公認心理師 2018-144

小学校3年生の9歳男児Aの事例に関する問題です。

本事例のような、緊急一時保護にまつわる問題は他にも出ましたね。
リスクアセスメントができることが求められているように感じます。

事例の内容は以下のとおりです。

  • 学校で落ち着きがなく、授業に集中できず離席も多いため、担任教師に勧められて、母親が市の相談センターに連れて来た。
  • 母子家庭できょうだいはない。
  • 3回目の面談には、Aが一人で来所した。
  • Aの顔が赤く腫れ上がっており、公認心理師Bが尋ねると「昨日家でおじさんに殴られた。怖いから家に帰りたくない」と怯えた表情で訴えた。
  • おじさんについて尋ねると、「一緒に住んでいる人」と答えた。
  • よく見ると顔の別の場所や手足に古いあざのようなものが多数あった。

これらを踏まえて、各選択肢の検証を行っていきます。

解答のポイント

Aが緊急一時保護を検討する事例であることがわかる。
Bの社会的立場を踏まえた、取るべき対応を理解していること。

選択肢の解説

『①相談センターの責任者に伝え、センターから市の虐待対応部署に通告する』

本問の判断に必要なのは以下の2点となります。

  1. Aが緊急一時保護を検討する状況にあると判断でき、通告義務が生じることがわかる。
  2. 組織に所属する公認心理師が、虐待通告を行う際の手順を把握していること。

まずは1についてですが、本問では「怖いから家に帰りたくない」とA自身が訴えており、一時保護に向けてのフローチャート問2参照)の「①当事者が保護を求めている」に該当すると捉えることが可能です。

同フローチャートの「②当事者の訴える状況がさし迫っている」というところも「一緒に住んでいる人」という時点で該当すると言えますし、もしも該当しない場合であっても「よく見ると顔の別の場所や手足に古いあざのようなものが多数あった」という点から「③すでに重大な結果がある」には間違いなく該当すると考えられます。

上記より、Aが虐待を受けている可能性が高く、緊急一時保護を検討する事案であることは明確なので、児童虐待防止法第6条の「児童虐待に係る通告」による通告義務が生じます
※児童虐待防止法第6条:児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

続いて2についてですが、Bは公認心理師として市の相談センターに勤めています。
当然、Bの仕事の管理責任が相談センターの責任者には生じます

公認心理師Bはこの点を自覚し、まずは相談センターの責任者に事例の状況を伝え、通告の必要性を共有することが求められます。
そして、あくまでも公認心理師Bからではなく、相談センターから通告をしてもらうという対応が重要です。

あくまでもAと母親も「相談センターに来所した」わけであり、公認心理師B個人のもとを訪れたわけではありません。
すなわち、虐待の通告等の対応も、公認心理師B個人の責任で行うことではなく、相談センター全体の責任で行うべきものと言えます。

子ども虐待対応の手引き」では、学校等から通告があった場合は、「身体的虐待やネグレクト、性的虐待が疑われる場合には、子どもが保育所や学校等に留まっていれば、直ちに訪問して直接目視による安全確認を行い、保育所・学校等で聞き取り調査を行う」とされています。
この点を踏まえれば、組織同士のつながりや連携を前提とした体制が組まれていることは明白であり、個人としてではなく組織として通告を行うことの重要性があると言えます。

以上より、選択肢①の対応は正しいと判断できます。

『②家に帰すことは危険と考え、AをBの家に連れて帰り、母親に連絡を取る』

まずは前半部分の「家に帰すことは危険と考え」という点については適切な判断と言えます。

一方で「AをBの家に連れて帰り」という中盤部分についてはあり得ません
先述したとおり本問の状況では、Aに対する支援の責任はB個人ではなく相談センター全体に生じます
たとえば一人の市民として虐待児童を発見し、家にかくまうということはあり得るとしても(誘拐になってしまう可能性もありますが…)、本問で記載された内容は明らかに異なりますよね。

後半部分の「母親に連絡を取る」については、選択肢⑤で詳しく述べますが、母親に助力を求めることが適切な判断とは言えないと考えられます。
母親が虐待を見て見ぬ振りをしている可能性、共に虐待に加わっている可能性、母親も暴力を受けている可能性などなど、虐待を抑止する機能が低下していると見ることが危機管理上必要な捉え方と言えます。

よって、選択肢②は誤りと言えます。

『③事実の確認が必要と考え、司法面接の技術を用いて、自ら詳細な聞き取りを行う』

司法面接とは、子どもがかかわる事件、事故、虐待事案などにおいて、子ども自身に与える負担を最小限にし、誘導することなく、正確な情報を引き出す面接法です。

子ども(および障害者など社会的弱者)を対象に以下の3つの目的のほか、いくつかの特徴を備えています。

  1. 子どもからの聞き取りが子どもに与える負担をできる限り少なくする。
  2. 子どもから聞き取る話の内容が間違った誘導の結果ではないかという疑念がもたれる可能性をできるだけ排除する。
  3. 子どもの関わった事件が何らかの作為による虚偽の話ではなく実際にあった出来事であるかどうかを検討するための情報を得る。
  • 目的は事実確認であり、心理的ケアとは分けて行われます。
  • 原則として1回のみ実施されますが、これは何度も聞き取りを行うことによる心理的傷つきを避けるためとされています(二次被害の防止)。
  • そのためには正確な記録の作成が重要となるので、録画・録音などを行うことで正確性を担保しています。

司法面接は、もともと米国などで、子どもへの不適切な事情聴取から無罪判決が相次いだことで開発されました。
法務省と最高検が虐待の専門知識を検事に司法面接を学ばせる研修を始め、検事の捜査能力向上に乗り出しています

上記の点を踏まえると選択肢③の内容は、虐待通告後の保護者の虐待の有無を明らかにしていく段階で行われるものです。
司法面接の実施は法律的に定められているわけではありませんが、事実をもって措置をしていかねばならない立場の人間に求められる技術であり、公認心理師Bの立場は異なります。
虐待通告の段階では、「事実確認」よりも「本人からの訴えが事実であった時の危険性」を考慮しつつ対応することが重要であり、公認心理師Bの立場はこちらに属します。

よって、選択肢③は誤りと言えます。

『④怖い気持ちを十分に受け止めた上で、家に帰るように諭して帰宅させ、次回にその後の様子を聞く』

こちらの対応については、Aの状況を虐待と捉えず、その危険性を把握できていないという点で誤りとなります。

Aを「一緒に住んでいるおじさん」の元に返すことの危険性は、問題文で示されている状況を見ると低く見積もることはできません
「次回その後の話を聞く」という対応についても、「次回がある」とする牧歌的な考え方自体に問題があると言えます。

「怖い気持ちを受け止める」ことは重要ですが、同時に危機状態の査定を行うことが大切です。
先述したフローチャートに照らしても、一般的な価値判断に照らしても、Aのおかれた状況は深刻であると判断するに十分です。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤母親に連絡してAが怯えていることを伝え、母親に「おじさん」の暴力を止めてもらうよう依頼する』

こちらの対応を取るときは「母親に「おじさん」の暴力を止める力がある」と見立てられる場合ですが、むしろ、Aがこういった状況に置かれているのは、「母親に「おじさん」の暴力を止める力がない」ためであると考えることが妥当です。
よって、やはり虐待通告するという前提を崩すことはできません

母親が一緒になって暴力を振るっている場合は身体的虐待、「おじさん」に殴られているのを見て見ぬ振りをしているならネグレクトになります。
また、母親もDVを受けている可能性も十分考えられ、むしろ母子そろっての支援が必要になる可能性も検討することが重要です。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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