公認心理師 2022-103

身体症状症に関する問題です。

オーソドックスな出題形式であり、正答以外の選択肢は身体症状症と同じカテゴリーである「身体症状症および関連症群」の他の診断から引っ張ってきています。

問103 DSM- 5の身体症状症および関連症群における身体症状症について、最も適切なものを1つ選べ。
① 身体の一部に脱力が起こる。
② 視覚や聴覚の機能が損なわれる。
③ 疾患を示唆する身体症状を意図的に作り出している。
④ 重篤な疾患に罹(り)患することへの強い不安がある。
⑤ 身体症状に関連した過度な思考、感情または行動がある。

関連する過去問

公認心理師 2021-115

解答のポイント

身体症状症および関連症群について把握している。

選択肢の解説

① 身体の一部に脱力が起こる。
② 視覚や聴覚の機能が損なわれる。

これらの選択肢に関しては、様々な身体疾患で生じ得るものと考えられますが、本問の文脈を踏まえてDSM-5の「身体症状症および関連症群」の枠組みで捉えていきましょう。

まずはDSM-5診断基準の変換症/転換性障害(機能性神経症状症)を見ていきましょう。


A.1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状

B.その症状と、認められる神経疾患または医学的疾患とが適合しないことを裏づける臨床的所見がある。

C.その症状または欠損は、他の医学的疾患や精神疾患ではうまく説明されない。

D.その症状または欠損は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている、または医学的な評価が必要である。

症状の型を特定せよ
(F44.4)脱力または麻痺を伴う
(F44.4)異常運動を伴う(例:振戦、ジストニア運動、ミオクローヌス、歩行障害)
(F44.4)嚥下症状を伴う
(F44.4)発語症状を伴う(例:失声症、ろれつ不良など)
(F44.5)発作またはけいれんを伴う
(F44.6)知覚麻痺または感覚脱失を伴う
(F44.6)特別な感覚症状を伴う(例:視覚、嗅覚、聴覚の障害)
(F44.7)混合症状を伴う

該当すれば特定せよ
急性エピソード6カ月未満存在する症状
持続性:6カ月以上現れている症状

該当すれば特定せよ
心理的ストレス因を伴う(ストレス因を特定せよ)
心理的ストレス因を伴わない


選択肢①の「身体の一部に脱力が起こる」に関しては、上記の診断基準A「1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状」を指しており、その中でも「症状の型を特定せよ」における「(F44.4)脱力または麻痺を伴う」を指していると考えられます。

また、選択肢②の「視覚や聴覚の機能が損なわれる」に関しては、上記の診断基準A「1つまたはそれ以上の随意運動、または感覚機能の変化の症状」を指しており、その中でも「症状の型を特定せよ」における「(F44.6)知覚麻痺または感覚脱失を伴う」「(F44.6)特別な感覚症状を伴う(例:視覚、嗅覚、聴覚の障害)」を指していると考えられます。

以上より、選択肢①および選択肢②は身体症状症のものとして不適切と判断できます。

ここで転換性障害の古くからの見解を述べておきましょう。

転換性障害は、意識外の不安(いわゆる無意識領域に追いやられた不安)やトラブルが心理的機構によって身体症状に換えられたもので、その特徴から「転換された」という前提を持つとして「転換神経症」や「身体化反応」と称されてきました。

特に「転換神経症」と呼ぶ時には、無意識の、あるいは長い生活史上の動機を考え合わせるものを指します。

精神的なトラブルが身体症状の方へ移し換えられるものであって、運動や感覚の麻痺、増動などがあり、麻痺はその形が解剖生理学的規則に従わないことが有名です。

症状は感動的な心の内容の象徴としての現われと解され、葛藤の表現とされており、例えば、「嚥下困難=許容できない、そういうことは飲み込めない」ということの象徴と解するわけです(他にも金銭的に行き詰まった人の症状として「首が回らなくなる」などもあります。こういう精神症状から作られた慣用句はそれなりにありますね)。

非常に古典的な症状ではありますが、症状が「クライエントの声なき声である」という認識は、目の前の問題を解する上で欠かせない視点であることは古来より変わりません。

③ 疾患を示唆する身体症状を意図的に作り出している。

こちらについては作為症/虚偽性障害のDSM-5診断基準を見てみましょう。


A.身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している。

B.自分自身が病気、障害、または外傷を負っていると周囲に示す。 または医学的関心を余儀なくさせている。

C.明らかな外的報酬がない場合でも、ごまかしの行動が確かである。

D.その行動は、妄想性障害または他の精神病性障害のような他の精神疾患ではうまく説明できない。

特定せよ
単一エピソード
反復エピソード(2回以上の病気のねつ造、および/または外傷の意図的な誘発)

他者に負わせる作為症(従来の、代理人による虚偽性障害)

A.他者においての、身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している。

B.他者(被害者)が、病気、障害、または外傷を負っていると周囲に示す。

C.明らかな外的報酬がない場合でも、ごまかしの行動が確かである。

D.その行動は、妄想性障害または他の精神病性障害のような他の精神疾患ではうまく説明できない。
注:本診断はその被害者ではなく、加害者に与えられるものである。

特定せよ
単一エピソード
反復エピソード(2回以上の病気のねつ造、および/または外傷の意図的な誘発)


