公認心理師 2021-105

依存を生じやすい薬剤を選択する問題です。

本問は薬剤の副作用に関する問題であり、その薬剤の副作用の中でも特に「依存」を生じさせるものを把握していることが求められています。

ですから、学ぶ上では各薬剤の副作用を把握するということが重要になるわけです。

問105 依存を生じやすい薬剤として、適切なものを1つ選べ。
① 抗認知症薬
② 抗てんかん薬
③ 三環系抗うつ薬
④ 非定型抗精神病薬
⑤ ベンゾジアゼピン系抗不安薬

解答のポイント

各薬剤の副作用を把握している。

選択肢の解説

① 抗認知症薬

抗認知症薬は、認知症症状の進行は抑制するが、病態そのものの進行(神経の脱落、変性)を抑えることはできません。

現時点において日本では、以下の4つの抗認知症薬が用いられています。

それぞれの特徴等をまとめてみましょう。

薬物(薬品名:商品名)期待できる効果注意事項副作用
ドネペジル:アリセプト記憶障害の緩和不整脈など⼼臓疾患を合併している場合には使用不可吐き気・嘔吐・⾷欲不振・下痢・興奮
リバスチグミン:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ記憶障害の緩和心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんのある人などは慎重投与かゆみ・発疹・胸の痛み・頭痛
ガランタミン:レミニール記憶障害や⾒当識障害を抑制心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんのある人は慎重投与吐き気・嘔吐
メマンチン:メマリー中核症状の緩和腎臓の悪い人は慎重投与めまい・便秘・意欲低下

各薬物に関して説明を加えておきましょう。

  • ドネペジル:①偽性コリンエステラーゼに比べて、真正コリンエステラーゼ(アセチルコリンエステラーゼ:AChE)を選択的かつ可逆的・非競合的に阻害し、脳内アセチルコリン含量を増加させて抗アルツハイマー病効果を示す。②脳移行性と持続性に優れ、比較的選択的に脳内AChEを阻害する。③レビー小体型認知症にも適用。
  • リバスチグミン:①初の経皮吸収型製剤。②コリンエステラーゼを擬非可逆的・競合的に阻害する。
  • ガランタミン:①AChEを選択的・可逆的・競合的に阻害する。②ニコチン受容体アロステリック部位に結合し、アセチルコリンの作用を増強する。③神経細胞保護作用を示す。
  • メマンチン:①過剰なグルタミン酸による記憶・学習障害を改善する。②生理的な強いNMDA受容体活性化時には、メマンチンは受容体から解離するため、神経伝達の長期増強には影響を及ぼさない。

以上のように、抗認知症薬の特徴等を挙げましたが、副作用の中に依存は無いことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 抗てんかん薬

てんかんは、周期的かつ予期せずに起こる発作であり、痙攣・意識障害・自律神経系反応を主症状とする脳機能障害です。

てんかんの発生機構は明らかではありませんが、大脳皮質内の高頻度放電する焦点部位ができ、そこで異常興奮が大脳皮質の他の部位へ広がるために発作が起こると考えられています。

従って、てんかんは、焦点性に起こる部分発作と、大脳量半球に興奮が広がった全般発作に分けられます。

【部分発作】

  • 単純部分発作:意識あり。興奮の起こる部位によって運動性、知覚性、自律神経性、精神性の症状などが現れる。
  • 複雑部分発作:意識混濁に様々な部分発作症状が加わる(側頭葉てんかんや自動症など)。
  • 続発性全般発作:単純部分発作・複雑部分発作から始まり、二次的に全般発作に進展する(ジャクソン発作など)。

【全般発作】

  • 欠神発作:短時間の意識消失。軽い間代性痙攣を伴う場合あり。
  • ミオクローヌス発作:意識あり。全身または躯幹・四肢の突然の瞬間的な痙攣。
  • 脱力発作:意識消失と筋緊張低下が同時に起こって倒れこむ(小児の点頭てんかんなど)。
  • 強直間代発作(大発作):意識消失。全般性の強直性痙攣から間代性痙攣に移行。

また、てんかん発作が繰り返し起こり、発作と発作の間に意識が十分に回復しない状態を「てんかん重積症」と呼び、種々のてんかん発作で起こり得るが、特に大発作の重積状態が続くと、脳の低酸素による後遺症や生命の危険が伴います。

抗てんかん薬の治療では、原因ではなく発作型に基づいて薬剤を選択する必要があります。

抗てんかん薬による治療は対症療法であり、長期投薬の場合が多く、副作用に注意が必要になります。

副作用としては、肝・腎機能障害、血液障害、皮膚症状、過敏症(紅斑、リンパ球増多、光過敏)、催奇形性などが注意を要します。

抗てんかん薬は上記の通り、基本的に長期投与になりますが、それは依存によるものではなく、てんかんという問題の特徴によるものと見なすのが正しいです。

以上より、抗てんかん薬では依存は生じないとされています。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 三環系抗うつ薬

