公認心理師 2022-67

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」に基づき、事例にもっとも必要な支援を選択する問題です。

こちらの資料に関しては頻出と言って良いですから、しっかり覚えておくようにしたいですね。

問67 50歳の男性A、会社員。Aは、1年前に職場で異動があり、慣れない仕事への戸惑いを抱えながら何とか仕事をこなしていた。8か月前から、気力低下が顕著となり、欠勤もみられるようになった。憂うつ感と気力低下を主訴に2か月前に精神科を受診し、うつ病の診断の下、当面3か月間の休職と抗うつ薬による薬物療法が開始された。Aは、2か月間の外来治療と休職により、気力低下や生活リズムは幾分改善し、復職に意欲はみせるものの、不安は残っている様子である。
 改訂心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(令和2年、厚生労働省)に基づき、現段階のAに必要な支援として、最も適切なものを1つ選べ。
① 試し出勤制度の活用
② 管理監督者による就業上の配慮
③ 主治医による職場復帰可能の判断
④ 産業医等による主治医からの意見収集
⑤ 傷病手当金など経済的な保障に関する情報提供

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解答のポイント

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」における「職場復帰支援の各ステップ」を把握している。

選択肢の解説

⑤ 傷病手当金など経済的な保障に関する情報提供

傷病手当金など経済的な保障に関する情報提供については「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」の職場復帰支援の各ステップである「第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア」の中に示されています。

「休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明します。労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、次のような項目については情報提供等の支援を行いましょう」とあり、その中に「傷病手当金などの経済的な保障」「不安、悩みの相談先の紹介」「公的または民間の職場復帰支援サービス」「休業の最長(保障)期間等」などが含まれていますね。

常識的な観点から言っても、傷病手当金の制度や手続などの経済的な保障に関しては、休業の手続きと同時に行うべきであり、それが無くては労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念することができません。

海外と違って、日本ではカネの話を大っぴらにしづらいという感覚がありますし、それ自体は仕方のないことです。

だからこそ、事業者側の人間は、労働者から切り出しにくい話を積極的に「当然の権利である」という隠喩を込めて伝えていくことが、実は大きな支援になると理解しておきましょう。

本事例においてAはすでに休職していますから、本選択肢の対応は既に行われていると見なすのが妥当であり、「2か月間の外来治療と休職により、気力低下や生活リズムは幾分改善し、復職に意欲はみせるものの、不安は残っている様子」という現状で行われるはずのない対応であると言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

③ 主治医による職場復帰可能の判断

まず事例の状態を理解しておきましょう。

  1. 8か月前から、気力低下が顕著となり、欠勤もみられるようになった。
  2. 憂うつ感と気力低下を主訴に2か月前に精神科を受診し、うつ病の診断の下、当面3か月間の休職と抗うつ薬による薬物療法が開始された。
  3. 2か月間の外来治療と休職により、気力低下や生活リズムは幾分改善し、復職に意欲はみせるものの、不安は残っている様子である。(←今ここ!)

このような状況であり、重要なのが、今現在は「3」の時点であるという認識をもって各選択肢の検証を行っていくことですね。

Aは、既に休職し療養に入って、少し改善の兆しが見えてきたし復職の意欲はあるものの、不安が残っているという状態です。

この「不安」をどう考えるかは臨床的に大切だと思うのですが、こういった不安は肯定的に捉えてよいだろうと思います。

なぜなら、一度うつ病の診断になって休職に至ったAにとって「復職はしたいけど、やっぱり不安である」というのはごく自然な不安であり、そういう自然なものを押し殺さずに表現できていること、葛藤を抱えられるだけの自我状態にある、という視点で捉えることができるのではないでしょうか。

そして、こうした「自然な不安」については、情緒的支援によってかなり支えられることが多い類のものであると考えておくことも大切です。

また、これは復職でも不登校からの復帰でも共通するような、かなり汎用性のある考え方だと思いますが「職場復帰(学校復帰)と仕事復帰(学業復帰)は違う」ということが当人に理解されていることが重要になります。

その理由は説明するまでもないと思いますが、そういう考えを理解できていれば、他選択肢でも説明するような「職場復帰支援プラン」の流れにうまく乗ることがしやすいように感じます。

すなわち、Aは3か月の休職期間のうち2か月を過ぎた段階ではありますが、「気力低下や生活リズムは幾分改善」していることに加え、「復職に意欲はみせるものの、不安は残っている様子」という自然な感情およびその表出、それらの背景にあるだろう自我強度が窺うことができ、復職に向けた動きをし始めるのが自然な状況と見なしてよいでしょう。

そうなると「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」における「第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断」の段階になってきていると考えるのが妥当です。

なお、このステップでは、以下のような事柄が行われます。


休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。


特に重要だと考えられるのが「主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません」という点です。

この段階での職場復帰可能の判断はあくまでも「日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断している」わけですが、少なくともまずはその段階での回復がなされていなければ職場復帰はどだい難しいわけですから、こうしたステップを踏むことが重要になってきます。

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

① 試し出勤制度の活用
② 管理監督者による就業上の配慮
④ 産業医等による主治医からの意見収集

これらの選択肢内容は「第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断」がなされた後の段階である「第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」で行われる事柄になります。

このステップでは、安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるか適切に判断し、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成します。

この具体的プランの作成にあたっては、事業場内産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休職中の労働者の間でよく連携しながら進めることになります。

職場復帰プラン作成に関しては以下のような手順を踏みます。


ア.情報の収集と評価

職場復帰の可否については、必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合
的に判断することが大切です。情報の収集と評価の内容は次のとおりです。

  1. 労働者の職場復帰に対する意思の確認
  2. 産業医等による主治医からの意見収集:診断書の内容だけでは不十分な場合、産業医等は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医からの情報や意見を収集します。
  3. 労働者の状態等の評価:治療状況及び病状の回復状況、業務遂行能力、今後の就業に関する労働者の考え、家族からの情報
  4. 職場環境等の評価:業務及び職場との適合性、作業管理や作業環境管理に関する評価、職場側による支援準備状況
  5. その他:その他必要事項、治療に関する問題点、本人の行動特性、家族の支援状況や、職場復帰の阻害要因等

↓(収集した情報の評価をもとに)

イ.職場復帰の可否についての判断

職場復帰が可能か、事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断を行います。

↓(職場復帰が可能と判断された場合)

ウ.職場復帰支援プランの作成

以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。

  1. 職場復帰日
  2. 管理監督者による就業上の配慮:業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
  3. 人事労務管理上の対応等:配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
  4. 産業医等による医学的見地からみた意見:安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
  5. フォローアップ:管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
  6. その他:労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用

上記からも明らかなように、ここで挙げた選択肢はこのステップで行われる内容になっていますね。

職場復帰のステップとして、こうした「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」に先立って「主治医による職場復帰可能の判断」がなされることになります。

まずは「日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断」してもらった上で(ステップ2 主治医による職場復帰可能の判断)、それを以て今度は職場内で職場復帰の判断がなされる(ステップ3 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成)という順番になるわけですね。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

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