問93はADHDの二次障害に関しての問題です。
実際に関わっている支援者にとっては解きやすい問題だったろうと思います。
問93 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉の二次障害について、正しいものを1つ選べ。
①素行障害が出現しやすい。
②気分障害の合併率は5%以下である。
③ペアレント・トレーニングは効果がない。
④精神分析的心理療法は治療の第一選択である。
⑤養育環境は二次障害の発症や程度に影響しない。
ADHDに限らず、発達障害は臨床を行っていく上で必須の知識になっていますね。
実際に療育まで細やかにできるという場や人材は、おそらくどこに行っても貴重です。
そういう場や人材を身近に持っておくというのも、臨床家の役割の一つでしょう。
解答のポイント
ADHDの基本的な支援や二次障害に関する対応について把握している。
選択肢の解説
①素行障害が出現しやすい。
②気分障害の合併率は5%以下である。
⑤養育環境は二次障害の発症や程度に影響しない。
ADHDは、子どもの約5%、成人の約2.5%にみられ、男女比は小児期で2:1、成人期では1.61:1で男性に多いです。
女性は男性よりも主に不注意の特徴を示す傾向にあるとされています(こちらに関しては、2018-32の選択肢①ですでに出題されていますね)。
ADHDは、遺伝要因と環境要因が相互に影響し合って発現します。
両親のどちらかがADHDの場合、その子どもがADHDである割合は約60%であるという報告もあり、かなり遺伝率は高いとされています。
こうした遺伝率の高さに、胎児期に母親から受けるアルコール、喫煙などの環境要因が加わると、発症リスクはさらに高まります。
また、出生後の環境もADHDや二次障害の発現に大きく関わっているとされています。
ADHDの子どもは、その行動特性のため幼児期より親から厳しく叱られたり、仲間から非難や拒絶されたりする経験を多く積み重ねています。
こうした環境要因によって自尊心が傷つき、自己評価が著しく低下していることが多いです。
こうした環境の中で、自分を受け容れてくれない周りに対して、怒りや不信感を抱くようになり、怒りが外に向かって表現されるのが外在化障害と呼ばれる二次障害です。
この場合、ADHDは反抗挑戦性障害から素行障害に、更にその一部が反社会性パーソナリティ障害に展開します。
こうした外在化障害の展開を齊藤(2009)は「破壊性攻撃障害マーチ」と呼んでいます。
外在化障害に対して、怒りや葛藤が自己を傷つける方向に向かうのが内在化障害です。
抑うつや不安、あるいは周囲の期待に添わないという受動攻撃的な反抗が生じ、これがさらに悪化すると依存性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害などに展開していきます。
また気分障害、特に双極性障害は、それ自体が合併症を有する割合が高いことが報告されているが、なかでもADHDでみられる多弁、注意欠陥、多動性などの症状が、双極性障害の症状と高率にオーバーラップしていることから、双極性障害とADHDの関連の大きさはかねてから指摘されています。
双極性障害におけるADHDの合併頻度ならびにADHD合併の有無による双極性障害の臨床的特徴の相違について検討した結果、双極性障害患者の約23%にADHDの合併が認められたこと、ADHD合併例では双極性障害の発症年齢が低く、躁病エピソードの回数が多くみられたことが示されています(パーセンテージは違えど、多くの研究で高率での合併が示されています)。
双極性障害、発達障害、トラウマは、あらゆる心理的問題の背景に潜んでいる可能性があり、これらの存在に気がつけないことで対応が後手後手に回ったり、クライエントの状態を見誤ってしまうということもあり得ます。
こうした背景に潜む問題を捉える鋭敏さが求められますね。
以上より、選択肢①が正しいと判断でき、選択肢②および選択肢⑤は誤りと判断できます。
③ペアレント・トレーニングは効果がない。
ペアレント・トレーニングは、親が子どもの共同治療者になり得るという理念のもと、1960年代よりアメリカを中心に広がり、日本では1990年代より導入され2000年以降急速に浸透しました。
対象となる子どもの課題は、知的障害やASDに始まり、その後ADHD、非行、不登校、摂食障害、虐待などへと研究が積み重ねられています。
特にADHDへの有効性は高く、治療ガイドラインの環境調整の一つとして位置づけられるほどです。
主なプログラム内容は以下の通りです。
- 講義:障害特性と行動マネージメントの原則
- 行動チェックリストの作成:子どもの行動、自分の褒め方や対応を振り返る
- 子どもの行動の三つの分類:してほしい行動(ほめる)・してほしくない行動(注目を外す)・許し難いと思う行動(警告・タイムアウト)
- 肯定的な注目を学ぶ:じょうずな褒め方
- 不適切な行動への指示テクニックの理解
- 不適切な行動予防のための環境調整
- 不適切な行動へのルール-注目を外す、身体的ではない罰則、タイムアウト
- 学校や教育・福祉機関との連携
- 振り返りとスキルの確立
ただし、障害受容が困難、情緒不安定など、養育力の課題がある場合は個人でのペアレント・トレーニングが望ましいとされています。
二次障害がある場合であっても、親の関わり方が変わることで「努力不足」だと認識していたことが、「そういう特徴をもっていただけ」という認識に変わり、それが大きなサポートになることが多いです。
多かれ少なかれ「自分はどうしてこんな風なんだろう」という思いは持っているものであり、こういう思いに解を与えるという形になると、ADHDという言葉は「障害」ではなく「自己理解」として受け容れられることが多いように感じます。
それによって自己否定的もしくは被害的な認識に変化が生じ、より現実的な外界の認識が可能になっていきます。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④精神分析的心理療法は治療の第一選択である。
ADHDは、できるだけ早い段階で適切な診断を受け、医療機関と連携しながら家庭や幼稚園・学校などで適切な対応を取ることが望まれます。
ADHDに対する基本的な治療目標は、ADHDによる不利益を軽減し、情緒的な安定を図り、二次障害を予防することになります。
ADHDの治療は薬物療法と心理社会的治療を基本とします。
薬物療法では、現時点ではコンサータ、ストラテラ、インチュニブが保険適用薬として認められていますね。
コンサータ、ストラテラは効き方のニュアンスをイメージできるのですが、インチュニブはイマイチまだ感覚的に掴めていません。
この辺も事例と関わりながら、ですね。
心理社会的治療としては、ソーシャルスキルトレーニングや感情コントロール訓練、自己管理テクニックなどに加え、家庭や学校、教室における環境調整が含まれます。
環境調整には家庭や教室などの物理的な環境の調整だけでなく、ADHDの子どもを取り巻く人たち、保護者や教師、同級生による適切な対応も含まれます。
特に二次障害があると自分や他者に対するネガティブな考え方が身についていることが多いです。
認知行動療法では、認知面(考え方)において自分をいつも卑下したり、ものごとを悪く解釈したりしてしまうといった考え方のゆがみやかたよりを改善していきます。
行動面(ふるまい)では、社会的コミュニケーションの作法やソーシャルスキルを学習して、年齢相応の適応行動をとれるようトレーニングをしていきます。
こうした認知面と行動面での治療によって、ADHDの人がセルフコントロールをできるようになっていくことを目指します。
このように、彼らの障害に対する支援において精神分析的心理療法は第一選択とはなりません。
しかし、彼らの障害ゆえに親子関係の確執を生んでしまっている場合も多いと考えられます。
そうした時、彼らのこれまでの生き方を振り返り、失われた自尊心を回復するための方法として、各種カウンセリングや精神分析的心理療法も選択肢の一つとなってきます。
この辺は精神分析的心理療法の成立過程から考えれば、自明なことであろうと思います。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。