公認心理師 2018-32

注意欠如多動症/注意欠如多動性障害(AD/HD)の診断や行動特徴に関する設問です。
不適切なものを選ぶ問題ですね。

ICD-10およびDSM-5を押さえておくことが重要になります。

解答のポイント

ADHDの診断基準を把握していること。

選択肢の解説

『①女性は男性よりも主に不注意の行動特徴を示す傾向がある』

男女比でみると、ADHDは男子のほうが女子の3〜5倍多いといわれています。
この点はICD-10のガイドラインにも「多動性障害は男児に女児の数倍多く出現する」という記載が見られます。

ただ、女子の場合は多動性が少なく不注意が優勢であり、攻撃的・反抗的な特徴が控えめな傾向があるため、周囲に気づかれにくいという指摘もあります。
実際には、ADHDの女性は見過ごされているだけではないかという意見もあります。

「特に男子では多動性と衝動性しかみられず、特に女子では不注意しかみられない場合がある」というのが一致した見解と見てよいでしょう。
よって、選択肢①の内容は適切であり、除外することができます。

『②診断には、複数の状況で症状が存在することが必要である』

DSM-5には以下のような基準があります。
「不注意、多動性/衝動性の症状のいくつかは2つ以上の環境(家庭・学校・職場・社交場面など)で存在している」

ICD-10の研究用診断基準には以下のように記されています。
「G5.広汎性:この基準は複数の場面で満たされること。たとえば、不注意と過活動の組み合わせが家庭と学校の両方で、あるいは学校とそれ以外の場面(診察室など)で観察される。(いくつかの場面でみられるという証拠として、通常複数の情報源が必要である。たとえば、教室での行動については、親からの情報だけでは十分とはいえない)」

以上より、選択肢②の内容は正しいため、除外することができます。

『③診断には、いくつかの症状が12歳になる以前から存在している必要がある』

DSM-5には以下のような基準があります。
「不注意または多動性―衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた

症状は早い時期(6歳未満ごろ)から発症し、少なくとも6か月以上継続している必要があるとされています。
その点について、DSM-5ではそれまでの7歳までの発症を12歳として遅発性の発症を含めました。

以上より、選択肢③の内容は正しいため、除外することができます。
少し気になるのが、この点はDSM-5の記述であって、ICD-10のものではないということです。
選択肢には主語がありませんから、DSMかICDのいずれか一方でも該当する項目があればそれで良しとして構わないのでしょうね。

『④診断には、不注意、多動及び衝動性の3タイプの行動特徴を有することが必要である』

DSM-5の診断基準の一番最初に「(1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの」とされています。

そのうち(1)については以下の通りです(症状の記載は割愛します)。
「不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである」

また(2)については以下の通りです(症状の記載は割愛します)。
「多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである」

なおDSM-Ⅳ-TRでも、同様に2タイプの行動特徴で診断を行っていましたが、(2)の特徴については多動性と衝動性を分けて記載しており、見ようによっては3タイプと言えないこともありませんでした。
こうした記載の仕方の変更を踏まえた設問であったと思われます。

以上より、選択肢④の内容は不適切であり、こちらを選択することが求められます。

『⑤DSM-5では、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の診断に併記することができる』

この点は、DSM-Ⅳから5の大きな変更点と言えます。

DSM-Ⅳ-TRには以下のような記載があります。
その症状は広汎性発達障害、統合失調症、または、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるもではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安障害、解離性障害、またはパーソナリティ障害)ではうまく説明されない」

DSM-5になると以下のように変更されました。
「その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない」

上記のように、「広汎性発達障害」という記載がなくなり、ASDとの併存を認めるようになっています
これはADHD自体が神経発達障害群の中に組み込まれたことと併せて、大きな変化と言えます。
神経発達障害群については、過去に記事を書いていますのでご参照ください。

よって、選択肢⑤の内容は適切であり、除外することができます。

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