公認心理師 2022-34

小児科における公認心理師の活動に関する問題です。

個人的には「小児科」に限定されない内容であると考えていますし、多くの人にとっても解きやすい内容だったのではないかなと思います。

問34 小児科における公認心理師の活動の留意点に含まれないものを1つ選べ。
① 家族は心理的支援の対象である。
② 治療すべき身体疾患を見逃さないよう連携を図る。
③ 虐待に関わる証拠の発見収集はもっぱら医師に任せる。
④ 疾患についての治療内容や自然な経過を知るようにする。
⑤ 重篤な疾患の診療で疲弊した医療者を支えることは業務の1つとなる。

関連する過去問

なし

解説のポイント

虐待対応の基本を理解している。

心理支援者としての基本的姿勢を理解している。

選択肢の解説

③ 虐待に関わる証拠の発見収集はもっぱら医師に任せる。

こちらについては2つの観点から解説していきましょう。

まずは法律的な観点からです。

児童虐待防止法第5条の「児童虐待の早期発見等」には以下のように規定があります。


第五条 学校、児童福祉施設、病院、都道府県警察、婦人相談所、教育委員会、配偶者暴力相談支援センターその他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士、警察官、婦人相談員その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。

2 前項に規定する者は、児童虐待の予防その他の児童虐待の防止並びに児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援に関する国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めなければならない。

3 第一項に規定する者は、正当な理由がなく、その職務に関して知り得た児童虐待を受けたと思われる児童に関する秘密を漏らしてはならない。

4 前項の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第二項の規定による国及び地方公共団体の施策に協力するように努める義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。

5 学校及び児童福祉施設は、児童及び保護者に対して、児童虐待の防止のための教育又は啓発に努めなければならない。


まず「小児科で働く公認心理師」が上記の規定に該当するか否かですが、確かに明確に「公認心理師」という記載はないものの「その他児童の福祉に職務上関係のある者」と見なして良いでしょう。

また規定内に「病院」という記載がある以上、そこで働く者には等しくこの規定に該当すると考えるのが妥当です。

ですから、「虐待に関わる証拠の発見収集はもっぱら医師に任せる」という考え方は、①小児科で働く、②公認心理師、といういずれの立場から見ても間違いであることがわかるはずですね。

もう一つの観点は、人として、支援者として、という倫理のお話です(本当はこっちを最初に持ってきた方が良いと思いますが、一応資格試験的な解説を先に行っておきました)。

例えば、目の前に「虐待に関わる証拠」が見られたときに、それでも「医師に任せる」と関わらない態度は、利他の本能・惻隠の情を基盤として他者と関わる支援者(というか人)の在り様として外れたものと言えます。

おそらく上記のようなスタンスでいられる人は、そもそも他者に対する共感性が欠けていると思われ、支援者の基本的な資質自体が疑わしいと言わざるを得ません。

目の前にある事態を「自分が何とかすることだ」と思えることは、倫理的に生きる人の条件であるようにも思います(だからある事柄を提示されたときに「それは私の仕事ではありません」という人は好かんです)。

特に、虐待という事態は職務上の「線引き」の在り様に関わらず、「これは何とかせねばならない事態だ」と考えるのが自然な思考であるべきですね。

更に「(虐待に関わる証拠の)収集」という点についても述べておきましょう。

もちろん、身体を見ることができる医師が最も虐待の証拠を発見しやすいというのは理解できるところです(もちろん、医師は身体だけでなく、心理的虐待の痕跡もやり取りからキャッチすることができますね)。

一方、公認心理師はクライエントの精神的な側面に関わる場合が多いので、身体的な面の証拠は得にくいというのが実態としてあります。

ただ、医師の診察はどちらかというと開放的な部屋で行われており、他の専門職も出入りできるのが自然です。

子どもによっては、こうした状況では話しにくい場合もあり、公認心理師が面接を行うようなクローズドな空間の方が「秘密」を話しやすいという側面もあるでしょう。

それ以外にも男女の違い、職業意識からくるスタンスの違い等、様々な要因が絡み合って「子どもが虐待体験を表現するか否か」は変わってきます。

言い換えれば、医師や公認心理師ではなく、看護師や作業療法士、受付などが「虐待体験を表現する相手」として認定されることもあり得るわけです。

ですから、「(虐待に関わる証拠の)収集」に関しては、誰がそれを行わざるを得ない立場になるかというのは子ども次第という側面があるわけです(もちろん、受付などの非専門家になると困難な場合もあるが、同席してもらうなどの対応を緊急的に行うことだってあり得るわけです。児童虐待という事態は、それほどの緊急事態なわけです)。