抗うつ薬は、中枢神経系のモノアミンのシナプス間隙濃度を高めることによって、うつ症状を徐々に改善する効果があります。

一般に、抗うつ薬効果の発現には投薬後1週間以上要するものが多いことから、シナプス間隙のモノアミン濃度の上昇が直接抗うつ効果に結びつくのではなく、シナプス部におけるモノアミンの増加が受容体の脱感作や受容体数の低下を引き起こすことによって抗うつ効果がもたらされると考えられています。

抗うつ薬は第一世代~第五世代までありますが、概観としては以下の通りです。

  • 第一世代(三環系抗うつ薬):効果は確実だが、抗コリン作用、心毒性あり。
  • 第二世代(四環系抗うつ薬など):第一世代より効果はやや劣るが、効果発現の速い薬物もある。
  • 第三世代(SSRI):第二世代より効果はやや弱く発現も遅いが、うつ以外の適応を持つ。抗コリン作用は弱く、心毒性も極めて弱いが、悪心が多い。
  • 第四世代(SNRI):第一世代に匹敵する効果があり、作用発言も速く、広い作用スペクトラムを持つ。抗コリン作用、悪心も少なく、心毒性も極めて弱い。循環器系副作用(頻脈、動悸、血圧上昇)に注意。
  • 第五世代(NaSSA):強力な抗うつ効果で作用発現が速い。性機能障害・胃腸症状は出現しにくい。眠気・体重増加の副作用。

本選択肢の「三環系抗うつ薬」とは、上記の第一世代~第二世代にまたがるもので、作用機序としては、神経終末へのノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害となります。

三環系抗うつ薬の副作用としては…

  • D2遮断:錐体外路障害、悪性症候群、高プロラクチン血症
  • H1遮断:眠気
  • α1遮断:起立性低血圧、反射性頻脈
  • 抗コリン:眼圧上昇、口喝、便秘、麻痺性イレウス、排尿困難(残尿症に用いられる)
  • セロトニン症候群(精神症状:不安になる、混乱する、いらいらする、興奮する、動き回るなど、神経・筋症状:手足が勝手にぴくぴく動く、震える、体が固くなるなど、自律神経症状:汗をかく、熱がでる、下痢になる、脈が速くなるなど)
  • 無顆粒球症(他に原因がなく、疑わしい医薬品が最近投与され、 その医薬品の中止により顆粒球数の回復がみられるもの)
  • 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(特定の不適切な状況下での下垂体による抗利尿ホルモン(バソプレシン)の放出量が多すぎることで発生し、これにより体液が保持され、ナトリウムの濃度が希釈されて低下する)

…などが挙げられます。

他にも四環系であれば悪性症候群、無顆粒球症、インフルエンザ様症状、抗コリン作用が、SSRIやSNRIではセロトニン症候群や悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群などが副作用として生じるとされています。

以上のように、三環系抗うつ薬の副作用には依存はないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 非定型抗精神病薬

統合失調症は、思考障害や陽性症状(幻覚・妄想、興奮など)と陰性症状(感情鈍麻、意欲減退、自閉・昏迷など)・人格の崩壊などの症状を特徴とする症候群であり、その治療においては抗精神病薬が大きな役割を果たします。

上記に「陽性症状・陰性症状」という大きな分け方がありますが、本選択肢の「非定型抗精神病薬」は主に陰性症状の改善に(正確には陰性症状と陽性症状の両方に作用するように作られている)、そして「定型抗精神病薬」は主に陽性症状の改善に寄与する薬剤となっています。

陽性症状ですが、これは大脳皮質・辺縁系を支配するドパミン作動性神経の過剰活動が症状の発現を促進すると考えられており、定型抗精神病薬のもつドパミンD2受容体遮断作用の強さと陽性症状改善作用とがよく相関します。

一方、陰性症状改善作用は、ドパミンD2受容体遮断作用の強さと相関せず、セロトニン5-HT2受容体遮断作用と陰性症状改善作用との関連が示されています。

従って、陽性症状と陰性症状を共に改善する抗精神病薬として、D2受容体と5-HT2受容体の両方を遮断する薬物が開発されています(非定型抗精神病薬)。

まずここではドパミンD2受容体遮断薬の副作用を挙げておきましょう。

  • 錐体外路症状:主なものとしては、パーキンソニズム、急性ジストニア、急性アカシジア、遅発性ジスキネジア。
  • 悪性症候群:視床下部・大脳基底核での急激なドパミン受容体遮断によって起こる。発熱、意識障害、筋強剛を主要症状とする悪性高熱症と類似の症候群で致死的。
  • プロラクチン分泌増加:乳汁分泌亢進・女性化乳房。脳下垂体前葉のドパミンD2受容体遮断。
  • その他:
    ①α1受容体遮断作用:降圧・起立性低血圧誘発
    ②抗コリン作用:口喝・便秘誘発、錐体外路障害の副作用軽減
    ③抗ヒスタミン作用:眠気、鎮静作用
    ④他の中枢抑制薬の作用を相乗的に増強
    ⑤痙攣閾値の低下(てんかん誘発)

