公認心理師 2024-104

Butlerの考えに基づいて発展してきた心理的支援に関する問題です。

こうした特定の理論家の名前が出てくる問題は、パッと解けるようになっておきたいですね。

問104 R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するものを1つ選べ。
① 回想法
② イメージ療法
③ 認知再構成法
④ 行動活性化療法
⑤ リアリティ・オリエンテーション

選択肢の解説

① 回想法

回想法は記憶の想起により人生の連続性の自覚を促し、自尊心やコミュニケーション能力を回復させる方法です。

すなわち、自尊心を高めるという個人内効果と、対人関係を促進させるなどの社会的効果の両方が期待されています。

認知症の場合は、情動機能の回復、意欲の向上、発語回数の増加、非言語的表現の豊かさの増加、集中力の増大、問題行動の軽減、社会的交流の促進、支持的・共感的な対人関係の形成および他者への関心の増加、などが効果として挙げられています。

回想法は1963年にアメリカの精神科医Butlerによって示された方法であり、「高齢者の回想法は、死が近づいてくることにより自然に起こる心理的過程であり、過去の未解決の課題を再度とらえ直すことも導く積極的な役割がある」と提唱し、これまで「過去の繰り言」「現実逃避」と否定的に捉えられてきた高齢者の回想行為を意味あるものとして論じてきたことが回想法の起点となっています。

Butlerは「ライフレビュー(人生の復習)」という概念を提出しています。

彼によると、ライフレビューが成功に終わった後の到達点は受容であり、人生を無駄なもの、価値のないものと見なした後の到達点は絶望です(この辺はエリクソンの8段階と同じですね)。

回想法が普及した背景には、回想の助けになるものが多く使えるようになってきたことが挙げられます。

ライフレビューの作業では、古い写真や記念品がきっかけとなって過去のさまざまな時代の経験が思い出されることが多いです。

本や音楽、遊び道具、昔から慣れ親しんだ動作や作業、香りを刺激として用いることもあります。

こうした品物は広く手に入るようになっており、高齢者と関わる多くの人は回想という作業を試してみようという気になり、その結果として双方がその作業を楽しむということが起こるわけです。

セッションは、幼児期から現在に至るまで特定の人物、出来事を時系列に沿って想起していく方法(物語を話す「情報型回想」)と、適宜話題を提供して自由に想起を進めていく方法(過去を思い出す「単純回想」)があり、一般的には後者が選択されることが多いように感じます。

高齢者の記憶に関して、現在と結びつけるのが良いか、それとも記憶の中で過去を追体験するだけで十分なのかは意見が分かれています。

一回のセッションにかける時間は30分程度が適当とされています。

頻度は、日本においては週に1回程度という報告が多く、同じ時間同じ曜日という設定も見受けられますね。

ただし、多く採用されている週に1回というペースは方法論的な縛りではありません。

あまり間を空けると、聴き手を忘れられ、話が最初からということになります。

または前回の話につながらないことがあります(これらは、大きな問題ではありませんが、短時間で実施する場合においては進展が遅くなります)。

また、逆に週に数回となると本人や施設の負担にもなりかねない場合もあると考えられます。

要は回想法の頻度は、対象者の状態や施設の状況を勘案して決められていることが多く、それらの状況を総合して決められるべきものと言えます。

認知症の高齢者への回想法になると、あまり間を空けると忘れてしまい、回想法の大切な要因である連続性が失われてしまう可能性が高いですね。

高齢者に回想に取り組むよう勧めることは、価値ある治療活動であり、高齢者が生涯の経験を正面から取り組み、それを客観的に捉える助けになるとされています。

回想法は「私の若い頃はね…」というセリフの繰り返しに代表されます。

認知症者の支援にあたっている人が、こうしたセリフの重要性に気づき、高齢者の過去の出来事について話し合うことは価値があると気づいたことで回想法は拡がりを見せました。

