公認心理師 2023-23

Meichenbaumが提唱した認知行動療法に関する問題です。

ほぼすべての選択肢が過去問で出題済みなので、正解を知らなくても大丈夫な仕様になっていますね。

問23 D.Meichenbaumが提唱した認知行動療法であり、自己教示訓練を主要な技法とするものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 自律訓練法
② モデリング
③ 自己調整学習
④ 漸進的筋弛緩法
⑤ ストレス免疫訓練

解答のポイント

各技法について提唱者や内容を把握している。

選択肢の解説

① 自律訓練法
④ 漸進的筋弛緩法

リラクセーションを取り入れている代表的な技法に「自律訓練法」と「漸進的筋弛緩法」があります(他にも、呼吸法やバイオフィードバック法なども含まれる)。

リラクセーションとは、いずれも交感神経系の抑制、副交感神経系の賦活、ストレスホルモンの低下、免疫機能の増強などの生体機能調節系の変化を引き起こす技法です。

特に行動療法系の中心的な技法の一つとされています。

1930年代に精神生理学者Jacobson(ジェイコブソン)が骨格筋をリラックスした状態では不安反応が生じないことを発見し、漸進的筋弛緩法として応用されるようになりました。

漸進的筋弛緩法とは、身体の各部位に力を入れて抜くことを繰り返し、リラックスを導く技法です。

力を入れる部位は、最初は効果を感じやすいところからはじめ、徐々に、つまりは漸進的に、その範囲を広げていきます。

例えば不眠に対する漸進的筋弛緩法では、クライエントが不安や過覚醒のため眠りにくくなっている入床前や中途覚醒時に実施してもらい、リラックスした状態での入眠を促します。

ウォルピは不安反応に拮抗する反応(リラックス反応)を引き起こすために、漸進的筋弛緩法を系統的脱感作法に取り入れました。

自律訓練法は、ドイツの神経科医Schultz(シュルツ)によって開発された、リラックスした体勢、環境と決まった言葉を用いて自己暗示を行い、心身の機能の自律的な調整を促進するためのトレーニング法です(自律→じりつ→じゅりつ→シュルツ…という感じで覚えています)。

19世紀末の自己催眠を活用したフォクトの予防的休息法が基礎となっており、疾患の治療法としてだけでなく、心身のコンディションを整える健康増進法や能力開発法とし、スポーツ・教育・産業などの領域でも広く活用されています。

基本となる標準練習と、各個人に応じた言語公式を用いる自律性修正法、イメージ想起を活用する黙想練習、自己の内的世界を言語表出する自律性中和法などから成り立っています。

これらの技法には、能動的な制御をせずに自己を観察(自己モニタリング)することを通して、心身の機能の自律的な正常化を促進するという共通点があります。

基本となる標準練習のうち、腕や脚の筋肉が弛緩した感覚をモニタリングする四肢重感練習と、末梢の血液循環が良くなって手足が暖かくなった感覚をモニタリングする四肢温感練習が基盤となります。

この2つの練習には適用上の制限が少なく、不安や緊張の軽減に効果があります。

練習を通して心身共に深い休息状態が得られ、機能の調整と回復が促進されるので、心身医学的治療法として緊張性頭痛、本態性高血圧、睡眠障害や疼痛、不安などの慢性的な症状の緩和に用いられます。

また、特定の疾患に限らず、予防やQOLの向上などを目的とした適用が可能です。

以上のように、漸進的筋弛緩法はジェイコブソン、自律訓練法はシュルツが提唱者であり、本問で提示されているMeichenbaumが提唱した認知行動療法ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①および選択肢④は不適切と判断できます。

② モデリング

モデリングとは、Bandura(バンデューラ)が模倣や観察学習といった用語を統一する概念として1960年代に提唱した言葉です。

モデルを観察することによる学習や既存の行動の変容・修正など(制止や脱制止なども含む)をモデリングと呼びます。

モデリングの効果は、子どもの攻撃行動(Bandura,1961)やジェンダーの発達に関する実験で検証されました(子どもの攻撃行動に関する研究はかなり有名なものですね)。

