公認心理師 2019-91

問91はASDに関する問題です。
その特徴から社会福祉サービスまでの把握を問う、幅広い問題ですね。

問91 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉について、正しいものを1つ選べ。
①男性よりも女性に多い。
②知的障害を伴うことはない。
③精神障害者保健福祉手帳の対象ではない。
④放課後デイサービスの給付対象ではない。
⑤感覚過敏はDSM-5の診断基準の中に含まれている。

最近は放課後等デイサービスの民間業者も増えてきましたね。
もちろん課題も多いでしょうが、社会の受け皿・居場所が増えることは好ましいことだと思います。

解答のポイント

ASD概念の成立の流れを把握している。
社会福祉サービスの利用に関する知見を把握している。

選択肢の解説

①男性よりも女性に多い。
②知的障害を伴うことはない。

自閉症という用語を最初に用いたのはKannerです(症状の意義、などでも有名な人物ですね)。
論文の中で「早期幼児自閉症」と命名し、小児自閉症、カナー型自閉症などとも呼ばれます。

対して、アスペルガー症候群は、この症例を報告したAspergerというオーストリアの小児科医の名前を取って付けられました。
アスペルガーは1944年に「小児期の自閉的精神病質」というタイトルでカナーとよく似た子どもの発表を行ったが、カナーの自閉症に関する論文とほぼ同時期でした。

当初、自閉症は精神障害に分類されていましたが、1980年のDSM-Ⅲで広汎性発達障害というカテゴリーで発達障害に組み込まれました。
その後、多くの研究者がその定義に関しての議論を進め、現在ではDSMとICDの基準が引用されることが多いです。
ICDにおいては、3歳以前に現われる発達の異常あるいは障害であり、そして相互的社会的関係、コミュニケーション、限局性の反復的な行動の3つの領域全てに特徴的な以上によって定義される広汎性発達障害を指します。
この障害は女児に比べ、男児に3倍~4倍多く出現するとされています

当初、アスペルガーの報告は一般に広まりませんでしたが(カナーの論文は英語、アスペルガーの論文はドイツ語だったため)、1981年にWingがアスペルガーの業績を紹介したことから話題となりました。
ウィングはカナー型自閉症と診断されていないが、社会性・コミュニケーション・想像力の「三つ組」の障害がある子どもたちに気づき、その一部はアスペルガーの報告したケースに似ていることから、アスペルガー症候群という診断が適切であると考えました。

アスペルガー症候群についてICDでは「疾病分類上の妥当性がまだ不明な障害であり、関心と活動の範囲が限局的で常同的反復的であるとともに、自閉症と同様のタイプの相互的な社会的関係の質的障害によって特徴づけられる。多くのものは全体的知能は正常であるが、著しく不器用であることがふつうである。この病態は男児に多く出現する」とされています。
ウィングは、この自閉症とアスペルガー症候群は連続体であると考え、自閉症スペクトラムを提唱しました。
DSM-5では、ASDとして分類され、日本語では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害とされています。

このDSM-5に「特定すれば分類せよ」として、「知能障害を伴う、または伴わない」が定められております
知的障害を伴うASDの場合は、知的障害特別支援学校、小中学校の特別支援学級で学ぶことが多いですが、知的に問題のないASDは通常の小中高校から大学以降に進学する者もおります。
しかしながら、対人関係やコミュニケーション問題から就職がうまくいかない、就職しても定着できず離職する者が多いことが報告されています。

以上より、選択肢①および選択肢②は誤りと判断できます。

③精神障害者保健福祉手帳の対象ではない。

障害をもつことを証明するための手帳が「障害者手帳」であり、障害児者が公的機関の認定を受けて発行されます。
障害者手帳とは、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の総称です。
身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳は法令に基づき発行されますが、療育手帳は根拠となる法令がなく、各自治体の制定する要項などにより発行されます(2018-97の選択肢②でこの点の解説は済ませてありますね)。

