない」「親子は仲が良い方がよい」といった社会的な雰囲気が子育てにも影響を与えているように感じています(他にも「嫌ならやめればいいじゃん」みたいな無責任な放言を恥ずかしげもなく言う人が増えたなど)。

これらに加えて、子どもがぐずったときにインターネット機器を見せて事なきを得るような関わりが増え、「関わりの中で情緒統制を行っていく」という密着した親子間の精神的交通がぐっと減った印象です(当然、ネグレクト気味の家庭、ワンオペ育児の家庭はこうしたリスクが高くなります)。

「万能感が適切に削られる」という経験を経ていないと、当然、外界にある自分の思いに合わない状況に対して強い不快感が出てきます。

先述の通り、本来ならこの不快感は2歳以降ぐらいから親子間でやり取りが行われ、保育園や小学校に入るころには、そこそこ手のひらで転がせる状態になっているものですが、それが適っていない子どもたちが急激に増えてきたということです。

こうした「万能感の適切な修正」の機会が少ないことが、低年齢からの環境との合わなさと強く関連していると思いますし、実際にその視点で支援にあたってかなりの割合で改善が見込めます(ただし、この視点での支援は子どもに自我が明確に生じる10歳前後までしか効果が見られない)。

あくまでも私見として頭の片隅に置いておいてくれると幸いです。

以上より、学校管理下における暴力行為の発生率は小学校より中学校の方が高いことがわかります。

よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 問題行動を示す特定の児童生徒が教室内にいる場合、その児童生徒の対応に集中的に取り組む。

ここで示される問題行動とは、主にいじめや校内暴力のことを指しており、不登校は含まれないことをまず把握しておきましょう。

以前は、問題行動の中に不登校も含まれており、この点について各方面から反対の声が上がり、問題行動と不登校を分けて記述するように変化しています。

問題行動については「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」が出ていますので、その内容を見ておきましょう。

この内容に、本選択肢の正誤判断のヒントが隠されています。


1  生徒指導の充実について

  1. 学校においては、日常的な指導の中で、児童生徒一人一人を把握し、性向等についての理解を深め、教師と児童生徒との信頼関係を築き、すべての教育活動を通じてきめ細かな指導を行う。また、全教職員が一体となって、児童生徒の様々な悩みを受け止め、積極的に教育相談やカウンセリングを行う。
  2. 児童生徒の規範意識の醸成のため、各学校は、いじめや暴力行為等に関するきまりや対応の基準を明確化したものを保護者や地域住民等に公表し、理解と協力を得るよう努め、全教職員がこれに基づき一致協力し、一貫した指導を粘り強く行う。
  3. 問題行動の中でも、特に校内での傷害事件をはじめ、犯罪行為の可能性がある場合には、学校だけで抱え込むことなく、直ちに警察に通報し、その協力を得て対応する。

2 出席停止制度の活用について

  1. 出席停止は、懲戒行為ではなく、学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するために採られる措置であり、各市町村教育委員会及び学校は、このような制度の趣旨を十分理解し、日頃から規範意識を育む指導やきめ細かな教育相談等を粘り強く行う。
  2. 学校がこのような指導を継続してもなお改善が見られず、いじめや暴力行為など問題行動を繰り返す児童生徒に対し、正常な教育環境を回復するため必要と認める場合には、市町村教育委員会は、出席停止制度の措置を採ることをためらわずに検討する。
  3. この制度の運用に当たっては、教師や学校が孤立することがないように、校長をはじめ教職員、教育委員会や地域のサポートにより必要な支援がなされるよう十分配慮する。
    学校は、当該児童生徒が学校へ円滑に復帰できるよう学習を補完したり、学級担任等が計画的かつ臨機に家庭への訪問を行い、読書等の課題をさせる。
    市町村教育委員会は、当該児童生徒に対し出席停止期間中必要な支援がなされるように個別の指導計画を策定するなど、必要な教育的措置を講じる。
    都道府県教育委員会は、状況に応じ、指導主事やスクールカウンセラーの派遣、教職員の追加的措置、当該児童生徒を受け入れる機関との連携の促進など、市町村教育委員会や学校をバックアップする。
    地域では、警察、児童相談所、保護司、民生・児童委員等の関係機関の協力を得たサポートチームを組織することも有効である。
  4. その他出席停止制度の運用等については、「出席停止制度の運用の在り方について」(平成13年11月6日付け文部科学省初等中等教育局長通知)による。

