公認心理師 2020-130

こちらは生物心理社会モデルに関する問題ではありますが、示されている選択肢の各概念について理解していないと解けないようになっています。

単に「生物心理社会モデル」に関して知っていればそれで良いという問題ではないので、幅広い知識が求められていると言えます。

それにしてもニッチな領域が出ていますね。

問130 生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして、適切なものを2つ選べ。
① DSM-5
② HTP テスト
③ 洞察の三角形
④ Cannon-Bard説
⑤ 国際生活機能分類〈ICF〉

解答のポイント

示されている各概念・検査の成り立ちについて理解している。

選択肢の解説

① DSM-5

こちらについては「2019-78 選択肢②」で、そのまんま解説していますね。

ここでは、それらを引用しつつも、また本問に合わせて解説を編んでいきましょう。

人間の健康や医療を考える上で、生物学(医学)、心理学、社会学という各専門領域を分化させて研究を進め、そのうえでこれらの視点を統合していこうとするポリシーのことを「生物心理社会の分化統合モデル」と呼びます。

これはEngelが提唱した概念で、医療において生物医学的な理解は必要だが、同時に人としての側面、かかわる他人との関係や家族、コミュニティといった側面も理解していこうというものです。

このモデルでは、心理的問題は生物学的要因(脳神経、遺伝子など)、心理学的要因(パーソナリティ、認知、感情、ストレスなど)、社会学的要因(家族、職場、地域のソーシャルネットワークや文化、教育、経済状況など)のそれぞれが複合して生じると考えます。

従って、こうした各領域の要因を解きほぐして詳しく分析し、そのうえで心理的問題に対して見立てを行っていくことが大切です。

DSMでは、Ⅲ~Ⅳまでの版で多軸評定を採用していますが、そもそもこの多軸評定はこの「生物心理社会の分化統合モデル」を前提としており、1人のクライエントについて5つの次元から総合的に診断するものとしていました。

すなわち以下の通りになります。

  • 生物学(医学):Ⅰ軸(臨床症候群)、Ⅲ軸(身体疾患)
  • 心理学:Ⅰ軸(臨床症候群)、Ⅱ軸(人格障害と知的障害)
  • 社会学:Ⅳ軸(心理社会的問題とストレス)、Ⅴ軸(生活適応度)

このようにDSMの多軸評定は生物心理社会モデルを前提としていました。

DSM-5では多軸評定システムによる記載方法は廃しましたが、その基本的な考え方は残っています。

Ⅲ軸はⅠ軸またはⅡ軸と合体し、Ⅳ軸はICDを、Ⅴ軸はICFかそれに準拠した世界保健機構能力低下尺度を参考にするべきと明記されています。

すなわち、表記法や参考にすべき尺度は変わったが、多軸評定システム的な考え方がすべて排除されているわけではなく、生物・心理・社会の総合的な視点から精神疾患を捉えようとする点には変わりありません。

以上より、生物心理社会モデルは、クライエントを生物学的要因(脳神経、遺伝子など)、心理学的要因(パーソナリティ、認知、感情、ストレスなど)、社会学的要因(家族、職場、地域のソーシャルネットワークや文化、教育、経済状況など)から多面的・包括的に理解しようとするモデルと言えます。

よって、選択肢①のDSM-5は生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして適切と判断できます。

② HTP テスト

HTPテストは、家と樹木と人物描画検査であり、Tree-House-Personの頭文字を取って名付けられています。

Buckによって1948年に考案され、1950年前後から用いられています(Beckではありませんから注意が必要)。

バックは、家と樹木と人を別々の紙に描かせる方法を採用しており「被験者のパーソナリティの感受性、成熟性、柔軟性、効率性、および統合度や人格と環境との相互作用などに関する情報を得て、臨床家を援助することを狙いとする技法である」と述べています。

バックが家と樹木と人という課題を選んだ理由として、①低年齢の幼児でも親しみ深い項目であること、②他の課題と比べて、あらゆる年齢層の被験者に好意的に受け入れられること、③その他の課題よりも率直で自由に言語表現させることができること、を挙げています。

