公認心理師 2022-122

児童生徒の自殺が発生した学校への緊急支援に関する問題です。

緊急支援で入る場合の支援内容は、大枠では決まっておりますが、その状況によってかなり細かく変えていくことが重要になります。

その辺も踏まえて解説しておきました。

問122 児童生徒の自殺が発生した学校への緊急支援に関わる公認心理師の活動として、最も適切なものを1つ選べ。
① 全体的対応ではなく、個別的対応に特化した支援に携わる。
② 児童生徒の混乱を防ぐため、事実に基づく正確な情報を早い段階で伝えることは控える。
③ トラウマ反応の予防のため、最初の職員研修において心理的デブリーフィングを実施する。
④ いらいらや食欲不振といった、心身の反応については、特殊な事態における一般的な反応であると児童生徒や関係者に伝える。

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解答のポイント

自殺事案において緊急支援で入るカウンセラーの役割を理解している。

選択肢の解説

① 全体的対応ではなく、個別的対応に特化した支援に携わる。

緊急支援については、個別的対応ではなく全体的対応に特化した支援を行うことが基本になっています。

まず枠組みの話をすると、各市町村や県から緊急支援のカウンセラーが派遣されるのが一般的になり、限られた予算の中での対応になってきます。

ですから、短期間の派遣(長くても1週間程度であることが多い)になるのが通常で、そうした短期間しかいないカウンセラーが「個別的対応に特化した支援」というのは難しい面が多いです。

個別的対応となると、悲嘆反応などの支援が視野に入ってきますが、こうした支援についてはどうしても短期間で済むという保証はなく、そうした個別的支援については元々配置されているスクールカウンセラーが担っていくことになります。

本選択肢にある「全体的対応」とは、こうした「どこからどこまでを緊急支援のカウンセラーが行うのか」「緊急支援のカウンセラーが引いた後の対応はどういったものか」というプランニングを含んでいます。

例えば、児童生徒の状態を査定するための面接を行うのか否か、行うとしたら「心の健康調査票」を使うのか否か、使うとしても面接場面でカウンセラーが聞き取るのか事前に書いてもらうのか、緊急支援カウンセラーの査定面接が行われるとしたらその範囲(学年単位、学級単位、特定の児童生徒のみなど)、その結果懸念される児童生徒がいた場合の支援方針の設定、など挙げればキリがありません。

自殺という緊急事態ではありますが、調子を崩している児童生徒の意見によっては配置されているスクールカウンセラーとは異なる性別のカウンセラーの方が良いという場合があったり(多少のことは、クライエントもこちらに合わせることが大事になりますが、緊急事態ではある程度クライエントの意向を聞いてもいいことが多いように感じています)、保護者が混乱している場合には外部機関を紹介する(もちろん、配置されているスクールカウンセラーでも良い)など、想定される事態は多様になります。

こうした「起こりうる可能性」を可能な限り把握し、その上で必要な対応をプランニングするというのが、本選択肢の「全体的対応」であり、緊急支援で入るカウンセラーの仕事になりますね。

先述の通り、「個別的対応」については、むしろ元々配置されているスクールカウンセラーが担うのが一般的であり、それは「緊急支援カウンセラーが長期間、その学校にいることはない」という事情と、配置されているスクールカウンセラーの方が「馴染み」があるので支援の導入がしやすい、継続的な支援を見通すことができる、など理由があります。

以上より、選択肢①は不適切と判断でき、除外することになります。

② 児童生徒の混乱を防ぐため、事実に基づく正確な情報を早い段階で伝えることは控える。

本選択肢は前半と後半で齟齬があります。

むしろ「児童生徒の混乱を防ぐため」に「事実に基づく正確な情報を伝える」ということになります。

なお、「早い段階」というのは案件の内容や児童生徒の様子を踏まえますから、正確には「適切なタイミングで」という表現が正しいでしょう。

本問のような自殺案件になると、その動機等を中心にさまざまな憶測が飛び交うことになります。

児童生徒間でも「情報の濃度」が異なるのが普通であり、こうした「濃度の違い」によって傷つく児童生徒が出る恐れもあります(事情を知っている児童生徒からすると、飛び交う憶測自体に傷ついてしまう:本当のことを知っているけど、それをいうことはできない。みんな勝手なことばかり言って!みたいな)。

