臨床心理士 風景構成法:H15-52

風景構成法に関する問題です。
風景構成法が考案された歴史の流れも理解しておきたいところですね。

風景構成法の開発者は、言わずと知れた中井久夫先生です。

中井先生は「風景構成法の決定版」を作りませんでした。
決定版を作らないことで、多くの分野の人がそれぞれの知見を持ち寄るという形を望んだのではないかと思います。
その辺はロールシャッハ・テストの開発後すぐに、ヘルマン・ロールシャッハが世を去ったことで様々な分野の研究知見が集まったという事実も影響を与えていたのかもしれません。

ちなみにその後の風景構成法の研究では、皆藤章先生が有名ですね。

他にもいらっしゃるのかもしれませんけど、私はもうその辺は疎くなっています。

A.絵画統覚法検査の一種である。

絵画統覚法検査と言えばTATですね。
TATは一般には主題統覚法検査と呼ばれることが多いですが、課題統覚検査、絵画統覚検査とも呼ばれます。
当然、風景構成法は違うことがわかりますね。

問題は、風景構成法の問題に「なぜこの選択肢が設定されたのか」を考えることです。
おそらく、風景構成法の手続きにある「今から言うパーツで一つの風景を作ってください」という点から連想された選択肢ではないかと思うのです。
この「一つの風景」に統合させようとする検査が、統覚(対象に関して起こる個々の知覚が総合統一された、まとまった意識内容。また、それを成り立たせる、人間の精神作用)とつながって、間違えやすいのではないかということを狙ったのではないでしょうか。

ちなみにTATについては、以下で詳しく解説してありますから参考にしてください。
公認心理師 2018-115:TATの実施と解釈に関する問題
TAT、PFスタディ、SCT、ソンディテスト:これらの検査について簡単にまとめた記事

いずれにせよ、本選択肢は×になります。

B.バウム・テストの基づいて考案された。
D.統合失調症への実践的見地から開発された。

風景構成法の開発者は中井久夫先生です。
まずは中井先生の絵画に関する考え方について列挙していきます。

  1. 統合失調症者が一人で部屋の隅で描いた絵画と、面接の場で描かれた絵画は、まったく質が異なる。後者は、言語化できるかは別として、強いメッセージ性がある。
  2. 絵画に正常、異常の別は立てられない。
  3. 非常に強烈な体験を一挙に表現するには、絵画の方が適している。少し複雑な対人関係の図示にも適していること。
  4. 芸術的完成を目指すことは、治療的に意味がないとは言わないが、しばしばメッセージよりも防衛のために用いられているようで、どちらであるかの見極めが必要である。一本の線と巧緻な絵画は「哲学的に」対等である。
  5. 急性期、臨界期、寛解期初期、後期にそれぞれ特徴的な絵画がある。言い換えれば、絵画には一つの流れがある。つまり縦断的に見てはじめて意味が浮かび上がってくる。
  6. 症状と絵画の平行性という通念は、必ずしも正しくないし、そうでなくても浅薄である。
  7. 複数の形式を用いる患者は、各形式ごとに縦断的に考察すべきであり、各形式はそれぞれ別のレベル(例えば、対人関係、気分)の表現であることが多い。
  8. 誰でも使える簡単な手段が私(中井先生)の目的にかなっている。
  9. 都合のよい絵を選び出して都合よく並べれば、いかなる精神病理の傍証とすることもできる。したがって、できるだけ全絵画を包括する把握でなければ、恣意的なものになる危険がある。
こうした姿勢を前提としながら、中井先生は絵画療法を実践してこられました。
こうした姿勢で二年ほど絵画療法を実践してきたある日、芸術療法研究会(現在の芸術療法学会)が行われ、そこで河合隼雄先生が箱庭療法の講演をされました。
このとき、中井先生にとって一番印象的だったのが、統合失調症者が箱庭の枠の中に柵を置いて囲んでから、物を置くという話だったといいます。
中井先生は「箱の枠だけでは(保護が)足りないのでは」と考え、河合先生もそれに同意されたとのことでした。
このやり取りの次の日には、中井先生は枠をつけた画用紙とつけない画用紙で描写してもらおうと決心していたといいます。
さて、上記の後に「枠づけ法」と呼ばれることになる実践と併せて、中井先生は当時勤めていた病院の心理士と箱庭の準備に取り掛かりました。
病院の大工さんの協力、心理士が夜店を探索するという努力で、箱庭の準備も整ってきました。
しかし、この整うまでの間がもどかしくてならなかったようで、itemを紙の上に置いてもらうということを考えたそうです。
もともと「箱庭は揃えるのが大変」という思いもあり、紙の上で箱庭を簡易的にできないかと考えていたこともあり、紙に描画してもらう際「こちらがitemを順々に言っていこう」ということになったそうです。
このときに中井先生は、一気にitemとその順序を決めてしまったといいます。
さて、先の河合先生の講演では、「統合失調症者に箱庭は慎重にしなければならない」と警告されていました。
その警告、箱庭の準備が整う、枠づけ法の実践、紙の上でitemを書いてもらう(この2つ和合わせると風景構成法)、ということが重なり、それぞれの実践等の中で「風景構成法は、箱庭療法に導入できるかどうかを決める一つの予備テストの意味合いを兼ねていることが示唆された」ということが明らかになりました。
つまり、風景構成法は箱庭療法よりも安全であることが示されたわけです。
その理由としては…
  • ランドスケープ(風景)反応は、ロールシャッハでは防衛的な「距離を取る」意味を持つものだから、比較的安全である。
  • 箱庭が困難な理由の方が重要だろう:砂を触ることの重大さ。砂は退行を促すともされている。
  • 箱庭がドラマであり、弁証法的な構造を持っていること。
  • 出来合いのものを組み合わせて(=妥協が必要)何とか世界を構成してゆくのが現実の日常生活だけれども、統合失調症者には自生的、内発的なもののほうが優しいのではないか(これは箱庭の方がやさしいアルコール症患者とは逆)。

…とされています。

大雑把ですが、こんな流れで風景構成法は生まれてきました。
選択肢Bが×であること、選択肢Dが〇であることがわかると思います。

C.描画順序は、①川、②山、③田、…と順番が決まっている。

先述の通り、中井先生は風景構成法の考案過程で、一気に順序を決めてしまったといいます。
この順序はかなり「直観的」であったようです。
理屈で言えば、最初に山だと構図が決まりすぎる、海だとoceanicなものが出過ぎて大変な人がいるし海だと島の風景になってしまう、などです。

このように、風景構成法では順序があらかじめ決められており、それを実施者が一つずつ言っていくことになります。
皆藤先生は、まずサインペンで枠を描くことで「クライエントの表現を守る」ことと「表現を強いる」という二面性があること、そしてitemをカウンセラーが言ってクライエントが描くという「やり取り」自体に心理療法的な価値があると述べておられます。

以上より、選択肢Cは〇と言えますね。

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