高齢者と話し合うことによって通じ合い、交流が深まる中で高齢者の過去の生活や経験を理解できるようになります。

それによって支援者は現在の会話や行動の意味をより的確につかめるようになります。

ただし、こうしたライフレビューは個人的な事柄を含みます。

回想を忌避する人にそれを強いることは、害ばかり多く益はありません。

従って、実行する前にその人の態度やニードを慎重に調べておくことが重要になります。

苦痛に満ちた過去の想起、失敗体験や喪失体験などからうつや不安を誘発しないように留意することが求められます。

上記の通り、回想法は「R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するもの」であると言えます。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

⑤ リアリティ・オリエンテーション

Reality Orientation=ROは、現実検討識訓練を指し、認知機能の低下した患者が見当識などの能力を高めるために行われる方法です。

24時間型(非定型)とクラスルーム型(定型)があります。

24時間型は、日常生活のあらゆる機会に「いま」の状況を確認できるような情報によって意図的に患者に働きかけます。

「いま」の状況は日常のありふれたもので確認され、時計、日付や天気などが書かれた大きな掲示板(ORボード)、食事のにおい、包丁で材料を切る音、風の冷たさなどが用いられます。

クラスルーム型は、毎日1時間程度の集中的なセッションで24時間型の補完的役割をします。

認知症病棟などで心理師が行う場合がありますね。

いずれの方法においても、参加者に強制訓練のような印象を与えないことや自尊心を傷つけないように注意することが求められます。

ROは回想法と同じく認知症者を対象に行われることが多いものですが、リアリティという表現からもわかる通り、日常生活のあらゆる機会に「いま」の状況を確認できるような情報によって意図的に患者に働きかける(24時間型)というように「現在」に焦点を当てたアプローチと言えますね。

よって、本問で示されている「R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するもの」とは合致しないことがわかります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

② イメージ療法

イメージとは、ごく大雑把に言えば、人がこころの中に描く絵のようなものを指し、視覚的なものに限らず、五感それぞれに、またはそれらの統合されたものとして存在する同様のものを言います。

そして、イメージ技法とは、閉眼状況下で視覚的イメージを浮かべ、そのような内的イメージを経験してもらうやり方を指します。

また、イメージ療法とは、広義にはクライエントの内的イメージを何らかの手法で膨らませ、体験させるという作業を治療の中心とするものを言い、狭義には、その作業をイメージ技法を用いて行うものを言います。

ここでは、狭義のイメージ療法について述べていきましょう。

イメージ療法には、それぞれ独自に考案された様々なものがあります、以下にその一部を述べていきます。

  • フリーイメージ療法:
    イメージ療法の基本形とでも言うべきものであり、クライエントに、自由に浮かんでくるイメージを語ってもらい、治療者はそれを共感的に聞いていくやり方である。
  • 誘導感情イメージ(Leuner)・誘導覚醒夢(Desoille):
    ヨーロッパで発達した技法で、前者では「草原」「山登り」などの10個のイメージを指定し、後者では「男性には剣、女性には壺」「洞窟」などの6個のイメージを指定し、それぞれについて、平均2~3回のセッションずつかけて、順次行う。それぞれのイメージは、例えば、山登りであれば、競争や達成という男性的課題を意味するといったぐあいに、それぞれ精神分析的な意味が付与されている。最初の場面を指定した後は、なるべく自由にイメージを展開させることが多く、途中なんらかの障害物が現れたときには介入する。また、誘導覚醒夢では、「上昇する」「下降する」というイメージ中の運動を指示されるが、前者は快感情と後者は不快感情と関係しているとされている。
  • 直観像療法(Ahsen):
    アクセンがアメリカで発展させた療法であり、彼の言う「直観像」、すなわち通常の視覚的イメージよりもずっと鮮明なイメージを用いることを特色としている。そのようなイメージを活用して、両親との関係に焦点をあてた場面を体験させたり、また症状を十分に経験させ、次いで症状のない健康状態をイメージさせたりする。
  • 日本におけるイメージ療法:
    成瀬による催眠イメージ面接法、水島や栗山によるフリーイメージ療法、田嶌の壺イメージ療法、藤原の三角形イメージ療法、増井のイメージ・ドラマ法、柴田出らによるイメージ分析療法などがある。

