公認心理師 2018-97

知的障害について、正しいものを1つ選ぶ問題です。
主に診断基準を中心とした問題ですが、DSMの改定内容を把握していることが求められています。

また、療育手帳のことを把握していることも重要です。
療育手帳については問45でも出題がありますね。
知的障害と療育手帳はセットで覚えておいた方が良いかもしれません。

解答のポイント

知的障害の診断基準を把握していること。
療育手帳制度について理解していること。

選択肢の解説

『①成人期に発症する場合もある』

知的障害の多くは、胎児期、出生時及び出生後の比較的早期に起こります
発達期の規定の仕方は必ずしも一定ではありませんが、成長期(おおむね18歳まで)とすることが一般的です。

出生前の病因としては、遺伝子の病気(例:遺伝子の配列変異またはコピー数多型、染色体疾患)、先天性代謝異常、脳形成異常、母胎疾患(胎盤疾患を含む)や、環境の影響(例:アルコール、他の薬物、毒物、催奇性物質)などがあります。
出生後の要因としては、低酸素性虚血性傷害、外傷性脳損傷、感染、脱髄性疾患、けいれん性疾患、深刻で慢性的な社会的窮乏、および中毒性代謝症候群や中毒(例:鉛、水銀)などがあります。

よって知的障害は、発達期以降の外傷性頭部損傷や老齢化などに伴う知的機能の低下とは区別され、発達期における知的機能の障害として位置付けられます。
更に、全般的な知的水準の遅れであり、部分的に困難さを伴う「学習障害」とも異なります

DSM-5にも「知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する」と記載があります。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②療育手帳は法律に規定されていない』

「療育手帳」とは、都道府県や政令指定都市・中核市などの自治体が、知的障害児・知的障害者に交付する手帳であり、法で定められた制度ではありません
詳しくは「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生事務次官通知)」をご参照ください。

各自治体の独自制度のため、名称を「愛の手帳」(東京都・横浜市)、「みどりの手帳」(さいたま市)、「愛護手帳」(青森県・名古屋市)とする自治体もあります。
名称が違うだけではなく、障がいの程度の区分やサービス内容も自治体によってかなり違いがあります。

すなわち、療育手帳は自治体の独自施策のため、手帳交付の統一基準がありません。
そのため、同じ症状でも、交付する自治体と交付しない自治体があり、対応にばらつきがあるのが現状です。
統一基準がないこと、対応にばらつきが生じていることも、法律に規定されていないことの影響と言えます。
このことが福祉に手厚さが異なるという地域差が生じる要因にもなっています。

なお、1999年の地方自治法の改正により、機関委任事務が廃止され、通知・通達により国が地方自治体の事務に関与することはできなくなりました。
このため改正の施行日以降、療育手帳制度は各自治体独自の施策となっています。

以上より、選択肢②は正しいと判断できます。

『③療育手帳は18歳未満に対して発行される』

「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生事務次官通知)」における交付対象者は「手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者(以下「知的障害者」という)に対して交付する」とされており、年齢についての記載はありません。

療育手帳には年齢制限はなく、知的障害があれば何歳からでも申請できます
ただし、3歳未満では他の子どもとの知的能力の比較が難しいため、障害の判定ができない場合が多いです。

通常は3歳以降くらいに、障害の判定を受けて療育手帳が交付されることになります。
ダウン症などの場合は多くの事例で知的障害が生じるので、0歳でも療育手帳が交付されることもあります。
なお、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所が判定を行います。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④DSM-5では重症度を知能指数〈IQ〉で定めている』

重症度については、DSM-Ⅳ-TRでは知能指数のみで判断していました。
DSM-5になってから、学力領域、社会性領域、生活自立能力領域に関して、具体的な状況から重症度の判定を行う形に変化するという大きな変更が行われました。
上記3領域を軽度~最重度の4段階評定します。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤診断する際に生活全般への適応行動を評価する必要はない』

DSM-5の診断基準では「知的能力障害(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である」とされており、以下の3つの基準を満たさなければなりません。

  1. 臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。
  2. 個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥、継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する
  3. 知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する。

ICD-10の基準では、発達期に明らかになる全体的な知的機能の水準の遅れ、そしてそのために通常の社会環境での日常的な要求に適応する能力の乏しさで判定されます

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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