公認心理師 2021-17

ブループリントにも明確に記載があり、過去にも複数回出題されている「関与しながらの観察」に関する問題です。

過去問を理解しておけば取りやすい問題だったと言えますね。

問17 H.S.Sullivanの「関与しながらの観察」を深めていくために必要なことについて、最も適切なものを1つ選べ
① 自分の中立的な立ち位置が揺れ動かないよう努めること
② 自分のその場での言動と関係付けてクライエントの反応を捉えること
③ 自分の主観に現われてくるくるイメージをもとにしてクライエント理解を進めること
④ 観察の精度を高める道具として、標準化された検査の導入を積極的に進めること
⑤ これまでのやりとりの流れから切り離して、今ここのクライエントの感情を理解すること

解答のポイント

サリヴァンの関与しながらの観察に関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

本問の解説ではサリヴァンの精神医学的面接を中心に述べていきます。

関与しながらの観察についてしっかり述べてあるだけでなく、臨床家としての金言があふれていますから読むことをお勧めします。

① 自分の中立的な立ち位置が揺れ動かないよう努めること

中立性については「公認心理師 2018-44」および「公認心理師 2018追加-14」に同じような選択肢が出ていますね。

本選択肢でもサリヴァンの引用から解説していきましょう。

「精神科医は面接の中で起こる事態のすべてに深く巻き込まれ、そこから逃れられない。精神科医が面接への自らの関与に気づかずそれを意識しない程度がひどいほど、目の前で起こっていることに無知である度合いも大きくなる」(p41)

上記の引用からは、「中立的に参加しながら」というスタンスとはまったく異なる、関係の中に入っていくことの重要性を読み取ることができます。

実はこの選択肢、実は2つの意味で誤っており、一つはサリヴァンの主張とは異なること、もう一つはそもそも中立性の理解が誤っていることです。

前者については既に述べた通りですが、後者についても述べていきましょう。

神田橋先生は「巷間流布している「中立性」の概念はしばしば、「一直線」「不変」「不動」「不感症」のニュアンスを負わされてしまい、百害と一理ある程度のものになっている」と述べておられます。

(この書籍は必読書の一つです)

本当の中立性とは、こうした「一直線」「不変」「不動」「不感症」といった「クライエントからどのようなメッセージが送られようと動じない姿」ではありませんから、本選択肢の内容は間違っていることがわかります。

中立性は、支援の大きな流れの中で、その時々のメッセージに応じて滑らかに変化していくというのが正しい在り方です。

意見を持たない人形のようになるのではなく、腹が立つことを言われたら(もちろん、それがセラピストのコンプレックスに由来するものではなく)普通に腹が立ったことを心理療法の場で治療的に展開できるように伝える、面白い話には笑う、などのように、その時々の状況に心が揺れながら変化しながらも、折れない、風に吹かれている竹のようなイメージの在り様です。

以上のように、本選択肢の内容は中立性の説明としても、サリヴァンの主張としても不適切な内容と言えます。

また、サリヴァンの著作を思い返してみても、中立性に関して述べている箇所が思い出せません。

それはサリヴァンが中立性を重視しなかったということではなく、関与的観察という現象自体が先述のような適切な中立性を背景にしており、そこで生じるセラピストの在り様も含めて、クライエントの反応を理解していくということなのだろうと理解できます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 自分のその場での言動と関係付けてクライエントの反応を捉えること

サリヴァンは以下のように述べています。

「皆さんは精神科医であるが、文化の処方や過去の体験に関係のあるものが皆さんの育ったか家庭にはいっぱいころがっていたはずである。「精神科医である皆さんはそういうことにかかわるのがふさわしい人間だ」と皆さんになされ、皆さんがそれに応答する行動もある。そういうものすべてが精神医学の資料である。精神科医は面接の中で起こる事態のすべてに深く巻き込まれ、そこから逃れられない。精神科医が面接への自らの関与に気づかずそれを意識しない程度がひどいほど、目の前で起こっていることに無知である度合いも大きくなる」(p41)

「“客観的”観察のようなものは存在しない。あるのは「関与的観察」だけであり、その場合はきみも関与の重要因子ではないか」(p141)

精神医学は対人関係を研究する学である。対人関係は対人の場においてしか生じない。…対人の場とは二人の人間が互いに関わり合っている場合をいうのであって、この関わり合いを統合と言っている」(p80)

