問139は事例の内容から見立てのために必要な情報を見極め、それに適する検査を選択する問題です。
見立て+検査内容の把握というセット問題は、公認心理師試験ではよく出題されますね。
問139 74歳の女性。単身生活で、就労はしていない。最近物忘れがひどいと総合病院の内科を受診した。内科医から公認心理師に心理的アセスメントの依頼があった。精神疾患の既往歴はなく、神経学的異常もみられない。以前から高血圧症を指摘されていたが、現在はコントロールされている。頭部CT検査で異常はなく、改訂長谷川式簡易知能評価ス
ケール〈HDS-R〉は21点であった。
この時点で公認心理師が行う心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
①CAPS
②CPT
③MMPI
④WMS-R
⑤Y-BOCS
さて、本問を解くにはまず、事例の女性にどういった視点でのアセスメントが重要かを判断する必要があります。
問題として示されているのは「最近物忘れがひどい」ということではありますが、「精神疾患の既往歴はなく、神経学的異常もみられない。以前から高血圧症を指摘されていたが、現在はコントロールされている」ということですから、精神的要因や脳梗塞などの外因については一応除外して良さそうです。
重要なのは「改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉は21点であった」ということをどう評価するのか、ということです。
長谷川式では、9項目30点満点で、20点以下だと「認知症疑い」となります(ちなみに認知症であることが確定している場合は20点以上で軽度、11~19点の場合は中等度、10点以下で高度と判定します)。
長谷川式については過去にまとめた記事や、2018-51という大問での出題がありましたのでご参照ください。
事例での得点は21点と、一応点数の上では認知症ではないということになります。
しかし、カットオフポイントすれすれであることを踏まえると、何らかの認知機能の低下を想定することも必要です。
ちなみに似たような問題が臨床心理士資格試験で出題されていました(何年の何問だったかは忘れちゃいました…)。
そのときは(確か)19点であり、やはり認知機能をしっかりと調べることが必要だという認識をもって解くことが必要な問題だったと記憶しています。
本問の場合も同様で、長谷川式21点ということであれば、より細やかに知的機能を測れるような検査を選択することが重要になります。
この点を踏まえて、選択肢の解説に入っていきます。
解答のポイント
事例の内容から、クライエントのどういった点を詳しくアセスメントすべきか判断し、それに適した心理検査を選択できる。
選択肢の解説
①CAPS
CAPS (Clinician-Administered PTSD Scale) は、優れた精度のPTSD構造化診断面接尺度として各国の臨床研究や治験で広く使用されています。
PTSDの構造化診断面接尺度として医療保険適用もされています。
所要時間は、面接で90分前後、分析で30分ほどとされています。
事例の状況からはPTSDを疑えるような情報は見られないため、CAPSを本事例に適用するのは妥当ではないと判断できます。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
…ちなみにアレルゲンのチェックでCAPというのがあります。
さすがにこちらとの混乱を狙ったわけではないでしょうけど。
②CPT
CPT(持続処理課題:Continuous Performance Test)はADHDの中核症状のうち不注意と衝動性を客観的に評価することができる検査方法で、Rosvoldらによって開発され、現在いくつかの検査方法が臨床応用されています。
いずれの検査方法も画面上に標的刺激が提示されるとキーをクリックする単純な作業を一定時間行うもので、その反応時間や誤反応、無反応を測定することで定量化を行います。
一般的に反応時間の平均値は情報処理と動作速度、反応時間のばらつきは注意の変動性、無反応率は不注意、誤反応率は衝動性を測定しているものとされています。
事例の状況からはADHDを疑えるような情報は見られないため、CPTを本事例に適用するのは妥当ではないと判断できます。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③MMPI
4つの妥当性尺度、10の臨床尺度から成る人格目録です。
その特徴として、以下のようなものがあります。
- ミネソタ大学のハザウェイとマッキンレイが作成(1943年)。
- 特定のパーソナリティ理論に基づいてはいない(人格特性論的でない)。
- 症状名を調べるのではなく、人格特徴を把握する検査。
- 「現状」を見るもので、「性格特性」という普遍性を持っていない。
④WMS-R
ウェクスラーにより開発され翻訳されたウェクスラー記憶検査(WMS-R)は、記憶の総合検査として代表的なものです。
以下のような下位検査で構成されています。
- 情報と見当識:
長期記憶や見当識から引き出される一般的な知識についての質問で、スクリーニング用の項目を含んでいる。 - 精神統制:
健常者には難なく回答することができる学習された材料を検索する。 - 図形の記憶:
受験者に、1組の抽象的な模様を提示し記憶してもらう。それを取り除いた後に、もっと数の多い模様の中から同じものを選択させる。 - 論理的記憶I:
検査者が受験者に物語を読んで聞かせた後に、記憶を頼りにその物語を話すことが求められる。 - 視覚性対連合I:
6つの抽象的な線画と連合する色とを、学習することが受験者に求められる。正しく回答するまで提示される。 - 言語性対連合I:
容易な対語4つと困難な対語4つを、1回で完全に反復できるまで実施する。 - 視覚性再生I:
受験者は、10秒間提示された簡単な幾何学図形を記憶を頼りに再生する。 - 数唱:
数字の順唱と逆唱をする。 - 視覚性記憶範囲:
受験者は提示されたのと同じ順序で、一連の色のついた四角形に触れる。次第に数が増加する。次に、触れた順序とは、逆の順序で四角形に触れていく。 - 論理的記憶II
- 視覚性対連合II
- 言語性対連合II
- 視覚性再生II
上記の10以降の課題は、いずれも4〜7の課題の遅延再生となります。
実はこの問題、2018追加-9の選択肢①の内容(WMS-Rは記憶障害の性質を分析できる)がそのまま本問の解説に活用できます。
事例で求められているのは、女性の記憶の問題(最近物忘れがひどい)を細やかに見ていくことです。
WMS-Rでは、記憶の要素を「言語性記憶」「視覚性記憶」「一般的記憶(言語性と視覚性を統合したもの)」「注意/集中力」「遅延再生」の5つの指標で表現できる点が特徴です。
長谷川式では把握しきれない、記憶の細かな性質ごとの状態像を把握するのにWMS-Rは適切な検査であると言えるでしょう。
よって、選択肢④が適切と判断できます。
⑤Y-BOCS
Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)=エール・ブラウン強迫尺度は、強迫性障害の強迫観念や強迫行為の臨床的重症度の評価において最も一般的に用いられる方法であり、10の項目から成り、費やす時間、関連する苦痛、機能障害、抵抗性、強迫観念と強迫行為の制御を評価します。
2018追加-72の選択肢⑤で出題がありますね。
事例で強迫を疑えるような情報は見られないので、Y-BOCSを本事例に適用するのは妥当ではないと見なすことができますね。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。