公認心理師 2018追加-9

記憶障害について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

記憶に関しての問題は結構出ています。
記憶に関する基本的事項を確認する上でも、公認心理師2018-84を復習しておきましょう。

WMS-Rが出ていますね。
使った経験のある方は比較的少ないかもしれないですね。
以前、高齢者の方を相手に実施したことがありますが、「わかんないよ」と言われることが多かったです。
確かに難しいですので、興味のある方は検査内容をご覧ください。

解答のポイント

記憶障害の検査、それを招く病理、その他記憶に関する基本的概念について把握していること。

選択肢の解説

『①WMS-Rは記憶障害の性質を分析できる』

ウェクスラーにより開発され翻訳されたウェクスラー記憶検査(WMS-R)は、記憶の総合検査として代表的なものです。
以下のような下位検査で構成されています。

  1. 情報と見当識:
    長期記憶や見当識から引き出される一般的な知識についての質問で、スクリーニング用の項目を含んでいる。
  2. 精神統制:
    健常者には難なく回答することができる学習された材料を検索する。
  3. 図形の記憶:
    受験者に、1組の抽象的な模様を提示し記憶してもらう。それを取り除いた後に、もっと数の多い模様の中から同じものを選択させる。
  4. 論理的記憶I:
    検査者が受験者に物語を読んで聞かせた後に、記憶を頼りにその物語を話すことが求められる。
  5. 視覚性対連合I:
    6つの抽象的な線画と連合する色とを、学習することが受験者に求められる。正しく回答するまで提示される。
  6. 言語性対連合I:
    容易な対語4つと困難な対語4つを、1回で完全に反復できるまで実施する。
  7. 視覚性再生I:
    受験者は、10秒間提示された簡単な幾何学図形を記憶を頼りに再生する。
  8. 数唱:
    数字の順唱と逆唱をする。
  9. 視覚性記憶範囲:
    受験者は提示されたのと同じ順序で、一連の色のついた四角形に触れる。次第に数が増加する。次に、触れた順序とは、逆の順序で四角形に触れていく。
  10. 論理的記憶II
  11. 視覚性対連合II
  12. 言語性対連合II
  13. 視覚性再生II

上記の10以降の課題は、いずれも4〜7の課題の遅延再生となります。

適用範囲は16才~74才11ヶ月とされています。
ウェクスラー知能検査と同様に100±15SDで結果が算出されるため、テスト・バッテリーとして構成されることが多い検査ですが、施行時間が長く患者への負担が大きいのが難点です。

記憶の臨床評価ができるように作られていて、例えば、脳損傷によって生じる記憶障害のパターンの分析や局在の決定に有効な情報を提供してくれます。
記憶の要素を「言語性記憶」「視覚性記憶」「一般的記憶(言語性と視覚性を統合したもの)」「注意/集中力」「遅延再生」の5つの指標で表現できる点が特徴です。
高次脳機能障害によって生じる記憶障害を、上記の指標で評価・分析し、その障害の性質によって適切な対応を示すことができます

以上より、選択肢①は正しいと判断できます。

『②Korsakoff症候群は記憶の保持ができない』

ビタミンB1の欠乏が原因で起こるのがウェルニッケ脳症です。
ビタミンB1欠乏の最も多い原因はアルコール中毒ですが、そのほか胃がん、胃切除、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などでも見られることがあります。

身体のエネルギー源のひとつである糖質の代謝が適切に行われるためには、ビタミンB1は必要不可欠な物質です。
全身の臓器のなかでも特に脳は糖質をエネルギー源として依存する割合が大きく、糖質やビタミンB1の需要量がとても大きいです。

したがって、糖質やビタミンB1の摂取量が減少した状況や、脳における両者の需要量が増加するような状況においては、容易にビタミンB1の欠乏に起因する症状が引き起こされることになります。
ウェルニッケ脳症は脳病変そのものに際立った特徴があります。
神経組織の不完全な壊死と基質の粗鬆化(細やかでなくなること)をともないます。

ウェルニッケ脳症の主要な症状は、眼筋麻痺、失調、精神障害ですが、こちらに末梢神経症状が加わったものがコルサコフ病と呼ばれます
ウェルニッケ脳症の臨床的な特徴は、健忘症候群(コルサコフ症候群)です
つまり、記憶障害(特に記銘)、見当識障害、作話が見られます

コルサコフ症候群では、はじめに最近の出来事に関する重度の記憶障害が発生することがあります。
より遠い過去の記憶は、それほど損なわれないようです。
したがって、コルサコフ症候群の人は、たとえ数日前、数カ月前、数年前、場合によっては数分前の出来事も覚えていられなくても、社会的な付き合いや首尾一貫した会話をこなすことができます