よって、「誰が行うか」ではなく、「目の前にあることをやる」というのが本質に近いのではないかなと思うのです。

以上のように、虐待に関わる証拠の発見収集は医師に任せて済む話ではありませんね。

よって、選択肢③が不適切な内容と判断でき、こちらを選択することになります。

① 家族は心理的支援の対象である。

以下の選択肢に関しては、すべて「小児科における公認心理師の活動の留意点に該当する」と言えるわけですが、これらの解説に関しては「私という小児科で働いた経験がない臨床家が」「臨床の一般的な原則やマナーを踏まえて」述べていくことにします。

ですから「小児科という場に独特なルールや原則」に基づく正誤判断の解説ではないと認識しておいてください(多分、それでも問題ないと思うのですけど)。

人間の発達上、0歳から10歳くらいまでは親と子は「精神的に同一」と見なして問題ありません(こんなこと言うと、幼い子どもに個人の権利を~とか言う人がいるかもしれませんが、子どもの発達を踏まえればそれが事実なんだから仕方ない)。

例えば、親が「〇〇やってみる?」と習い事を誘えば、上記の年齢であれば「やりたい!」と言います。

これを「子どもが親に忖度している」と見なすのは誤りであり、親がしてほしいと思うことを子どもがしたいと思うのが自然な年齢なんです。

ですから、その年齢の子どもに関しては「家族への支援がそのまま子どもに強く影響を及ぼす」ということができます。

子どもの問題が身体的なものであれ精神的なものであれ、また、親が直接子どもの問題にアプローチできようができまいが、「親を支援し、その結果、親が精神的に安定する」のであれば、それは少なくとも子どもの精神的安定にはつながると言えます。

そして「10歳を超えるような年齢」になったとしても(一応、小児科で見られるのを18歳くらいまでと考えて。高校生以降は「それ以前から診ている患者でなければ、新規では受けない」という病院も多いと思いますが)、家族支援には意義があります。

この年齢になると「精神的には同一」ではなくなりますが(つまり、別の人格・価値観を持つ別の人間同士という関係になる)、それでも「居を同じくしていることによって生じる影響」があります。

それは「外部に居場所を作りにくい」ということです。

これには異論もある人もいるでしょうが、どうしても「居を同じくする」「自分だけで行動範囲を広げにくい」などの条件があることで外部に居場所を作りにくくなります(逃げ場は作れますけどね)。

このことは「居場所論」の知見が主に大学臨床の中から示されていることが傍証になるのではないでしょうか(もちろん、例外はいくらでもあるでしょう。でも「逃げ場」になっているのを「居場所」と読み違えている人が多い気がします。家庭の居心地が良くても外に「居場所」を作れるかどうかが大切です)。

さて、何が言いたいのかというと10歳を超え、親とは異なる人格になったとしても、やはり家庭が本人にとって唯一の「居場所」である割合が高いということなんです。

その「居場所」の中で、家族がどのように振る舞うか、関わるかについては、身体・精神の疾患を問わず大切なことになりますし、家族を支えて得られる安心感がやはり重要になってくるのは肌感覚でわかる人も多いはずですね。

また身体疾患であれば、家族が本人に何か処置を行わねばならないこともあり得ますから、そうした場合の「やり方」や「不安」についても確認したりやり取りする場として、家族支援の場が用いられることもあるでしょうね。

以上より、私個人としては小児科に限らず、あらゆる疾患において公認心理師の活動として家族は支援対象であると見なして良いと思っています(個人的な意見を述べる場ではないかもしれませんけど)。

よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

② 治療すべき身体疾患を見逃さないよう連携を図る。

こちらは小児科に限らず重要なことになります。

見立ての順序として「外因→内因→心因」というのが定石であり、外因は身体をはじめとした明確な原因・要因によって生じている場合を指します(内因が統合失調症やうつ病、心因がそれ以外の心理的要因によって生じている問題を指します)。

公認心理師という立場上、どうしても心因に関する学びや知見に触れることが多いため、心因を最優先に見てしまいがちですが、上記の順番で見ていくのが「心理支援に携わる公認心理師」であろうが定石になります。

特に心理臨床の古くからの格言(?)として、「心理的問題に見える事例ほど身体的問題であることが多く、身体的問題に見える事例ほど心理的問題である」というのがあります。