厚生労働省は発達障害は精神障害の範疇として対応することとしており、精神障害者保健福祉手帳の対象としています(2018-45の選択肢②にこの点は説明済みですね)
精神障害者保健福祉手帳について記してあるのは精神保健福祉法ですが、第5条において「この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」とされています。

そして、厚生労働省保健医療局長通知「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」における発達障害に関するところを抜き出すと以下の通りです。
「精神疾患(機能障害)の状態は、「統合失調症」、「気分(感情)障害)」、「非定型精神病」、「てんかん」、「中毒精神病」、「器質性精神障害」、「発達障害」及び「その他の精神疾患」のそれぞれについて精神疾患(機能障害)の状態について判断するためのものであって、「能力障害(活動制限)の状態」とともに「障害の程度」を判断するための指標として用いる」
発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が、通常低年齢において発現するものである
精神保健福祉法を読むだけでは発達障害が対象になっていることがわからないので、その辺に気をつけて理解しておきましょう。

ただし、自治体によっては発達障害者の社会的活動の利便を考慮し、療育手帳の取得を可能としているところもあります。
日本では発達障害のための独自の療育手帳は無く、当事者およびその家族の発達障害児のための独自の手帳制度の要望は強いです。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④放課後デイサービスの給付対象ではない。

放課後デイサービスは2012年の児童福祉法の一部改正に伴い、障害児施設・事業の一元化を図る中で、障害児通所支援の一つとして創設されたものです。
障害のある学齢期児童に対して、放課後や夏休みなどの学校の長期休暇中に、社会生活を送るために必要な生活能力の向上のための訓練および社秋的な交流促進のための支援などを継続的に提供し、学校と連携しながらその自立を促進するとともに、放課後などの居場所づくりを推進することを目的としています。

主に6歳から18歳の障害のある児童を対象として、放課後や夏休み等長期休業日に生活能力向上のための訓練および社会との交流促進等を継続的に提供します(特例として20歳に達するまで利用できる)。
1か月の利用日数は施設と保護者が相談した上で自治体が決定することになっており、利用に際して療育手帳や身体障害者手帳は必須ではないため、学習障害等の児童も利用しやすい利点があります。

民間事業者の参入も進んでおり、利用者の選択肢が増えています。
これらサービスの利用には、利用者が市町村に対して申し込む必要があり、決定されると障害児通所給付費及び特例障害児通所給付費が支給されます
月額の利用料は原則として1割が自己負担で、残りのうち国が2分の1負担、都道府県と基礎自治体が各4分の1を負担します(所得により上限があり、自治体独自の補助を設けている場合もある)。

法的には児童福祉法第21条の5の2に「障害児通所給付費及び特例障害児通所給付費の支給は、次に掲げる障害児通所支援に関して次条及び第二十一条の五の四の規定により支給する給付とする」と規定されており、障害児通所支援として、児童発達支援・医療型児童発達支援・放課後等デイサービス・居宅訪問型児童発達支援・保育所等訪問支援などが示されております。

なお、児童福祉法における「障害児」の定義は第2条に以下の通り定められています。
「この法律で、障害児とは、身体に障害のある児童、知的障害のある児童、精神に障害のある児童(発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七号)第二条第二項に規定する発達障害児を含む)又は治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であつて障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第四条第一項の政令で定めるものによる障害の程度が同項の厚生労働大臣が定める程度である児童をいう」

すなわち、法第21条の給付に該当する「障害児施設」を利用する障害児として発達障害は含まれており、放課後等デイサービスは給付対象であることがわかります
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤感覚過敏はDSM-5の診断基準の中に含まれている。

DSM-5の診断基準の「行動、興味、または活動の限定された反復的な様式」としては以下が挙げられております。

  1. 常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し)。
  2. 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)。
  3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)。
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
上記の通り、感覚過敏の項目が含まれていることがわかります。
そもそもASDの感覚過敏が広く認められるようになったのには、DSM-5の改定が大きかったとされていますね
いわゆる中核症状はより複雑で高次の神経情報処理能力と関連が強いはずの認知機能症状ですが、感覚の問題に関しては、比較的シンプルな情報処理を担う神経ネットワークと関係が深いとされています。
以上より、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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