これらの主張からもわかる通り、サリヴァンは支援者自身をクライエントに影響を与えうる因子として見なしており、その因子も含めてクライエントの反応を理解しておくことが重要と考えています。

これはクライエントの改善だけでなく、クライエントの状態の悪化に関しても同様であり、それが見られた際は、セラピストは自らの関わりを振り返っておくことが重要です。

このことは「カウンセリングは良いものである」と考える支援者ほど見落としがちな点であり、カウンセリングが対人関係の営みである以上、そしてクライエントの多くがその対人関係で傷ついてきたという歴史がある以上、カウンセリングでクライエントを傷つけることも大いにあり得るわけです。

支援者になる人、特に初心者が心がけるべきは「クライエントを良くしていくこと」ではなく、「クライエントを悪くしないこと」や「そうなる可能性を常に認識しておくこと」になります。

そういった自身の有害性を十分に認識し、自らのコミュニケーションを運用するよう心がけることが重要になります。

ここからは個人的な助言ですが、こうした「カウンセラーの影響」を認識するためのトレーニング法があります。

それは「関係妄想的に考える」という技法です。

具体的には、クライエントに起こった変化(良いものも悪いものも)をすべてカウンセラーである自らの行いによる影響であると捉えて、自身の言動を振り返ってみるというやり方になります(悪いものは特に。悪いものを含めない人は単に万能感が強い人に過ぎない)。

そういう風に捉えてみることで、自身の言動によって「もしかしたら、このようにクライエントに受け取られて、このような変化が生じ(てしまっ)たのかもしれない」などと考えることがしやすくなります。

また、予測できなかったクライエントの変化に関しても「前の面接でこのように伝えておけば、今の状態を防ぐことや、クライエントの混乱を軽減できた可能性もある」と捉えることで、より厳しい視点で自らの行いを振り返ることになります。

そして、こういうトレーニングの積み重ねが、時には「未来視」に匹敵するような先を見通す力の獲得には欠かせないと私は考えています。

もちろん、あくまでも「関係妄想的に考える」という「技術」ですから、単なる思い込みではなく「その可能性について検討する」というのが内実であり、クレバーに自身の影響の割合をイメージしておくことが大切になりますね。

なお、こうした「先を見通す力」が向上することによって、それまで以上に「情報共有の重要さ」を痛感できるはずです。

一つの情報から得られる見立ての質と量が「先を見通す力の向上」によって、格段に上昇するからです。

いずれにせよ、本選択肢の「自分のその場での言動と関係付けてクライエントの反応を捉えること」は、関与しながらの観察を指す表現と言えます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 自分の主観に現われてくるイメージをもとにしてクライエント理解を進めること

ここでもサリヴァンの精神医学的面接を引用しつつ述べていきましょう。

純粋に客観的データというものは精神医学にはない。さりとて主観的データとそのままで堂々と通用するものもない。素材を科学的に扱うためには力動態勢や過程や傾向性をベクトル的に加算して力積をつくらなければならない。力積の作成操作を推論という。推論があちこちに飛び、思いがけない形を見せるところに精神医学研究の困難もあり、実用に耐える精神医学的面接の難しさもある」(p19-20)

「精神科医が見失ってはならない事実がある。患者のすべての過程は精神科医に向けられたものであり、精神科医の提出する者も患者に向けられたものではあるが、その狙いの正確さの度合いがいろいろであるために、結果的に思いもかけないようなやりとりになるのである。たとえば、おわかりのように、話しことばというものは、ウェブスターやオックスフォードの辞典並みに意味がきちんと定まっているということは決してなく、ほんとうに言いたいことの近似的表現にすぎない」(p41)

これらはカウンセリングを行う上で、明確に理解しておくことが重要です。

例えば、9.11のあの状況を見て「悲惨でした」といった人が3人いたとしましょう。

1人は9.11の情報を新聞で読んだ人、1人はテレビの映像で見た人、1人は現場で建物が崩れ落ちる場にいた人だとしたら、彼らの述べる「悲惨でした」という表現は同じでも、中身を同じと見なすことはできるでしょうか?(いや、できまい!)