非定型抗精神病薬では、錐体外路症状が少ないのが特徴です。

ただし、それでも錐体外路症状、プロラクチンの上昇、眠気、口の渇き、心電図の変化などの副作用が出る場合があります。

非定型抗精神病薬のオランザピンやフマル酸クエチアピンなどは、他の薬と比べて体重増加をもたらす可能性が高い薬とされています(はっきりとしたことは分かっていませんが、食欲増進、活動低下による運動不足や食べすぎが原因と考えられている)。

肥満は糖尿病などの生活習慣病を招き、心臓にも負担がかかります。

特に血糖値が高くなると糖尿病性昏睡やケトアシドーシス(だるい、脱力感、吐き気などの糖尿病の症状)がみられることもありますので、定期的に血糖値をチェックする必要があります。

著しく体重が増えた場合は、薬を変更したり、合併症を防ぐための生活指導を行ったりします。

このように非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬ほど副作用は生じないとされていますが、やはり類似の副作用(錐体外路症状など)がみられることはありますし、体重増加がみられることもあります。

出現する副作用に応じて、使用する薬剤を変える等の対応をしていくこともありますね。

上記の通り、非定型抗精神病薬の副作用に依存は含まれていませんね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ ベンゾジアゼピン系抗不安薬

抗不安薬は、不安・焦燥・恐怖・興奮を取り除くために用いる薬物群であり、ベンゾジアゼピン系が代表的です。

ベンゾジアゼピン系薬物は、神経症・心身症・不眠症・アルコール中毒からの離脱や予防に用いられ、個々の薬物の特徴によって、抗不安薬、催眠・鎮静薬、筋弛緩薬、抗てんかん薬などとして使い分けられています。

一般的特徴は以下の通りです。

  1. 作用機序:Cl-チャネル内蔵型GABA受容体機能促進による神経活動の抑制
  2. 適用:神経症(不安・焦燥、抑うつ、不眠など)、心身症(消化性潰瘍や過敏大腸症など身体症状を伴う神経症)、その他(アルコール中毒からの離脱や予防)
  3. 抗不安作用:
    ①大脳辺縁系や視床下部を抑制→葛藤軽減作用(動物に報酬と罰を同時に与えたときの葛藤を軽減)、馴化作用(闘争的な動物を馴れさせる)
    ②抗精神病薬のように行動そのものを抑制することは無い
  4. 催眠作用:大脳辺縁系を抑制して催眠・鎮静作用を示す。また、抗不安作用によって二次的に催眠作用を示す。
  5. 中枢性筋弛緩作用:脊髄多シナプス反射抑制。単シナプス反射は抑制しにくい。
  6. 抗てんかん作用:てんかん焦点部位からの興奮の広がりを抑制。
  7. 副作用:眠気、運動失調、健忘など
  8. 依存性・耐性:身体依存、精神依存、耐性共に強い。投与中止によってけいれん発作を伴う禁断症状が現れる場合あり。
  9. 薬物相互作用:CYP3A4で代謝される薬物が多く、CYP3A4阻害薬で作用増強。
  10. 禁忌:急性狭隅角緑内障(抗コリン作用による)、重症筋無力症(筋弛緩作用による)
  11. 解毒薬:ベンゾジアゼピン拮抗薬が過度の鎮静・呼吸抑制に拮抗。

上記の中に、依存性が示されていることがわかりますね。

更に副作用を分けて解説していきましょう。

【一般的副作用】

最も高頻度に見られるのは、眠気であり、以下ふらつき、歩行失調、めまい、脱力感、倦怠感、易疲労感などが続きます。

これはベンゾジアゼピン系のもつ鎮静作用や骨格筋の弛緩作用が過度に現れたものであり、治療初期(特に投薬1日目)や老人、小児、病弱者に多いとされています。

抗不安薬では抗精神病薬や抗うつ薬と異なり、錐体外路症状や自律神経症状など重篤な副作用が見られないのが通常です。

【中枢神経系・血管系・呼吸器系】

抗不安薬投与によりかえって不安が増強されたり、不眠、精神運動興奮、敵意の増強、憤怒、抑うつ、自殺念慮、せん妄などの急性中毒性精神病像が出現する場合があります。

このような薬剤に本来期待される薬理学的効果と全く反対の効果が現れることを「奇異反応(逆説反応)」と呼びます。

また、静脈注射により2時間ないしそれ以上の前向性健忘が生じることがあるが、麻酔の前投薬としては望ましいが他の場合には副作用となります。

他の効力の強い抗不安薬でも一過性の健忘症状が見られるとされています。

静脈注射により低血圧が見られることがあるが、静脈注射を緩徐に行うことにより防ぐことが可能です。

また、全てのベンゾジアゼピン系で呼吸抑制の可能性があるとされています。

【抗不安薬依存】

ベンゾジアゼピン系は、臨床用量の範囲であっても長期に服用すると「身体依存」が形成されるため、ベンゾジアゼピン系の長期投与は例外的になっています。

ちなみに、乱用薬物としてよく使われる順に、エチゾラム(デパス)、フルニトラゼパム(サイレース等)、トリアゾラム(ハルシオン)、ゾルピデム(マイスリー)となっています。

また上記以外にも、妊娠・出産への影響なども指摘されております。

このようにベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存を生じさせやすいとされています。

この点に関しては、過去問で何度も出題されていますね。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

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