公認心理師 2022-38

生物心理社会モデルに関しては、ブループリントにも記載されている項目であり、過去に何度かその用語が問題文の中で示されています。

ただし、今回ほど明確な生物心理社会モデル自体に関する出題は初めてだと思いますので、これを機会にきっちりと把握しておくようにしましょう。

問38 生物心理社会モデルに関する説明として、誤っているものを1つ選べ。
① 心理的要因には、感情が含まれる。
② 生物的要因には、遺伝が含まれる。
③ 社会的要因には、対処行動が含まれる。
④ 多職種連携の枠組みとして用いられる。
⑤ 生物医学モデルへの批判から提案されたモデルである。

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解答のポイント

生物心理社会モデルの全体像を把握している。

選択肢の解説

④ 多職種連携の枠組みとして用いられる。
⑤ 生物医学モデルへの批判から提案されたモデルである。

近代医学は、病気の生物学的な要因を明らかにし(例:病原体としての細菌を発見)、その治療法を開発することで(例:抗生物質ペニシリンの投与)、大きく発展してきました。

そうした医学進歩の中で「生物学的な病因(原因X)→疾患(結果Y)」という生物医学モデルでは、病態が十分に理解できないことが指摘されるようになりました。

例えば、糖尿病を血糖値の増減という生物学的要因だけで捉えるのではなく、気分の沈みといった心理学的要因や、仕事や生活環境といった社会的要因を併せて考慮することがわかりやすい例として挙げられています。

また、このモデルにおいては、個々の患者は一般科学法則の適応例の一つとなり、他の症例と互換可能なものと認識されますから、個々の患者のユニークな人生、こころの問題、社会文化政治的問題、対人関係、家族や友人、医療者自身、患者自身の病いへの理解、患者自身にとっての病いの意味、治療に対する患者の希望・価値観・選択といったことは全て捨象せざるを得ないということになります。

こうした生物医学モデルへの批判から生まれたのが、アメリカの精神医学者Engel(1977)が提唱した健康理論モデルである「生物社会心理モデル」になります。

健康状態を生物・心理・社会訂な要因のシステムとして包括的に捉えようとする考え方を基本とします。

生物医学モデルが病気の原因を臓器や細胞に求めるのに対し、生物心理社会モデルでは人間の疾患(disease)あるいは病い(illness)を、病因→疾患という直線的な因果関係 ではなく、生物・心理・社会的な要因のシステムとして捉えようという提言です。

Engelの論文タイトルは「新しい医学モデルの必要性-生物医学への異議申し立て」(主な引用箇所は以下の通り)になります。

  • 医師の責任は、心理生物的な統一体である患者の問題がどういう問題であるか評価し、他の援助専門職へのリファーを含め、患者がどう行動すべきか勧奨することである。
  • 医師の専門職としての基本的な知識・技能は、社会的・心理的・生物的なものに渡らなければならない。患者のために行う問題評価と行動勧奨はこれら3つを含むからである。

このように、生物心理社会モデルは生物医学モデルへの批判から提案されたモデルであることがわかりますね。

こうした生物心理社会モデルに基づけば、様々な種類の治療を組み合わせることもあり得ることになり、当然精神科医だけではなく色々な職種の人たち(医師や看護師、薬剤師、心理師(心理士)、作業療法士、精神保健福祉士など)がタッグを組み、連携して治療するという多職種連携、チーム医療が必要になってきます。

それぞれの領域の専門家が、自らの専門性を発揮することに加えて、医学についての知識を得たり、福祉サービスを調べたりするなど、お互いの役割や専門性の違いを理解し、より有効なサポートにつなげることが肝要です。

多職種連携の必要性は、他選択肢の解説を読んでもらえれば、より理解しやすいと思います。

余談ですが、今度、県の学校事務職員に対する研修会講師をすることになりました。

ある病院では、医療事務の人たちにも院内の勉強会に参加してもらい、病理やその対応について知ってもらっているということですが、治療や支援というのは個々人が行うものではなく、その組織の所属する人それぞれがクライエントや患者に少しずつ影響を与えながら行われていくものだと言え、そういう観点から今度の学校事務職員の研修を行おうと思っています。

生物心理社会モデルでは多職種連携の考え方の基盤に存在し得るものと言えますが、支援というのは専門家・非専門家という垣根を超えて行われるものであると思いますし、そういう広い視野を持って支援を行っていくと「クライエントに影響を与えているかもしれない要因」についてより敏感に察知することがしやすいだろうと思います。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

① 心理的要因には、感情が含まれる。
② 生物的要因には、遺伝が含まれる。
③ 社会的要因には、対処行動が含まれる。

生物心理社会モデルでは、疾患を生物的要因、個人の心理的要因、個人を取り巻く社会的要因の3つの要因から総合的に捉え、介入アプローチを考えていくことになります。

生物心理社会モデルの特徴としては、生物・心理・社会の3つの側面からさまざまな関連要因を包括的に扱っていること、要因同士が複雑に相互用しあって個人に影響を及ぼしていると考えることが挙げられますね。

総合的・多元的に捉える生物心理社会モデルを階層から見ていくと、以下のように大小さまざまなシステムが存在していることがわかりますね。

生物圏(社会)
 ⇔社会・国家(社会)
  ⇔文化・下位文化(社会)
   ⇔地域(社会)
    ⇔家族(社会)
     ⇔二者関係(社会)
      ⇔個人(経験・行動)(社会)(心理)
       ⇔神経系(生物)(心理)
        ⇔臓器・器官(生物)
         ⇔細胞(生物)
          ⇔細胞器官(生物)
           ⇔分子(生物)
            ⇔原子(生物)
             ⇔原子以下の粒子(生物)

そして、生物・心理・社会の3つの側面は具体的には以下の通りになります。

  • 生物的要因:遺伝的要因、生得的疾患、発達特性、身体症状、生来的気質など
  • 心理的要因:感情、認知、ストレス、自己効力感、対処行動、無意識など
  • 社会的要因:家族との関係、社会(学校、職場、コミュニティ)との関係、福祉、ソーシャルサポート、経済的状況、居住地や属しているコミュニティの風土や慣習など

生物学的要因に基づく治療の代表的なものは薬物療法であり、脳に直接的に作用して精神症状を改善させていきます(抗うつ薬で脳のセロトニンという物質を増やして、うつ病を治療したり、不安症状を改善させるなど)。

心理学的要因に基づく治療としては心理カウンセリング、精神療法があり、その中でも伝統的な心理療法から心理教育まで様々なものがあるのは周知のとおりです。

カウンセラーの専門領域は主に心理的要因に基づく範囲となりますが、アセスメントや自身の支援の幅および連携という面を踏まえれば、当然多要因に基づく問題や治療法にも精通しておくことが重要になってきますね。

社会的要因に基づくアプローチは治療から社会的介入(社会的支援やサポート)まで幅広く存在しています。

家族や近所に住む人たち、介護や福祉などの地方行政サービス、公的機関による経済的支援など、患者やクライエントの周りにいる人たち、周りの社会が患者さんの生活を支え、サポートするというものになり、その担い手は医療職に留まりません(この点からも生物心理社会モデルが多職種連携の枠組みとして用いられることがわかりますね)。

以上より、選択肢①および選択肢②は正しいと判断でき、除外することになります。

そして、選択肢③は誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

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