公認心理師 2021-27

アルコールによる健康障害に関する問題です。

載っている資料が少なくて苦労しましたが、e-ヘルスネットに記載があるものが多かったです。

問27 アルコール健康障害について、正しいものを1つ選べ。
① コルサコフ症候群は、飲酒後に急性発症する。
② アルコール幻覚症は、意識混濁を主症状とする。
③ アルコール性認知症は、脳に器質的変化はない。
④ 離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる。
⑤ アルコール中毒において、フラッシュバックがみられる。

解答のポイント

アルコールで生じる様々な問題を理解している。

e-ヘルスネットに多くの選択肢の解説が示されている。

選択肢の解説

① コルサコフ症候群は、飲酒後に急性発症する。

コルサコフ症候群はチアミン(ビタミンB1)の欠乏によって生じ、前向性健忘、逆行性健忘などの記憶障害の他、見当識障害、作話、病識欠如を特徴としています。

ビタミンB1欠乏の最も多い原因はアルコール中毒ですが、そのほか胃がん、胃切除、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などでも見られることがあります。

身体のエネルギー源のひとつである糖質の代謝が適切に行われるためには、ビタミンB1は必要不可欠な物質です。

全身の臓器のなかでも特に脳は糖質をエネルギー源として依存する割合が大きく、糖質やビタミンB1の需要量がとても大きいです。

したがって、糖質やビタミンB1の摂取量が減少した状況や、脳における両者の需要量が増加するような状況においては、容易にビタミンB1の欠乏に起因する症状が引き起こされることになります。

意識障害、眼球運動障害、失調性歩行を特徴とするウェルニッケ脳症を伴う場合、ウェルニッケ‐コルサコフ症候群と呼ばれます。

ウェルニッケ脳症はチアミンの不足により、脳の奥のほうの部位(脳幹部)に微小な出血が起こり、細かい眼の振るえ(眼振)が目の動きに制限が出る(眼球運動障害)、意識障害などの精神状態の変化、ふらつき(失調性歩行)といった様々な症状が急激に出現します。

ウェルニッケ脳症の原因としてはアルコール依存症が半分を占めますが、悪性腫瘍、消化管手術後、重症のつわり等のチアミン不足を生じるすべての病気でウェルニッケ脳症が起こる可能性があります。

発症直後にチアミンを大量に点滴すれば回復することができますが、実際には見逃されることが多く、死亡率も10~17%と推計されています。

また、死亡例以外でも56~84%が記銘力障害や失見当識、作話を特徴とするコルサコフ症候群へ移行していきます。

一旦コルサコフ症候群になると回復は困難であるため、ウェルニッケ脳症の段階で早期発見・早期治療することが何より重要です。

コルサコフ症候群は、長期にわたる大量飲酒に続いて起こる健忘症候群であり、他のいかなる身体および精神疾患にも起因しないものを指します。

視床や乳頭体が責任病巣であるため、間脳性健忘でもあるわけです。

コルサコフ症候群では、はじめに最近の出来事に関する重度の記憶障害が発生することがあり、より遠い過去の記憶はそれほど損なわれないようです。

したがって、コルサコフ症候群の人は、たとえ数日前、数カ月前、数年前、場合によっては数分前の出来事も覚えていられなくても、社会的な付き合いや首尾一貫した会話をこなすことができます。

なお、作話が症状として挙げられているのも、健忘を作話という形で誤魔化そうとする故であると考えられています。

ビタミンB1欠乏の原因としては慢性的なアルコール中毒が挙げられ、それがウェルニッケ脳症を引き起こし、この段階で適切な治療が行われない場合にコルサコフ症候群が発症するというのが典型的な流れになります。

ですから、コルサコフ症候群は飲酒後急性に生じるものではなく、長期間の飲酒習慣によってもたらされる障害であると言えますね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② アルコール幻覚症は、意識混濁を主症状とする。

アルコール幻覚症の基本像は、明らかにアルコール依存である人がアルコール摂取を停止または減量したときに、短期間(ふつうは48時間以内)にそれに引き続いて活発で持続的な幻聴を伴う器質性の幻覚症です。

