今回は、精神疾患とその疾患に関連した語句の組み合わせに関する問題です。
解説するのは臨床心理試験の問題ですが、公認心理師試験との方向性の違いが出ている問題とも言えそうです。
サリヴァンは公認心理師でも複数回出題されていますが(と言っても、関与しながらの観察だけですけどね)、ミンコフスキーは出てないですね。
笠原・木村の分類は、今の若い方は知らないかもしれないですね。
私は、精神医学的問題は、その文化と密接に関連し合いながら顕在化してくるものだと思っているので、日本で作られた分類は重要だと考えています。
その辺の私の考え方は、公認心理師試験の方向性とは違う面がありますね。
A.統合失調症 ― パラタクシックな歪み(Sullivan,H.S.)
サリヴァンは、アメリカの精神医学会がフロイトに多大な影響を受けた時期の初期にあたる1920~1930年代に、アメリカで精神医学の研修を受けました。
師事したマイアーと同様サリヴァンも、観察できる情報に基づく自らの概念を系統化することを主張しました。
サリヴァンは、世界に対する人間の体験および思考様式を3つに分類しました。
プロトタクシック様式は、全体を部分に分けたり象徴を用いることのできない未分化な思考とされています。
これは通常、乳児と統合失調症患者に見られるとされます。
パラタクシック様式では、時間的または連続的な結びつきによってものごとは因果関係をもつが、論理的関係は了解されません。
シンタクシック様式は論理的、理性的で、人間が達しうる最も成熟した型の認知機能とされています。
これら3つの思考および体験様式は誰にでも並行して起こり、シンタクシック様式のみで機能するのは稀な人とされます。
サリヴァンは、統合失調症は対人的な関係性における障害であると考えました。
患者の強い不安は無関係の感覚を引き起こし、それが、パラタクシックな歪み(parataxic destortion)と呼ばれる歪みに変形するが、これが迫害として認識されます。
サリヴァンによれば、統合失調症はパニック、恐怖、そして自己感の分裂を避けるための適応的手段であり、病的な不安の根源は、発達途上の経験した心的外傷の蓄積と考えたのです。
以上より、本選択肢は〇と判断できます。
B.気分障害 ― 笠原・木村の分類(笠原嘉・木村敏)
笠原・木村(1975)の両名は、現代の日本にの臨床に即した分類の必要性を感じ、試案を作成し、うつ病の臨床に関心をもつ精神科医に検討を依頼し、意見をきいては修正するという手法を数回にわたって繰り返しました。
この分類の原理は次の二つです。
第一は、「病前性格-発病前状況-病像-治療への反応-経過」の5項目をセットとし、それによって従来の内因性、反応性といった表現においては不可避にはらまれる曖昧性、恣意性を少なくすることです。
第二は、単一精神病論的見地を取り入れ、個々の類型の中に心的水準低下の度合いに応じて生じ得るいくつかの段階を設定することにより立体的構成を測ることにあります。
したがって昨今の精神病理学的知見に基づいた構造的分類と言えるでしょう。
この分類では、6つの類型がたてられ、それぞれについて解説と症例報告を付し、最後に従来慣用の分類との対照を示してあります。
6つの類型は以下の通りです。
I.性格(状況)反応型うつ病
II.循環性うつ病
III.葛藤反応型うつ病
IV.偽循環病性分裂病
V.悲哀反応
VI.その他の、この分類原理によってとらえられないうつ病
笠原先生は、個人的には、出立概念などが好きです。
古い論文なので知っている人も少ないかな、と思うのですが。
いずれにせよ、本選択肢は〇となります。
C.外傷後ストレス障害 ― 現実との生きた接触の喪失(Minkowski,E.)