バンデューラの行った実験で最も有名なのが、たくさんのおもちゃの中から、大人のモデルがトラの風船に対して特に乱暴な行動をするのを見た子どもが、その後、同じ状況に置かれたときに大人のモデルと同じ行動をする率が高くなることを示した実験です。

実験では、対象の子どもたちを3つのグループに分けて実験が行われました。

  • Aグループの子どもたちには、人形に対して大人たちが攻撃的な行動をとっている映像が見せられました。その映像の中では、大人がボボ人形を叩いたり、蹴ったり、罵声を浴びさせている様子が録音されていました。
  • Bグループの子どもたちには、人形に対して大人たちが攻撃的な様子を一切見せない映像が見せられました。大人たちはこの映像の中では他のおもちゃで遊んだり、静かに過ごしていました。
  • Cグループの子どもたちには、何も映像を見せませんでした。

その後、子どもたちをそれぞれ人形を含めたおもちゃがたくさんある部屋に入れて観察したところ、Aグループの子どもたちは、BグループやCグループに比べて、人形に対して攻撃的な言動が遥かに多いことが見受けられました。

バンデューラ以前には、人間の模倣行動を模倣学習としてHull(ハル)の動因低減説(つまり、報酬をもらえるから模倣が起こる)で説明されていました。

これに対して、バンデューラは上記のような実験結果を以って、模倣行動の成立に必ずしも報酬を必要とせず、直接経験も試行錯誤もないままに学習が成立するというモデリングの考え方を示しました。

上記の通り、モデリングはバンデューラが提唱した概念であり、Meichenbaumが提唱した認知行動療法ではないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 自己調整学習

行動主義心理学が全盛だった頃、学習はオペラント行動だから、賞罰のコントロールさえ巧みに行えば学習がなされるだろうと考えられていました。

しかし、行動は習慣化すると自動化し、内容の適切性を吟味したり修正したりすることがなくなります。

惰性で教材の記入欄を埋めているだけでは内容の習得にはならないので、最近では「自己調整学習(自己制御学習ともいう)」が強調されるようになってきました。

自己調整学習は、1990年代からアメリカの教育心理学者であるZimmerman(ジマーマン)らが中心となって提案している新しい教育心理学の理論体系です。

学習者が、まず自分の目標を決め、その目標を達成するために自らの計画を立て、実行段階で思考、感情、行為をコントロールし、実行後に振り返って自らの学習行動を評価するプロセスを自己調整学習といいます。

つまり、学習を習慣的機械的にこなすのではなく、高い学習動機のもとに、目標達成に必要なことを段取りを決めて実行していくことが、習得や次の動機づけの好循環を生むと考えているわけです。

Zimmermanは、自己調整学習を、計画、実行、評価のサイクルで捉えたモデルを提示し、各段階で学習効果を高める要因を分析しています。

以下では自己調整学習の各段階を見ていきましょう。

まず学習計画の段階です。

学習者がどのような目標を立てるかは、その学習者の自己効力感が大きく影響します。

一般に自己効力感は成功体験によって高まるとされていますが、これは成功したときの方法が目標達成の見通しの中に自己成長の1ステップとして位置づけられた時に限ります。

つまり、易しい問題の試験で満点が取れたり、カンニングで高得点が取れても、自己効力感は高まりません。

従って、学習計画に当たっては、学習内容の計画だけでなく、学習方法の計画も重要になります。

続いて、学習実行の段階です。

実行段階では、自己学習のモニタリングとコントロールがうまく働くかどうかが大切です。

このような機能を持つメカニズムをメタ認知と言います。

注意の集中状況、記憶の確実性、意味は理解できているか、学習方法は適切か、予定通り学習が進んでいるか等を見守ることがモニタリング機能です。

そして、もう少し反復回数を増やしてみよう、忘れそうなので記録しておこう、この問題は逆から考えてみよう、別の学習方略を工夫してみよう、眠気と戦って学習を続けようなどと、自分の行動を調節するのがコントロール機能です。

学習内容がよりよく習得できるためには、学習の過程でメタ認知が十分に機能する必要がありますが、その働きには個人差が存在します。

次は振り返りの段階です。

学習後には、目標はどこまで達成されたか、習得に失敗した部分はどこかで成功した部分はどこか、成功や失敗の原因は何か、学習方法は適切であったか、今後の学習方針はどのようにたてたら良いか等を考えると、次の自己調整学習をより効果的に行うことができます。

