公認心理師 2022-32

オレキシン受容体拮抗薬の副作用に関する問題です。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などの副作用を把握しておくことが大切ですね。

問32 睡眠薬として用いられるオレキシン受容体拮抗薬の副作用として、頻度が高いものを1つ選べ。
① 依存
② 傾眠
③ 呼吸抑制
④ 前向性健忘
⑤ 反跳性不眠

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解答のポイント

睡眠薬の種類とそれぞれの副作用について把握している。

選択肢の解説

① 依存
③ 呼吸抑制
④ 前向性健忘
⑤ 反跳性不眠

これらはベンゾジアゼピン系薬物の催眠剤としての特徴になりますね。

日本で承認されている主な睡眠薬はバルビツール酸系睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作用薬、メラトニン受容体作用薬、オレキシン受容体拮抗薬などがありますが、バルビツール酸系睡眠薬は耐性や依存などの問題から現在はほとんど使用されておらず、ベンゾジアゼピン系薬が処方の主流となっています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、その作用時間から、超短時間型(半減期4時間以内)、短時間型(半減期6~10時間)、中間型(半減期20~30時間)、長時間型(半減期30時間以上)に分類されます。

ちなみに「半減期」とは、薬を飲んでから血中濃度が半分になるまでの時間のことを指します。

不眠症には「入眠障害型(布団に入って寝付くまで30分以上かかる)」「熟眠障害型(睡眠時間を取ったのに、熟睡したという感じがしない)」「早朝覚醒型(早い時間に目を覚ます)」「中途覚醒型(夜中に何度も目が覚めて、一度目が覚めるとなかなか眠れない)」などのように様々なタイプがありますので、それも踏まえつつ睡眠薬の作用時間も考えていくことになります。

睡眠薬の副作用に関しては、以下のようなものがあります。

  1. 持ち越し効果
    睡眠薬の効果が翌朝以降も持続するために、日中の眠気、ふらつき、脱力、頭痛、倦怠感などが生じます。中・長時間型薬剤投与後、ないし高齢者への投与時に生じやすいとされています。日本で現在半減期の短いω1受容体作動性薬剤が主流になっている理由は、この副作用が生じにくい点が大きいと考えられています。
  2. 記憶障害
    前向性健忘で、摂取後入眠前、中途覚醒時の記憶が障害されることが多いとされています。このような状態になるのは、睡眠薬が中途半端な覚醒状態にしてしまうことで、海馬を中心とした記憶に関する脳の機能が低下してしまうためと考えられています。総じて用量依存性に発現しますが、催眠効果が強く作用時間の短いものに多いです。アルコールとの併用も発現リスクを高めます。
  3. 反跳性不眠
    薬剤服用中断後、数日間にわたって投与開始前よりも不眠症状が強くなることがあります。睡眠薬は長期間服用していると身体が慣れてしまい、その結果として薬剤の効果は薄れているのに、薬剤を減らすと不眠が強まってしまうことがあるのです。このような状態を反跳性不眠といい、睡眠薬の離脱症状とも言えます。顕著な場合には、不安、焦燥、発汗、せん妄、けいれんなどが生じることもあります。
  4. 依存形成
    臨床常用量の範囲内でも長期服用するうちに身体依存が形成され、反跳性不眠や自律神経症状などの退薬症状が生じることから、常用量依存が形成されることが問題視されています。その危険因子として、長期間投与、多剤併用、アルコールとの併用、作用時間が短いこと、抗不安作用が強いこと、他の薬剤依存の既往歴などが挙げられています。
  5. 筋弛緩作用および認知機能への影響
    筋弛緩作用は、作用時間の短いω2受容体作動性薬剤で生じやすく、高齢者ではふらつき・転倒の原因になります。この点でも、ω1受容体作動性薬剤の方が有利と言えます。筋弛緩作用が強い薬剤の場合、睡眠中にのどの筋肉が弛緩して気道を狭めてしまい、呼吸が抑制されることがあり、睡眠時無呼吸が悪化してしまう恐れがあります(いびきが強くなった場合には注意が必要)。若年であれば、薬の効果が効きすぎることはあまりありませんが、高齢者の場合、気づかない間に薬剤の解毒作用が弱くなり予定している以上に薬の効果が長引いたり、強くなりすぎたりするので処方が適さない場合も多いです。
    睡眠薬長期使用中に認知機能低下が生じるという報告もなされていますが、その因果関係は明確なものではありません。
  6. 奇異反応
    睡眠薬投与後に、かえって不安、緊張が高まり興奮や攻撃性が募り、時に錯乱状態になることがあります。基盤に精神疾患を有する場合、高用量投与の場合、アルコールとの併用時などに生じます。実際に不眠に関する支援にあたる場合は、こうした副作用を理解したうえで、睡眠に関する心理教育等を行っていくことになります。

上記の通り、依存、呼吸抑制、前向性健忘、反跳性不眠はベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用として挙げられています。

なお、呼吸抑制に関してはベンゾジアゼピン系睡眠薬でも生じ得るのですが、歴史的にはバルビツール酸系薬がより出現頻度が高いとされています。

バルビツール酸系薬は過去に汎用されていましたが、依存性が生じやすく、過量服用によって昏睡や呼吸抑制などの急性中毒を起こすなどの副作用があります。

従って、最近はバルビツール酸系薬睡眠薬としては使用されず、主に抗痙攣薬や静脈麻酔薬として用いられています。

もしかすると選択肢③の「呼吸抑制」はバルビツール酸系薬の副作用として出題されている可能性がありますが、呼吸抑制自体はベンゾジアゼピン系睡眠薬でも生じ得るので上記の解説で問題ないでしょう。

