公認心理師 2018追加-103

抗精神病薬の錐体外路系副作用として、正しいものを1つ選ぶ問題です。

抗精神病薬の副作用については、以下のように分類することができます。
ちなみにこちらの分類は「臨床精神薬理ハンドブック」をもとに作成しています。

  • 中枢神経症状:
     Ⅰ.錐体外路症状
      1.パーキンソニズム
      2.急性ジストニア
      3.急性アカシジア
      4.遅発性ジスキネジア
     Ⅱ.精神症状
      1.過鎮静
      2.認知機能障害
      3.抑うつ症状
      4.強迫症状
      5.過感受性精神病
     Ⅲ.けいれん発作と脳波異常
     Ⅳ.悪性症候群
  • 自律神経症状:
      1.抗コリン性副作用
      2.抗ノルアドレナリン性副作用
  • 心・循環系の副作用
  • 内分泌・代謝障害:
      1.体重増加
      2.耐糖能異常
      3.性機能障害
      4.抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
  • その他の副作用:
      1.肝障害
      2.血液・造血器障害
      3.皮膚症状
      4.眼症状

こちらの分類の把握が重要になります。
本問ではこちらの分類をもとに解説していくことにします。

抗精神病薬の副作用と一口に言っても、上記のように様々なものがあります。
代表的なものについては把握しておきたいところですね。

解答のポイント

各向精神薬の副作用を把握していること。

選択肢の解説

『①眠気』

こちらは上記の分類でいう「中枢神経症状→Ⅱ.精神症状→1.過鎮静」になります
急性期治療において適度な鎮静は必要ではありますが、傾眠などの過剰な鎮静は日常生活の能力を低下させます。

鎮静作用には耐性が形成されるので、しばらく経過を観察することによって眠気などは消失することが多いとされています。
対策としては眠前投与のみとするなど用法の変更、原因薬物の減量・中止や変更などです。

分類からもわかるように、眠気については錐体外路症状ではありません。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②不整脈』

こちらは上記の分類でいう「心・循環系の副作用」になります
抗精神病薬は種々の心電図異常や突然死を惹起する場合がありますが、致死性心室性不整脈はフェノチアジン系薬物のもつキニジン様作用により引き起こされると考えられています

1950年代に初めて抗精神病薬として使われるようになったのがクロルプロマジンです。
これを基に研究され、レボメプロマジン、フルフェナジン、ペルフェナジンなどが作られ、これらをまとめてフェノチアジン系と呼びます。
定型抗精神病薬がこれに該当します。

キニジンとは南アメリカ原産アカネ科のキナノキ類樹皮に含まれるアルカロイドです。
不整脈治療剤として知られていますが、心筋に対する作用の結果、心室性不整脈をきたして死亡することもあるので注意を要します。

こうした副作用への対策としては、原因薬物の中止、抗不整脈薬投与、一時的ペーシング(心不全やショックなどをともなう症候性徐脈に対して,電気的に心筋を刺激して心拍数を増加させる一時的な処置)などがあります。

以上より、不整脈は抗精神病薬の副作用として留意せねばならないものの一つですが、上記の分類の通り錐体外路症状ではないことがわかります
よって、選択肢②は誤りと判断できます。

『③認知機能障害』

こちらは上記の分類でいう「中枢神経症状→Ⅱ.精神症状→2.認知機能障害」になります。
記憶、実行機能、注意、知覚・運動能力、言語などの障害を特徴とし、これらは統合失調症の症状としても出現しますが、同時に抗精神病薬が惹起することも知られています。

未だその機序は明らかにされていませんが、抗精神病薬の抗コリン作用や中脳皮質系D2受容体遮断作用が関与していると考えられています

抗コリン作用とは、アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する作用のことです。
胃腸薬などの抗コリン薬の主な作用であり、 便秘、口の渇き、胃部不快感等といった神経症状の副作用は代表的な症状の例である。

またD2受容体遮断作用についてですが、抗精神病薬はドーパミン2型受容体(D2受容体)を占拠して、ドーパミンの結合を阻害します。
統合失調症の病態に関連しているのは、中脳辺縁系あるいは中脳皮質系とよばれる経路です。
中脳皮質系は、腹側被蓋野から前頭葉や側頭葉に向かっています。
統合失調症の陰性症状(感情の平板化、会話内容の乏しいこと、自発性の低下や社会からの引きこもり)などに関係しているのは中脳皮質系の経路ではないかといわれています
そこにD2受容体遮断作用が生じることで、認知機能障害が起こるのでは、とされているわけですね

対策は必要最小限の抗精神病薬投与、不必要な抗コリン作用薬の併用を避けることなどの予防に重点が置かれています。

分類からもわかるように、認知機能障害については錐体外路症状ではありません。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④高プロラクチン血症』

こちらは上記の分類でいう「内分泌・代謝障害→3.性機能障害」になります
性機能障害では、男性では勃起障害や射精障害、女性では無月経など月経異常が見られます。
特に高プロラクチン血症による乳汁分泌は男女ともに見られることがあります

高プロラクチン血症は漏斗下垂体系のD2受容体遮断作用によるものであり、特にスルピリドなどのベンズアミド系薬物で惹起されやすいです
神経下垂体は間脳から突出した神経組織で、漏斗と後葉から成り、いずれも視床下部でつくられたホルモンを貯留・分泌する機能をもち、漏斗下垂体は下垂体からのプロラクチン分泌を(抑制的に)調節します

ベンズアミド系薬物としては、スルピリド(ドグマチール、アビリット、ミラドール)、スルトプリド塩酸塩(バルネチール)、チアプリド塩酸塩(グラマリール)、ネモナプリド(エミレース)などがあります。

対策は抗精神病薬の減量・中止や変更、ドパミン作動薬であるブロモクリプチンの投与などがあります。

分類からもわかるように、高プロラクチン血症については錐体外路症状ではありません。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤遅発性ジスキネジア』

すべての抗精神病薬は錐体外路症状の原因薬物となり得ます。
錐体外路症状は慢性と急性に分類でき、急性の場合は抗精神病薬投与開始後数日から数州で出現し、用量依存的で、原因薬物の減量や中止により改善します。
一方、慢性の錐体外路症状は数か月から数年で出現し、明らかな用量依存性はなく、原因薬物の中止後も持続することがあり治療抵抗性です。
錐体外路症状は比較的頻度の高い副作用であり、アドヒアランス低下を招きやすく、その対策は重要です。
主な錐体外路症状として、パーキンソンニズム、急性ジストニア、急性アカシジア、遅発性ジスキネジアの4つがあります
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の長期投与による黒質線条体系の後シナプスドパミン受容体の感受性亢進により惹起されるとするドパミン受容体仮説がよく知られています。
舌を突き出す、口をもぐもぐさせるなど口顔面の異常運動の出現頻度が高く、四肢の舞踏病様運動や体幹をくねらせる運動異常は頻度が低いとされています
現在のところ有効性が確立された治療法は存在しないため、抗精神病薬の投与量を必要最小限とし、予防に重点を置くことが求められています。
上記の分類における「中枢神経症状→Ⅰ.錐体外路症状→4.遅発性ジスキネジア」ですね
こちらは錐体外路症状の一つと見て間違いありません。
以上より、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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