公認心理師 2021-28

1型糖尿病の高校生の治療における留意点を選択する問題です。

各発達段階での変化を踏まえた「1型糖尿病の治療」について答えるというイメージですね。

問28 1型糖尿病の高校生の治療における留意点として、最も適切なものを1つ選べ。
① 運動は禁止である。
② 食事療法により治癒できる。
③ 2型糖尿病に将来移行するリスクが高い。
④ 治療を受けていることを担任教師に伝える必要はない。
⑤ やせる目的でインスリン量を減らすことは、危険である。

解答のポイント

高校生(思春期)の1型糖尿病患者の特徴と支援について把握している。

選択肢の解説

③ 2型糖尿病に将来移行するリスクが高い。

まずは糖尿病の病態から説明するために、本選択肢の解説から行っていきます。

なお、「公認心理師 2020-29」では「糖尿病は、1型から2型に移行することが多い」という選択肢が設けられており、これは不適切な内容となっております。

その根拠は上記の解説で非常に詳しく述べていると思いますので、まずはこちらを参照にしていきます。

1型糖尿病は、インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β細胞が破壊されることにより、インスリン分泌能が低下・消失し、インスリン欠乏が生じる病態で、生存にはインスリン補充が必要な「インスリン依存状態」となることが多いとされています。

小児~15歳で発症することが多いとされていますが、中高年になって発症する例もあります。

β細胞の破壊には、HLA遺伝子などが関与していると考えられています。

HLAは白血球中の免疫機能を調整する遺伝子のひとつであり、それがウイルス感染などをきっかけに自己免疫反応を引き起こすと考えられています。

1型糖尿病には、糖尿病発症後わずか1週間のうちにケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る「劇症1型糖尿病」、数年をかけてゆっくりインスリン依存状態になる「緩徐進行1型糖尿病」があります。

1型糖尿病は、遺伝要因を有する人に、環境要因がトリガーとなって免疫異常をきたし、発症すると考えられています。

環境要因としては、食事がトリガーになっている可能性が以前から指摘されており、もっとも有名な食品は牛乳です(1型糖尿病を発症した小児において、乳製品摂取の時期が早かったこと、消費量が多かったという報告がある)。

ただし、その後の研究では一定した見解が得られておらず、そのほかにもさまざまな報告があるので、現在も研究中という状態です。

これに対して、2型糖尿病は、過食・運動不足でエネルギー摂取の過剰状態が続くと、血糖値を正常に保つために多くのインスリンが分泌されます(これを代償インスリン過分泌と言います)。

そして、過剰に分泌されたインスリンにより脂肪が蓄積されていきます。

脂肪細胞は内分泌細胞でもあるため、脂肪が分泌されることによって悪玉アディポサイトカインが増加、善玉サイトカインが減少し、結果としてインスリン抵抗性(簡単にいうと「インスリンの効き具合」を意味する。膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態)が起こります。

なお、「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質を意味し、アディポサイトカインは脂肪細胞から分泌されるその多彩な生理活性物質の総称で、アディポサイトカインには悪玉物質と善玉物質があり、悪玉には血栓をつくりやすくするPAI-1、インスリン抵抗性を起こすTNF-α、レジスチン、血圧を上げるアンジオテンシノーゲンなどが、また善玉にはインスリン抵抗性を改善し、動脈硬化を防ぐアディポネクチンがあります。

インスリン抵抗性によるインスリン過剰分泌状態が続くと膵β細胞は疲弊し、インスリン分泌能力が低下します。

それに加え、高血糖が持続すると、高血糖自体がインスリン分泌能を低下させ、同時にインスリン抵抗性を増大させることにより、更なる高血糖を助長します(この悪循環を「糖毒性」とよぶ)。

これらの変化は徐々に起こり、インスリン分泌のピークが遅れて食後の高血糖がみられる境界型糖尿病から、十余年かけて糖尿病へと進展します。

さらにインスリン分泌能低下が進行すれば、高血糖の是正にインスリン治療が必要になってきます。

このように発症の機序が異なるので、移行する可能性が高いとは言えないのですが、やはりこの選択肢が設けられたのにも理由があり、それが本問の前提である「1型糖尿病の高校生の治療における留意点」というところが絡んできます。

