グループ活動を通した支援法に関する問題です。
各活動でかなり共通点が多い領域ですから、弁別点を見極めておくことが重要になりますね。
問18 一定の集団の中で、一定の時間的な枠組みとエクササイズを設け、参加者同士が率直に語り合い、感情を交流させて、相互理解や信頼関係を醸成しながら他者理解や自己理解を進め、行動変容や成長を図る手段的な取組として、最も適切なものを1つ選べ。
① Tグループ
② サイコドラマ
③ ピアサポート
④ セルフヘルプ・グループ
⑤ 構成的グループエンカウンター
解答のポイント
集団心理療法、グループ活動の各内容を把握している。
選択肢の解説
⑤ 構成的グループエンカウンター
まず、本問のポイントになるのは「一定の時間的な枠組みとエクササイズを設け」「参加者同士が率直に語り合い、感情を交流させて、相互理解や信頼関係を醸成しながら」「他者理解や自己理解を進め」などになるでしょう。
グループ活動はさまざまなものが提唱されていますが、エクササイズを設けているという点でかなり分かれることになります。
一方で、参加者同士が~という箇所については多くのグループ活動で一致している点なので、ここだけでどのグループ活動を指すのかを限定するのは不可能ですが、言い換えれば、ここだけでグループ活動以外の選択肢を排除することができます。
最後に「他者理解」が入っている点です。
自己理解に重点を置いたグループは多いのですが、他者理解も明確に含んでいるものになると絞られてきます(他者理解が重要になる場で使われる割合が高いグループは何か?と考えておくとより絞りやすいでしょうね)。
更にポイントになりそうなのが、本問の説明文には対象者の限定がないことです。
多くのグループ活動では、その対象者が「ある経験をしている人」や「何らかの失調を抱えている人」であることも多いのですが、そうした限定がないというのも本問が提示している条件であると言えそうです。
こうした点を頭に置きながら解説に入っていきましょう。
グループエンカウンターとは、集中的なグループ体験のことを指します(この意味の場合は、エンカウンターグループも含む)。
参加者はクライエントや患者に限定されず、すなわち、治療を求めてではなく、自己啓発や自己変革を求めて参加する人を対象にしています。
こうした集中的なグループ体験には2種類あります。
その1つは、カール・ロジャーズらを創始者とするベーシック・エンカウンターグループです(単にエンカウンターグループと呼ぶことの方が多いかもしれない)。
ロジャーズによれば「経験の過程を通して、個人の成長、個人間コミュニケーションおよび対人関係の発展と改善」を意図した集中的グループ体験が、エンカウンターグループということになります。
もう1つは、オープン・エンカウンターで、ウィリアム・シュッツらによって提唱されました。
こちらはヒューマニスティック心理学の文脈から生じており、ゲシュタルト療法のパールズもシュッツのいる研究所(エスリン研究所)に所属していました。
これら2つの相違は、エクササイズの活用の有無にあります。
ロジャーズのそれは「計画された「演習」を避ける」というものであり、非構成的とも表現されます。
これに対して、シュッツらのグループはエクササイズを活用します。
こちらは日本において、主に國分康孝らによって「構成的グループエンカウンター(Structured Group Encounter:SGE)」と命名され、1970年代後半から提唱・実践され始めました。
SGEは、ふれあい(本音と本音の交流)と自他発見(自他の固有性・独自性・かけがえのなさの発見)を目標として、個人の行動変容を目的としています。
このように、エンカウンターグループ(実存主義と来談者中心療法)と構成的グループエンカウンター(実存主義、プラグマティズム、論理実証主義とゲシュタルト療法)は別の潮流をもつものと言えます。
これらを同一のものと見なしてしまっている人がいますが、きちんと弁別して語れるようにしておくことが大切です(特に大学院入試の時に、いずれかの専門家がいたら弁別できないとまずいですよ)。
構成的グループエンカウンターの中身については、こちらの問題を読むとわかりやすいかもしれません。
上記の通り、構成的グループエンカウンターでは、対象者を限定せず(むしろ健康な人や問題を示していない人への適応が多い)、語り合いや感情交流を重視し、その中で他者理解や自己理解を図っているという点で本問の提示している内容と合致すると考えられます。
