公認心理師 2021-115

心身症に含まれないものを判断する問題です。

心身症に関してはよく出題されますから、きちんと定義を理解しておくこと、代表的な心身症についての把握が重要になります。

問115 心身症に含まれないものを1つ選べ。
① 緊張型頭痛
② 過換気症候群
③ 過敏性腸症候群
④ 起立性調節障害
⑤ 心気障害(病気不安症)

解答のポイント

心身症の定義を理解した上で、各疾患の特徴から判断する。

心身症総論・選択肢の解説

日本心身医学会では、心身症を「心身症とは、身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と定義しています(1991)。

DSM-5などには用いられていない「神経症」という用語が用いられていますが、一種の「不安症」に該当するものと理解することができます。

つまり、何らかの身体疾患(病態生理が明らかな器質的ないし機能的障害を含む)があり、詳細な病歴聴取やストレス負荷テストによって心理社会的要因の関与が強く認められる場合に、心身症と診断することになります。

心身症の診断は、心理社会的要因を含めた詳細な病歴聴取と身体面の評価に始まります。

心身症の定義にもあるように、身体疾患の存在は心身症の前提条件であり、その上で疾患の発症や経過と心理社会的要因との関連(ライフイベントや日常生活におけるストレッサーの存在およびその程度、心身症によくみられる性格傾向の有無)が認められるかが重要になります。

特定の要因が強く疑われる場合には、実際にその要因を負荷にすることによって症状が再現できるか否かを確認することもあります。

ただし、心理社会的要因の関与を定量的に把握することが困難であったり、機能的障害の解釈の困難さ(病態が明らかな疾患に限定すべきか、原因不明の疾患まで含めるべきか)などの点で、意見の一致は見られていません。

歴史的に心身症の病態メカニズムは、まず精神分析的視点によって検討されました。

20世紀初頭にAlexanderは、攻撃的欲求の表出が妨げられると交感神経系の緊張による症状が出現し、依存的欲求の表出が妨げられると副交感神経の緊張による症状が出現するとし、代表的心身症として十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、本態性高血圧、気管支喘息、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、甲状腺中毒症を挙げ、「holy seven diseases(聖なる7つの心身症)」と呼びました。

また、器官選択理論(身体症状には器官言語といわれる心理的内容に対応する象徴的意味があると考える理論)が登場してきました。

要は、「こういうストレス」がかかると、身体では「ある特定の部位」に反応が出るんだよという考え方ですね(この考え方には個人的には頷ける部分があり、私は実践の中でストレスのニュアンスから問題の出現傾向を予測して対応しています)。

その後、Cannonによる闘争・逃走反応と呼ばれる体のメカニズムの発見、こうした成果を踏まえたSelyeのストレス学説(例えば、どのような有害刺激に対しても、身体に共通して現れる3つの症状(副腎皮質の肥大、胸腺委縮、胃・十二指腸潰瘍)を発見し、この非特異的反応を系統的な生体反応として捉えた)などが発展してきました。

ストレス反応として、Cannonは交感神経系の活性化を、Selyeは視床下部-下垂体-副腎系(HPA)の活性化をそれぞれ重視していますね。

心身症の実践では、まず心身症患者が精神科を受診することは少なく、「心の問題と見なされる」ことに対する抵抗感が強いです。

あまり不平を訴えず、淡々と身体症状のみを語るというのが心身症患者の特徴でもあります。

Sifneosは、心身症患者特有の性格傾向を「アレキシサイミア」と呼び、これは自己の感情を上手に言語化できず身体症状として訴えることが多いとされています。

この原因については、脳の一部の機能障害が推定されてはいるものの、臨床実践を踏まえれば可逆的なものであると見なすのが正しいでしょう(これは脳の機能障害を否定するものではないが)。

① 緊張型頭痛

緊張型頭痛は最も頻度の高いタイプの頭痛であるにも関わらず、その発生機序は未だ明確ではありません。

多くの病態が混在していることが考えられますが、治療との関連においては筋緊張が筋の痛みをもたらし、筋の痛みがさらに緊張を悪化させるという古典的な筋緊張モデルの概念は未だに有効です。