このようにある言葉を語っていたとしても、それがどういう意味を持って使われているのかはクライエントによって全く異なると考えておくのが妥当です。

だからこそ、カウンセラーは「批判意識を伴う関心(critical interest)」を持つべきであると言えます(この言葉もサリヴァンからの引用です)。

サリヴァンは「いつも心に「果たしてそうか」という単純な問いを持ち続けてほしい」と述べているのも、そういう意味合いがあると考えられます。

このようにサリヴァンは「自分の主観に現われてくるイメージをもとにしてクライエント理解を進めること」に関しては、かなり否定的な立場であることがわかります。

むしろ、その認識が果たしてクライエントの言わんとしていることを本当に掴んでいるか、絶えず自問自答を行うことで確かめる注意深さが見て取れますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 観察の精度を高める道具として、標準化された検査の導入を積極的に進めること

さて、選択肢④についてもサリヴァンの精神医学的面接をもとに考えてみましょう。

“客観的”観察のようなものは存在しない。あるのは「関与的観察」だけであり、その場合はきみも関与の重要因子ではないか」(p141)

とありますので、何となく「客観性を求めて検査を行う立場ではないのだな」というのはわかると思います。

そもそもサリヴァンは「人間関係論」という立場を取るので、検査というアプローチを観察に含むということはあり得ないのですが、この辺について明確に語っているところを探しておきましょう。

検査についての記述は「現代精神医学の概念」の中にありました。

「いずれの場合においても、検査という行為は、一方が他方から情報をとる、という前提にもとづいて行われることが少なくない。われわれのとる人間関係論的立場からすれば、これはいかにも素朴に過ぎる観点である。面接場面はそんな単純に一方通行的なものでは決してない。一人が与え一人が受け取るというものでは決してないのである。そのことがわかりにくい場合もあるにはあるが、いつでもある比率で相互に情報を交換しているのであり、相互に自分のものの見方を表現し、それについて何らかの形で〈共人間的有効妥当性確認〉を行っているのである。これを無視することが問診の最大の欠陥である」(p209)

このようにサリヴァンは検査を一方向的な営みであると理解しており、それは相互のやり取りを前提とする関わりを旨とする人間関係論の立場から外れていると見なしているわけですね。

もちろん、ある特定の検査を持ち出して「そんなことない!」ということは可能でしょうが(例えば、風景構成法とか)、多くの検査はサリヴァンの理解通りの構造であることも否めないはずです。

このように、本選択肢の「観察の精度を高める道具として、標準化された検査の導入を積極的に進めること」に関しては、サリヴァンの人間関係論の立場から言えば、双方向のやり取りという認識ではなく、当然ながら関与しながらの観察にもなり得ないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ これまでのやりとりの流れから切り離して、今ここのクライエントの感情を理解すること

こちらについても精神医学的面接から引用しつつ述べていきます。

「面接のデータ」の発生源は対人関係的な事象であり、また、その事象が辿る軌跡のパターンである。だから、面接者は「どのような順序と形式で対人関係的な事象が継起しているのか」「事象の相互関係はどういうものである確率が高そうか」「どういう顕著な不整合性が生じているか」などを実際に味わうのである。そこから「面接のデータ」が発生するわけであるが、得るところの多いのは、問答それ自体よりも、話のタイミングや、「どこを強く発音したか」や、そこここに散らばっている些細な取り違えや、「被面接者が何時その話題を降りたか」や、尋ねられていないのに患者が持ち出した話に含まれる非常に重要な事実の方である。だから、面接者の腕が向上するにつれてだんだん分かってくるものだが、面接者のするべきことと言えば、事象の集団の軌跡を追って、それがあるパターンの時系列を形成するのを観察して、そこから自分の関与している個人についてのデータを取っていくことである」(p82)

このように、カウンセリングでは、そこで起こっている軌跡を追い、その中でカウンセラーが関与しているデータを取ること(つまり、関与的観察によって生じた箇所の把握)が重要と去れていますね。

なお、選択肢後半にある「今ここ(here and now)」は、集団精神療法、サイコドラマ、精神分析、ゲシュタルト療法、PCA、マインドフルネスなどでも用いられる表現ですね。

「今ここのクライエントの感情を理解すること」はサリヴァンの立場と反するものではないので、本選択肢の瑕疵は前半部分にあると見なして良いでしょうね。

以上より、本選択肢の「これまでのやりとりの流れから切り離して、今ここのクライエントの感情を理解すること」は、サリヴァンの関与しながらの観察の記述とは言えませんね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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