公認心理師 2022-108

向精神薬の抗コリン作用によって生じる副作用を選択する問題です。

不正解となる選択肢も含めて考えると、抗精神病薬の副作用を把握しておくことが大切であると言えます。

問108 向精神薬の抗コリン作用によって生じる副作用として、適切なものを1つ選べ。
① 下痢
② 口渇
③ 高血糖
④ 眼球上転
⑤ 手指振戦

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解答のポイント

向精神薬、特に抗精神病薬の副作用を理解している。

選択肢の解説

① 下痢
② 口渇
③ 高血糖
④ 眼球上転
⑤ 手指振戦

これらは抗精神病薬による副作用を集めた選択肢になっています。

具体的には以下の表を見てみるとわかりやすいです。

このように、本問の選択肢のいずれもが抗精神病薬による副作用としてあり得るものですが、どういった作用によるかで弁別することが可能です。

本問の「抗コリン作用によって生じる副作用」に関しては、選択肢②の口喝が示されていますね。

また、選択肢①に「下痢」とありますが、正しくは「便秘」であることがわかります。

こうした抗コリン正副作用に関しては、対症療法が中心であり、口喝に対するうがいの推奨、便秘に対する緩下薬の投与、尿閉に対するジスチグミンなどコリンエステラーゼ阻害薬の投与などがあります。

症状が重度の場合には原因薬剤の減量や中止、変更を要します。

重篤な腸閉塞では、イレウス管の挿入などが必要となります。

選択肢③の高血糖については、内分泌・代謝障害の耐糖能異常として生じ得ます。

作用機序は不明ですが、抗精神病薬によりインスリン抵抗性が増大し耐糖能異常が生じると考えられています。

症状は口喝、多飲、多尿などであり、オランザピンやクロザピンに関する報告が多いです。

日本でもオランザピンおよびクエチアピンによる高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡の症例(死亡例含む)が報告され、糖尿病患者への両薬物の投与は禁忌とされました。

対策は定期的な血糖値の測定、原因薬物の中止、経口糖尿病薬の投与などがあります。

選択肢④の「眼球上転」については、錐体外路症状の一つである急性ジストニアで生じることがあるとされています。

後シナプスドパミン受容体の遮断に反応して前シナプスからドパミン放出が亢進し、それが受容体遮断作用を上回る結果、急性ジストニアが起こると考えられています。

若年男性に最も多く見られ、頸部後屈や斜頸、開口障害、嚥下障害、眼球上転などが特徴で、喉頭攣縮では生命の危険もあります。

対策は抗コリン薬を筋注し早期に改善を図るとともに、抗コリン薬の経口投与を行います。

原因薬物の減量や変更が必要になることもあります。

選択肢⑤の「手指振戦」については、錐体外路症状の一つであるパーキンソニズムで生じるとされています。

パーキンソニズムは、黒質線条体系ドパミン受容体遮断により、ドパミン系に対してアセチルコリン系が相対的に優位になるために喚起されるとするドパミン・アセチルコリン不均衡仮説が有力です。

振戦、筋強剛、無動が三徴候であり、流涎や脂漏なども見られます。

無動は陰性症状や抑うつと間違われることもあり、鑑別が必要です。

女性や高齢者で喚起されやすいとされています。

対策は原因薬物の減量・中止、抗パーキンソン病薬の併用になりますが、抗パーキンソン病薬の長期投与は遅発性ジスキネジアや認知機能障害などを引き起こす可能性があるため、抗パーキンソン病薬の漫然とした長期投与は避け、必要最小限の使用を心がけるべきです。

抗精神病薬に対する耐性の形成によってパーキンソニズムが消失する場合もあり、初期のパーキンソニズムに対して抗パーキンソン病薬を中止して、パーキンソニズムが出現しないことは少なくありません。

上記の通り、抗精神病薬の副作用には様々なものがありますが、本問で示されている選択肢の症状は、そのいずれかに該当するもの(もしくはその逆:便秘→下痢)になります。

その中でも抗コリン作用によって生じる副作用は、本問の中では口喝になりますね。

以上より、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は向精神薬の抗コリン作用によって生じる副作用として不適切であると判断できます。

また、選択肢②が向精神薬の抗コリン作用によって生じる副作用として適切と判断できます。

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