ミンコフスキーの「現実との生きた接触の消失」は統合失調症の概念ですね。
統合失調症の基本障害の性質は、さまざまな形で言語化されてきました。
「現実との生きた接触の喪失」もそのうちの一つです。
他にも、「精神内界の失調」(ストランスキー)、「指揮者のないオーケストラ」(クレペリン)、「燃料のないエンジン」(シャラン)などがあります。
ミンコフスキーは、比喩からは真の科学は生まれないとし、「現実との生ける接触の喪失」という概念によって、単なる臨床的疾患であることを超えた、ある特殊な<病的な人間>の人間学的把握を試みました。
この概念は、自閉性から出立します。
自閉性には、「豊富なる自閉性」と「貧弱なる自閉性」があり、この後者が統合失調症の統一的理解にとって重要性をもつとされます。
なぜなら、一つの疾病を規定すべき基礎は、侵された人格の欠損面を明らかにすることから得られるとミンコフスキーは考えていたためです。
クレペリンは早発性痴呆という厖大な総合的概念をつくり上げましたが、これは、以前には多かれ少なかれ相互に無関係のものと考えられていた種々の臨床型、たとえば緊張病、破瓜病、妄想性痴呆、単純性痴呆などを合体し総合してでき上がった概念でした。
しかしこの総合は新たな問題を喚起しました。
外見上全然相異なる種々の臨床型が一つの概念に統合せられたために、各型に対して特徴的と考えられていた症状や症状群はその価値を失うことになったのです。
クレペリンによれば諸症状はすべて、根底に横たわる同一の病的過程の偶然的表現にすぎないものとなります。
そのため、早発性痴呆が包摂する多種多様の症状および臨床像を一つの基本障害から導出し、かつこの基本障害の性質を究明する必要が生じきたわけです。
ここにおいて現実との生ける接触(contact vital avec la realite)という概念が登場しました。
ブロイラーは統合失調症の思考、感情、意志に関する基本症状を明らかにしました。
しかし同時に内閉性の概念を契機として、病者の環境に対する態度ということが統合失調症心理学において次第に重要視されるに至りました。
現実的な目的観念の欠乏、感情的接触の欠如などは統合失調症概念をより新しい道へ導いていったわけです。
D.レビー小体型認知症 ― ウェルニッケ脳症(Wernicke,C.)
レビー小体型認知症とは違う概念なのはわかりますね。
アルコール誘発性持続性健忘性障害の伝統的な診断名は、ウェルニッケ(Wernicke)脳症(一群の急性症状)とコルサコフ(Korsakoff)症候群(慢性状態)があります。
ウェルニッケ脳症は、治療により完全に可逆的であるのに対して、コルサコフ症候群の患者は、約20%しか回復しないという研究もあります。
ビタミンB1(チアミン)の欠乏が原因で起こるのがウェルニッケ脳症です。
ビタミンB1欠乏の最も多い原因はアルコール中毒ですが、そのほか胃がん、胃切除、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などでも見られることがあります。
チアミンはいくつかの重要な酵素の補助因子であり、軸索に沿って伝導する軸索電位やシナプス伝達に関係している可能性があります。
その神経病理学的な病変部位は、左右対称で脳室周囲に存在し、乳頭体、視床下部、視床、中脳、橋、延髄、脳弓や小脳などです。
したがって、糖質やビタミンB1の摂取量が減少した状況や、脳における両者の需要量が増加するような状況においては、容易にビタミンB1の欠乏に起因する症状が引き起こされることになります。
ウェルニッケ脳症は、アルコール性脳症とも呼ばれるが、失調(主として歩行に影響を及ぼす)、前庭機能不全、錯乱、さらに水平性眼振、外直筋麻痺、注視麻痺などの種々眼球運動障害によって特徴づけられる急性の神経学的障害です。
眼の特徴は、必ずしも対称的である必要はないが、通常は左右対称です。
眼の徴候として、他に対光反射が遅鈍であったり、瞳孔左右不同があります。
ウェルニッケ脳症は、数日あるいは数週間以内に自然に消失したり、あるいはコルサコフ症候群に進展する可能性があります。
ウェルニッケ脳症の主要な症状に末梢神経症状が加わったものがコルサコフ病と呼ばれます。
ウェルニッケ脳症の臨床的な特徴は、健忘症候群(コルサコフ症候群)です。
つまり、記憶障害(特に記銘)、見当識障害、作話が見られます。
ウェルニッケ脳症の初期にコルサコフ症候群への進行を予防するためには、早急な大量のチアミンの非経口的投与が効果的であると考えられています。
チアミンの用量は、通常毎日2~3回の経口投与で100mgから開始し、1~2週間続けます。
ブドウ糖溶液が静脈投与されているアルコール関連障害患者には、ブドウ糖溶液1l.に対してチアミン100mgを混注するのが適切な方法とされています。
以上より、本選択肢は×と判断できます。