こうした「憶測」や「噂」が飛び交うことの最も大きな問題は、児童生徒が「死という情報に触れ続ける」ということにあります。

児童生徒の自殺、特にいじめ被害を発端とした場合には、メディアの反応も大きくなりますが、ある程度のメディアコントロールが重要になってくるのは(実際に芸能人の自殺などでも、長期間の報道はなされない傾向になっていますね)、こうした「死という情報に触れ続ける」ということで、苦しい時の対処法として「死」という選択があると無意識に刷り込まれ、次なる自殺を喚起しやすくしてしまいます。

自殺案件への緊急支援の最も大きな目標は、この「群発自殺」を予防するということになり、そのための具体的方策として「情報の統制」ということが入ってきます。

「情報の統制」と言っても、事実を隠すなどではなく、「その時点で客観的に明らかになっている情報を過不足なく伝達する」ということになります。

こうした「それ以上でもそれ以下でもない、客観的な情報」を伝えることで、憶測や噂の抑制が期待できます。

もちろん、そうした情報を伝える際に、①自分たちにわかっているのはここまでであって、それ以上のことはわからない、②それ以上のことを児童生徒から聞かれた時の対応法、などについても事前に協議しておくことが重要ですね。

自殺案件の場合、上記以外にも遺族の意向を聞かねばならないこともありますので、より複雑にはなりますが、そうした対応を丁寧に行うこと自体が遺族へのケアになることも忘れてはなりません。

というわけで、児童生徒の混乱を予防するためにも、客観的に明らかにできる情報を開示することは大切なことになります。

一般的には、自殺があったこと自体を学級単位や学年単位で伝えることになりますから、その際に学校側が保有しており、かつ、伝えることで問題(特定の児童生徒がショックを受ける、遺族が傷つく等)が生じない情報を伝達していくことになります。

ちなみに、全校集会で自殺の事実を伝えることは少ないのですが、もしもそうする場合には着席させる(倒れる児童生徒がいるかもしれない)などの細かいアドバイスもスクールカウンセラーや緊急支援で入ったカウンセラーが行っていくことになります。

自殺の事実を学級単位や学年単位で伝えることが多いのは、それを伝えた際の児童生徒の反応を担任や副担任が把握しやすいという理由によるものです。

担任や副担任は、他の教員と比較して、普段の児童生徒の様子を把握していることが多いので、児童生徒の変調に気づきやすいものです。

また、そうした「説明を行なった」ということ自体を保護者にも伝達し、家庭に帰ってからの児童生徒の様子を見てもらい、気がかりなことがあれば連絡するよう助言しておくことも大切です。

以上のように、選択肢②は不適切と判断でき、除外することになります。

③ トラウマ反応の予防のため、最初の職員研修において心理的デブリーフィングを実施する。

デブリーフィングとは、元救急隊員であった心理学者のMitchellによって提唱された介入法で、や精神的ショックを経験した人々に対して行われる、急性期(体験後2、3日~数週間)の支援方法のことで、心理的デブリーフィングとも呼ばれます。

デブリーフィングは元来、軍隊用語で「状況報告、事実確認」を意味し、前線から帰還した兵に任務や戦況を質問し、報告させることを指しており、これが転じて、大規模災害や悲惨な死傷事故を目の当たりにした人々が、自身が体験した状況を正しく認識することが、ストレスによって引き起こされている自身の異常反応(不安感、抑うつ感など)が正常な反応なのだと認識することにつながり、ひいては回復へと繋がっていくことを目指して行われていたアプローチです。

デブリーフィングは、被災地で支援にあたったアメリカの消防士が、自分たちに対する支援の必要性を感じて作り上げたものであり、その消防士がわざわざ心理の大学院に入ってデブリーフィングを作ったという経緯から、元々は消防士、警察官、軍人等に対するPTSD予防の早期介入技法でした。