3  懲戒・体罰について

  1. 校長及び教員(以下「教員等」という)は、教育上必要があると認めるときは、児童生徒に懲戒を加えることができ、懲戒を通じて児童生徒の自己教育力や規範意識の育成を期待することができる。しかし、一時の感情に支配されて、安易な判断のもとで懲戒が行われることがないように留意し、家庭との十分な連携を通じて、日頃から教員等、児童生徒、保護者間での信頼関係を築いておくことが大切である。
  2. 体罰がどのような行為なのか、児童生徒への懲戒がどの程度まで認められるかについては、機械的に判定することが困難である。また、このことが、ややもすると教員等が自らの指導に自信を持てない状況を生み、実際の指導において過度の萎縮を招いているとの指摘もなされている。ただし、教員等は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合においても、身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)である体罰を行ってはならない。体罰による指導により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの土壌を生む恐れがあるからである。
  3. 懲戒権の限界及び体罰の禁止については、これまで「児童懲戒権の限界について」(昭和23年12月22日付け法務庁法務調査意見長官回答)等が過去に示されており、教育委員会や学校でも、これらを参考として指導を行ってきた。しかし、児童生徒の問題行動は学校のみならず社会問題となっており、学校がこうした問題行動に適切に対応し、生徒指導の一層の充実を図ることができるよう、文部科学省としては、懲戒及び体罰に関する裁判例の動向等も踏まえ、今般、「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」(別紙)を取りまとめた。懲戒・体罰に関する解釈・運用については、今後、この「考え方」によることとする。

本選択肢の正誤判断に重要なのが、「2 出席停止制度の活用について」です。

こちらは「出席停止は、懲戒行為ではなく、学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するために採られる措置」であることが明記されています。

すなわち、本選択肢にあるような「その児童生徒の対応に集中的に取り組む」のではなく、他の児童生徒の教育を受ける権利を守るために行われるという意味があるということですね。

また、臨床実践の見地からも本選択肢の内容は不適切と言えます。

例えば、いじめの場合、いじめを行っている児童生徒に対してのアプローチは行いますが、それと同時にいじめを受けている児童生徒に対しても支援の手を向けることになりますね。

また、立ち歩き、騒ぐなどの問題がある場合、それをしている児童生徒に何かしらの対応を取ることになりますが、併せて周囲の児童生徒へのアプローチも考えていきます。

考えられることとしては、周囲の児童生徒が騒いでいる児童生徒に誘導されないようにすること、騒いでいる児童生徒に流されずにいる児童生徒の我慢に対して理解を向けつつ、現在の姿がとても大切であるという支持をするなどです。

こうした関わりによって「騒いでいる児童生徒だけが不自然な行動を取っている」という状況を作り、保護者をはじめとした当該児童生徒の生活に関わる大人と協働して支援にあたっていくことが重要になります。

このように表現すると「騒いでいる児童生徒を孤立させるのか」と思う人もいるかもしれませんが、もちろん、こうした状況を作ったうえで「騒いでいる児童生徒」にも何らかの関わりを行っていくことになりますし、私はこれは学級経営のテクニックの一つだと思っています。

また、正直なところ、「騒いでいる児童生徒」はそれなりの経過があって現状に至っており、家庭的にも変化が起こりにくい割合が高いため、「それ以外の児童生徒」へのアプローチの方が変化が出やすいと思っています。

こうした観点からも、問題行動を示す特定の児童生徒だけでなく、それ以外の児童生徒への対応が重要になっていきます。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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