インスリン治療中の糖尿病患者にみられる低血糖の初期症状に関する問題です。
インスリン治療中うんぬんよりも、「低血糖になったときの初期症状」を知っておくことで解きやすい内容だったのではないでしょうか。
問106 インスリン治療中の糖尿病患者にみられる低血糖の初期症状として、適切なものを1つ選べ。
① 血圧の低下
② 体温の上昇
③ 尿量の増加
④ 発汗の増加
⑤ 脈拍の減少
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解答のポイント
低血糖の初期症状について把握している。
選択肢の解説
① 血圧の低下
② 体温の上昇
③ 尿量の増加
④ 発汗の増加
⑤ 脈拍の減少
「低血糖」という言葉は、①低血糖という状態を定義するための低血糖「値」、②低血糖において出現する低血糖「症状」、という2つの概念が混在して使われています。
低血糖値の定義、すなわち血中ブドウ糖濃度がどれくらいの値以下(あるいは未満)になると低血糖値として良いのかについては、低血糖値だけではなく、低血糖症の有無も考慮されます(高血糖においては、患者の自覚症状のいかんに関わることなく、特定の条件下で一定の基準値を超えた時点で定義している)。
従って、低血糖値の国際的に標準化された値は存在せず、換言すれば、低血糖は低血糖値のみで規定されるのではなく、自覚症状も含めて総合的な臨床判断によって決定されることになります。
インスリン治療における低血糖は、食事と投与されたインスリンとのアンバランスによって引き起こされます。
食事 | インスリン | |
種類 | 炭水化物摂取量の不足 単糖類の偏った摂取 | 超速効型・速効型製剤と中間型・時効型との取り違え |
量 | 全体の摂取量不足 | インスリン投与量の間違い |
時間 | インスリンの食前・食直前注射から食事摂取開始までの時間が長い、あるいは摂取しなかった。 | インスリンの食前・食直前注射から食事摂取開始までの時間が長い、あるいは摂取しなかった。 |
中枢神経系のエネルギー源はグルコースのみであるため、低血糖は中枢神経の機能低下を招来します。
このため、生体は血糖値が低下すると防御機能として、インスリン拮抗ホルモンの分泌が起こり、肝臓での糖新生を促して血糖値を上昇させるように働きます。
低血糖症は、中枢神経機能低下と、この進行を防御しようとする拮抗作用、特にアドレナリン分泌による交感神経興奮による症状に大別して考えることができます。
交感神経症状である動悸や発汗、手指振戦、中枢神経症状である脱力、眠気、意識レベルの低下などの低血糖症状があり、少なくとも血糖値が70mg/dL以下の場合、低血糖と診断して対応するとされています。
- 交感神経症状:頻脈、発汗、蒼白、低体温、皮膚湿潤
- 中枢神経症状:嗜眠、意識障害、異常行動、認知機能低下、痙攣、昏睡、四肢反射の亢進、Babinski徴候陽性、瞳孔反応正常
自覚症状としては、ふらつき、めまい、空腹感、無気力、脱力感、だるさ、生あくび、いらだち、手足のふるえ、動悸眼のかすみ、複視、頭痛、集中力や計算力の減退、健忘、などが挙げられます。
よく見逃される重要な症状として空腹感があり、患者によっては「急に胃袋をわしづかみされたような」と形容することもありますが、単なる空腹感としか自覚していない場合もあり、過食につながって血糖コントロール悪化を来たしていることもあります。
上記の通り、低血糖だと低体温、脈拍増加、発汗の増加などが示されていますし、自律神経が障害されると血圧の調節機構が正常に作動しないので血圧の上昇を招きます。
また、尿量の増加は高血糖で見られる症状になりますから、低血糖では生じないものです。
こうした低血糖を招く患者側のリスク因子としては、以下が挙げられています。
- インスリン注射や低血糖についての知識不足
- インスリン注射量の誤り
- 血管内へのインスリン注射
- インスリン抗体
- インスリン分泌が枯渇(1型糖尿病など)
- 食欲低下・嘔吐・下痢などのシックデイ
- 食事の遅れや非摂食
- 食事・運動療法を開始して間もない
- 中等度以上の強度の運動後
- アルコール多量摂取
- 中等度以上の肝機能障害
- 中等度以上の腎機能障害
- 慢性膵炎など膵外分泌疾患
- 自律神経障害
- 胃切除術後
- 高齢者
こうした低血糖への対応としては、血糖自己測定器があれば血糖値を確認してもらいますが、それが難しければ低血糖の対応を優先するようにも伝えます。
低血糖の際は速やかにブドウ糖を中心とした糖質の経口摂取になり、量はブドウ糖として10~20gになります(ブドウ糖でなければならないという思い込みは危険で、とりあえず普通の砂糖を摂取し、ブドウ糖を探すということもあり得る。ブドウ糖を多く含む清涼飲料水を買い求めて飲用するという方法も重要になる)。
本人が経口摂取不可能な意識状態である場合は、ブドウ糖を歯肉に塗り付ける、グルカゴンの筋注などの指導を家族に対しても行っておくことが大切です。
15分経過を見て改善しない場合は速やかに医療機関に受診することが大切で、低血糖症状だと思っていたら上部消化管出血、心筋梗塞や狭心症、意識障害の原因としての脳出血、脳梗塞の可能性もあるので、それらの除外が必要になります。
症状がいったん回復しても再発や遷延があるため、注意深い経過観察と処置が必要です。
低血糖昏睡が5時間以上経過すると、血糖が回復しても様々な後遺症が残ったり、重症の場合には植物状態や死に至る可能性もあります。
上記の通り、インスリン治療中の糖尿病患者に見られる低血糖の初期症状として、選択肢④が適切と判断できます。
また、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。
遊先生、いつもおありがとうございます。
ご丁寧な解説、勉強になります。
ところで、既にご存じだとは思いましたが、11月のEテレ、100分de名著に中井久夫先生のご著書がとり上げられるそうです。
楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
お返事が遅れてすいません。
中井先生の件、私も楽しみにしています。
最近になって、各出版社から中井先生の論文をまとめたものが出版されるなどの動きがありますね。
全て読んでいるにも関わらず、やはり購入してしまいます。