なお「保持障害」は過去に記銘した記憶材料が消失する状態です。
記憶は「記銘(覚える)」→「保持(覚えておく)」→「取り出す(思い出す)」という3過程で成り立っています。
コルサコフ症候群では、最初の「記銘」の障害が大きいとされ、「保持」がある程度保たれているために社会的な付き合いが可能な面が残されているといえますね

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③獲得された過去の記憶が想起できないことを前向性健忘という』

記憶の障害については、さまざまな視点からの概念があります。

例えば、現在を基準とした時間軸で症候を整理すると以下のようになります。

  • 即時記憶:
    現在を基準として、今から数秒あるいは干渉を受けるまでの記憶を即時記憶と呼ぶ(ほぼ短期記憶に相当)。即時記憶の評価は数唱課題で行うことが多く、健忘症患者では保たれる能力である。
  • 近時記憶:
    健忘症患者は干渉を受けるとその前に覚えていたことを思い出すことが難しくなる(近時記憶障害)。検査では、単語を覚えさせシリアル・セブン(100-7のやつ)などの別課題を実施して干渉を加えた後、遅延再生を求めることでその障害を確認する。
  • 遠隔記憶:
    発症より前の古い記憶を指す。社会的な出来事や個人のエピソードを聴取することで障害の有無が確認される。これが疑われたら、自伝的記憶検査や遠隔記憶検査を実施することが必要。
これに対して「前向性健忘」という表現は、「発症を基準とした時間軸による症候理解」という捉え方を採用したものです。
この理解では、発症よりも「古い記憶の障害」と「新しい記憶の障害」に分けられます。
  • 逆向性健忘:
    古い記憶の障害を指す。失われる期間は数時間~数十年に及ぶことも。古い記憶が保たれ、新しい記憶であるほど(発症に近いほど)障害が顕著であり、このような時間による記憶成績の差を時間的勾配と呼ぶ。
  • 前向性健忘:
    新しい記憶の障害を指す。発症から現在に至る記憶の障害。健忘患者の典型像
以下の図がわかりやすいと思います。

現在からみれば「前向性健忘」も「逆向性健忘」も選択肢にある「過去」にあたるので、選択肢の表現はやや明瞭さに欠けるといえます。
選択肢内の「過去」という表現が発症時期よりも「過去」ということでしたら、選択肢の内容は「前向性健忘」ではなく、「逆向性健忘」であると捉えるのが妥当です

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④想起障害は手がかりによって思い出すことができる場合を指す』

記憶は「記銘(覚える)」→「保持(覚えておく)」→「取り出す(思い出す)」という3過程で成り立っています。
この3つ目の「取り出す」が想起になり、その障害を想起障害、追想障害などと呼びます。
また、エピソード記憶の形成やその想起の障害を健忘症と呼びます。

顕在記憶やエピソード記憶の想起過程を測定する方法として古くから用いられているのは、再生と再認課題です。
このうち再生とは、保持されていた情報を、口頭や筆記、あるいは行為によって生成する課題であり、情報を自由に再生する場合を自由再生、何らかの手がかりを利用して再生する場合を手がかり再生、一定の順序をもって再生する場合を系列再生と呼びます。

手がかりがあることで再生できる量が増えることは、さまざまな記憶研究で示されております。
手がかりによって思い出しやすくなること自体は、日常でも体験することであり、それを「障害」とすることは適切ではありません
これが「障害」になると、すべての人が「想起障害」になってしまいます。

認知症等の想起障害では「忘れている」のではなく、その記憶が「抜け落ちている」といった方が正しく、たとえ手がかりを示されたとしても想起できることはありません
以上より、選択肢④が不適切と判断できます。

『⑤体験が想起できないエピソード記憶障害は潜在記憶の障害である』

長期記憶は宣言的記憶と非宣言的記憶(手続き的記憶)に分類することができます。
更に細やかに分けると以下の通りです。
宣言的記憶はさらに意味記憶とエピソード記憶に、手続き的記憶は更に技の記憶、プライミング、古典的条件づけに分けられます。

潜在記憶・顕在記憶という分類は、「記憶にあるかどうかを意識されるか否か」という分け方です。
潜在記憶は「記憶にあることが意識されない記憶」であり、上記の手続き的記憶が該当します。
それに対して、顕在記憶は「記憶にあることが意識される記憶」であり、意味記憶やエピソード記憶などの宣言的記憶が該当します

以上より、エピソード記憶障害は顕在記憶の障害であるといえます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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