上記の通り、一口にイメージ療法と言っても、そこで用いられる技法も多彩であり、フリーイメージ法あり、指定イメージ法ありで、それぞれ工夫を凝らした特徴ある技法を用いています。

また、よって立つ理論も精神分析や行動療法の影響を強く受けたもの、独自のイメージ理論によるものまで、さまざまです。

ただ、こうした立場の違いはあれど、治癒原理が全く異なるというわけではなく、イメージ療法が首尾よく進むと、クライエントのイメージは生き生きと動き出し、治癒に至るイメージ体験の流れが生起します。

このようなイメージの動きは、クライエントが意識的・積極的に作り上げたものであなく、イメージ界に受容的探索的な心的構えを向けることで自然に生じるイメージの自律的運動です。

指定イメージ法による場合でも、その人固有の内的イメージを活性化させようとする面を多分に含んでおり、指定イメージの枠内ではあるが、同様のことが起こっているものと考えられます。

したがって、いずれの立場や技法によるにせよ、クライエントの内的イメージを活性化させ、かつそれに対して受容的構えをとり続けることで生起するイメージ体験過程が共通の治癒原理であるといえます。

さらに言えば、通常の心理療法においても、それが成功のうちに進んだ場合には、同様の過程が生起しているものと考えられます。

つまり、このようなイメージ体験過程は心理療法のエッセンスとでも言うべきものであり、イメージ療法とは、それをなるべく純粋に発現させようとするものであるといえます。

なお、イメージ療法の多くは侵襲性の高い技法であり、本人にとって危機的イメージが急激に襲ってくることがあるので、注意を要します。

とりわけ、いわゆる自我が弱いといわれる重篤例に不用意に適用すると、状態の急激な悪化を招く危険性があります。

統合失調症には一般に禁忌であり、境界例水準になると何らかの技法的配慮の元で慎重に進めることが必要になります。

上記からもわかる通り、イメージ療法自体は非常に広いものであり、特定の誰かが創始したと見なすのは難しいものです(この人が最初かな…みたいな意見はいくつかありますけど)。

本問で示されている「R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するもの」というのは、こうしたイメージ療法の在り様とは異なるものであることがわかると思います。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 認知再構成法

認知再構成法は、代表的な認知的技法の一つであり、ある人においてパターン化した自動思考以外の考えやイメージをその人がもつことができるように、自動思考の検討を行う方法です。

単に「ポジティブな考え方」を身につけるための練習ではなく、多くの人がポジティブであると思うような内容であってもクライエント自身が納得し、受け容れられるような考えでなければ症状改善の効果は期待できません。

この技法には、以下のような思考記録表(コラム表)が用いられることもあります。

1.状況昨日の「心理査定」の授業で、教員から急に当てられて、立って質問に答えた。
2.感情(0~100%)不安が70%、悲しみが30%
3.自動思考又はイメージ「みんなが自分をバカにしている」「変なことを言ってしまった」
みんなが自分をバカにした表情で見ているイメージ
4.根拠答えた後に教員が「正しい答えだ」と言わなかった。こちらを見ている人が多かった。
5.反証「そういう考えもあるね」と教員が言っていたので、間違ったわけでもないのだる。自分が発言したのだから、自分を見ていた人がいても不思議ではない。
6.自動思考に代わる思考「自分に対して、何か思っている人がいたかもしれないけど、全員が自分をバカにしていたということはないだろう」
7.結果:感情とその強さ不安が60%、悲しみが25%