筋緊張をもたらすものとしては、日常的な姿勢(うつむき姿勢。スマホの見過ぎに注意ですね)や体型(頭径/首径比)、頸椎症、長時間労働などの物理的な負荷によるものに加えて、精神的緊張、ストレスや不安などが挙げられるが、緊張の持続状態に自覚的ではない場合が多いです。

こうした特徴から、緊張型頭痛は神経・筋肉系の心身症の一つと見なされています。

症状としては、多くは両側性の、後頭部から項部、前頭部、あるいは頭全体に締め付けられるような痛みや頭重感が認められます。

はじまりは突発的ではなく、週単位~月単位に慢性的に持続することも多いです。

しばしば頑固な肩こりや後頭部、頸部の筋肉の張りを伴い、悪心がみられることもあるが嘔吐に至るのは稀です。

労作後や夕方にかけて悪化を見る傾向にあり、成人以降に多く性差は無いとされています。

薬物療法として、非ステロイド抗炎症薬や筋弛緩薬が対症療法的に用いられます。

精神的緊張や心因が影響している場合には抗不安薬がしばしば奏功します(ふらつきや脱力、依存性に注意が必要)。

その他、自律訓練法はストレス耐性を挙げるとともに、緊張型頭痛の増悪因子である筋緊張、および血流低下を改善するために有用な治療法とされています。

また、バイオフィードバック療法では、無意識的な持続的筋緊張を緩和することを学習し、症状を持続的に緩和することを目的にします。

以上のように、緊張型頭痛は神経・筋肉系の心身症の一つと見なされています。

よって、選択肢①は心身症に含まれるので除外されます。

② 過換気症候群

過換気症候群は1937年にKerrらにより過換気による共通の症状を呈する病態として報告され、Soleyらが血液ガス分析上、低炭酸ガス血症とそれに伴う呼吸性アルカローシスが発症機序の一つであることを報告しました。

広義には、さまざまな誘因により引き起こされる肺胞過換気が、多彩な症状を呈する病態を指し、狭義には、心理社会的要因により誘発された過換気から起こる病態と定義されています。

パニック症やうつ病との併存もあるので、心身症の定義との整合性を考慮すると明確に精神疾患を除外することが困難な場合もあります。

過換気症候群は10~20歳代の女性に多く、心理社会的要因により過換気となり、以下のような病態を示します。

  1. 低炭酸ガス血症により気管支収縮→呼吸困難、窒息感
  2. 低炭酸ガス血症→呼吸性アルカローシス→血管収縮
    脳血管収縮→脳血流低下→意識障害、めまい
    冠動脈攣縮のリスク増大
  3. 呼吸性アルカローシス
    →低リン血症、イオン化カルシウムの低下、細胞内カリウムの減少
    →テタニー症状(手足、口唇のしびれ、振戦、筋痙攣など)
  4. ストレスによる交感神経の興奮
    →カテコールアミン分泌→血圧上昇→動悸、発汗
  5. 呼吸中枢の感受性自体の亢進
    過度の胸郭の拡張運動により圧受容体刺激→交感神経β受容体機能亢進
  6. 上記の症状がさらに不安感を増大させ、過換気を誘発する

こうした病態を踏まえ、実際の臨床症状を見てみると以下の通りです。

  • 精神症状:不安感、死の恐怖感、抑うつ状態、パニック
  • 呼吸器症状:安静時の発作性呼吸困難(運動時にはない)、空気飢餓感(酸素が足りない、空気が薄い)、頻呼吸
  • 神経・筋症状:口唇、四肢のしびれ、四肢の痙攣、振戦
  • 循環器症状:胸痛、動悸
  • 中枢神経症状:頭痛、めまい、意識障害など
  • 消化器症状:腹痛、悪心、口喝、腹部膨張感(過剰な空気の嚥下による)
  • その他:発汗、全身倦怠感

