公認心理師 2021-118

緊急一時保護の基準に関する問題です。

過去に出題のある内容であり、こうしたリスクアセスメントに絡む問題は頻出問題と言ってよいでしょう。

問118 緊急一時保護が必要であると児童相談所が判断する基準に該当しないものを1つ選べ。
① 保護者に被虐待歴がある。
② 子どもへの性的虐待の疑いが強い。
③ 子どもに重度の栄養失調が認められる。
④ 保護者が子どもを殺してしまいそうだと訴えている。
⑤ 保護者が暴力を振るうため帰りたくないと子どもが訴えている。

解答のポイント

緊急一時保護の判断基準について把握している。

選択肢の解説

② 子どもへの性的虐待の疑いが強い。
③ 子どもに重度の栄養失調が認められる。
④ 保護者が子どもを殺してしまいそうだと訴えている。
⑤ 保護者が暴力を振るうため帰りたくないと子どもが訴えている。

緊急一時保護の基準については「公認心理師 2018-2」でも出題がありましたね。

厚生労働省のこちらのページにあります。


(解説)
A : ①②③のいずれかで「はい」がある時
  →緊急一時保護の必要性を検討
B:④に該当項目がありかつ⑤にも該当項目があるとき
  →次の虐待が発生しないうちに保護する必要性を検討
C:①~⑤いずれにも該当項目がないが⑥⑦のいずれかで「はい」がある場合
  → 表面化していなくても深刻な虐待が起きている可能性
  → あるいは虐待が深刻化する可能性
  → 虐待リスクを低減するための集中的援助。その見通しによっては一時保護を検討
A~Cのいずれにも該当がなく、⑧のみに「はい」がある場合
  → 家族への継続的・総合的援助が必要。場合によっては、社会的養護のための一時保護の必要性を検討する


本問でポイントになるのは「A : ①②③のいずれかで「はい」がある時→緊急一時保護の必要性を検討」という箇所ですね。

この基準を踏まえて、各選択肢の内容を見ていきましょう。

選択肢⑤の「保護者が暴力を振るうため帰りたくないと子どもが訴えている」というのは、上記の基準の「①当事者が保護を求めている」および「②当事者の訴える状況がさし迫っている」に該当すると言えます。

また、この「当事者」には保護者も含まれていますから、選択肢④の「保護者が子どもを殺してしまいそうだと訴えている」も「②当事者の訴える状況がさし迫っている」に該当すると見なして良いでしょう。

「当事者に保護者も含まれている」という視点の根拠は、以下のアセスメントシートになります。



上記より、当事者には子どもだけでなく保護者も含まれていることがわかると思います。

ですから、選択肢⑤および選択肢④の内容は緊急一時保護の必要性を検討する状況であると言えます。

続いて、選択肢②の「子どもへの性的虐待の疑いが強い」と選択肢③の「子どもに重度の栄養失調が認められる」についてです。

こちらは基準の「③すでに重大な結果がある」に該当することがわかります(アセスメントシートにも明確に記載がありますね)。

ポイントは「疑い」であっても、重大な結果と見なすという点でしょうね。

ちなみに、小学校~中学校では選択肢③の「子どもに重度の栄養失調が認められる」というのは、なかなか起こりません。

小学校~中学校では基本的に給食があるので(完全給食の実施率が100%未満の都道府県もありますが)、なかなか「重度の栄養失調」は生じません。

大切なのは「給食以外の食事を摂れていない」ということが子どもの口から語られていること、そうした事態を傍証するような事実、例えば「給食のおかわりが多く、食べ方がかきこむようである」などがあれば、ネグレクトの可能性が高まると考えられます。

厄介なのが、上記はネグレクトと変わらないのですが「栄養失調」のような重大な結果になっていないので、これだけでは一時保護にならない可能性があるということです。

この辺は制度の問題が大きいように感じますから、何とかしてほしいと個人的には思いますね。

いずれにせよ、ここで挙げた選択肢は緊急一時保護が必要と児童相談所が検討する事態であると言えますね。

よって、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は緊急一時保護が必要であると児童相談所が判断する基準に該当すると判断でき、除外することになります。

① 保護者に被虐待歴がある。

本選択肢の内容はフローチャートの「⑧可能性のある家庭環境」に該当します。

細かい内容としてはアセスメントシート内に「保護者の生育歴:被虐待歴、愛されなかった思い」と記述がありますね。

すなわち、保護者の被虐待歴は「虐待を行う可能性のある家庭環境」に留まると言えます。

確かに虐待事例の保護者の生育歴を振り返ると、保護者自身が虐待を受けていたという事実は少なからず見られます。

研究によっては有意な差が認められていますから、保護者の被虐待歴は虐待を予測する重要な因子であることは間違いありません。

ですが、多くの支援者は「被虐待歴のある人が、虐待をすることなく何とか子育てをしている事例も多く存在する」という事実も知っておく必要があります。

この事実を認識することなく「被虐待歴がある人は虐待をする可能性が高い」と思っていると、クライエントの見立てに偏りや思い込みが入りやすくなります。

重要なのは「被虐待歴」がそのクライエントにとってどのような意味を持つかを個別に考えていくことでしょう。

個人的な基準としては、クライエントが自身の被虐待歴を語れるほど、子どもに対して「されたことをする」ことは少ないように感じます。

言葉にできるレベルというものは「その人の内で対象化できている」とも言えますから、何とかその体験を手のひらの上にのせて転がせる感じがあるのだろうと思います。

もちろん、そうであっても「身体に染み付いているコミュニケーションパターン」は拭えないことがあるので、これについて見立てていくことは大切ですね。

以上のように、被虐待歴は緊急一時保護を検討する要件とは言えません。

よって、選択肢①は緊急一時保護が必要であると児童相談所が判断する基準に該当しないと判断でき、こちらを選択することになります。

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