よって、選択肢⑤が適切と判断できます。
① Tグループ
T(トレーニング)グループは、社会に適応している人の感受性や人間関係能力の再教育を、体験的な学習によって実施するものです。
参加者は、グループ内の人間関係を自らが体験し、吟味・検討することを通して、自己理解と他者への共感的理解を深め、人間関係やグループの動きの本質を学ぶとともに、自分の所属するグループへの信頼関係を培っていく技能を体験学習することができます。
1945年にグループ・ダイナミックス研究所を設立したレヴィンは、社会心理学的な「場理論」を提唱していますが、その実践的手法をもって人間関係ワークショップを展開しました。
ちなみに、当初の目的は社会的指導者の養成でした。
そのワークショップに関する討論は、当初、リーダーと研究観察者が行っていましたが、このミーティングにワークショップ参加者が出席を希望しました。
すると、グループセッションで観察されたことをめぐって、参加者から否定されたり、他の参加者からは支持されるなど、人によって見解が異なることが明らかとなったため、その後参加者はスタッフと共に行動事象の分析や解釈をし始めました。
こうした振り返りによって、自分自身の行動のみならず、グループの行動もよく理解できるようになったと参加者は報告しました。
偶然発見されたこのような形のトレーニング・グループが、個人やグループの行動学習について有効なのは明らかであり、これが現在のTグループの起源となっています。
当初は社会心理学者が中心だったスタッフに臨床心理学者や精神医学者が加わるようになり、関心もグループ内の対人関係の理解とその処理の方法に移っていきました。
以後、Tグループは2つの方向で展開してきており、1つはグループワークや組織の技術の向上を問題とする方法で、産業界の人々の要請に応じた管理者研修などに用いられています。
他方は、個人の成長を重視するもので、最近では個人の人格的成長、対人関係能力の向上が目標となったものがTグループの中心になっています。
本問を読んで、一番迷うと考えられるのが、構成的グループエンカウンターとTグループの弁別だろうと思います。
健康な人も含めて対象にしていること、個人の人格的成長や対人関係能力の向上が目的となっていること、他者との交流によってグループが展開されることなどが共通していると言えます。
ただ、やはりエクササイズの存在が前提となっているか否かや、T=トレーニングであることからもわかる通り、参加者がグループ内の人間関係を吟味・検討することを重視していることなどは構成的グループエンカウンターとの違いであると言えますね。
Tグループでは、グループ内の人間関係を参加者が吟味・検討するということが重要ですから、その要素が問題文に含まれていないのは不自然です。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② サイコドラマ
サイコドラマは、モレノが1920年代に開発した即興劇の方法を用いた集団心理療法です。
診断的・治療的な目的のもとに、即興的に自発的に、ある役割を演じるという劇的な方法を用いて行われます(診断的という表現に違和感を覚えますが、これはサイコドラマが提唱された際の考え方だと思っておくと良いでしょう)。
モレノのサイコドラマの理論的背景の中心的概念は「自発性の原理」と「役割の原理」です。
モレノの定義する自発性とは、ドラマ的状況(葛藤や危機など)に遭遇したときに、その人の内面に突然生じる葛藤や危機を克服させる力、さまざまな状況に即応して、適切な行為を遂行する力のことです。
一方、役割を演ずることで、日常生活では経験できないことを、心理劇の中で経験することができます。
また、役割交換することで、他人の目で自分を見ることができ、自分でも気がつかなかった自分の姿を発見し、そこから洞察やカタルシスが生じるとされています。
サイコドラマは、主治療者もしくはグループリーダーである「監督」、ドラマで中心的な役割を果たすことになる「主役」、主役以外で脇から補助をする「補助自我」、ドラマを見ている「観客」、そして演じられる場としての「舞台」によって構成されます。
舞台としては、大げさな設備などを備える必要はなく、椅子で囲んだフリースペースなど、守られた空間を意識できるようなものであれば、それが舞台として機能します。
10人前後のグループで行われることが多く、1回につき60分~90分で実施されます。