以上より、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤はオレキシン受容体拮抗薬の副作用として頻度が高いとは言えないと判断できます。

② 傾眠

上記にも書きましたが、日本で承認されている主な睡眠薬はバルビツール酸系睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作用薬、メラトニン受容体作用薬、オレキシン受容体拮抗薬などがあります。

ベンゾジアゼピン受容体に作用しない新しい作用機序を有するメラトニン受容体作動薬が2014年に、オレキシン受容体拮抗薬が2015年に国内販売が新たに開始され、処方頻度も年々増加しています

ベンゾジアゼピン系睡眠薬およびバルビツール酸系睡眠薬については触れましたので、メラトニン受容体作用薬と本問で求められているオレキシン受容体拮抗薬について述べていくことにしましょう。

メラトニンは松果体ホルモンで、概日リズムの調整に重要な役割を持つと考えられています。

松果体におけるメラトニン合成には顕著なサーカディアンリズムが認められ、昼行性夜行性を問わず夜間に合成が亢進します。

光入力経路はサーカディアンリズムの光同調経路と共通しており、網膜から入った光情報は網膜視床下部路、視交叉上核を経由して交感神経系に入り、松果体細胞に達します。

明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます。

この経路は形態視を司る視神経から独立しており、完全盲の人でも眼球が保存されている場合には、メラトニン合成が光によって抑制されることがわかっています。

光によるメラトニン抑制反応は、ヒトでは500ルックス以上の光で生じるとされています。

要するに、夜に暗くなると、脳の松果体からメラトニンが分泌されて眠りを誘発することになるわけですが、メラトニン受容体作動薬は主に老化などでメラトニンが減少し、それを補うために用いられることが多いです。

メラトニン受容体作動薬は入眠困難の改善に有効とされてはいますが、一般的にメラトニンの催眠作用は弱く、寝る前に服用しても寝つきは若干良くなるものの、不眠症の改善効果は乏しいことが分かっています(ですから、老化でメラトニンが減少するなどの状態で処方されることが多い)。

良いところとして、自然な睡眠を誘発することが期待されている点や、抗不安作用や筋弛緩作用がほとんど見られない点が挙げられますね。

メラトニン受容体作動薬の副作用としては、傾眠(4.2%)、頭痛(2.6 %)、胃腸障害(1.3%)、肝機能異常(1.0%)などが挙げられていますね(メラトベルの承認時の数字です)。

続いて、本問で問われているオレキシン受容体拮抗薬の副作用についてです。

オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体(オレキシン1およびオレキシン2)への結合を競合的に阻害することで、過剰な覚醒状態を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へと移行させる生理的なプロセスをもたらします。

ちょっとわかりにくいので、もう少し簡単に述べてみましょう。

オレキシンは覚醒を維持する脳の物質(目覚ましホルモンと呼ばれている)で、食事を摂るとオレキシンが減少するため眠くなります(私は食事を摂ると必ず眠くなりカウンセリングに影響が大きいので昼ご飯は食べないようにしています。その分朝ご飯はたくさん食べます。1日2食生活ですね)。

この食後に眠くなる仕組みと同じ作用をもたらすのが、オレキシン受容体拮抗薬になります。

脳の覚醒を促進するオレキシンの受容体を阻害することで、脳を睡眠状態へ移行させ睡眠障害を改善する薬がオレキシン受容体拮抗薬になります。

入眠効果と睡眠維持効果があり、認知機能テストによる評価でも持ち越されないことが示されています。

また、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べ耐性や依存性が少ないとされています。

なお、オレキシン受容体ノックアウトマウス(オレキシン受容体に問題のあるマウスだと思っといてください)はナルコレプシーになりますが、ナルコレプシー犬ではオレキシン受容体の変異が見つかっています。

このため、ナルコレプシーの原因はオレキシンが視床下部で不足しているためと考えられています(ナルコレプシー患者の脳脊髄液を検査すると、9割以上の症例でオレキシンの量が測定できないほど低下しています。死後に脳を調べるとオレキシンを産生する神経細胞が消失しています)。

ナルコレプシーは、睡眠と覚醒の切り替えが非常に不安定な状態と言え、オレキシンは言わば覚醒状態を安定化する(=睡眠に移行することを防ぐ)働きをもっていると考えられています。

オレキシン受容体拮抗薬の副作用としては、①傾眠、②めまい、③疲労、④悪夢を見る、⑤頭痛などが挙げられています。

「睡眠薬だから傾眠は良いじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、そもそも傾眠とは「うとうと浅く眠っている状態を指しており、肩を叩くなどの軽い刺激で意識を取り戻すレベル」のことを指しますから、一概に良いとは言えないのがわかると思います。

オレキシン受容体拮抗薬では深い睡眠になりにくく、レム睡眠が増えるために夢が多くなる(悪夢が多いというのも副作用の一つですね)などと併せて、傾眠という副作用が生じやすくなるわけですね。

よって、選択肢②がオレキシン受容体拮抗薬の副作用として頻度が高いと判断できます。

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