まずは行動療法の理論モデルについて理解しておきましょう。
- 新行動SR仲介理論モデル(Wolpe、Eysenck):
系統的脱感作(逆制止、不安階層表、漸進的弛緩法)、エクスポージャー・フラッディング(フラッディングは最初から最大強度でいきます) - 応用行動分析モデル(Skinner):
正負の強化法、トークンエコノミー、タイムアウト、バイオフィードバック法、シェイピング - 社会学習理論モデル(Bandura):
モデリング、セルフモニタリング - 認知行動療法モデル(Beck、Ellis):
合理情動(論理)療法、思考修正法、認知再構成法。「第2世代の行動療法」とも呼ばれる
かつては上記のように分けられており、認知行動療法をベックやエリスのモデルを指す場合もあります。
しかし一般に「認知行動療法」は、従来の行動に焦点をあてた行動療法から、アルバート・エリスの論理療法や、アーロン・ベックの認知療法の登場によって、思考など認知に焦点をあてることで発展してきた心理療法の技法の総称であることが多いとされています。
ここでの解説も認知行動療法を幅広く捉えることとして、上記の理論モデルによる違いは正誤の判断に用いないこととします。
解答のポイント
認知行動療法の各技法を把握していること。
誤りの箇所を明確に指摘・説明できること。
選択肢の解説
『①機能分析では、非機能的な認知に気づき、それに代わる機能的な認知を見つける』
機能分析とは、クライエントの問題行動を標的として、それを引き起こす変数を特定するとともに、その問題行動が維持されている環境との相互作用のメカニズムを把握する技術を指し、学習理論で開発・発展しました。
以下のようなプロセスを踏みます。
- 標的行動の決定:
外的行動、内的行動(感情・生理・認知)から、標的とする行動を定める。 - 標的行動と環境との関連性のアセスメント:
三項随伴性の分析(ABC分析)が重要になる。AとCがBを維持させているか、を考える。 - 標的行動が維持されているメカニズムの検討:
三項随伴性分析に結果、A(先行刺激)やC(後続刺激)によってB(標的行動)が生じていると明らかになれば、以下のような手続きになる。
選択肢にある内容は、Ellisの「合理情動療法」における非合理的信念に対する論駁や、Beckの「認知療法」における否定的自動思考と呼ばれる認知の歪みの是正を重視するという考え方に近いと思われます。
よって、選択肢①の内容は誤りと判断できます。
『②セルフ・モニタリングでは、個人が自らの行動、思考、感情などの側面を観察し、報告を行う』
セルフモニタリングとは、クライエントが自分の認知や感情、行動などを観察し、自分自身に関するデータを得て、それらを検討するという一連の流れからなっています。
認知行動療法においてクライエントが身につける基本的な技法でもあり、問題把握の方法として、評価の方法として、変容の方法として治療過程のさまざまな段階で用いられています。
認知行動療法では、本人が自分に生じている認知や感情に気づき、それを言語化できることが重要です。
そのため、比較的初期からセラピストはクライエントに、自身の感情や認知に関しての報告を促します。
以上より、選択肢の内容は正しいと判断できます。
『③トークン・エコノミー法では、レスポンデント条件づけの原理を用い、望ましい行動を示した場合に強化報酬を与える』
こちらはオペラント条件づけの応用技法であり、目標とするオペラント行動をすることができた際に、貨幣としてトークンを渡すことで正の強化を行います。
トイレット・トレーニングで、シールをあげて台紙に張っていくのもこちらですね。
いわゆる「応用行動分析モデル」というオペラント条件づけの学習理論を背景にしたのがトークン・エコノミー法です。
レスポンデントとオペラントの入れ替えは、こういった試験問題の常套手段なので、きちんと見分けられるようにしておくことが重要です。
非常に簡略化して説明すると以下の通りです。
レスポンデントは、刺激があって反応があること、特に情動的な側面の学習に優れていることなどが予てから言われています。
オペラントは元々反応があって、それを刺激で強化する点が重要です。
選択肢内にある「強化報酬を与える」という表現自体が、オペラント条件づけの枠組みにあることを示唆しています。
よって、選択肢③の内容は誤りと判断できます。
『④モデリングでは、クライエント自身が直接経験しなくても、他者(モデル)の行動を観察することで新しい行動の習得につながる』
観察を通じてモデルの行動を習得させ問題行動の改善を目指す方法です。
モデルに注意を向ける注意過程、モデルの行動などの情報を取り込む保持過程、自分で行動を起こしてみる運動再生過程、周囲からの反応によって行動が強化される動機づけ過程から成ります。
Banduraが提唱者です(以前、詳しく述べています)。
子どもにテレビを見せて…という実験が有名ですね。
よって、選択肢④の内容は正しいと判断できます。
『⑤行動実験では、言葉による行動調節機能を用い、クライエントが自分自身に適切な教示を与えることによって治療効果を引き出す』
クラークらのモデルに基づいた認知行動療法を指します。
例えばクライエントが「周囲が自分を見ている」「人は自分と接したくないと思っている」といった独特な予測を持っているとします。
クライエントが社会的場面で行動を起こすことによって、本当に恐れていることが生じるのかどうかを検証していきます。
こうした取り組みを通じて、恐れていることが実は起こりにくいことに気づき、バランスのとれた捉え方ができるように援助することを行動実験と呼びます。
選択肢にある「自分自身に適切な教示を与えることによって治療効果を引き出す」については、おそらく「自己教示法」を指していると思われます。
「自己教示法」はマケインバウムによって開発された技法で、自らの言葉で自分自身に教示を与えることにより、それが刺激となって自分の行動を変容させる方法です。
具体的な行動内容・認知傾向の方法(やり方)をイメージし、自分で自分にしっかりと言い聞かせることが重要で、その上で、実際にこのトレーニングで「肯定的・改善的な自己変容」が見られた場合、何らかの報酬や賞賛で行動を強化することによって自己変容の速度が速まっていきます。
以上より、選択肢⑤の内容は誤りと判断できます。