認知再構成法を行う手順は、以下の通りです。

  1. 不快な感情が伴っていた状況を具体的に1つ特定して、それに沿って検討することが望ましい。
  2. その状況での感情を一言で表せるような言葉を探してもらい、その感情の強さを0~100%の範囲でクライエント自身が評定する。0%は全く感じていない状態で、100%は今までで最も強くその感情を感じた状態である。
  3. 自動思考は、そのときに頭に浮かんだ考えやイメージである。自動思考の中から、最も強く感情を喚起する考えを「ホットな認知」と呼び、その考えを中心に検討を行う。
  4. 根拠ではホットな自動思考を支持する事実に基づいた根拠を書き出す。
  5. 反証ではホットな自動思考に反する証拠を書き出す。
  6. 根拠と反証はいずれも、自動思考に代わる思考を考え出すために行われる。
    ※根拠と反証を含まない5つのコラムから構成される表が用いられることも多い。

自動思考に代わる思考が案出されても、一度の試みで不快な感情が一気に和らぐわけではなく、他の技法と同様に繰り返し行っていくことが重要になります。

認知療法はBeckの理論に基づいて発展しており、ネガティブな情報処理のあり方と非機能的な信念がうつを生起させていると考えます。

ネガティブな情報処理から生まれた認知は、感情、身体反応、行動に好ましくない影響を与えていることが多いため、認知のあり方と他の要素への影響を確認することが第一歩となります。

その上でより合理的だったり、気が楽になるような認知のあり方を探してそれを実践していくわけですが、認知再構成法はそのために行われる代表的な技法の一つです。

このように、認知再構成法とは「精神的に動揺したときなどに瞬間的に浮かんでくる自動思考と呼ばれる思考やイメージに着目し、現実と対比しながら、その歪みを明らかにして問題に対処し、うつや不安などの気分を軽減したり、非適応的な行動を修正したりする、認知行動療法の基本的な技術の一つ」になります。

こうした認知再構成法の説明は、本問の「R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するもの」とは合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 行動活性化療法

うつ病の患者においては、気力の減退や易疲労感によって、日常的に行っていた活動に取り組めない、外出の回数が減る、頻繁に横になる、等の活動抑制がよくみられます。

あるいは、不安、悲しみ、ストレスといった不快な気分をもたらす出来事を避けようとする回避行動もよくみられます。

それらの行動は、短期的には気分を緩和させますが、長期的にはうつ症状を悪化させる要因になります。

行動活性化療法は、患者が自らの活動抑制や回避行動のパターンを把握し、それらを引き起こしている状況における気分と行動の悪循環を断ち切り、抑制的な活動や回避行動といった効果的でない行動を、患者が本来望む目的に沿った新しい行動に置き換えることを学ぶというアプローチです。

患者は、置き換えた新しい行動によって生じる気分や達成感の変化を把握することで、その新しい行動が自分が本来望んでいる結果に結びついていくのだという効力感を回復することが期待できます。

具体的には、次のような手順で行われます。

  1. 日常生活における1週間の活動の振り返り(モニタリング)をしてもらう。その際、活動記録シートを用意し、日時・場所・活動の簡単な描写・楽しさの評価(0:全く楽しくない~100:とても楽しい)を記入してもらえるようサポートする。
  2. 楽しい活動と楽しくない活動のそれぞれについて、患者と治療者が協同で理由を探っていく。また、楽しいことリストを作成できるよう支援する。
  3. 生活の中で、楽しい活動の数を増やし、楽しくない活動や活動しない時間を減らすことができるよう、多くの楽しい活動と適切な生活リズムを伴った週間計画の作成を協同で行う。
  4. 日常生活の中で、上記の計画を実施できるようサポートする。
  5. 再度モニタリングを行い、さらなる改善に向けたサポートを行う。

行動活性化療法は、認知行動療法の行動療法に分類され、うつ病の治療で有効性が最も実証されている心理療法の1つです。

WHOのmhGAPマニュアルにおいても、うつ病に対して推奨される心理療法のひとつとして挙げられています。

以上より、行動活性化療法は、本問の「R. N. Butlerの考えに基づいて発展してきた方法で、主に高齢のクライエントに対して、写真などの物品を手がかりに、人生史や過去のエピソードを、セラピストが共感的に傾聴する心理的支援に該当するもの」とは合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です