こうした症状に対して、心身医学的アプローチが治療に有用であるため、過換気症候群は呼吸器心身症の代表的疾患の一つと考えられています。

発作時の治療は、不安軽減のための声掛け、腹式呼吸の指導、抗不安薬投与などになります。

ペーパーバッグ再呼吸法は、低炭酸ガス血症からの回復過程で低換気が起こり、低酸素血症が引き起こされることがあるので安易に施行してはいけません(現在は学校などでの対応マニュアルでも削除されています)。

抗不安薬、抗うつ薬などの薬物療法を行いながら、各種心理療法なども随時併用するのが一般的でしょう。

以上より、過換気症候群は呼吸器系心身症の代表的なものの一つです。

よって、選択肢②は心身症に含まれるので除外することになります。

③ 過敏性腸症候群

心身症の病態はあらゆる身体疾患に生じ得るが、心身症の病態を呈しやすい症候群があり、消化器疾患の有病率でも広く分布しています。

なかでも、過敏性腸照応群と機能性ディスペプシアの疫学研究が最も充実しており、地域によって差はあるものの、これらの疾患はきわめて高頻度です。

過敏性腸症候群の有病率は人口の2.2%、1年間の罹患率は1~2%、消化器系の内科外来患者の31%を占めます。

過敏性腸症候群の代表的な病態生理は、内臓知覚過敏、下部消化管運動亢進、ストレス応答の異常、不安・うつ・身体化の心理的以上です。

更に、リスク遺伝子、腸内細菌の異常、粘膜微小炎症、粘膜透過性亢進の存在が知られています。

そして、これらの要因が相互に関連して病態を特徴づけています。

腸内細菌はストレス負荷によって多様性が変化し、また、ストレスによって粘膜透過性が亢進し、内臓知覚過敏を招きます。

特に、脳から腸への信号伝達ならびに腸から脳への信号伝達によって喚起される過敏性腸症候群の病態は脳腸相関という用語で概念化され、過敏性腸症候群を特徴づけています。

上記からもわかる通り、心理社会的ストレスは過敏性腸症候群の代表的な発症・増悪要因です。

過敏性腸症候群では、ストレス負荷によって消化器症状が悪化する両者の相関係数が健常者よりも高値を示します。

この病態の責任物質として挙げられるのはモノアミンと副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンです。

過敏性腸症候群患者に対する大腸刺激による前帯状回、扁桃体、中脳の活性化ならびに内側外側前頭前野の活性低下が脳機能画像検査により示されています。

また、過敏性腸症候群患者には、背外側前頭前野の萎縮が見られ、右背外側前頭前野はストレス負荷時に十分に賦活化されません。

以上より、過敏性腸症候群は消化器系心身症の代表的なものの一つです。

よって、選択肢③は心身症に含まれるので除外することになります。

④ 起立性調節障害

心血管系の心身症は「心理社会的ストレスによって心血管系に器質的・機能的な障害を生じ、心身医学的アプローチが必要となる病態全般」ということになります。

具体的には以下が挙げられます。

  • 本態性高血圧:血圧上昇に不安やストレスの影響あり
  • 起立性低血圧:小児思春期では起立性調節障害も多い
  • 虚血性心疾患:心筋梗塞や狭心症などでタイプA行動パターンの関連が有名
  • 不整脈:情動ストレスで誘発
  • 心臓神経症:身体症状症に近い自律神経機能不全の状態

ヒトはストレスを感じると、さまざまな感情が生じ、その感情が急速に引き起こされた場合は情動と呼ばれ、心悸亢進や血圧上昇といった心血管系の身体反応を引き起こします。

様々な疫学研究により、こうした怒り、うつ、不安などの否定的な情動の積み重ねによって、不整脈、高血圧症、狭心症、心筋梗塞といった心血管系疾患に罹患するリスクが増加することが明らかになっています。