③に関しては、本テストが絵を描いてもらった後に絵について一定の質問をすることと関連しています(これをPDI方式と呼びます)。

これによって非言語的・創造的・非構造的な描画と、統覚的・構造的な言語による2つの側面から人格にアプローチすることとなり、バックはPDIにおける言語化を描画と同じくらい重視していました。

上記がHTPテストの大枠ですが、次は実施方法について述べていきましょう。

あくまでもベックの方法を中心に述べていきます。

被験者に数本のHBの鉛筆と消しゴムを与え、7×8.5インチ(1インチは約2.5センチ。この辺は覚えなくても大丈夫でしょう)の二つ折りにされた4ページからなる白い描画用紙の2ページの上辺に「house」の印刷文字が上にくるように用紙を横向きに置きます。

そして被験者に「鉛筆を1本持って、できるだけじょうずに家の絵を描いてください。どんな家を描いても結構ですが、精いっぱい描いてください。何度描き直してもかまいません。時間も特に制限はありませんから、あなたが描けるだけじょうずに家を描きあげてください」と告げます(ただし、定規の使用などは認めません)。

家の絵が描き終えられたら、「tree」と印刷された3ページを開いて樹木の絵を描き上げるように教示し、その後「person」と印刷された4ページを開いて縦に置き「男性でも女性でも子どもでも構いませんが、できるだけ上手に描いてください。ただし、頭や肩まででなく、身体全体を描くようにしてください」と教示します。

描き出した時間、描き終えた時間、各部分を描いていく順序などを記録し、すべての描画の完成後に各紙面を被験者の前に置き、バックによる64問の質問(PDI)を行います。

その後の研究者や臨床家によっては、この質問を少なく設定していることも多いです。

いずれにせよ大切なのは、描画の解釈の手がかりとして、各描画についての説明を被験者と話し合うことです。

続いては、HTPで描かれる各項目に関する、簡単な理解・見方について述べていきましょう。


【家】

被験者が成長してきた家庭状況を表し、その家庭生活や家族関係をどのように認知し、どのような感情を抱いているかを示します。

また、自己像の反映として、被験者の現実や他者とのかかわり、情緒的安定性、性的発達度なども表すと言われています。

【樹木】

人が樹木を描くときは、今までに見てきた多くの樹木の中から、自分自身の感情に最も合った樹木を選んで描くとされており、樹木はより無意識的な深い層の自己像を反映し、それ故により深い感情や抑圧されている感情が自己防衛の必要性なしに投影されやすいとされています。

樹木は再検査による変化が最も少なく、精神分析や著しい生活環境の変化によってのみわずかに変化すると言われています。

なお、同じく樹木を描く検査としてバウムテストがありますが、バウムテストでも自己像を示すという認識をもっている等共通点はあるものの、その解釈の援用は基本的にはしません。

HTPテストでは、その3つのパーツを連続で描いているという「流れ」を解釈する面もありますから、樹木だから同じように解釈できるというわけではないことを理解しておきましょう(確か、この点に関する設問が臨床心理士資格試験で出ていました)。

【人】

より意識に近い部分での現実の自己像や理想の自己像、あるいは自分にとって重要な人物や人間一般をどのように認識しているかが反映されます。

人間像には容易に自己が投影されやすく、抵抗や警戒心が生じやすいためか、3つの課題のうち最も描くのが困難とされています。


その他、結果の解釈法や変法(THPPテスト)などもありますが、そこまでは省くことにしましょう。

なお、HTPの解釈でよく言われるのが、量的な解釈もなされてはいますが、それはあくまでも「経験的な仮説」のレベルにとどまっており、それぞれの信頼性や妥当性も検証し難いということです。

この辺がTHPの限界として示されることが多いですね。

そして、このことを踏まえると科学的な知見も重視する生物心理社会モデルとはあまり縁がないものとみなすことができます。

以上より、選択肢②のTHPテストは生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして不適切と判断できます。