最初はウォーミングアップで、ゲームや体操などリラックスする内容で構成されます。
テーマはあらかじめ決められている場合もあれば、その場で参加メンバーが関心を持っているテーマが募集される場合もあります。
舞台ではドラマが即興で作られ、メンバーはドラマに参加し、演者となったり観客になったりします。
また、補助自我を務める人は、主に主役を支えドラマの進行を助けます。
最後にはシェアリングの時間が設けられ、感想を共有します。
一連の流れを通して、問題に対する直面化、内面の洞察、カタルシス、共感などを体験することができます。
サイコドラマの技法は、医療機関や矯正施設、教育機関、保健所などの地域保健活動で用いられ、その適用対象も幅広いです。
上記の通り、サイコドラマではエクササイズはウォーミングアップ等で行うことがありますが、重要なのはその後に行われる「即興劇」の方ですから、エクササイズに重きを置いてある本問の記述とは相いれない面があるでしょう。
ここでの体験を通して「問題に対する直面化、内面の洞察、カタルシス、共感など」を体験するわけですが、中核になってくるのは「自身の課題や成長」になると思われ、他者理解に関しては生じたとしても副次的なものであり、それ自体を目的としている活動ではありません。
このような点から、本問の内容がサイコドラマを指すとは言えないと考えられます。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ ピアサポート
ピアサポートのピアとは「仲間」という意味であり、同じ問題を抱える者が集まり、それぞれの体験や行動、考え、感情などを互いに語り合い、支え合うことを指します。
相互に体験や感情を共有することによって、問題解決の方策を見つけ出そうとします。
学校での子どもたちによる活動をはじめ、地域や職場で、女性・高齢者・障害者など、幅広い領域で活動が行われています。
もちろん、ピアサポートの中で何かしらのエクササイズが行われることもあり得るでしょうが、それはピアサポートというやり方にあらかじめ組み込まれているものではありません。
また、ピアサポートでは「同じ体験をした者同士が、互いに支え合う」ということが中核であると考えられますから、自己理解や他者理解がその理念に含まれるのは不自然と言えるでしょう(もちろん、そうした現象が生じる可能性があることは否定できないが、それを前提もしくは目的とした取組ではないはず)。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④ セルフヘルプ・グループ
セルフヘルプ・グループは、同じ問題やニーズを持つ人々が、相互援助を通じて各自の問題解決を図る集団を指し、自助グループとも称されます。
当事者同士による問題の捉え方や対処について情報交換が行われるため、社会相互学習によるモデリングが生じやすいのが特徴でもあります。
また、相互に援助しあうことによって、被援助者側に社会的支援をもたらすだけでなく、援助者側には問題に対する理解の促進や認知の再構成、他者の役に立てるといった自尊感情の回復などの利益がもたらされるとするヘルパーセラピー原則という考え方があります。
疾病や障害、依存症、精神障害、犯罪被害や遺族など、様々な生きづらさ、共通の問題を感じる人に活用されるグループ形態と言えます。
先程のピアサポートと似ている点は多いのですが、セルフヘルプグループは感覚的にはより「各自の問題解決」に力点を置いているような印象です(ピアサポートは、互いに支え合うというところが重要そう)。
セルフヘルプ・グループに関しても、エクササイズを行わないわけではないでしょうが、それを前提として設定されているものではありません(むしろ、エクササイズを行うというのは、構成的グループエンカウンターからの流用であることも多い)。
そして、ピアサポートもセルフヘルプ・グループも「何かしらの問題を抱えている者同士」であることが前提となっていますが、本問が呈示している内容はその辺の記載が存在しませんね。
本問の内容が指しているのがピアサポートやセルフヘルプ・グループであれば、この「何かしらの問題を抱えている者同士」という箇所は絶対に削除できないものですから、それが含まれていない以上、本選択肢が正解ということにはならないはずです。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。