起立性低血圧は、立位時に血圧低下をきたす病態の総称です。

起立すると収縮期血圧が20mmHgを超えて低下するか、拡張期血圧が10mmHgを超えて低下することが基準の目安となります。

症状としては、意識消失(感)、ふらつき、めまい、目のかすみなどが起立後数秒から数分以内に起こり、臥位によって速やかに回復します。

神経疾患、循環器疾患、内分泌疾患や薬剤の副作用で生じることもあるので、ストレス疾患と決めつけずにしっかりと鑑別していくことが重要です。

起立時の血圧低下に加えて、心拍数が上がりすぎたり安静になるまでの調整時間がかかったりする起立性調節障害と呼ばれる病態もあります。

これは、軽症例を含めると、児童の5~10%、不登校生徒に絞ると30~40%に認められると言われています。

好発年齢は10~16歳で女性がわずかに多いです。

朝の起床困難、立ち眩み、気分不良、失神様症状、頭痛等を訴えます。

重症化すると自律神経の循環調節不全、特に上半身や脳への血流低下が起こり、日常生活が著しく損なわれるため、疾病教育、日常生活指導、学校との連携、薬物療法など適切な治療が必要になります。

以上より、起立性調節障害は心血管系心身症の代表的なものの一つです。

よって、選択肢④は心身症に含まれるので除外することになります。

⑤ 心気障害(病気不安症)

まずはDSM-5における病気不安症の診断基準を示しておきましょう。


A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ

B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合(例:濃厚な家族歴がある)は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

D.病気についてのとらわれは少なくとも6ヵ月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

E.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または「妄想性障害、身体型」などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

いずれかを特定せよよ
疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである。

該当すれば特定せよ
持続性:持続的な経過が、重篤な症状、著しい機能障害、および長期にわたる持続期間(6ヵ月以上)によって特徴づけられる。

該当すれば特定せよ
医療を求める病型:受診または実施中の検査および手技を含む、医療を頻回に利用する。
医療を避ける病型:医療をめったに受けない。


これらを踏まえて、病気不安症が心身症であるか否かを考えておきましょう。

心身医学会の定義に基づけば、「何らかの身体疾患(病態生理が明らかな器質的ないし機能的障害を含む)があり、詳細な病歴聴取やストレス負荷テストによって心理社会的要因の関与が強く認められる場合」に心身症と診断されます。

上記の病気不安症の基準にある通り、こちらの疾患では「身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である」というものになりますから、心身症の要件である「何らかの身体疾患(病態生理が明らかな器質的ないし機能的障害を含む)の存在」が否定されているわけです。

あるのは「重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ」ですが、そのとらわれに従って検査しても、本人が言うほどの問題は見つからないというのが病気不安症でよくある流れですね。

この発症機序に関しては、精神分析的に言えば置き換えの防衛機制が働いていると見なされる場合が多いです。

無自覚に不安を押し殺すことで、それが身体的な不安として置き換えられて表出されるということですね。

多分、多くの人があまり経験したことのない不調を感じたときに、それが良くない病期もしくはその前兆ではないかと疑ったことがあると思います。

その場合も多少の置き換えは起こっていると考えられますが、精神的に安定していれば押し殺している不穏感情も少ないので、たいていは「ちょっとした不安や心配」で済みますが、精神的な状態が悪くなってくるとそのとらわれが強くなるというイメージですね。

支援に関しては状態や状況によりますが、クライエントの示す訴えを「クライエントそのもの」と見なして関わるほうが良く、逆に「実際には問題はそこじゃないでしょ」というスタンスで関わるとクライエントの不安が高まるか、面接の中断になっていくことが多いです。

置き換えを使う病態すべてで言えますが、「押し殺している不穏感情を表に出すと混乱を招くから置き換えている」「だから、その症状を偽物と疑ったり、根本を表に出そうとする刺激には抵抗が生じる」という前提を忘れないようにしたいですね。

以上のように、病気不安症は心身症の要件を満たしていません。

よって、選択肢⑤が心身症に含まれないと判断でき、こちらを選択することになります。

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