幻覚は幻聴または幻視であり、幻覚はふつう人の声であり、シッシッとかガヤガヤというようなはっきりしない音であるとされています。

大多数の例では、幻覚の内容は不愉快で混乱させるものが多いとされていますが、穏やかな場合もあります。

声は直接話しかけてくることもありますが、多くは自分のことを三人称で話し合っている声です。

経過としては、長期間のアルコール中毒が終わるころ、血中アルコール濃度が徐々に低下するにつれて発症します。

しかし、障害の多くは、飲酒停止後すぐに起こり、一般に48時間以内ですが、時には少し遅れることもあります。

症状は数週から数か月続くこともあります。

具体的な症状としては、意識がはっきりしているにもかかわらず、実際には存在しないはずの「自分を呼ぶ声」や「自分について批評する人々の声」などが聴こえてきたり(幻聴)、またその声のために、「自分が殺される」とか「自分は狙われている」などと実際にはあり得ないことを確信したり(被害妄想、追跡妄想)します。

さらにその不安や恐怖のあまり、激しい自傷行為や他害行為などの問題行動を引き起こすこともあります。

アルコール幻覚症は急激に発症し、大部分は数日から数週以内に消失します。

しかしながら、慢性的に続くこともあります。

発症後1週目ごろから慢性型に進展するにつれて、患者は、幻覚が依然としてあるにも関わらず、穏やかで諦めたようになります。

関係念慮やその他のあまり体系化されない被害妄想が顕著になります。

この段階では、曖昧で非論理的な思考、脇に逸れる連想、不適切な感情を示す統合失調症と臨床的に区別が困難な場合があります。

慢性型はこの障害のエピソードの反復によって発展してくるようだという報告もなされています。

このようにアルコール幻覚症は鮮明で持続的な幻覚(幻聴または幻視)を主症状とするものであり、意識が鮮明な中で生じるものです。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ アルコール性認知症は、脳に器質的変化はない。

アルコールの大量摂取が原因と考えられる認知症のことであり、ウェルニッケ‐コルサコフ症候群と同じという意見もあります。

大量に飲酒する人に認知機能の低下や認知症がみられることはよく知られています。

若いアルコール依存症の人でも飲酒のために前頭葉機能が障害されていることは珍しくありませんし、やや高齢の依存症者には物忘れや認知症が高い割合でみられます。

アルコールが関係する認知症の原因には多発性脳梗塞などの脳血管障害、頭部外傷、肝硬変、糖尿病、ウェルニッケ‐コルサコフ症候群を含む栄養障害など多岐に及びます。

さらにアルツハイマー病などの認知症性疾患の人が飲酒のコントロールを失って飲酒の問題を起こす場合もあるので、認知機能を障害している原因についてよく検査する必要があります。

こうした鑑別の結果、アルコール以外に認知症の原因がない場合、アルコール性認知症とされます。

動物実験ではアルコールを大量に投与することで脳障害が起きることが知られていますが、人の場合にはまだよくわかっていません。

アルコール依存症に認知症が合併した場合、解剖して脳を調べるとウェルニッケ‐コルサコフ症候群であることが多いという意見もありますし、大量の飲酒によって脳障害が起こって認知症になるという意見もあります。

大量に飲酒する人やアルコール依存症の人は、高い割合で脳萎縮がみられることがわかっていて、大量に飲酒をすることは、認知症になるリスクを高めることにつながります。

しかし、アルツハイマー病などによる認知症の場合は進行性ですから回復することはありませんが、アルコール依存症に伴う認知症の場合には長期間の断酒によって認知機能や物忘れが改善することもありますので、アルコールが脳の働きを悪くさせていることは事実のようです。

いずれにしても、アルコールの長期間の摂取によって、器質的な変化がもたらされているということが言えますね。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 離脱せん妄は、飲酒の中断後数日以内に起こる。

長期のアルコール摂取により精神依存とともに耐性が形成され、離脱症状も出現する身体依存が形成されます。

精神依存が形成されると飲酒量は飲酒時刻、飲酒機会の自己コントロールが困難となり、泥酔に至るまで多量に飲酒したり、昼間から飲酒したり、飲酒すべきでない社会状況においても飲酒するなどの問題行動が繰り返されることになります。

また、このような社会的に不適切と思われる飲酒行動について本人も自覚していることが多く、家族や知人から飲酒行動について注意されることから、隠れて飲酒するようになります。

更に、身体的、家族的、社会的問題が起こっているにも関わらず飲酒を続け、飲酒を正当化したり飲酒の原因を家族など他者に求めたりするなどの問題飲酒の否認がみられることも多いです。

さて、長期のアルコール摂取により耐性が生じ、飲酒量の急激な原料や断酒に伴って離脱症候群が出現します。

この離脱症状は従来より、早期症候群と後期症候群に分類されていますが、ICD-10およびDSM-5ではせん妄を伴わないものをアルコール離脱、せん妄を伴うものをアルコール離脱せん妄と分類しています。