定期テストは振り返りのきっかけと判断材料を与えてくれるので、定期テストを考慮した計画をはじめから作っておくことが望ましいと言えます。

教育は学習者を自立させるための活動ですから、学習自体も教師や教材の指示に従って他律的に進めるのではなく、自己調整学習として自律的に行われる必要があります。

学校に在籍する期間において、自己調整学習を積み上げていくことにより、社会に出てからも生涯にわたり自らを教育し続ける力を育てていくことができると考えられています。

以上より、自己調整学習はMeichenbaumが提唱した認知行動療法ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ ストレス免疫訓練

認知療法を創始したのはBeckですが、彼は1960年代以降精神分析を離れて認知療法を体系化しました。

ベックの認知療法は広く知られていますが、これと同時期に登場したエリスの論理療法やMeichenbaum(マイケンバウム)の自己教示訓練なども認知療法の代表的な治療体系として位置づけられています。

自己教示訓練は、患者が自分自身に言葉による教示を与えることであり、目的志向的な適応行動の獲得と遂行を目的とする、行動調整機能を用いた治療法です。

具体的には、①治療者が大きな声で教示を行いながら課題を遂行する(認知モデリング)、②患者が声に出して自己教示を行いながら課題を行う(行動リハーサル)、③患者が心の中で自己教示を行いながら課題を行う、という手順で行われます。

具体的な行動内容・認知傾向の方法(やり方)をイメージし、自分で自分にしっかりと言い聞かせることが重要で、その上で、実際にこのトレーニングで「肯定的・改善的な自己変容」が見られた場合、何らかの報酬や賞賛で行動を強化することによって自己変容の速度が速まっていきます。

また、PTSDの治療に中程度の支持が得られている心理療法として「ストレス免疫訓練法」があり、こちらもマイケンバウムが提唱しました。

「ストレス免疫訓練」自体は、広義にはストレス対処のための機能的な行動や思考の獲得を狙った指導プログラムを指し、狭義にはマイケンバウムが体系化した治療パッケージを指します(本問では後者を指している)。

マイケンバウムの「ストレス免疫訓練」は、対処できる範囲の小さなストレス体験に曝され、それらを乗り越える経験を積むことで、ストレスに対する免疫力が高まるという発想に基づいています。

訓練は以下の3段階から構成されています。

  1. ストレスの概念把握:
    クライエントとトレーナーがストレス問題について共通理解を得ることを目的とされる。ストレス反応が発生する過程が簡単な言葉で説明される。クライエント自身に起こっているストレスの性質を共に探るプログラムを通して、クライエントとトレーナーの協力的な治療関係を確立する。
  2. 技能獲得とリハーサル:
    ストレス対処スキルの獲得を目標になる。リラクセーション訓練、認知再構成法、問題解決療法、自己教示訓練などを通して、クライエントのストレス対処技術を高める。認知的対処スキルとして「ストレッサーに備えているとき」「対決のとき」「打ちのめされたとき」「自己強化のとき」に用いる自己陳述を用意しリハーサルを行う。
  3. 適応とフォロースルー:
    学習した対処技術を実際のストレス場面で使う段階。クライエントにとって効果のあるストレス対処方法をトレーナーが明らかにしていく。獲得した対処技術を実生活で活用できるよう、面接室内でのリハーサルや現実場面での段階的な練習を行う。

このように、ストレス免疫訓練法は、ストレス・モデルの教授=学習に始まり(教育の段階)、リラクセーション法や社会的スキルの獲得といった行動的対処、および否定的な自己陳述の修正といった認知的対処の方策を治療セッションのなかで獲得し(リハーサルの段階)、それらを実生活のなかで実践することができるための援助を行う(適用訓練の段階)という多段階のプログラムが構成されている技法です。

上記の説明の通り、ストレス免疫訓練では、マイケンバウムが元々提唱していた自己教示訓練も組み込んでおり、リハーサルのところで活用されていることがわかりますね。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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