ですから、公認心理師という心理的支援に携わる支援者であっても、やはり身体疾患の存在は常に念頭に置いておくことが求められますね。

私の立場では「治療すべき身体疾患」が何を指しているのか明示することはできませんが、「心理的要因によって起こっているように見えるが、身体的な問題が原因だった」という事態(簡単に言えば見立ての間違い)にならないよう、心理的問題よりも優先して取り掛かるべき身体疾患の存在を認識できるようにしておくことが大切であるというのは一般論としても言えるはずですね。

もちろん、あらゆる身体疾患を把握することは困難なので、選択肢にもあるように「連携を図る」ことでその存在を認識できるようにしておくことが大切です。

なお、「身体疾患の存在を察知する」ためにできることは何も「身体疾患について知る」だけではありません。

心理的要因によって起こる問題の仕組みを正しく理解していれば、目の前の子どもが示している問題の中身やニュアンスが「これは心理的問題では起こらない」「見た目は似ているけど、ニュアンスが異なる」と認識できるはずです。

例えば、「痩せていく」という状態になると真っ先に摂食関連の問題を思い浮かべる人も多いでしょうが、その人が「むしろしっかりと食べている」ということが確認できたとき(には、甲状腺機能の問題を思い浮かべることもあり得るはずですもちろん、他にもいろいろ聴取したり観察はしますけどね。甲状腺の問題であれば「目の感じ」がちょっと違ったりします)。

ですから、その辺から「身体的疾患」の可能性を察知して、連携を取って確かめていくという手順が大切になりますね。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

④ 疾患についての治療内容や自然な経過を知るようにする。

こちらは選択肢②との関連でも理解しやすいだろうと思います。

どのような治療が行われており、それによって何が起こるのか、その疾患の一般的な経過を把握しておくことは支援をする上でも、選択肢①の家族支援を行う上でも大切になってきます。

身体疾患であれば、どのような経過を辿り(難治や致死性のものであれば、それも含めて)、その中でどのような心理状態になりやすいのかといったことを事前に知っておくことで、支援の内容が疾患の治療~スピリチュアルなテーマまで幅広く生じ得ることを予見できるわけです。

特に心理支援という立場で重要なのが「一般社会の価値観から照らしたらマイナスな言動が、心理的問題の改善の経過で生じることがある」という事態を理解しておくことです。

例えば、神経性無食欲症のクライエントであれば、経過の中で万引きや親の財布からお金を盗るということが生じる事例もあり得ますが、これが100%ネガティブとは言い切れない面もあります(その辺の仕組みを話す場ではないので、それはまた別の場があれば)。

また、不登校児であれば、大人しかった子どもが親に反抗的になっていくのが改善の兆しとなる場合もあり得ます(最近はそういう事例は減ってきました。むしろ、「自分の快不快で物事の良し悪しを判断していいと勘違いしている子ども」が増えてきているので、対応を10年前の不登校対応とは変えていく必要が出てきている昨今です)。

こうした心理的問題の経過・改善の流れを知っておくことで、事前にそれを保護者に伝える等の対応をして、面接継続の妨げにならないようにアプローチしていくことも予防的に行うことができます。

以上のように、疾患についての治療内容や自然な経過を知るようにすることは、大切なことであると言えますね。

よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 重篤な疾患の診療で疲弊した医療者を支えることは業務の1つとなる。

ホスピスには多くのボランティアの人が出入りしています。

理由は様々でしょうが、その中の一つとして「多くの人同士で支え合う」ということがあると思います。

人の死を体験するということはそれほどに堪えるものであり、そうした人同士が支え合うという体験は不可欠です(仏教の49日、100日、1周忌、3周忌などは、それぞれ人の疲れが出やすいタイミングで設定されています。その時に法要としてみんなが集まって支え合おうというのが、そもそもの仕組みとしてあるわけです)。

これは、本選択肢の「重篤な疾患の診療」をする医療者にも言えることだろうと思います。

治りにくい、変化が見えない、死に向かっている場合がほとんどであるなど、重篤な疾患の診療はどうしても患者の苦しみと共に在る形にならざるを得ないのではないかと思うんです(苦しみと共にという点は全般として言えることでしょうが、改善が難しい場合にはその意味がより重くなってくるでしょう)。

こうした医療者の心理的サポートも、小児科に所属する公認心理師の活動の一つと言ってよいでしょう。

もしかすると、「公認心理師 2021-116」の災害支援者へのストレス対策や「公認心理師 2021-143」で示された二次的PTSDの知見なども役立つかもしれないですね。

もちろん、公認心理師自身が参ってしまわないような仕組み(SVや仲間内の研修など)も大切になってくるでしょうね。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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