このうち、DSM-5の物質中毒せん妄と物質離脱せん妄を抜き出すと以下の通りです。


物質離脱せん妄:この診断は、基準AおよびCの症状が臨床像で優勢であり、臨床的関与に値するほど症状が重篤である場合のみ、物質離脱に代わって下されるべきである。

A.注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)

C.更に認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)


こうしたDSM-5の基準を踏まえつつ、ここでは前述の早期症候群と後期症候群に分けて見ていきましょう。

早期症候群は、飲酒停止後早期から48時間に多く見られ、イライラ感や不安、抑うつ気分、また心悸亢進、発汗、体温変化などの自律神経症状、手指や眼瞼、体幹の振戦、時にてんかん様の大発作、幻視や幻聴などの一過性の幻覚、軽い見当識障害が認められます。

後期症候群は、飲酒停止後72~96時間に多く見られ、3~4日持続するもので、粗大な四肢の振戦、自律神経機能亢進、精神運動興奮、幻覚、意識変容が主症状となる振戦せん妄が出現します。

また、小動物幻視や幻触などの幻覚がみられ、被暗示性亢進(リープマン現象)も認められ、心臓衰弱などで死亡することもあります。

上記の「振戦せん妄」がアルコールの離脱症状(俗にいう禁断症状)のひとつで、これが離脱せん妄のことを指します。

以下では、アルコール離脱せん妄を中心に述べていきましょう(上記は早期症候群、後期症候群という分類の中で論じました)。

アルコール離脱せん妄は、長期間の飲酒歴のある重度のアルコール依存症者が、飲酒を中断または減量した際に生じます。

多くは大量のアルコール摂取を中止または減量してから2~4日目頃に出現し、通常3~4日で回復しますが、個人差が大きく、長引くこともあります。

身体的な合併症がある場合に起こりやすいといわれています。

主な症状としては「頻脈や発熱」「発汗などの著明な自律神経機能亢進」「全身性の粗大な振戦」「意識変容」「精神運動興奮」「失見当識」「幻覚」などが挙げられます。

幻覚のなかでは、幻視が多く、実際には存在しないはずの小動物や虫・小人が多数見えてきたり、それらが身体の上に這い上がってくるように感じたりします。

また壁のしみが人の顔に見えるなどの錯視や、作業せん妄(例えば大工がくぎを金づちで打つ動作といった職業上・生活上行っている行為を意識障害下に再現すること)が出現することもあります。

このように、アルコール離脱せん妄の基本像は最近の飲酒の停止または減少によって起こるせん妄であり、ふつうは1週以内に起こる、頻脈、発汗のような著しい自律神経機能の亢進がみられるものです。

以上より、選択肢④は正しいと判断できます。

⑤ アルコール中毒において、フラッシュバックがみられる。

こちらについてはまず、DSM-5におけるアルコール中毒の診断基準を見ておきましょう。


A.最近のアルコール摂取。

B.臨床的に意味のある不適応性の行動的または心理学的変化(例:不適切な性的または攻撃的行動、気分の不安定、判断能力の低下)が、アルコール摂取中または摂取後すぐに発現する。

C.以下の徴候または症状のうち1つ(またはそれ以上)が、アルコール使用中または使用後すぐに発現する。

  1. ろれつの回らない会話
  2. 協調運動障害
  3. 不安定歩行
  4. 眼振
  5. 注意または記憶力の低下
  6. 昏迷または昏睡

D.その徴候または症状は、他の医学的疾患によるものではなく、他の物質による中毒を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。


このように、アルコール中毒の基準にはフラッシュバックは含まれていないことがわかりますね。

ちなみに、依存症での「フラッシュバック」と言えば、「公認心理師 2020-93」でも出題のあったように「物質の反復使用により出現した精神症状が、再使用によって初回よりも少量で出現するようになること」という現象を指します(本選択肢のフラッシュバックもこっちのことの可能性が高いか)。

これは薬物乱用で見られる現象の一つで、薬物の使用を中断していても飲酒や不眠、ストレスが引き金になったり、少量の再使用で幻覚や妄想などの精神症状が出現することを指します。

こちらについてはアルコール中毒の症状には該当しないことがわかりますね。

もちろん、フラッシュバックと言えばPTSDで知られる再体験症状も考えられますが、こちらについてもアルコール中毒の症状としては認められていませんね。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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