臨床心理士 ロールシャッハ:H5-36

平成5年問題36は丸々ロールシャッハの問題ですね。
各選択肢について根拠を示しつつ解いていきましょう。
慣れればそれほど難しい問題ではありません。

A.F+%とA%は、知的機能を表す指標である。

「知的機能」という言葉で思い浮かべるべき項目は以下の5つです。

  1. ΣF+%(F+%):
    これは、現実吟味、判断の公共性あるいは適切さの指標であり、知能の評価に際してもっとも有力な手がかりとなる。正常成人で、これらは60~85%の範囲内にあり、平均値は78.8%ほどである。50%以下を示すならば、情緒的不安定、衝動性、低い知的水準、現実吟味の弱さなどの問題を持つ可能性がある。Rの多少に関わらず、40%以下になるときには、成人であれば問題である。これで、Rが平均以下ならば知的欠陥、人格障害などを考慮する必要がある。
  2. M反応の量と質:
    平均以上の知能の人は、一般に少なくとも3以上のMが見られる。M反応の示す想像力や共感性は、優れた知的素質を必要とするものである。ただし、極めて論理的な考えの人は知能が高くてもMを示さないこともある。ブロットの中に運動を認めるためには、ある程度の飛躍を許容する柔軟性を必要とするということ。
    さらに、M反応の質は、知能の程度と密接な関係を持つ。ここではFQと、反応内容に分けて考察するとよい。前者では、FQの高いMを多く示す人が、優秀な知能を有することは疑いのない事実である。しかし、形のあいまいなMでは、躁病やシゾを疑わなければならない。後者に関しては、静止的なMが知能とあまり相関を持たず、活動的なMが知能と高い相関を持つ、とされている。
  3. W反応の量と質:
    Wの量が、知能と関連して論じられることがあるが、これは単純で不十分な見方。W反応の多さ=知能の高さ、とはならない。構成度の高い、あるいは明細化の行き届いた良いFQのWが多いとき、はじめて高い知能を推定することが可能となる。特に知的素質の良い人は、何らかの理由でΣF+%(F+%)の低下をきたしても、上述のようなW反応をいくつか示すものと思われる。
    これに反し、FQの低いW反応を多く示す人は、知的障害を持つと見てよい。D反応のFQはW反応のそれよりも知能との関連は薄いと言われるが、やはり、良いD反応は優れた知能を反映することもある。また、良いW反応を示さないからといって知能が低いとは直ちにいえない。
  4. 稀有(独創)反応の量と質:
    O反応は統計的に判断しにくく、経験的にしか分類できない。ただ、高いFQのO+を与えることは、優れた豊かな知的素質の存在を意味している。しかし、O-反応を与える人は知的障害をもつことが多い。O-反応は、知的障害というより、内閉的な思考の存在の影響の可能性も高いので気をつける。平均的な知能において、一般にO反応はわずかしか生じない。
  5. 反応の多様性:
    ロールシャッハ図版は、動物の形に見られやすい。したがって、一般の人々は高いA%(30~50%)を示す。これに対して、知識の豊かな知的に優れた人は、変化に富んだ反応内容を与えるため、A%はあまり高くならない。A%が70%を超えるほど高ければ、観念内容の乏しい、紋切り型の思考しかできない人柄を考えてよく、知能が優れていることは少ない。一般にA%は50%以下であることが望ましい。知能が優れていれば、反応内容はある程度の変化と多様性を持つはずである。

以上、第1項と第5項より、F+%とA%は知的機能を表す指標と判断できるので○となります。

B.M反応は、攻撃性を示す指標である。

「M反応」から得られる解釈は主に以下の5つになります。

  1. 知能:
    良い形態水準のMの出現は、低い知能を否定するものであり、このようなMが多く見られることは、高い知能を示している。Mの数は人格の発達とともに増加していく。また、Spiegelman(1956)はWAISを用いて、IQとMの数との相関を求め、正の相関を得ている。Hertz(1951)は同様の研究をビネーを用いて行い、正の相関を得ている。Altusら(1952)はMの質に注目し、形態質の高いMが知能検査との相関が高いことを明らかにした。
  2. 想像力:
    他の決定因に比べてMが多いほど、その人は、彼の世界の知覚を豊かにするために、自由に彼の想像力を用いることができる。Schumerは、言語連想検査を用いて、Mの多い人はより多くのユニークな反応を示すこと、外面的な反応(反復的な連想)を示すことが少ないことを示した。少なくとも、ブロットに運動を見るためには、そこに客観的には存在しないものを“想像”しなければならない。
  3. 内的安定:
    Mによって代表される想像的過程は、安定を保つことによって適応してゆくという目的に役立っており、これらの過程は、被験者がストレス状態にあるとき、彼自身の中に避難し、統制し得ない衝動性を、回避することができるようにする内的な手段となる。このことについてSchumerは「運動反応は、“行う人”よりは“考える人”である傾向、すなわち、身体的に活動的でない傾向を反映する」としている。Singer(1952)は運動の抑制がMの増加させるという仮説のもと検証を行い、その仮説は支持された。
  4. 共感性:
    人間の姿をブロットのうちにみる能力は、共感的なよい関係を持ちうる能力と関連がある。共感性の検証方法は困難なため、この仮説の直接吟味は難しい。いくつか述べるなら、Brechner(1956)は拒否的な母親を持つシゾと、過保護の母親を持つシゾでは後者のほうがMが多いことを示した。また、Piotrowski(1980)はMを多く生じる人は、Mの少ない人よりも人間関係の複雑さをより鋭く認知するとしており、1956年の調査では、Mの数に差がある夫婦では、結婚生活に問題が生じやすいという結果を得ている。共感性は、幼いころの人間関係によって形成されるもので、そのころ、十分な温かい人間関係を持ち得なかった子どもが、共感性の乏しい人になる可能性があるといえる。
  5. 自己概念:
    個人が、彼の社会的環境に対して投げかけている感情移入の性質は、彼自身が感じている自分の姿を反映しがちであるから、自己概念に対する手がかりが、Mの性質や内容のうつにみられるかもしれない。この仮説は、Mの内容分析に関するものである。Rorschach(1964)はMを伸張運動と屈曲反応に分け、伸張反応を示す人は「神経症的抑制を持っているが、強い自己主張の衝動を持つ積極的な人」で、屈曲運動を示す人は「受動的で、諦観的な神経衰弱症者」としている。Piotrowski(1957)は、「伸張的なMに含まれている自己主張は、自身と自発的活動に対する根強い要求、自分の能力に対する確信、他人に依存せずに目的を追及することを意味する。(中略)屈曲的なMを示す人は、自分より心理的に強い人に頼ろうとするという意味で服従的であり、サイコセラピーにおいて、治療者に慈悲深い保護者になってもらおうとするのは、この型の人である」としている。