高校生のような思春期では、心身ともに大きな変化を見せる時期で、これまで内在していた様々な問題が一挙に顕在化してきます。

情緒的にも不安定になりやすく、食事療法の乱れが生じるにとどまらず、過食や買い食い、不規則な生活が生じやすくなります。

この背景には病気自体や血糖コントロールへのストレスの増大があり、これによって食行動異常などのリスク行動が出やすいともされています。

このように、高校生の時期の1型糖尿病では、生活が不規則になりやすいなどの問題が指摘されているため、本選択肢の「2型糖尿病に将来移行するリスクが高い」ということが問われたのではないかと想像しました。

ですが、発症機序が異なる病態が「移行する」というのは無理がありますし、「合併」についても、一般的に1型糖尿病の治療に専念していれば2型糖尿病の合併は全く心配の必要はないものと考えられます。

高校生の時期に乱れがあると言っても、それが2型糖尿病を併発されるほどの頻度・強度であるとは言えないと考えられます。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

① 運動は禁止である。
② 食事療法により治癒できる。
④ 治療を受けていることを担任教師に伝える必要はない。

ここでは小児や思春期の1型糖尿病患者への治療に関して述べていきましょう。

こうした対象への治療では、血糖コントロールにより、合併症の予防と、社会的・精神的に健全な状態を保つことを目標とし、個々の患者の普段の食生活や運動習慣、身体活動強化とインスリン治療をうまく組み合わせていきます。

特に食事療法や運動療法、インスリン治療の実施に際しては柔軟性を心がけ、心身の正常な成長発育を妨げないように配慮が必要です。

インスリン療法では、強化インスリン療法が基本となります。

基礎インスリンとして中間型または持効型インスリンを1日1~2回注射し、追加インスリンとして速効または超速効インスリンを各食前に注射します(基礎インスリン量は、全体の30~40%になることが多い)。

思春期になると、成長ホルモンの増加によりインスリン抵抗性が増すので、インスリン必要量が増えることが多いです。

インスリン頻回注射で血糖値の変動が大きく安定しない場合、持続皮下インスリン注入療法を考慮します。

機器の取扱に習熟する必要はありますが、患者個々の生活リズムに合わせて使用することで血糖コントロールが得られやすいです。

食事療法では、正常な発育のために必要十分なエネルギーの摂取、良好な血糖コントロールの維持、そして重症低血糖を起こさないようにすることが基本になります。

食育指導では、バランスの取れた食事をするように指導していくことになります。

食事療法は血糖コントロールが第一義的な目的になり、選択肢②にあるような「治癒」を前提としたものではありません。

2型糖尿病であれば食事療法によって肥満が解消するなどが見られれば、かなり改善が見られる可能性もあります。

とは言っても、「治癒」というイメージよりは、それ以降もコントロールが必要であるため「寛解」というイメージが近いかもしれないですね。

運動に関しては、進行した合併症がなく、血糖コントロールが落ち着いている限りは積極的に推奨し、全てのスポーツを許可していくのが基本です。

運動時は血糖値を80mg/dL以上に保つようインスリン量の調節を行い、必要に応じて捕食を摂取させます。

ただし、部活動など運動量の増加に伴い、予期せぬ重症低血糖が起こることも考えられますから、学校関係者や友人に、病状や低血糖時の対応を説明しておくことも重要になります。

乳幼児期~思春期以降にかけては、自己管理の担い手や教育対象が変わってきます。

区分教育対象血糖測定インスリン注射食事療法
乳幼児期親中心
学童期親と本人親から本人親から本人親から本人
思春期本人中心本人本人基本は本人
それ以後本人本人本人本人