③ 洞察の三角形

正直、洞察の三角形が出るとは思いもよりませんでした。

第3回の試験では、これまで出題されなかったニッチな領域が出ています。

今回の出題者は「不正解となる選択肢なら、多少突っ込んだ領域の概念を出してもいいだろう」という認識をもっていたのかもしれません(実際、そのニッチな概念が正解になっていることはない)。

好意的に見れば、各出題者が「これは専門家として知っておいてほしい」というものを入れ込んでいるのかもしれないですね。

さて、洞察の三角形はMenningerが示した概念になります。

こちらの書籍では、精神分析的精神療法の力学が解説されています。

例えば、「分析開始当初にクライエントが期待していた救いは、精神分析医によって与えられることはない。クライエントは欲求不満を感じ、退行して、自分の習慣的で未熟な方法を用いて自分の求める何かを手に入れようとする。この際、クライエントの「I want cure from the doctor」という命題の目的語、動詞、間接目的語(the doctor)、主語のそれぞれに対抗が生じる。この際の間接目的語の退行が転移である」などです。

洞察の三角形は、①クライエントの過去(親との関係)、②クライエントの現在の日常場面における人間関係(転移外の現在の関係)、③面接室でまさに「今・ここ」でクライエント‐セラピスト関係において生じているもの(転移関係)、で表されます。

これは、過去・現在・治療内での対人関係における、隠された感情(衝動)・不安・防衛の反復パターン(あるいは自尊心の維持のために防衛を用いる反復パターン)をみることで、その人のありようを理解しようとする姿勢です。

洞察におけるカウンセラーとクライエント双方の役割は、クライエントの現在の行動(つまり②とか③)と、クライエントの症状のパターンとして解釈されうる過去の状況(つまり①)の両方に関する情報を集めることです。

つまり、この三角形では、過去から生成されたもの(親との関係で生じた感情体験)は、現在の関係(転移外の現在の対人関係)でトリガーされ、セラピストとの関係(転移関係)でもトリガーされるということを前提にしているわけですね。

こうしたクライエントから得たさまざまな資料のパターンに関して、クライエントが理解することを「洞察」と呼んでいます。

こうしたメニンガーの主張をまとめると以下のようになるかと思います(たぶん)。

  1. クライエントは自分の感情、態度、行動には一つのパターンがあることを理解する必要がある。
  2. しかもそれが自分や他人にとって有害なものであることを理解することが必要である。
  3. それが過去に起源(=①)があり、現在の現実状況(社会生活)の対人関係(=②)の中に現れ、更に分析状況(=③)の中にも同様に出現しているものであるという事実を認識させることが、分析治療の狙いである。

このように、洞察の三角形はメニンガーが示した概念であり、生物学的な側面に関してはそれほど考慮されていないことがわかると思います。

よって、選択肢③の洞察の三角形は生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして不適切と判断できます。

④ Cannon-Bard説

脳が刺激を知覚することで、感情体験と身体反応が同時に喚起されると主張する説が、キャノン‐バード説になります。

アメリカの生理学者キャノンと、その弟子バードは、緊急事態では、状況は様々でも、交感神経系の働きによって同様な身体反応が生じることを観測しました。

また、動物の視床(当時は視床下部を含む間脳の広範な領域を指していました)を破壊すると感情反応が消失することから、視床が感情体験とそれに伴う身体反応をつくりだす中枢であると主張しました。

彼らはこれらの実験知見に基づいて、それまで40年間優勢であったジェームズ‐ランゲ説(身体反応が感情体験の源泉であり、異なる身体反応が異なる感情体験をもたらすという主張。「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」という言葉に、その立場が集約されています)を批判しました。

この説は2人の名前を取ってキャノン‐バード説と呼ばれたり、感情の発生に脳(神経中枢)の役割を重視することから感情の中枢起源説とも呼ばれています。

ただし、キャノン‐バード説では、同一の身体反応で異なる感情を抱く場合をうまく説明できませんね。

そこで出てきたのがシャクター‐シンガー説(二要因説)であり、こちらでは、生理的な反応と、それに対する認知的解釈の2つの要因によって情動体験が生まれると考えます(吊り橋実験における生理的な高ぶりを、どう認識するかで情動体験が変わってくる)。