以上より、「M反応は、攻撃性を示す指標である」という記述は誤りと言えます。
では、攻撃性を示す指標は何なのか?

そもそも攻撃性とは強い感情的な動きであることから彩色反応(カラー反応)を伴いながら示されることが多いとされます。
カラー反応の記号化で、FCといった比較的統制された反応よりも、CFやCなどの情緒的統制の欠如が見て取れる反応が多く見られ、しかもその内容が「爆発」「火事」「出血」などの場合に攻撃的な人格傾向が予想することができるとされています。
以上より、本選択肢は×と判断できます。

C.反応数は、15個から30個程度が普通である。

正常成人においては、Rは20~45の範囲に大部分が含まれるとされています。
片口らの経験では、25前後が平均としていますが、同じ正常成人でも、標本のとり方によって、多くも少なくもなります。
Beck(1949)の平均は32で、McReynolds(1951)では25となっています。
これらの違いについては、教示の与え方や、分類法の相違なども見逃せない条件でしょう。

また、岩脇(1970)は検者の人柄や検査状況なども、Rにかなりの影響を与えることを指摘しています。
記述にある「15個から30個程度が普通である」について、15個はやや少ない印象であるものの、平均域といえます。
以上より、本選択肢は○と判断できます。

なお、Rがあまりに大であれば、緊張が強く野心的な人柄を考えて良いです。
しかし、形態水準が著しく低下しない限り、知的水準・創造性ともに高いことが多いです。
躁病の被験者では、形態水準の低い(正確には吟味されずに反応される)反応を数多く出すことが特徴です。
一方、Rの少ない人は、その一つ一つの反応が、よく構成された全体反応である場合を除いては、想像力に乏しく非生産的であるといえます。
また、検査に協力的でなかったり、検査者に敵意を抱いていたり、極めて防衛的・抑制的であったり、抑うつ的な気分にあればRは減少する傾向にあります。

D.CF反応は、情緒の発達に伴って減少する傾向がある。

色彩反応の発達的経緯については、Brian&Goodenough(1929)が知覚における色と形の優位性の発達的変遷を年齢ごとに調べ、色彩の優位性が先行することを認めています。
この観点から、ロールシャッハ・テストにおける色彩反応を考察すれば、当然ながらC→CF→FCの順で発達し、各記号が並存しながらも、その支配的である記号が変遷すると考えることができるわけです。

ただし、この変遷の仕方については研究によってまちまちです。
いずれにせよ、幼児期から学童期にかけて、CF+CはFCに対して優位であり、成人ではFCが優位になると見て間違いありません。
CあるいはCFが、FCよりも発達的に未熟な段階にあることは確かであり、Wittenborn(1950)の研究でも、MがFCと高い相関をもつにも関わらず、CFやCとは相関を持たないとされています。
以上より、本選択肢は○と判断できます。

E.D反応よりもW反応の方が少ないのが普通である。

Rorschach(1921)はブロットの把握の仕方を「把握型」と名づけて、反応様式を特徴づけようと試みました。
設問はW:D:Ddの一般的な数値を把握しているかを問うものです。

Beck(1949)はWが5.50、Dが22.85、Ddが3.02という平均値を示し、Klopfer(1954)はW%が20~30、D%が45~55、d%が5~15、Dm%が0~10としています。
一般に幼児ではW%が高いが、学童期に入ると一時低下し、あとに再び増加する傾向がみられます。
これは幼児の対象の把握が未分化で漠然としており、学童期に至り、次第に分析的な態度が取れるようになり(D%の増加)、さらにここの部分を総合的・構成的に把握することによって、再び全体反応が増加すると考えられます。
これらから、一般にD反応よりもW反応のほうが少ないのが普通であるといえますが、日本人では別の結果が出ています。
日本でも同様の研究が行われており、長坂(1952)、村上ら(1958)、片口ら(1958)の示したのは、明らかにアメリカの資料よりもW%が高いものでした。

また、上記のような割合は、健常者のデータです。
たとえば、神経症者のデータではまったく違った割合になります。
辻・浜中(1958)による阪大法の割合ではW:D:Dd=54.8:35.1:10.1であり、片口・田頭・高柳(1958)の示した片口法の割合はW:D:Dd=41.2:51.1:6.2でした。
また、統合失調症者のデータではW反応がD反応の割合を上回っています。

以上より、必ずしも選択肢のように言い切ることができないデータが存在するため、本選択肢は×と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です