また、各時期の特徴と療育指導のポイントを挙げていきましょう。

乳幼児期には、血糖変動が激しい、低血糖症を把握しにくい、感染症が多い、家族の負担が大きいなどの特徴があります。

この時期の指導のポイントとしては、食事を分割する、捕食を欠かさない、シックデイ対策の指導の徹底、家族の心理的負担軽減、安定した家庭環境の維持、無理のない注射両方の設定、などになります。

注射を嫌がる、計画通りに食べない等によって、親の育児ノイローゼがもんだいになりやすい時期と言えます。

学童期は、自己管理のスタート、学校生活への適応の良否が血糖コントロールに影響しやすい、学校で個人行動がとりにくい、などが特徴になります。

教育のポイントとしては、本人を対象に自己注射や血糖測定および低血糖対策を指導する、学校生活に支障の少ない治療を選択する、健全な身体イメージを保てるよう学校の理解を求める、学校と連携を取って捕食や低血糖に対処しやすい環境を整備する、などになります。

学校行事や給食、学校での注射、捕食、塾などが問題となりやすい時期になります。

思春期は、治療の主体が本人に移行する、心身ともに不安定で不安感が大きい、食事療法の乱れが多いなどが問題になりやすいです。

療養指導のポイントとしては、1人で受診する機会を作る、教育スタッフとの信頼を築く、インスリン調節法を指導する、不安感を解消するために良好な血糖コントロール下での将来の展望を話す、合併症が治療できることを教える、新しい治療法などの知識を提供する、食事療法の意義と実際について本人にも再度教育を行う、などになります。

これ以降の時期になってくると社会人になるわけですが、特に社会人1年生にとっては仕事と自己管理を両立することは難しいことが多く、しばしば血糖コントロールが不良になりがちです。

この理由として多いのが、食事が不規則になったこと、勤務がそもそも不規則であること、ストレスの影響、運動量の減少、外食、飲酒などが挙げられます。

以上より、高校生の1型糖尿病の治療においては、運動量の急激な増加等には気を付けつつも運動は基本的にOKであり、食事療法は重要であるものの「治癒」ではなく「血糖コントロール」を目的とします。

また、上記にもあるように、高校生になると部活によって運動量が増加するなどの理由によって予期せぬ重症低血糖になることも考えられるので、学校には事情を伝えて対処法などについても共有しておくことが求められます。

捕食を採ることに関しても理解が必要になりますね。

よって、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ やせる目的でインスリン量を減らすことは、危険である。

1型糖尿病では膵β細胞の破壊により、インスリン分泌が急速・不可逆的に低下し高血糖となります(インスリン分泌能は最終的には廃絶します)。

自己抗体が検出される自己免疫性と、自己抗体が証明できない特発性に分類されます。

日本において1型糖尿病は少なく、全糖尿病の5%以下とされています。

1型糖尿病の好発年齢は小児~思春期とされており、肥満とは関連が無く、むしろ痩せていることも多いです(インスリン欠乏によって糖が取りこめないため)。

1型糖尿病は、多尿・口渇・多飲など高血糖による脱水症状や、体重減少、または糖尿病ケトアシドーシス(インスリン欠乏が原因と思われる昏睡)などによって発見されることが多いとされています。

このように1型糖尿病は基本的に痩せているのが特徴と言えます。

こうした中でインスリン治療を行うと、当然ながら、体重が増加していくことが考えられます。

インスリンが足りないために細胞に取り込めず、血液中にあふれ尿糖として排泄されていたブドウ糖が、インスリン療法によって細胞に取り込めるようになるからです。

「あまり太りたくない」と体型を気にするのは思春期、特に女性には多いだろうと想像できますが、食事療法及び運動療法に注意を払いながらインスリン治療を始めていけば体重のコントロールは可能であるとされています。

インスリン治療による血糖コントロールを適切に行うことで、合併症の予防と、社会的・精神的に健全な状態を保つことをしやすくしますから、痩せるという目的で「インスリン量を減らす」のは不適切です。

インスリン治療、食事療法、運動療法をうまく組み合わせて体重コントロールを行っていくことが大切になります。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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