その後、一般の被災者にも適用できるものとして広く知られるようになり、阪神・淡路大震災を契機に日本にも紹介されました。

しかし、21世紀に入った頃から、心理的デブリーフィングがPTSDの予防に有効ではない、あるいはかえって悪化させることがあるという研究が相次いで発表されるようになりました。

デブリーフィングの問題点の一つはタイミングです。

被災直後の安全が確保されていない時期に言語化すること、あるいは他の人の語りを耳にすることにより、トラウマ反応がかえって強化されてしまう可能性が指摘されています。

もう一つの問題点は回数についてです。

PTSDの発症には個人の歴史、その人をとりまく現在の環境が多大な影響を与えますが、だとすれば、1、2回の介入でそれらにアプローチするのは、まず不可能であろうということです。

心理的デブリーフィングについては、その提唱の経緯等を踏まえて対象を限定して行うことで良い効果が得られることもあり得るのでしょうが、現在では一般にトラウマ状況等で行うことは禁忌とされています。

ですから「トラウマ反応の予防のため、最初の職員研修において心理的デブリーフィングを実施する」というのは、現在では行われることはない対応と言えます。

ちなみに、緊急支援で入ったカウンセラーが行う最初の「職員研修」では、学校組織が行う今後の対応や見通し、児童生徒に起こる心身の反応、などについてが多いですね。

児童生徒に起こる心身の反応について伝えるとともに、教職員にも起こりやすい反応を伝え、不調の際にはきちんと管理職に伝えてほしい旨と、管理職からも声かけをする旨を伝えておくことが望ましいです。

こうした緊急事態では、教職員が過覚醒状態になり「自身の不調に気づかない」ということも少なくないので(これは児童生徒にも起こり得る)、周囲からの声かけが行われる可能性があることも伝えておくと、そうした指摘をされた時の不満を避けることができます。

私の場合は、教職員に伝える不調の予兆として「いつもやっていることを、過剰にやってしまう:筋トレをしている人なら、それを普段以上にやってしまう」「細かい事故が増える:車をちょっと擦る、逆方向の電車に乗る」などを伝えることが多いです。

いずれにせよ、トラウマ反応の予防のためにデブリーフィングが行われることはなく、むしろ上記のような「これから起こり得る出来事の見通し」や「そういうことが起こる根拠」を伝えること、すなわちインフォームド・コンセントに該当するようなアプローチが重要になってきます。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、除外することになります。

④ いらいらや食欲不振といった、心身の反応については、特殊な事態における一般的な反応であると児童生徒や関係者に伝える。

緊急支援で入るカウンセラーの役割はいくつかありますが、そのうちの一つとして「重大な事態によって起こり得る心身の反応を伝える」ということがあります。

こうした緊急時に起こり得る心身の反応は、実に多様であり、特定の内容に限定することは不可能です。

そもそも心理的反応というのは個性や経験が反映されることが多いものなので(一度出た反応は反復して出やすい印象があります。そういう意味では、以前の不調の反応を知っておくと良いかもしれません)、「緊急事態ではこういう反応になります」という限定は不可能です。

なので、「重大な事態によって起こり得る心身の反応を伝える」時には、本選択肢のような具体例(いらいらや食欲不振)を挙げつつも、身体・気分・認知などあらゆる面に生じ得ることを伝えておくと良いでしょう。

そして、そうした情報を伝える際に、①こういう事態で何かしらの反応が出るのはおかしいことではないこと、②そうした反応は緊急事態における正常な反応であること、③そのほとんどは安心できる環境で過ごすことで沈静化していくこと、などを伝えることが重要になります。

こういうのは「異常な状況下での正常な反応」と呼ばれたりしますが、そういうことを伝えておくことで、不調を表現しやすくなることが期待できます。

状況によっては、サバイバーズ・ギルトや記念日反応など、特殊な心理反応についても伝えておくことがあり得るでしょうね(専門家として入るのであれば、1年後の同じ日やその周辺、例えば、何かのイベント中の自殺であれば翌年の同じイベント期間中は注意が必要ですね)。

以上のように、選択肢④は適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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