つまり、キャノン‐バード説では「外部刺激→中枢神経系(視床)→情動体験 / 末梢神経系の生理学的変化」だったのに対して、シャクター‐シンガー説では「外部刺激→末梢神経系の生理学的変化→認知的解釈→情動体験」となっているわけです。

こうした後世の批判からも、キャノン‐バード説は生理的な捉え方が中心であり、その人の心理的な要因や環境要因を汲み取っていないことがわかりますね。

よって、選択肢④のCannon-Bard説は生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして不適切と判断できます。

⑤ 国際生活機能分類〈ICF〉

障害に関わる専門領域は、心理、教育、医学、福祉、行政など多岐にわたっており、それぞれの立場によっても、障害の捉え方は異なっています。

領域を超えて障害を理解するための枠組みとして、WHOは、2001年に国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)を提出しました。

これは1980年の国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:ICIDH)の改訂版ではあるものの、それとは視点が大きく異なっています。

ICIDHでは、障害そのものに焦点を当てていましたが、ICFは生活機能という「人が生きること」全体に注目したうえで、「できないこと」というその人の一部分だけに注目するのではなく、「できていること」も含めて日常生活におけるその人の活動の全体像をとらえる重要性が示されました。

もともと障害に関する主要な概念モデルとしては、医学モデルがあり、障害を病気や傷害、その他の健康状態から直接引き起こされた人の特性と見ていました。

このモデルでは、個人のもつ問題を改善するために、医療あるいはその他の治療や介入を必要としました。

もう一つの主要な概念モデルである社会モデルは、障害を社会によって作られ、個人の属性では全くないものと捉えます。

社会モデルでは、その問題が社会環境の態度や他の特性によってもたらされた不適切な物理環境によって生みだされたので、障害は政治的な対応が求められると考えます。

両者とも部分的には妥当ではありますが、いずれのモデルも単独では十分ではありませんでした。

障害は複雑な現象であり、人の身体レベルの問題であると同時に複雑・主要な社会現象でもあります。

つまり、医学的および社会的な対応はともに、障害と関連した問題に対して適切であるので、いずれか一方の種類の介入を完全には否定できないということになります。

これらのことを要約すると、より良い障害のモデルとは、全般的で複雑な障害の概念をその側面の一つに集約するという間違いをおかすことなく、医学モデルおよび社会モデルの中にある真理を統合したものであるということです。

こうした障害のより有用なモデルの一つとしては「生物・心理・社会モデル」となり、ICFはこのモデル、すなわち医学モデルおよび社会モデルの統合に基づいて提出されています。

この統合によって、ICFは健康に関する異なる観点(生物・個人・社会)の一致した見方を提供することになります。

それが明確に示されているのが、ICFの「生活機能」という概念です。

ICFにおいて、生活機能は以下から構成されています。

  1. 心身機能・構造(生物レベル)
    生命の維持に直接つながるもので「心身機能」と「身体構造」に分けられる
    心身機能:手足の動き、視覚・聴覚、内臓、精神等の機能面
    身体構造:指の関節、胃・腸、皮膚等の構造面
  2. 活動(生活レベル)
    一連の動作からなる目的をもった個人が遂行する生活行動であり、日常生活動作以外にも職業的動作、余暇活動も含まれるため、文化的な生活、社会生活に必要な活動すべてを含む。
  3. 参加(人生レベル)
    家庭内での役割を含め、社会的な役割を持って、それを果たすことである。地域組織の中でなんらかの役割をもち、文化的・政治的・宗教的など広い範囲にかかわる。

これらは、生物(生命)・個人(生活)・社会(人生)の3つのレベルに相応します。

このように、ICFでは生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤のICFは生物心理社会モデルに共通する考え方を含んでいるものとして適切と判断できます。

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