本選択肢の「疾患を示唆する身体症状を意図的に作り出している」というのは、上記の診断基準Aにある「身体的または心理的な徴候または症状のねつ造、または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している」のことを指していると考えられます。

以上より、選択肢③は身体症状症のものとして不適切と判断できます。

上記に関する私見を述べておきます。

これらのうち、自分に向けたもので重症なものを「ミュンヒハウゼン症候群」、他者に向けたものを「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼びます。

私は母子と関わることが多いので、年に1~2回ほど代理ミュンヒハウゼン症候群と思しき事例に出会います。

たいていは「子ども改善に向かうのを邪魔しているような関わりを行う」「子どもが改善したように見えるのに、それを喜ぶ様子がない」「問題が小さくなってくると、それと反比例するように不安が増大する」という形で目に留まることが多いです。

関わる中での私の印象としては、彼女ら(子どもを意図的に傷つける母親)は、共通して、①自身の社会的な認められなさに関する不満を抱えている、②子どもを助ける自分というアイデンティティを添え木にしている、③人格の奥には、万能的な自己イメージと自らへの不信とが入り混じった形で存在している、という感じです。

気をつけねばならないのが、「子どもと向き合ってごちゃごちゃした関係になるくらいなら、このまま問題を維持している方がマシ」という脆弱性を持つ保護者の在り様と類似して見えるために、その辺の弁別が重要になるということでしょうか。

支援の方法はまだ手探りではありますが、母親が社会的な立ち位置を得ると急に子どもから離れるような気もしていますし(その社会の中で迷惑をかける存在になることがほとんどだが)、子どもが前思春期を迎えて自我が出てくる時期になると急に他人事として子どもを捉えるようになるなどの印象を受けています。

この辺については、まだストーリーを構築中という段階でしょうか。

参考になれば幸いです。

④ 重篤な疾患に罹(り)患することへの強い不安がある。

こちらはかつての心気症で、現在のDSM-5では「病気不安症」とされている診断基準から引っ張ってきた内容になります。

DSM-5における病気不安症の診断基準は以下の通りです。


A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ

B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合(例:濃厚な家族歴がある)は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

D.その人は過度の健康関連行動を行う(例:病気の徴候が出ていないか繰り返し体を調べ上げる)、または不適切な回避を示す(例:受診予約や病院を避ける)。

E.病気についてのとらわれは少なくとも6ヵ月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

F.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または「妄想性障害、身体型」などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

該当すれば特定せよ
医療を求める病型:受診または実施中の検査および手技を含む、医療を頻回に利用する。
医療を避ける病型:医療をめったに受けない。


本選択肢の「重篤な疾患に罹(り)患することへの強い不安がある」というのは、上記の診断基準A「重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ」および診断基準C「健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる」の内容を指していると考えられます。

以上より、選択肢④は身体症状症のものとして不適切と判断できます。

病気不安症(心気症)は、古くからみられる症状であり、小心な人、無力者、自信欠乏者に、災害や、身近な人の死や、性病や、性的悪癖のための罪過感などから生じるとされてきましたが、私の印象では「不安に脆弱性を有する人が、何かしらの不安を身体のちょっとした違和感に置き換えている」というケースが多いように感じます。

不安に脆い人が、認識すると自我が揺さぶられるような不安に対して「置き換え」を行うということですが、その置き換え先が身体のちょっとした違和感であり、例えば、ちょっと頭痛があるだけで「脳腫瘍では」と思うということが生じるわけです。

この症状にはいろんな段階があると思っていて、ポイントとしては、①自我違和的であるか否か(そんなはずないのに、という思いを抱けるか否か)、②検査等の科学的結果を否定するか否か(不満ながらも(すんなりという人はほぼいない)受け入れるかどうか)、③置き換えられた不安であれば、いったん検査で否定されても症状はまた出現するわけだが、その繰り返し自体に違和感を覚えられるか(そういうやり取りができるか否か)、などがあり得ますが、妄想的な場合はどれも良くない方向であるように感じます。

心気症の支援のポイントは「その症状自体をクライエント本体と思って関わること」だと思っています。

そういう風に関わらないと、どうもこちら側が症状に対して懐疑的に思っているようにクライエントに伝わっているような気がします。

その辺はカウンセラーにも得意不得意があるかもしれませんね。

⑤ 身体症状に関連した過度な思考、感情または行動がある。

身体症状症の診断基準を示すと以下の通りになります。


A.1つまたはそれ以上の、苦痛を伴う、または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状。

B.身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情、または行動で、以下のうち少なくとも1つによって顕在化する。

  1. 自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考
  2. 健康または症状についての持続する強い不安
  3. これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力

C.身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが、症状のある状態は持続している(典型的には6ヵ月以上)。

該当すれば特定せよ
疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ
持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ
軽度:基準Bのうち1つのみを満たす。
中等度:基準Bのうち2つ以上を満たす。
重度:基準Bのうち2つ以上を満たし、かつ複数の身体愁訴(または1つの非常に重度な身体症状)が存在する。


これを踏まえると、本選択肢の「身体症状に関連した過度な思考、感情または行動がある」というのは、診断基準Bの「身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情、または行動で」という内容を指しているのがわかりますね。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です